#741 暗黒大陸の地図と出陣
俺たちは謁見の間から場所を変え、作戦司令室のような部屋に案内された。その部屋には強そうなエステルの騎士たちの他には完全武装しているドラゴニュートにダークエルフ、ドワーフがいた。
すると黒い鎧に武装している強そうな青年のドラゴニュートがリリーを見る。
「…ふん」
「む!」
俺が怒ろうとしたリリーを止めて、リリーを鼻で笑った男は隣の同じ装備をしている女のドラゴニュートに頭を叩かれていた。なんか揉め事が起きる予感がする。
ダークエルフは鎧姿なんだな。今までのエルフと違っていて新鮮だ。するとメルたちから攻撃を受けた…何故だ。国王様がそんなこと気にせず話し出す。
「では、まずこの国について話そうか。この国は暗黒大陸にいる人間たちと亜人種たちが魔王たちからの独立を元に出来上がった国だ」
「歴史は長いんですか?」
「国としてこういう形になったのは最近だ。独立に向けて動いていたのはかなり昔からだな。私の祖父の代から人間の国を作るために動いていたと聞いている」
ここで驚くべきことを知らされる。
「我々が国を持つきっかけとなったのがここから遠い東の地を支配していた魔王バエルの村の解放と魔王の死だ。解放された人間たちの喜びの声は我々の耳まで届き、国を作るなら今しかないと考えて、この山に国を作ったのだ」
おっと。完全に俺たちは当事者じゃん。ここでレッカが質問する。
「梅雨の森はここから東にあるんですか? 場所がわかると言うことは暗黒大陸の地図があるってことなると思うんですが」
「一応はある。ただし正しいとは思わないでくれ。色々な人間に聞いた情報から作ったものなのでな」
俺たちは暗黒大陸の地図を見た。
「まず中央に暗黒大陸を支配している最強の魔王サタンがいる国がある。そこから大まかとなるが西方面にアスタロト、東方面にルシファー、北方面にベルゼブブの国がある。その国の外ではそれぞれ配下の魔王や別系統の魔王が国を持ち、支配している」
これで親玉がサタンが出ることは確定か。そしてルシファーとサタンは別の解釈なんだな。この二人は同一とする場合もあるから倒すべき魔王が増えたってことだ。
「そして我々がいるのがここ。魔王サルガタナスの支配圏だ」
これで魔王サルガタナスの参加が決まったな。それにしても俺たちは梅雨の村から西に攻略を進めていた。つまり俺たちはルシファーの領土に攻略を進めていたことになる。なんとなく嫌な予感は感じていたけど…運営め。エクスマキナの船を餌に俺たちをルシファーの領土に誘導したな。
そして他にもこの地図で運営の意図が明らかになった。暗黒大陸に最も近いのがパラディンロードであることは既に判明している。パラディンロードは俺たちがいる大陸で北西に位置している。
つまり梅雨の村が東側のどこにあるのかまだはっきりとは分からないが少なくとも俺たちが進めている攻略先とは逆方向に行くとパラディンロード、ひいては俺たちがいる大陸と最も近い海に出ることが判明した。
もし本格的に暗黒大陸に攻め入るなら東の海岸の解放はしておいたほうがいいだろうな。ただ簡単には行かないだろう。もし攻め込めているならとっくに攻め込んでいるはず。それをしない理由はほぼ間違いなく海にある。
海でパラディンロードなどの精鋭を苦しめるレベルの悪魔といえば俺は一人しか思いつかいない。恐らくはキリスト教の七つの大罪で嫉妬を司る悪魔で『地獄の辞典』では地獄の海軍大提督を務めている悪魔。サタン、ベルゼブブに次ぐ第三位の地位を持つ魔神レヴィアタンだろう。
こいつの攻略が暗黒大陸を攻略する上では重要になるだろうな。今回のように転移でさっさと戦力を送り込めたら楽なんだけど。そんなことを運営が許可するとは思えない。さて、話をエステルに戻そう。
「何故そんな厳しいところに国を作ったんですか?」
混世魔王のような魔王がいるところなら解放は簡単だと思った。わざわざこんな危ないところに国を作る意図がわからなかったのだ。すると説明される。
「当然ここを選んだのには理由がある。この国は左右に山脈があるのだが、一つはドラゴンたちが住んでおり、もう片方の山にはドワーフたちがいる。そして後ろの森にはダークエルフが住んでおり、それぞれ魔王たちの支配には否定的な種族とされている。魔王たちの支配に反抗している強大な三つの戦力が集まるこの場所が最適と判断したのだ。今後、魔王アスタロトを討伐するためにな」
狙いがアスタロトならなるべく近く、仲間となってくれる者が集まるここを選んだのも分かる。しかしこれには亜人種たちが口を開く。
「確かに我々は魔王の支配を受けるのはごめんだが、貴公たちの味方となっているわけではないぞ? 我々は我々の山を奪い返せればいいのだ」
「わしらもそうじゃ。ここにおるのは仕方なくであることを忘れておらんじゃろうな?」
「私たちは我が国の秘宝を盗み出した者を探しに来ただけだ。戦うつもりはない」
「もちろんわかっている。しかし今回は二つの種族は被害を受けた。恐らくダークエルフもだ。奴らが再び攻めてくるとしたら、手を取り合って戦うしかないだろう?」
亜人たちが苦しそうな顔をする。どうやら相当やばい状況のようだな。
「すみません。詳しく状況を説明して頂けませんか?」
「ふん。詳しくも何も魔王ネビロス配下のドラゴンたちと謎の魔将に我々の住処を乗っ取られたのだ。忌々しい」
謎の魔将?誰だ?ネビロスのことを考えると既に死んでいる敵だと思うがちょっと分からない。
「こっちもじゃ。わしらの町を魔王ネビロス配下のオーガどもに占拠され、鉱山には入れなくなった。住むところも仕事も失い、ここに来るしか無かったというだけじゃ」
帝釈天が言っていた攻略順から考えると難易度が低い順番なのは間違いなさそうだ。恐らく彼らの住処をネビロスから解放すると仲間になる流れと言ったところか。しかし相手は魔人にドラゴン、オーガか。これは苦労しそうだ。
次はダークエルフの戦士の女性が話す。
「私の場合は事情が異なります。私たちの森には魔王軍は来ていません。しかし何者かにダークエルフの秘宝を盗まれました。私はその犯人が誰か突き止めるためにここにいます」
なるほどね。帝釈天は最初に森へ迎えと言っていたがあれは解決がしやすいって意味かな?それともダークエルフから仲間にすることに意味があるのか…いずれにしても後でこの話は聞こう。既に最初のパーティーが攻略に向かったはずだからな。
「最後に我々の状況の説明をしよう。まず魔王軍は君たちが来る前に一度ここに攻め込んで来ている。とは言っても作っている三つの砦の一つにゴブリンたちが進行してきた程度で防衛に成功。ただこのままということはないだろう。そこで君たちには新たな砦の建設と防衛をまずは頼みたい」
事前の情報通り、最初のこのイベントは砦の建設と防衛を並行してするイベントなわけだ。しかも三つの場所の攻略もしないといけない。人数が島イベントより多くなるわけだよ。
「…わかりました。敵の情報などわかりませんか?」
俺の質問にテグスターさんが答える。
「我々も調べようとしているのじゃが、敵も砦を作っている上に警戒が厳重での。現状は情報なしじゃ。ただお主の仲間たちが情報収集に既に動いておると聞いておるぞ?」
あ、そうなんだ。みんな仕事が早いね。話が終わったところで俺はサバ缶さんがいる俺たちの作戦本部に顔を出し、そこで現状の報告を受ける。
「まず現在の状況を説明します。まず防衛の砦ですが、一つ目と二つ目は既に作られている状態でした」
これで砦を作らず、二つの砦で防衛だけすることが可能となった。
「我々はクロウさんたちが中心となり、NPCと共に三番目の砦を建設中です。ここにマグラスさんを中心とした防衛部隊が陣取り、一度戦闘が発生しました」
あ、NPCが砦を建設してくれるなら守り一辺倒という考えは無しかも知れないな。ただNPCに指示出しする人がいないと凝った作りの砦は作れないみたい。当然この指示出しには専門の石工や鍛冶師たちが優遇されている。
掲示板の情報によると通常プレイヤーが指示出しするためには砦建設の責任者のNPCと仲良くしないといけないとのこと。
「敵はゴブリンだったと聞いていますが普通とは違ったんですよね?」
「はい。敵のゴブリンは我々と同じくらいの背丈だったと聞いています。武器も剣、棍棒で武技も使用したそうです」
「イベント武器の効果はどうだったんですか?」
レッカの言うとおり、そこは気になるな。
「一応は効果ありでした。ただ普通の武器でも倒せたので、今の段階ではなんとも言えない状況ですね。タクトさんはどう思いますか?」
「油断を誘っている…いや、イベント武器が有効な敵と使わないで倒せる敵がいるのかな?」
「我々もイベント武器はボスなどの敵に使用する武器だと考えています」
まぁ、イベント武器使わないと倒せない敵オンリーならきついよな。ここだけの話、武器の生産が間に合っていないからね。
「次はダークエルフの森についてです。今までで一回ダークエルフの森に挑んでいるんですが、レギオン全員が罠に引っかかり、烈空さんがエンゲージバーストを使用しましたが、ボスが強くて撤退しています」
何!?エンゲージバーストで倒せない敵がいるのか。
「詳しく聞かせてください」
「はい。ボスの正体はデーモンタランチュラ。蜘蛛タイプのモンスターで最初の罠は召喚獣たちの危険察知を使った罠だったようです。地面から現れるデーモンタランチュラに召喚獣が反応すると空に逃げた者が蜘蛛の巣に引っかかるトラップだったようです」
よりによって、召喚獣たちの危険察知を利用してきたのか…烈空さんがエンゲージバーストを使った理由がわかったよ。きっと責任を感じたんだろうな。
「烈空さんはヴィヴィアンとのエンゲージバーストで聖騎士となり、デーモンタランチュラと戦闘をしたのですが聖剣解放が直撃したのにも関わらず、敵は復活。その後、レギオンを組んだ人たちがイベント武器で攻撃し、イベント武器を使わないと倒せない敵であることが判明しました」
「聖剣解放でも倒せなかったんですか?」
「はい…どうやら敵は地獄の加護という加護スキルを持っていて、イベント武器はそれを無効化する効果と加護を持っている敵を弱体化させる効果が確認されました。イベント武器がないと敵は地獄の加護で蘇生を繰り返す無敵モンスターとなるみたいです」
ひで~…一番最初に挑んだ人たちには同情してしまう。
「その後、ダークエルフの森への案内をしてくれるダークエルフが敵に連れ去られるところを烈空さんが救出したところでエンゲージバーストが効果切れ。その後、烈空さんの判断で烈空さんのみその場に残して、全員が撤退したそうです」
エンゲージバーストの反動で動けなかったんだな。
「最後に烈空さんはダークエルフを助けたんですね」
「自分もやりたいとか考えてない? ルーク」
「そ、そんなことないよ。チロル」
詰まった時点でアウトだぞ、ルーク。
「ダークエルフの森での話は以上です。次に偵察の話なんですが、左右の偵察は山のため、召喚獣に乗せて貰いたいと要望が来ています」
「飛べるんですか?」
「はい。規制は確認されませんでした」
「それって逆に敵も空を飛べるってことになるよね?」
そういうことになるが、今は偵察のために召喚師を派遣しないといけないな。
「じゃあ、私が偵察部隊に合流するよ。ルークはダークエルフとゆっくり冒険を楽しんでね」
「チ、チロル~」
やれやれだ。
「わかりました。香子さんに連絡を入れておきます」
香子さんは銀たちが言っていた『風魔の風』のギルドマスターだ。するとここで緊急報告が入る。
「防衛部隊より緊急報告! 砦内で爆発が発生!」
「そんな馬鹿な! 偵察部隊から敵の報告は…」
「クロウさんから緊急報告! 砦内で戦闘発生! 敵は黒い頭巾を着けた子供サイズのゴブリン!」
「それはゴブリンアサシンです!」
流石ゴブリンマスタールークだ。特徴だけですぐに答えたな。偵察部隊が発見出来なかったのは、ゴブリンアサシンの気配遮断があるからだ。そしてこいつらには即死スキルがある。急がないと被害が増えてしまう。
「すぐに向かうぞ!」
「待って! タクト君。ここは別れよう。砦の対処には私たちが向かうよ。タクト君とルーク君、シフォンちゃんたちはダークエルフの森に向かって、烈空さんの仇を取ってあげて。それでいいですか? サバ缶さん」
「それがベストでしょうね…タクトさん」
「わかった。砦はメルたちに任せる。俺たちはダークエルフの森に向かうぞ!」
俺はブリューナクをケーゴに聖剣グラムをメルに渡す。
「持って行ってくれ」
「あぁ。暴れさせてもらうぜ!」
「大切に使わせてもらうね。いくよ! みんな」
『おぉ!』
俺はシフォンたちを見る。
「俺たちもダークエルフの森に向かおう」
『おぉ!』
「最初に向かった被害が少なったメンバーがいます。彼らも誘ってあげてください」
「わかりました」
俺たちは最初に挑んだ人たちに声を掛けて、一緒に行くことになった。そこでパンドラがやってきた。
「おじ様、槍が二本作れたよ」
はや!?もはやパンドラはルナティック武器の専門家レベルだな。見せてもらう。
ルナティックミスリルトライデント:レア度9 槍 品質S
重さ:40 耐久値:700 攻撃力:800
効果:悪魔特攻(究)、万物貫通、浄化、魔素吸収、地獄の加護無効化
ルーンサイトとミスリルの合金で作られた三又槍。ミスリルの浄化能力のおかげで魔素を取り除く時間なく戦うことを可能にした。死後の世界の力を宿した存在に極めて強力な能力を誇っている。
ルナティックミスリルランス:レア度9 槍 品質S
重さ:40 耐久値:700 攻撃力:800
効果:悪魔特攻(究)、万物貫通、浄化、魔素吸収、地獄の加護無効化
ルーンサイトとミスリルの合金で作られた槍。ミスリルの浄化能力のおかげで魔素を取り除く時間なく戦うことを可能にした。死後の世界の力を宿した存在に極めて強力な能力を誇っている。
注文通りまずはリアンとブランの槍だな。二人を呼ぶとリアンの様子が変だ。
「どうかしたのか? リアン」
「実は…セチアお姉様とユウェルから魔法杖が完成したと聞いているんですけど」
あちゃ~…急いでここに向かったからみんなが空気を呼んでくれたのか。この様子では和狐もだな。ちょっとみんなに時間を貰い、用意された部屋で三人を呼ぶとやはりそれぞれ依頼した物が完成していた。まずはセチアの着物から。
ポインセチアの着物:レア度9 防具 品質S-
重さ:5 耐久値:1000 防御力:30
効果:魔素攻撃無効、精神攻撃無効、天の加護
天の衣から作製した女物の着物。緑の布地にポインセチアが描かれており、落ち着きと可愛さを感じるデザインとなっている。天の衣の効果で精神攻撃と魔素から身を守り、天の加護で全ての武器に神聖属性を付与することが出来る。
これを見たセチアの反応は予想通りだった。
「この花…もしかしてリリーお姉様と同じで私の名前の由来になった花ですか?」
「そうだよ」
「確か花言葉というものがあるんですよね? どういう意味でしょうか?」
やはり聞いてくるよな。
「祝福や情熱って意味かな? セチアの場合だと永遠の命、愛という言葉を参考に名前をつけたんだよ」
「私はそんなイメージだったんですか?」
「あぁ。なんか愛について真剣に考えている感じを受けたんだよな」
「う…」
何か心当たりがあるらしい。
「そ、それよりも魔法杖の名前の考えていただけませんか?」
「「「(話を反らした)」」」
だが、ここはその話に乗ろう。考えてありますとも。
「スターマリンなんてどうだ?」
よく似た言葉でスターマインという花火がある。これは速射連発花火のことを言うんだが、子供の頃に見た水上スターマインというのが凄く綺麗だったのことを覚えている。折角なので、この名前をもじって使わせてもらうことにした。
名前の由来を説明すると当然のように興味を持った。
「先輩が感動する花火ですか…見てみたいです」
「あるかな~…花火ならシルフィ姫様と見」
全員の目が光った。これは地雷を踏んだな。
「へ~…シルフィ姫様とは花火を見たんですね。タクト様」
「それはロマンチックどすな? タクトはん」
「もちろん私たちも連れて行って貰えますよね?」
「姫様だけはずるいぞ! タク!」
はいはい。イベントが終わったら、連れて行きますよ。全員を宥めて名前を付ける。
スターマリン:レア度9 魔法杖 品質A+
重さ:20 耐久値:800 攻撃力:60
魔法杖効果:氷属性アップ(究)、光属性アップ(究)、冷凍光線、浄化、詠唱破棄
宝玉効果:連続詠唱、魔法再時間短縮(極)、状態異常耐性、宝玉解放
刻印効果:魔力アップ(極)
タンザナイトの宝玉を組み込んだミスリルで作られた氷属性の魔法杖。金属の魔法杖としては非常に軽く作られており、誰でも手軽に使うことが出来る。浄化の効果も加わる冷凍光線が非常に強力で凍り付いた悪魔をその状態で浄化する力を持っている。
はい。強い。杖で冷凍光線を撃てるだけで驚異しか感じないよ。これで宝玉解放使うとどうなるかだな。取り敢えずこれをリアンに上げる。
「大切に使わせて貰います!」
次に依頼だが、魔法杖制作は宝石の問題があり、一時中断する。候補的にはムーンストーンやサンストーンなんだけどね。今はそれどころではない。
「ユウェルはミスリルとムーンストーンを渡すから自分の武器を使ってくれ」
「わかった! 何がいいと思う? タク」
「そうだな…ハルバード、トンファー、モーニングスターの順番がいいと思う?」
「了解だ!」
俺はパンドラの依頼のためにファリーダを呼び出す。
「これからパンドラにルナティックの武器をお願いするところなんだが、ファリーダはハルバードに興味を持っていたよな?」
「あら? よく覚えているわね。でも今回はこの斧と同じ斧が欲しいわ。私にはミスリルは軽すぎるから。きっとハルバードは軽すぎて使いこなせないわ」
どちらも重い武器なんだけどな。ということでパンドラに戦斧を依頼した。次にセチアを見る。
「これからダークエルフの森に行く。一緒に行くだろう?」
「もちろんです」
ということで俺たちは着物に着替えて、みんなと合流する。そして最初に挑んだ彼らの案内でダークエルフの案内役を紹介してもらい、森に出発することになった。




