#720 遺跡に封じられた魔王
ミスリルゴーレムとの戦闘で疲れ果てている俺はスーパーに直行。疲れた時にはスタミナ丼。生卵、豚挽肉、にんにく、ニラ、モロヘイヤ、ほうれん草を使った定食店店長のおばちゃん秘伝のスタミナ丼を作って食べた。
久々に作ったが美味かった。バイトで疲れている時には大変お世話になった料理だ。リリーたちにも作ってあげたいがモロヘイヤは多分出ないだろうな。栄養があって、いい食材なんだけどね。
少し休憩してからログインする。まだだるさがあるが俺にはやることがたくさんある。まずはユウェルを呼び出した。
「…来たぞ。タク」
警戒しちゃっているな。別に怒ったり、しないのに。
「ちょっと二人で話そうと思ってね。ユウェル、落ち込んでいないか?」
「お、落ち込んでなんかいないぞ!」
ムキになったら、落ち込んでいる証拠です。
「信じられるかどうかわからないが、俺もリリーたちも色々負けを経験してここまで来た。今回のことはきっとユウェルを強くする。あまり引きずるなよ」
「…わかった。あ!? 今のは違うぞ! そもそも負けてないし、引きずってもいない! 何を言っているんだ! タク!」
「痛い痛い。悪かったよ」
全然痛くなかったけどね。まぁ、元気になって良かった。その後、リリーたちのお疲れ様のご飯を作って、死んでしまった黒鉄たちも労を労う。今回のミスリルゴーレムでレベル差が結構出たからちょっと考えないといけないかもな。
俺はその後、ギルドに立ち寄ってお土産を買うと九尾の社を訪ねた。葛葉ちゃんたちに油揚げを上げて、九尾に謁見する。九尾には狐うどんをあげた。
「ずずず~…かぁ~! 美味い! それで今日はどうしたんだ?」
「イエローオッサ山の先の事を聞き忘れていると思い出しまして」
「ん? おぉ! そういえば空天狐のところに飛ばして終わってたな。この山の先にはお前が通ってきた道とは別の道…あ~他の人間たちがここに入る時に使った道に新しい道が出来ているからそこを通ればすぐに草原に出られるぞ」
次のフィールドは草か…期待が外れた。
「その草原はどんなところなんでしょうか?」
「どんなと言われても普通の草原だぞ。他と違うところがあるとしたら、その草原はケンタウロスたちが支配している草原だ。かなり好戦的な奴らだから、行くなら気をつけるんだな」
おぉ~ケンタウロスが遂に登場するか。ギルドクエストでそれっぽいのがあるんだよね。
俺はその後、ギルドでアンナプルナで起きた詳しい話と九尾から聞いた話をする。
「遂に第五進化が登場したんですね」
「大量にミスリルが手に入るのが大きいがそれに見合っているかが問題だな」
「死に戻りしたら、元も子もないからね。それでもミスリルゴーレムが島で出せるようになったことは大きいと思うわ」
「ですね。タクトさんの話を元に対策を考えましょう」
誰でも楽に倒したいからサバ缶さんたちには期待だ。
「タクトは大量のミスリルをどうするんだ?」
「サバ缶さんたちに銃弾の作製を頼もうと思います。ルインさんたちにはミスリルの鋼線をお願いします。残りは武器ですね。ミスリル鉱石は売りますね」
「わかった。それなら代わりにムーンサイトを渡すな。多くは持っていないんだろう?」
「ありがとうございます」
ミスリル鉱石がムーンサイトになったよ!次の話は九尾から聞いた話だ。
「ケンタウロスの草原ですか…当てが外れましたね」
「ケンタウロスって、好戦的なの? なんか知識人的なイメージがあったけど」
「それはケイローンのイメージが強いせいね。ギリシャ神話ではケイローンはケンタウロス族の例外的な存在だとされているわ。いて座との関わりがある説もあるし、かなり強いかも知れないわ」
「いずれにしてもここに行くのはイベント後ですね。俺はちょっと休憩してから混世魔王との戦闘に向かいます」
メルたちの話では混世魔王はかなりの雑魚らしい。名前持ち悪魔のほうがまだ強いんじゃないかという話を聞いている。因みに雑魚扱いになったのは魔術殺しの魔導書のせいだ。これで得意の幻術や洗脳スキルが封殺されて、取り柄がない魔王となってしまうらしい。
一応敵の強さがわかる物として初回撃破報酬で手に入った幻惑の筆というアイテムがある。この幻惑の筆には名前にある通り幻惑スキルという、夢幻スキルの上位スキルがあった。このスキルは看破スキルや罠察知の結果まで影響を与えてしまうスキルということが判明した。
この幻惑スキルは俺たちの誰もまだ覚えていないスキルであることから幻術においては俺たちより強いということになる。まぁ、実際の強さは行って確認すればいいだろう。
通常報酬は幻煙の玉という通常アイテム。煙幕の一種で地面に叩きつけると幻術が発生し、敵の攻撃を躱すことが出来るアイテムなのだそうだ。その結果みんなの間では雑魚の癖にいいものくれる魔王という評価だ。
帰ってきたチロルたちに魔術殺しの魔導書を返してもらったから全力状態のリリーたちなら問題ないだろう。俺はミスリルの鋼線を早速作ってもらった。
ミスリルの鋼線:レア度9 糸 品質S
効果:悪魔特攻(究)、万物切断、浄化、拘束
ミスリルを細い繊維にして作られた糸。光りに照らされると美しく光ることで知られている。だが美しい見た目の裏で凶悪な切断性を誇る。その切れ味から人間を拘束するのに使用出来ないほど。非常に頑丈なため、大きなモンスター用の拘束具として使用される。
これをアラネアと千影に渡しておく。メルたちからは挑むためのアイテムを受け取るとホームでのんびりコーヒーを飲みつつ、休憩する。
「ふぅ…そろそろ行くか」
『うん(はい)!』
メンバーはリリー、リビナ、ファリーダ、ルーナ、千影でボスがいる遺跡に向かう。入口の扉にアイテムを入れてると扉が開く。
「タクト、あれってバリスタ?」
「だな。罠だから引っかからないようにしろよ。リリー」
「流石に引っかからないよ~」
リリーにそう言われると不安になるのは何故だろう?
「それにしてもバレバレすぎない? この罠」
「元々は幻術で隠しているらしい」
「なるほどね。それがその魔導書のせいで全部崩壊しているってことね」
幻術が解除出来なかったら、かなりの難易度になっていたんだろうけど、先に魔術殺しの魔導書を手に入れたことで難易度が完全に崩壊したと言っていいだろう。
ということで俺たちはあっさりボス部屋に到着する。一応注意点だけ話して、ボスに挑む。俺たちの目の前には背中に大きな筆がある大猿がいた。
「ぐへへ。よくここまでたどり着いたな。人間と亜人種ども。俺様の名前は混世魔王! いずれ猿どもを支配し、世界の王となる魔王だ!」
「普通に歩いて着いたよ?」
「王となる魔王って矛盾してない? ファリーダ」
「それ以前に猿を支配しただけで世界の王になれると考えているだけで馬鹿丸出しよ。あなた魔王の肩書き下ろしなさい。魔王の品が落ちるから。はっきり言って迷惑よ」
みんなから言われ放題だ。すると混世魔王がキレる。
「うるせぇ! 俺様の計画を無茶苦茶にしやがって! 折角近くの村の子猿どもを洗脳して、ハヌマーンの櫝を盗み出させたつーのによ!」
これでエクスマキナの船があるところが子猿、正確には猿のセリアンビーストの村であることが決まった。今頃はチロルたちの誰かが契約していることだろう。
「ん? お前は俺様の術を見破った召喚師だな!」
「そうだが、なんだよ」
「わざわざ地面を這ってまで見つけやがって! てめぇは虫か! ゴ」
「タクトは虫じゃない! タクトを馬鹿にしないで!」
恐らく黒光りの虫の名前を言おうとしたんだろうが、リリーがシャットアウトした。
「タクト! みんな! この魔王はリリーに倒させて!」
「いいぞ。な?」
「私はいいわよ。こいつなんて倒す価値ないから」
「ボクもいいよ」
「ミスリルの鋼線を使って見たかったでありますが、お譲りするであります」
実は俺も千影が操るミスリルの鋼線を見たかったんだが、こうなったら仕方ないだろう。リリーがお礼を言って、前に出る。
「な、なんだよ…やろうって言うのか? おい! 野郎ども!」
「「「ウキキ~」」」
剣、槍、斧を持った猿のセリアンビーストが現れる。こいつらはこの後のイベントのために倒したら、ダメな猿たちだ。その猿たちにリリーが言う。
「リリーの邪魔をするの?」
「「「ウ、ウキ~…」」」
リリーの怒りの瞳の前に三匹が道を開ける。それを見た混世魔王は慌てる。
「うぉおい!? 何道を開けているんだ! お前たち! 俺様を守れ!」
しかし三匹の猿たちは動かない。なぜならこいつの洗脳の術は現れた瞬間、魔術殺しの魔導書の範囲に入っているからだ。
「言うこと聞け! この」
「逆鱗」
「ヒ!?」
リリーが静かにそういうと逆鱗が発動する。そこまでするか。
「リリーは本当にタクトが絡むと豹変するよね~」
「リリー、武器を使ったらダメよ。大人の女性なら好きな男を侮辱した奴は拳でぶっ飛ばしなさい」
「わかった!」
リリーに変なことを吹き込むなよ。ファリーダ、絶対面白がっているじゃん。
「ま、待て待て! 謝る! 謝るから! おらぁ! 混!」
背にある腕で空間に混の字を書く。
「これで俺様の姿は見えないはず」
「竜技ドラゴンクロー…星拳…集束」
「み、見えて…いないはず?」
完全に見えてます。魔術殺しの魔導書の効果で。
「見えてるよ! タクトを馬鹿にしないで~!!」
「ぐぼら!?」
「まだまだ~! リリーの怒りはこんなものじゃないよ!」
「ぐ、ぐえ~…は!?」
リリー渾身の一撃を腹にくらい、壁に減り込んだ混世魔王をリリーは殴りまくる。リリーが一発殴るだけで混世魔王の住処全体が揺れる。
「丈夫だね~。この建物」
「こいつを封印するために作られたものみたいだから丈夫に作られているのよ」
「それにしてもリリーお姉ちゃん殿は怒らすとこうなるでありますね」
「今回はパパが関わったから特別ですよ。私もパンチでお仕置きするようになりたいです。目指せ、大人の女性!」
ほら!ルーナが変な影響受けたじゃん!どうするだよ!ファリーダ!全員に知れ渡る流れだぞ!
「ふぅ~…終わったよ! タクト!」
「お疲れ様、リリー。ありがとうな」
「えへへ~」
逆鱗の効果が切れたところでリリーの攻撃は終わった。混世魔王は原形を留めていない。下手な悪口を言うのはやめよう。もし言ったら、こいつのようになるかも知れない。
そんなことを考えているとインフォが来る。
『混世魔王が討伐されました。猿仙洞が解放されました』
猿仙洞はたぶんオリジナルの名前だな。名前の由来は西遊記で出てくる水簾洞だろう。孫悟空が見つけた猿たちの住処として登場する場所だ。混世魔王が荒らした場所として知られている。
インフォが来たから次は解体だが…混世魔王だったもの見ないように解体する。
幻煙の玉:レア度6 通常アイテム 品質C
効果:幻術
地面に叩きつけると幻術の煙を発生させる煙玉。相手の攻撃を躱したい時に使用する。
これで残すは洗脳されていた猿のセリアンビーストたちだ。
「あ、あなたたちは…人間?」
「ここはどこですか?」
「僕たちは何をして」
「ここは混世魔王が封じられていた森の遺跡だ。記憶はあるか?」
俺が聞くと三人はこれまでの流れを思い出す。
「そうだ。僕らはここに遊びに来て」
「それから変な声が聞こえて…えーっと」
「お、思い出した! オイラ達、村にあるハヌマーン様の櫝をここに運んだんだ!」
ここに遊びに来た三人たちを混世魔王は洗脳し、この子達の村にあったハヌマーンの櫝をここに運ばせたという話らしい。因みにハヌマーンがメルたちを襲ったのは、混世魔王の封印を解くためのアイテムを櫝に使用したことで敵だと思われたからということだ。
「僕たち…なんてことを…」
「操られてしたことだ。今からハヌマーン様の櫝を持って、みんなに事情を話してしっかり謝ったら、許してくれるさ」
「そ、そうかな?」
「俺たちも一緒に行って、説明をしてやるから勇気を出してみようぜ?」
「わ、わかった!」
これでイベントが進んだ。しかし時間がやばいため、ここまでだな。三人に明日の朝でもいいか確認を取り、無事にログアウトすることになった。
名前 リリー ドラゴニュート・ホープLv23
生命力 203
魔力 220
筋力 402
防御力 150
俊敏性 184
器用値 156
星拳Lv26→Lv28 飛翔Lv41 片手剣Lv48 大剣Lv44 鎚Lv24
危険予知Lv35 超感覚Lv36 竜眼Lv31→Lv32 星読みLv38 物理破壊Lv34
星鎧Lv30 星壁Lv21 星雨Lv19 聖櫃Lv4 星光Lv12 連撃Lv33→Lv34
集束Lv17→Lv18 超再生Lv24 星気Lv43 光魔法Lv27 星波動Lv20
星間雲Lv9 流星Lv7 虹光Lv2 反射Lv8 逆鱗Lv6→Lv7
竜技Lv30 竜魔法Lv11 竜化Lv10 ドラゴンブレスLv16 起死回生Lv5
星竜の加護Lv24




