#737 和狐の告白と紅蓮の鉄扇
俺は和狐に桜花に買い物があるからついて来て欲しいといい、和狐と桜花に転移する。選んだ場所はサクヤビメ様の神社だ。
「わぁ~…綺麗な夜桜どす~」
だから告白の場所に選んだんだけどね。それに和狐はやっぱり神社が似合う。
「な…なんどすか? タクトはん? うちをじっと見たりして」
「あぁ…悪い。和狐には夜桜が似合うな~と見惚れてた」
「見惚れ!? ひょっとして、タクトはん。うちをおちょくってはります?」
「そんなつもりはないんだが、でもさっきの反応は可愛かったな」
和狐に軽く叩かれる。その反応もまた可愛いものだ。
「もう…それでここに買い物ってなんどすか?」
「悪い…それは嘘でこれを渡そうと思ってね」
俺は和狐の指輪を取り出す。
「やっぱしそんなんやったんどすなぁ」
「バレてた?」
「バレバレどす」
厳しい。リリーたちならきっとバレない…よな?いや、最近のリリーも鋭くなってきたからバレていそうだ。
「それ受け取る前に少しここを見てまわりまへんか?」
「ん? いいぞ。それじゃあ、行こうか」
「はいな」
腕を組んで境内を見て回る。すると桜の木の枝の上や桜の木の後ろからサクヤビメ様が顔を出していた。何やら桜の枝を振って応援しているようだが…行く先々で顔を出されると気になって仕方ない。
何も会話がないまま、元の場所に来ると和狐が話す。
「少し…話を聞いてくれます?」
「あぁ…」
俺たちは石段に座り、和狐の話を聞くことにした。
「恋火からエンゲージバーストの話を聞きました。そして血醒のことも聞いて凄い不安に感じたんどす」
「どんな不安だ?」
「うちは一度人間の憎しみで暴走しました。うちの血にはそういう血があるんどす。血醒を使うとそれが強く出ることがはっきり分かります。そしてうちはきっとあの時みたいにタクトはんを傷付けると感じるんどす」
和狐は出会ってからずっと自分の血と戦ってきたんだな。わかっているつもりだったが、俺が考えている以上に深刻だったようだ。
「そうやさかいうちとエンゲージするのは」
「悪いがなしにはしないぞ。これでも色々覚悟を決めて指輪を用意しているんだ」
「タクトはん…」
俺は和狐の頭を撫でる。
「いいか? 和狐? 憎しみや負の感情は誰にでもあるものだ。もちろん俺にもある。それは和狐も知っているだろう?」
和狐は頷く。ドゥルジナスにイオンがやられた時、暗黒召喚師たちにイクスが狙われた時とか俺は必死に隠している感情を爆発させたことがある。当然みんなは俺の闇を知っているだろう。
「憎しみを持っていいんだ。俺たちにはそういう感情があるんだからな。大事なのは、憎しみに囚われないことと憎しみを許す心を持つことだと俺は思う」
誰にだって、苛つくことがある。その苛つきが貯まると憎しみとなり、憎しみが限界を超えると殺意となるんだと俺は思う。
「憎しみに囚われないことと憎しみを許す心どすか?」
「そうだ。憎しみは溜め込まず、発散させないと囚われてしまうものなんだ。囚われ続けるとその先にあるのは身の破滅だと思う」
俺がそうだった。だからじいちゃんは俺を無理矢理剣を持たせて戦ってくれた。俺が囚われていた憎しみを剣を振るうことで発散させてくれたんだ。その結果、俺は殺意を自分や周囲に向けずに済み、救われた。なら次は俺が和狐を救う番だ。
「俺は和狐にはそんな風にはなって欲しくない。だから俺は和狐の血に宿る憎しみを発散させることをこの指輪に誓うよ。どんな和狐も受け止めて見せるからさ。この指輪を受け取ってくれないか?」
「…そんな言い方ずるいどす。指輪を受け取らな受け止めてもらえへんってことじゃあらへんどすか」
確かにそうなるか…すると和狐が微笑む。
「ほんまタクトはんは強引やわ。後悔しまへんどすな?」
「してたまるか」
告白する前まであんなに必死にアピールしてきていたんだ。和狐の思いにしっかり答えないとな。俺は和狐の左手の薬指にエンゲージリングを通す。
『和狐とエンゲージが結ばれました』
インフォが流れると同時に和狐が飛び込んできた。
「…これからよろしくお願いします」
「あぁ…こちらこそよろしく頼む」
俺たちが抱きしめ合っていると視界にサクヤビメ様がバンザイして、手から桜の花びらを出していた。桜花の神様って暇なんだろうか?
そう思っていたんだが、何か俺に伝えて来る。なんだろう?着いて行くと授与所があり、桜のお守りが置かれていた。そして授与所にいるサクヤビメ様が言う。
「恋愛成就のお守りはいりませんか?」
いやいや、指輪を渡してからそれを言うのか?しかもあなたは神様で授与所にいたらダメだろう。他に人がいないから仕方がないのかも知れないけどね。それを置いておいてもあなたは安産や子育ての神でしょうが。ってそうか…このゲームではひょっとしてそれは出せないのか?一応お守りを見てみる。
桜のお守り:レア度8 アクセサリー 品質A-
効果:一回のみダメージ無効
桜花でお守りとして最も一般的なお守り。桜花では守りたい大切な人に贈ることが通例となっており、男性から女性に贈ることが圧倒的に多い人気のお守り。
説明が絶妙な掠り加減だ。安産や子育ての神様ならやっぱり妻を守ってこそだろうし、恋愛でも間違いではなく見えるがこれで成就するとは書かれてないし、効果にもそんなものは書かれてない。
「ほ、本当に恋愛成就のお守りですよ~」
繰り返されると不信感が上げるぞ。
「…じゃあ、記念に一つください」
「あきまへん。お金を納めるなら二つ分どす。タクトはんはうちらの大切な人なんやからもっと自覚を持ってもらわな困ります」
そう言われると払うしかない。因みに神社やお寺では買う売るという言葉は失礼となるので、注意しようね。理由はお守りなどは収益事業ではなく、神聖なものであくまでお金を納めることで授与して頂くものだからだ。
昔、初詣の臨時バイトをしていた時に神主さんが参拝客の「お守りってどこで買えますか?」や「お守りが売られているところはどこですか?」という言葉に激怒していた。正しくは「お守りを与えていただけるところはどこですか?」ぐらいが正解だろう。
まぁ、いきなりそんなことを言われると働いている人は驚くだろうけどね。俺みたいな臨時バイトの人もいるから、使い分けが必要だろう。この場合は神様が直接いるから流石に気を付けないといけないと思う。ということでお守り二人分のお金を納める。
「ありがとうございます!」
嬉しそうだな。きっと応援していたのはこのためだったに違いない。
和狐にお守りを渡す前に俺はへーパイストスとパンドラが作ってくれた鉄扇を取り出す。
紅蓮の鉄扇:レア度9 扇 品質S-
重さ:20 耐久値:1000 攻撃力:300
効果:炎輪、紅炎、悪魔特攻(究)、万物切断、浄化
ミスリルと炎性石で作られた炎属性の鉄扇。鉄扇を振るうと炎輪を発生し、鉄扇で攻撃すると紅炎と共に付与させる浄化の効果で魔を清め、焼き尽くす能力がある。儀式用の扇とは異なり、攻撃及び護身に過ぎれている武器。
これを見た和狐は目を丸くする。
「それって…」
「へーパイストスとパンドラが作ってくれた鉄扇だよ。これとお守りな」
「おおきに。でも、いっぺんに渡しすぎどす」
そうかも知れないな。でも尻尾が揺れて嬉しさを隠しきれていない和狐である。
ホームに帰るとリリーたちが待っていた。どうやらバレていたらしい。
「お姉ちゃん、どうでした?」
「ちゃんと指輪付けてもろうたで」
「遂に和狐もボクらの仲間入りか~。和狐は強敵なんだよね」
リビナに言われた和狐が腕を組んでくる。
「そんなんあらへんどすえ?」
「ほら~!」
「むむむ~…これが大人の攻め」
「恋火は今まで通りでいいと思いますよ? あれはあれで和狐さんには出来ない攻めですから」
セチアのアドバイスに元気に頷く恋火だ。
俺はそれを見つつルインさんたちに連絡を入れる。イベント前なのにシルフィ姫様と遊びに行くからな。流石に言っておかないといけない気がする。
『了解よ。元々準備は私たちの仕事だから問題ないわ。メルちゃんたちには内緒にしておくわね』
これで良しっと。俺はその後一人で町にお買い物に行く。目的は明日のシルフィ姫様との秋祭りに着ていく服選びだ。自分で言ったからここは俺だけで選ぶことにした。
服を買い、お店から出るとリリーたちがいた。全員が慌てて隠れるが遅すぎる。
「…何しているんだ?」
「えーっとね…リープリッヒの帰りだよ! タクト!」
リリーに嘘は似合わないな。さっきまでホームに全員いたからそれはない。それに最近リリーたちは俺がいない平日の朝にリープリッヒで働いている。この時間は別の店員さんの時間だ。
「そっか。明日のご飯はリリーのお肉、一つ減らすな」
「わ~!? それはダメ~!?」
呆気なく降参するリリーである。ホームに帰ってきた俺はログアウトするんだが、毎度のことながら和狐と寝ることになった。
「そういえば最初は俺のベッドに侵入してきたんだっけ?」
「き、記憶にあらしまへん!」
バッチリ記憶にあるんだな。背を向けて耳を畳む和狐を微笑ましく見つめながらログアウトした。
 




