#738 イオンの着物とシルフィ姫様の秋祭りデート
三連休が終わった学校では文化祭で大忙しだ。
「なんでこんな面倒臭い物にしたんだろうな?」
「あんたと海斗のせいでしょうが…とばっちりを受けた私たちの身にもなりなさいよ」
「言い出したのは海斗だ。俺のせいにするなよ」
俺たちが文化祭で出すお店はゲーム喫茶になってしまった。海斗が妖精姿の姫委員長が見たいといった結果、男子の大半が超やる気を出して、賛成多数で可決してしまったんだ。
「しかもなんで俺がドラゴニュートなんだよ」
「リリーちゃんたちの召喚師をしているからでしょう?」
「なら副委員長がサキュバスをするのには何か理由があるのか?」
「知らないわよ!」
因みに名前だけで普通の悪魔のコスプレをするらしい。しかし影で海斗たちが動いており、何やら男子と女子で戦争が勃発しているみたいだ。
「そもそもなんで文化祭でゲームの喫茶店なのかな?」
『ゲームとコスプレは日本が誇る文化です!』
こう言われると姫委員長はゲームをしているから何も言えないし、先生もゲームの市場価値を知っているから過激なコスプレは禁止としか言えなかった。因みに海斗のコスプレは姫委員長たちの反撃でゴブリンとなった。
このゲーム喫茶は一件すると楽しそうだが、まずコスプレ衣装にもの凄い時間とお金がかかる。更に喫茶店のメニューも考えないと行けないし、かなり切羽詰まっている。
「飲み物はコーヒー、カフェオレ、各種ジュース…普通ね」
「タピオカとかいいんじゃね?」
「みんなしているから流行らないぞ」
喫茶店や屋台は文化祭の王道だからどうしてもメニューが被る。一応ゲーム喫茶というインパクトはあるがメニューが普通だとコスプレだけかと思われてしまう。それでは客は集まらない。
「う~ん。誠吾君、何か案ないかな?」
「俺はこのままで行けると思うぞ。ただ工夫は必要だと思うけど」
「何か考えがあるみたいね?」
「あぁ…ようは既存の物にちょっと珍しく作るだけで他のお店よりリードすることが出来るはずだ。例えばコーヒーの氷を作って、ミルクの中に入れるとカフェオレになるとかな」
俺が考えた案をみんなが考える。
「味というより見た目で勝負するわけね…いけるんじゃないかしら?」
「そうだね。面白いと思う。材料費もそこまで嵩むわけじゃないし、いいアイデアだと思うよ」
「後は実際に作って味がどうなるかだね。まずいと流石に売れないから」
そこは研究するしかないな。自分で案を出したんだし、俺も色々作ってみよう。
「食べ物はどうしようか?」
「マンガ肉!」
「全員に同時に注文されたら、どうするんだ?」
家庭科室で使えるオーブンは申請しても一台しか使えない。それだけで回るわけ無いがない。すると他の男子が提案する。
「マンガ肉はなしだが、ゲーム要素を加えるのはいいんじゃないか?」
「え? でもどうすればいいの?」
「そこは誠吾に任せる」
「俺かよ。コントローラーのクッキーとかゲームキャラクターのクッキーでも作るか?」
全員が俺を見る。適当に言ったんだけど、ありなのか?
「ここオリジナルの感じが出るし、いいんじゃないかな?」
「でもこれだと予想外にお金に余裕が出来るわよ…メニューをもう一つ追加してもいいかもね」
「はいはーい! パンケーキが食べたい!」
またお決まりの喫茶店メニューだな。
「ゲーム要素はどうするの? パンケーキを決まった形に焼くのは難しいと思うけど」
「クッキーと同じで型があれば作れるぞ。まぁ、型を作るよりパンケーキアートのほうが楽だと思うけどな」
また全員が俺を見る。なんだよ…さっきから。そんな会議をした結果、帰りが遅くなり、スーパーから商品が激減した。悲しみを抱えながら、帰宅した俺は先に夕飯を食べることにした。
今日の夜はシルフィ姫様と桜花の秋祭りに行く予定だ。夕飯を食べ終えてゲームにログインする。すると外から何やら声が聞こえてきた。
「姫様~!?」
「思い直して下さい! 姫様! あ…やめて! そこは噛まないで!」
「てめぇら! 根性見せろ~! ぐぼはぁ!?」
「隊長!? あ…ぎゃあああああ!?」
なんだ?俺がリリーたちに聞くと昼からずっとこんな声が聞こえているらしい。近所迷惑だな。俺がそう思っていると和狐からイオンの着物が出来たと報告を受ける。
海月の着物:レア度9 防具 品質S-
重さ:5 耐久値:1000 防御力:30
効果:魔素攻撃無効、精神攻撃無効、天の加護
天の衣から作製した女物の着物。藍色の布地に月が描かれており、大人の女性のデザインとなっている。天の衣の効果で精神攻撃と魔素から身を守り、天の加護で全ての武器に神聖属性を付与することが出来る。
海月はクラゲとも読むから間違えると大変だな。それにしても流石に機織り機の効果は絶大だな。一日一着のペースだ。
「着替えて着ますから、タクトさんも着物に着替えてください」
「えー」
「今日はシルフィ姫様とお出かけなんですよね? 少しは私たちの要求にも答えてください」
「はい」
そう言われると着替えるしかない。
俺が先に着替えると海月の着物に着替えたイオンがやってきた。
「タクトさん、こっちです。隣に来てください!」
「はいはい」
すると腕を組んでくる。
「タクトさんとお揃いの着物です」
「はいはい。良かったね~。イオン」
「な、なんですか? リビナ。いつもと反応が違いますよ」
「だって明らかに色が違うじゃん」
言っちゃった。
「これはお揃いでいいんです!」
「イオンは時々強引よね…」
「普段は冷静なんですけど、先輩のことになると少しブレるんですよね」
「何を言っているんですか! リアン! 私はいつでも冷静です!」
冷静なら色の違いに気が付くはずだ。まぁ、このままだと遅刻の恐れが出てくるからリリーたちのご飯を上げて、昨日買った私服に変える。
『おぉ~…新鮮~』
まぁ、いつもローブ姿だから急にシャツとジャケット姿になったら、そう見えるか。
「タクト、タクト。こっちこっち」
「ん? どうしたんだ? リリー? いつもは突っ込んで」
「ぎゅううう~」
リリーが抱きついてきた。なんだなんだ?
「…リリー?」
「これで大丈夫! いってらっしゃい! タクト!」
「あ…あぁ…行ってきます?」
なんだったんだ?海外の何かの儀式か?
俺がお城の前まで行くといつもいる門番さんがいない。大丈夫か?スパイとかいたら簡単にって結界があるんだっけ。するとシルフィ姫様がやってきた。やばい…ワンピース姿がここまでの破壊力とは思ってなかった。
「お待たせしました! タクト様!」
「さっき来たところですよ。私服姿も可愛いですね」
「ありがとうございます。タクト様もいつもと違う雰囲気で素敵ですよ?」
お互いに褒め合うと変な空気になるな。
「ありがとうございます。護衛の方は?」
「護衛にはタクト様がいるので、大丈夫ということになりました」
なんだそれは?するとサラ姫様から通信が来る。
『すまん。護衛の騎士たちだが、シルフィお姉様の召喚獣たちにやられた影響で出せそうにない。悪いがシルフィお姉様を頼む』
さっきまでの声ってガルーさんたちが必死にシルフィ姫様の護衛をするために頑張っていた声だったのか…リリーたちの話ではずっと声がしていたらしいから一体どれだけの騎士が犠牲になったんだろう。俺がシルフィ姫様を見ると笑顔で言う。
「私は何もしてませんよ?」
あなたの召喚獣が暴れたんだからそれはそうでしょうよ。
「わかりました。では、早速桜花に行きましょうか」
「はい!」
桜花の都に転移した俺とシルフィ姫様は秋祭りをしている通りを目指して手を繋いで歩いていく。
「やはり桜花の服装にしたほうが良かったでしょうか?」
周りが浴衣だからそりゃ気になるよね。
「俺はこれでいいと思いますよ? 桜花の服装を着ても、外国らしさは抜けないものですから。どっちの服装を選んでも同じなら好きな服装を選んだほうがいいと思います」
「タクト様はそういうふうに考えるんですね」
「変ですか?」
「いいえ。素敵な考えだと思いますよ」
それなら良かった。さて、ここからは屋台ゾーン。シルフィ姫様のエンジンが全開になる。
「タクト様! あれはなんですか? 雲みたいです!」
「あれはわたあめですね。甘くてふわふわしていて美味しいですよ」
「そうなんですね! 買いに行きましょう!」
こんなやり取りばっかりだ。既に俺とシルフィ姫様の両手は食べ物でいっぱいとなっている。
「はむ…んん~。美味しいです。それに歩いて食事をするなんてお城でしたら、絶対に怒られてしまいます」
「何処かに座りますか?」
「いいえ。これも桜花の文化。勉強しないといけません」
ただ食べ歩きをしたいだけだな。
「タクト様、あれはなんですか?」
「…お化け屋敷ですね」
なぜ秋祭りにお化け屋敷があるんだ?まぁ、いいか。シルフィ姫様は行く気満々だから入ってみよう。
「わ~! 面白いモンスターがたくさん出てきますね!」
「…そうですね」
焦った…ゾンビが出てきたら、シルフィ姫様の拳に魔力が集まるのを見た時はゾンビ役の人が死んだと思ったぞ。なんとか手を引いてその場から脱出したから良かったが、アトラクションはネタバレになるが説明したほうがいいと思い知った。
「アァ~…」
「むむ! またゾンビですか! フリーティアを襲ったお仕置きを」
「ダメですって!」
お化け屋敷で学んだこと。お化けよりシルフィ姫様の本気パンチのほうが余程怖い。その後もシルフィ姫様に振り回され続けていると屋台の前で泣いている女の子に遭遇。どうやら射的の景品が欲しいらしい。しかしお父さんでも取ることが出来ず、泣いてしまったようだ。
「こんばんは。泣いてしまってどうしたんですか?」
「う…うぅ…あれが…欲しいの…」
確認するとかなり大きい木の板だ。あれは一発では下に落とすのは無理だな。すると射的の店員が言う。
「おいおい。店の前で泣くとか勘弁してくれ。営業妨害で訴えるぞ」
口が悪いな。こいつ。するとシルフィ姫様が怒る。
「小さい女の子に向かってなんですか! その口の利き方は!」
「うるせー! そんなにそいつが大切ならあんたがこれを取ればいいだろう?」
「わかりました! 私が取ってみせます!」
あーあー。口が悪い店員さんの口車の乗っちゃダメだよ。シルフィ姫様。案の定一回の料金が高い。その理由が一回落とせば何度でも落とせるからみたいだが、棚に置かれている板の位置が明らかにおかしい。
「シルフィ姫様、お気持ちはわかりますが、やめておいたほうが」
「大丈夫です! 私には作戦がありますから!」
するとシルフィ姫様がお金に物を言わせて徐々に板を押していく。まさかのゴリ押し作戦だ。そして落ちそうになったところで店員が板を元の位置に戻してしまう。
「あぁ~!? 何しているんですか!」
「んん~? 板を元の位置に戻しただけだが? ちゃんとここに書いてあるだろう?」
店員板を見せる。そこには新しいルールが追加されていた。明らかにシルフィ姫様が頑張っている間に書いたものだ。
「さっきまでそんなものありませんでした!」
「悪いがこの店のルールは俺が決める。文句があるなら他の屋台にいけ」
シルフィ姫様が悔しそうな顔をする。ほっとくわけには行かないな。
「俺がやりますよ。シルフィ…様」
あぶな…姫様呼びはまずいよな。セーフ。
「タクト様?」
「なんだなんだ? 恋人か? まぁ、挑戦するなら誰でも俺はいいぜ?」
「なら交代しましょう」
ということで俺が代わる。
「やる前に確認するがルールはあそこに書かれている物とお前が持っているものでいいんだな?」
「ん? あぁ。いいぜ」
このお店のルールはこちら。
・ゲーム一回1000G。銃は一丁、弾は一発。
・棚の下に板を落としたら、商品をゲット出来る。
・商品をゲット出来たら、何回でもチェレンジ出来る。
・失敗した場合、板の位置は元に戻す。
それじゃあ、お金を支払おうか。
「2000G出すから銃を二丁くれ」
「は? おいおい! 何言ってやがる! そんなこと出来るわけないだろうが!」
「それはおかしいな。ここにゲーム一回1000G。銃は一丁、弾は一発と書いてある。なら2000G払えば銃は二丁、弾は二発貰ってもいいはずだ。それにここには銃を二つ持つのがルール違反とは書かれていないが?」
「う…」
こいつは自分でこのお店のルールは自分で決めるといった。それ故に今書かれているものには従わないといけない。更に追い打ちを掛ける。
「どうする? たかが銃を二つ持った男のために今からルールを変えるか? それはなんとも格好悪いな~」
こういう輩は自分が挑発する割に挑発に弱いんだよね。
「…おもしれ。やれるもんならやってみろよ。ガキ」
ほら。かかった。後は俺の腕次第だ。射的のせいちゃんと呼ばれた実力見せてやる。因みに言ったのは佳代姉です。
俺は銃を二丁構えて板の上。両端を狙うと木の板は倒れ、衝撃で跳ねると棚の下に落下した。俺が勝利の銃を上げるとそれを見守っていた人たちが盛大な拍手が起きた。
「すげ! 落としたぞ!」
「よ! 格好いいぞ! 兄ちゃん!」
「やりました! 凄いです! タクト様!」
俺が勝利宣言する。
「ちゃんと落としたぞ。商品をもらおうか?」
「く…ほらよ」
俺は貰った商品をシルフィ姫様にあげる。
「え? タクト様からこの子にあげてください」
「シルフィ様が声をかけたんですからシルフィ様から上げてください」
「わかりました。ありがとうございます! はい。どうぞ」
「わ~! ありがとう! 綺麗なお姉ちゃんに格好いいお兄ちゃん!」
さてと俺は店員を見る。
「商品を落としたからもう一回だな」
俺は二丁の銃を構えると店員が慌てる。
「また二丁使うのか!?」
「だって、二丁使って商品を落としたんだから当然だろう」
「ふ、ふざけるな!」
「あぁ…わかったわかった。俺は優しいから一丁にしといてやるよ」
本当に優しい人間はこんなことは言わない。さて、俺は銃を構える。狙いは一番小さな的だ。俺は撃つ瞬間、狙いを店員の額に向けた。シルフィ姫様をいじめた報いはしっかり償ってもらう!そしてコルクが見事に命中する。
「いて!? て、てめぇ! わざと!」
「これでゲームは終わりだ。その店がお前のルールで決められているならしっかり銃は人に向けて撃ってはいけないと書いておくんだな。行きましょうか? シルフィ様」
「はい! べ~」
子供のリアクションだが、そこがまた可愛い。それから二人でのんびり歩いていると花火が打ち上げる。
「わ~! 綺麗~」
色々あったがシルフィ姫様が笑顔で良かった。そして花火が終わり、秋祭りの終わるみたいだ。
「あぁ~…お店が閉まり出してしまいました~」
「仕方ないですよ。今日はどうでしたか?」
「とっても楽しかったです! ありがとうございます。タクト様」
「そうですか…楽しんで貰えて良かったです」
俺がそう言うとシルフィ姫様はあることを思い出す。
「あ、でもお金を使いすぎたので、怒られてしまうかも」
「射的に使ったお金なら俺が支払いますよ」
「いいんですか?」
「まぁ、責任も感じているので、支払わせてください」
一応止めたけど、あの女の子のために頑張るシルフィ姫様を本気で止めることが出来なかった。だからこれは俺が払おうと思う。
「…わかりました。ではお言葉に甘えちゃいますね」
「そうしてください」
「そういえばリリーちゃんたちは今日のことを知っているんですか?」
「知っていますよ」
するとシルフィ姫様は何かを考える。
「んん~? タクト様、リリーちゃんたちと何かありましたか?」
「え? 特に何も…あ、そういえばこの服に着替えるといきなりリリーに抱きつかれましたね」
「なるほど。ふふ…リリーちゃん、可愛いですね」
どうやらシルフィ姫様にはリリーの行動の意味がわかったようだ。聞いてみる。
「たぶんタクト様の新しい服の最初の匂いは自分たちじゃないと嫌なんですよ」
マーキングみたいなものか?犬か…リリーは。
「そうなんですか。謎が解けました。それでは帰りましょうか」
「その前に明日は暗黒大陸に出陣ですよね? 少し早いですがいつものをしましょう」
俺はシルフィ姫様の前で片膝を地面に付ける。
「タクト様にフリーティアの加護がありますように…魔王たちに苦しめられている人たちを救ってあげてください」
「はい」
その後、お城までしっかり送り、俺とシルフィ姫様の初めてのデートは終わった。ホームに帰るとリリーたちに一緒に寝るようにせがまれる。俺はそれを受け入れることにした。
「タクトがあっさり受け入れた!?」
「シルフィ姫様に何か言われたね!」
「いや、別に言われてないぞ」
俺がそう言うとリビナが反応する。
「絶対嘘だ! シルフィ姫様に何を言われたか話そうか? タクト。後、シルフィ姫様とのデートについても教えて貰うよ!」
「断る。ほら、寝るぞ~」
『逃げた! 話して~』
シルフィ姫様の話を聞いた後だとみんなのリアクションが可愛く見えるから不思議だ。さて、明日はいよいよイベント開始だ。英気は十分。気合いを入れて挑むとしよう。




