#699 キルケーの変身薬と木となった騎士
翌日、朝食を食べてからログインする。そう思っていたのだが、ログインした後、部屋から出ると廊下からリリーたちの顔を見つけると引っ込む。
まだ昨日のことを引きずっているみたいだ。このままイベント迎えるのは不味いな…仕方ない。対策を考えるか。
ギルドに向かうとアーレイが輝いていた。借金から解放されると人間こんなにも変わるんだな。俺たちはまず人魚の入江に向かった。
「これは我々が沈没船から集めたものだ。お礼としてなんでも一つ受け取ってくれ」
テティスたちが集めた船の宝を選ばせて貰えることになった。一覧がこちら。
魔導砲
スピアガン
捕鯨砲
ハープーンガン
落馬の魔槍
ダマスカス鋼
ラーンの網
エイギスヒャルム
黄金の甲冑
黄金のインゴット
脱出の指輪
転移の指輪
生還の指輪
守護の指輪
記録の指輪
吸収の指輪
譲渡の指輪
結界破壊の指輪
起爆の指輪
目潰しの指輪
風の指輪
火の指輪
土の指輪
水の指輪
光の指輪
闇の指輪
透明のネックレス
暴風の角笛
恐怖の魔笛
クラテール
いつも通り順番に見ていこう。最初は魔導砲。これは通常の魔導船に装備されている主砲だ。エーテル魔導砲の廉価版だから俺は興味ないが、ゴールデンハインド号には搭載されていないから搭載するならありだろう。
スピアガン、捕鯨砲、ハープーンガンはうちのギルドにある。作ってくれたみんなに報告したい。性能で勝ったよ!
次は指輪シリーズ。属性の指輪のそれぞれ属性の魔法威力アップのみだったからこれはいらない。問題は他の指輪だ。
脱出の指輪は洞窟や遺跡、試練を途中で脱出することが出来るらしい。回数制限は十回と多め。生還の指輪は蘇生する指輪。どの指輪も回数制限は同じで全部十回だな。
守護の指輪はそのまま守護が発生する指輪。記録の指輪はワープポイントを作る指輪。吸収の指輪は相手の魔法攻撃を一定量吸収する指輪。吸収した分魔力を回復するらしいから結構魔法使いには嬉しい指輪からも知れない。
譲渡の指輪はスキルの譲渡が使えるようになる指輪だ。恐らくエントラストとかがない魔法剣士たち用のアイテムだと思う。結界破壊の指輪はゴネス大戦で暗黒騎士が使った指輪だな。
起爆の指輪は投げつけると起爆するらしい。完全に不意打ち用のアイテムだな。目潰しの指輪も同じで投げつけると閃光が発生するみらいだ。透明のネックレスは気配遮断用のアイテム。魔女の隠れ蓑と違って、着る必要がないから便利かも知れない。ただし装備した人しか隠れられない欠点があるけどね。
クラテールは古代ギリシアでワインと水を混ぜるのに使われた大型の甕のこと。わざわざこの入れ物がリストに載るってことは何か意味があるんだろう。
最後に落馬の魔槍、暴風の角笛、恐怖の魔笛は恐らくローランの話で出てくるアストルフォのアイテムかな?アストルフォは結構色んなアイテムを持っていて、これらのアイテムがあったからシャルルマーニュに選ばれるほどの実力者となった。
魔法の攻略法が書かれた魔本もあるはずだが、何故かここには載っていない。おのれ、運営め。出し惜しみしたな。
さて、今回はちゃんと協議をする。
「我々で魔導砲、ラーンの網、エイギスヒャルム、旋風の角笛、恐怖の魔笛を取りましょうか?」
「いいんですか?」
「前回いい思いをしましたから」
チロルたちが欲しがっているのは脱出の指輪だ。遺跡の調査をしているチロルたちにかなり重要なアイテムらしい。ただここでルインさんに連絡をする。これが元々手に入るなら全然問題が変わってくるからだ。
『残念ならがそういうアイテムはウィザードオーブが出したがらないからないわ。できれば全種類欲しいところね。研究されすればこちらで量産できるかもしれないから』
ということでコゼットたちは脱出の指輪、生還の指輪、守護の指輪、吸収の指輪、落馬の魔槍を交換した。チロルが落馬の魔槍で残すは俺でクラテールとなった。
「いいですか? タクトさん? 私がクラテールでも良かったですよ」
「ブリューナクがある俺に落馬の魔槍を持てと?」
全員が苦笑いだ。普通の魔法の槍と神様の槍、比べるまでもないだろう。それにチロルの愛馬はグリフォンだ。持っていて損はしないだろう。
「それにこのクラテールだけ謎アイテムだ。また何かあるんだろう。ワインが飲めない俺でもゲットできるわけだしな」
「ですね。恐らくこの先に進むためのキーアイテムなんじゃないでしょうか?」
『え? じゃあ、私も』
こらこら。ルインさんに怒られるぞ。
「このアイテム自体、太陽のコンパスと違って便利アイテムとなっている。そこまで重要なアイテムじゃないと思うぞ。誰でも使えるみたいだしな」
『なるほど…』
まぁ、どうなるかわからないけどね。一応鑑定する。
クラテール:便利アイテム
ワインを作る際に使用される大型の甕。これで作ったワインは極上の美味しさとなる。貴族の間ではこれで作られたワインは至高の一品と言われている。
その後、俺たちはカジノで待ち合わせする。
「カジノは残るんですね」
「全てが違法カジノをしていたわけじゃないみたいですからね。きっとイベントが始まるギリギリまでする人がいるんじゃないでしょうか?」
懲りないな…しかし俺も負けっぱなしではいられない性格だし、ギャンブルに染まると危ないかも知れない。気を付けることを誓い、俺たちはキルケーのお城に向かうと早速報酬を貰う。
キルケーの変身薬:通常アイテム
効果:二時間の間、プレイヤーを除く存在に変身できる。
魔女キルケーが作ったどんな生き物にも変身できる魔法薬。姿だけでなく、声、スキルまで完全再現するので、見破るのは非常に困難。
キルケーを象徴するようなアイテムだな。プレイヤーを禁止にしたのは、悪用されるからだろう。キルケーはこれを全員にくれた。するとみんなが同じことを考えていたらしい。
『ギルマスに変身出来ないんだ…』
なぜ俺になりたがる。スキルやステータスがおかしいからだそうです。するとキルケーが薬について説明してくれる。
「その薬なら生き物ならなんでも変身出来るわ。ただ神様クラスのものは無理。それとこの薬は一回きりの使いっきりで数時間で効果が切れるから気を付けるようにな」
「あの…この薬を悪魔たちに取られたんですか?」
「えぇ。それだけじゃなく怪物に姿を変える特別な薬まで取られたわ。本当に腹立たしい」
これは何か対策を取らないと非常に不味いことになりそうだ。何せプレイヤーは無理にしてもNPCに変化が可能だということになる。
もし誰かにすり変わられたら、打つ手が無い。やれることといえば疑惑の人を数時間監視するぐらいだろう。面倒なことになったものだ。それに怪物になる薬も問題だ。雑魚がいちいち怪物になられたら、始末が悪すぎる。
「この薬に弱点はないのでしょうか?」
「天敵なら存在した。これだ」
キルケーが取り出したのは一冊の魔導書だった。
魔術殺しの魔導書:レア度8 魔導書 品質A
効果:術破壊、魔法破壊
魔法使いや術使いの天敵の魔導書。いかなる魔法や術を打ち消してしまう魔導書で効果範囲は魔導書から一定範囲内が対象となる。効果対象は多岐に渡り、錬金術で作った薬や魔法薬、魔法アイテムや魔導アイテムなども無力化する。ただし弱点としてこの魔導書の範囲内には自分も対象となるため、自分も魔法などは発動することが出来ない。
あ…テテュスさんの報酬に無かったアストルフォの魔本だ。このゲームでは魔導書なんだな。
「これはどこぞの騎士が持っておった魔導書でな。どんな魔法や術を壊す力を持っている。これでその騎士は妾の奴隷を手当たり次第解放しおってな。これなら妾の魔法薬の効果も打ち消すことも可能だろう」
すると霰が恐る恐る質問する。
「あの…その騎士って、もしかして森で木になんてしました?」
「あぁ。お主らが見た木がその騎士じゃ」
どうやら銀たちはアストルフォを知っているらしい。そういえばアストルフォは魔女に木にされる話があったな。しかし魔法が通用しない相手をどうやって木にしたんだ?
「この本は妾を救ったお主にやろう。木にした騎士も解放したくばこの本を使えば、治るはずじゃ」
『またか!』
「…さっきチロルも伝説の武器を交換しただろう?」
全員がチロルを見る。
「えへ」
笑顔で許されるって女の子はずるいよね。でもアストルフォを解放するならこの本とアストルフォの武器は返すことになるかも知れないな。
俺たちが帰ろうとするとキルケーが聞いてくる。
「お前たちも黄金の島に行くつもりかしら?」
「はい」
「そうか…それならクラテールに入れたワインと馬肉を用意するがいい。あそこはグリフォンたちの聖域。礼を尽くせば、グリフォンたちに襲われることはないが、もし無礼をすればグリフォンたちは容赦なく襲ってくるからな」
どうやらクラテールがキーアイテムの予想はビンゴだったらしい。話からするとグリフォンたちを餌付けしているように見える。これは餌付けの先駆者たる俺への挑戦状だな。
それにしても宝島はグリフォンたちの島なのか。まぁ、グリフォンは宝を守る存在として有名だからな。そして探検家はグリフォンの宝箱を盗んで追いかけられたわけだ。返したら許して貰ったとか書かれていたからグリフォンなら許してくれる気がする。
しかし俺たちの場合はどうなるかわからない。グリフォンの大群に襲われるのは勘弁したいから頑張るとしよう。更にキルケーの情報は続く。
「後、黄金の島の近くにはこの海域を支配している怪物がいるから気を付けるようにな」
海域のボス情報だ。
「その怪物はどんな怪物なんでしょうか?」
「そうだな…見た目の説明は難しいが妾のことをずっと恨み続けている怪物でな。黄金の島で財宝を手に入れて浮かれている奴らを襲っている。お前たちも注意することだ」
キルケーを恨んでいる怪物ということはもうこの海域のボスは判明したな。恐らくスキュラだ。
スキュラはキルケーによって怪物に変えられた元人魚だ。オデュッセウスの話ではカリュブデスとスキュラの棲む2つの大岩がある海域に航路を取り、オデュッセウスはスキュラに襲われる神話が有名だ。
この海域のボスとして登場してもおかしくはない。何せカリュブデスとキルケーが揃っているんだから。まぁ、挑むのは当分先だろうな。何せこの海域のモンスターですらまともに倒せていないからな。
俺たちはその後、銀たちの案内で木にされたアストルフォのところに向かう。
「…この木か?」
「そうだよん」
「これって、普通にホラーだと思うんだけど…」
「私たちは夜にこれを見てホラー感割増でした」
それはそうだろう。いつまでも見ていて気持ちがいいものじゃないし、俺は銀たちに魔術殺しの魔導書を渡す。一応最初に彼を発見したのは銀たちだからな。代表して、銀が使用する。
すると木に魔方陣が現れ、魔方陣が消え去る。そして木が人間の騎士となった。
「ようやく元に戻れた!! 人間の体最高! 愛してる~!」
テンション高いな…流石理性を失っていると言われているだけはあるか。
「君が僕を解放してくれたのかな?」
「えーっと…そうだよん」
「そっか! ありがとう! 結婚しよう!」
なぜそうなるのか意味がわからん。
「えぇ!? それは…えっと…どうしたらいいと思う? みんな」
『ご自由に』
「丸投げ!?」
だって、このことについては個人の自由だろう。
「そうだ! この魔導書はギルマスが持ち主であなたを解放出来たのはギルマスのお陰なんだよん!」
「そうなんだ!」
俺に振るなよ。するとアストルフォがこちらに来る。
「君がギルマス君だね! 結婚しよう!」
「断る」
「そ、即答…あんまりだーーー!」
森の中で叫ぶな。後、俺の名前がギルマスになっている上に堂々と俺をホモにしようとするなよ。
「私の一瞬ドキドキした気持ちをどうしたらいいのかな? 二人共」
「え…えーっと…」
「まぁ、オッケーしなくて良かったんじゃない?」
「君たちは彼女の友達かな? 結婚しよう!」
どれだけ結婚に飢えているんだ。アストルフォ。するとメルが勇気を出して、話しかける。
「えーっと…あなたはアストルフォでいいのかな?」
「そういえば自己紹介がまだだったね。僕の名前はアストルフォ。ライヒ帝国の元騎士だよ」
『元騎士?』
「いやー、ローラン君に追い出されちゃったんだよね」
あのローランを君呼びか…凄いな。アストルフォ。するとアーレイが思わずツッコミをしてしまう。
「何をしたらそうなるんだよ」
「さぁ? 二人で素っ裸で月旅行して、帰ってきたら、顔を真っ赤にして追い出されたんだよね。あの時のローラン君は可愛かったな」
俺たちはローランの黒歴史を知ってしまった。斬られるとしたら、聞いてしまったアーレイだな。一応現実でもこの話は実在している。ただし全裸ではないと思う。
確か敵軍に囚われていたオリヴィエたちをアストルフォが助けているときに地中海を泳いで渡ってきた素っ裸のローランに遭遇するという話だったはずだ。その後、二人は月に向かっているのだが、素っ裸のままとは書かれていない。
運営がきっと面白半分でそういうことにしたんだろう。俺はローランに同情するよ。初めての月旅行がそんな絵面なんてごめんだ。
「え…えーっと…あなたはこの後、どうするのかな? 私たちはフリーティアの人間なんだけど」
「そうなんだ! じゃあ、オリヴィエを知っているかな?」
「あぁ。オリヴィエさんなら今は執事をしているぞ」
「オリヴィエの執事姿! これは見に行かないね!」
ということでフリーティアに行くことが決まってしまった。いいのかな?俺は知らないぞ。するとサバ缶さんたちが一応アストルフォのアイテムについて聞く。
「あぁ! そのアイテムたちは空飛んでいたら落としちゃったんだよね。大したものじゃないし、あげるよ」
落としたんかい!いや、アストルフォはアイテムには恵まれたが魔法の槍など効果を理解しないまま人に与えていたりするんだよな。まぁ、貰えるというなら貰っておこう。
一応魔術殺しの魔導書のことを聞くと木の根で転び、キルケーに取られたらしい。なんというかアストルフォらしいな。いや、結構凄い騎士ではあるんだけどね。
「じゃあ、もうすぐイベントが始まるし、帰ろうか」
「俺はまだこの森に用事があるから先に帰っててくれ」
「いいけど、何かあるの?」
「いや、この森にヘリオスの戦車が落下してな。見つからないかな~と思って」
俺がそう言うと全員で探すことになった。もしヘリオスの戦車が復元可能だとすればぶっ壊れだからな。
「僕も手伝ってあげるよ! おいで! ヒッポグリフ!」
アストルフォが呼ぶと空間が歪み、そこから上半身がグリフォン、下半身が馬の合成獣が出現した。これがアストルフォとローランを月に連れて行ったと言われているアストルフォの愛馬ヒッポグリフ!
たぶん性能から見てもグリフォンの進化先なんだよね。完全なネタバレをくらった。その後、捜索するとあっさり見つかったが原型を留めていなかった。しかしアイテムとして鑑定は出来た。
太陽の戦車の残骸:レア度10 素材 品質F-
太陽神ヘリオスが使っている戦車の残骸。壊れてしまっているため、本来の性能を発揮できない。
残骸が手に入るってことは復元が可能だと思いたい。手分けして、集めて俺たちはギルドに帰った。
メルたちがクロウさんとユグさんたちのところに太陽の戦車の残骸を持ち込む。
『直せるか~!』
と言われたらしい。みんなには頑張ってもらいたい。
俺はユウナさんから食用赤ワインと玉ねぎ、トマトジュース、にんにくを貰う変わりにクラテールをあげる。やはり本職に作ってもらったほうがいいからな。
その後、お肉を担当しているプレイヤーに馬肉について、聞く。
「馬肉はほとんど見たことありませんね。馬自体がレアですぐに逃げられるので、少ないみたいです」
そういえばそうだった。島でホースを出したらいいのか?竜肉を買ってからサバ缶さんに聞くとダメっぽい。しかも馬の明確な生息地は不明らしい。
「ワントワークが出やすいという情報がありますが」
「いや、戦争中ですよね?」
「そうなんですよね」
ダメじゃん!後、いそうなのが桜花か。うーん。
とりあえずホームに帰り、竜肉の赤ワイン煮込みを作る。今回のイベントは始まる前に食事しておいたほうが有利になるイベントだ。食料が現地調達のみだからな。
しかし赤ワイン煮込みという料理は色々な調理法がある。俺が教わったのは生肉を赤ワインに漬け込む方法と生肉を焼いてから赤ワインソースを入れて煮込む方法の二種類。
生肉を漬け込む方法はワインの味がお肉に染み込むため、お肉とワインの一体感が際立つそうだ。ただし一日漬け込んだりするから手間暇がかかる。
もう一つは普通の調理法。こちらは上と比べると断然早いがやはり手間暇がない分、味は少し落ちる。今回は帰ってきた時のために竜肉の漬け込みを作り、一方で普通の料理法をする。
まず漬け込むほうの竜肉は食べやすいサイズに切り、タッパの上に置いたら、食用赤ワインで上からお肉が浸かるまで入れて、上から玉ねぎをすりおろす。これで後は冷蔵庫送り。
次が普通バーション。まずお鍋にオリーブオイルを引いて、ニンニクと玉ねぎを炒める。焦げ目が付いたら、水を入れて10分ほど煮込む。その後、網でニンニクと玉ねぎを取り除いて、トマトジュースと赤ワインを入れて、煮込んでアルコールを飛ばせばひとまずこれでソースは完成。
次に竜肉をフライパンでオリーブオイルを使い炒めて、焼き目を付ける。そこで背後を見るとリリーたちが隠れる。さて、どこまで我慢できるかな?
竜肉にソースをかけて、塩、胡椒で味を整えて煮込むと完成。完成したのがこちら。
竜肉の赤ワイン煮込み:レア度6 料理 品質B
効果:満腹度60%回復、魔力80回復、二時間筋力アップ(極)
竜肉を赤ワインで煮込んだ料理。アルコールが飛んでおり、子供でも食べることが出来る。お肉がトロトロになっており、他では味わえないお肉の味を頼むことができる。
かなり手抜きをしたんだが、凄く旨そうだ。
「いただきまーす! うまっ!?」
お肉がトロトロで柔らかい…味は大人の味だ。しかしそれがいい。さて、リリーたちの取った行動はというと机の下から手だけを出してくる。無視すると手やしっぽで叩いてきた。大変だな。
俺はグレイたちにご飯をあげる。ヒクスの反応が尋常じゃないから好物なのは間違いないらしい。すると空間が歪みヒッポグリフが現れた。
「どこ行った~! ヒッポグリフ!」
アストルフォの叫び声が聞こえてきた。俺が連絡を入れるとアストルフォの他にリーゼとオリヴィエさんが来た。
「君は主より、料理を取ったのか! ヒッポグリフ!」
怒るアストルフォだが、ヒッポグリフは料理に夢中だ。折角来たのだから持て成そう。
『もう無理!』
リリーたちの分まで食べられそうになったところでギブアップ。
「ずるいよ。タクト。はむ! 柔らか~い」
「全くです。私たちの気持ちをもう少し汲んでください! あ、美味しい」
「いや、半分面白がっていただろう?」
『…』
ほら。黙る。遊びに付き合った俺の苦労を汲んでくれ。まぁ、俺も楽しんでいたからどっちもどっちだ。
「でも恥ずかしかったのは本当ですよ?」
「というかタクトだけならないなんて納得いかないんだけど?」
「俺はたぶん呪いを受けてもあまり意味がないと思うぞ? ある程度、慣れちゃったからな」
『じゃあ、呪われて!』
生まれて初めてのお願いをされた。こんなお願いされるなんて中々ないだろう。
「嫌だ」
『やっぱりずるい~!』
はいはい。ずるくて結構。するとリーゼが話す。
「ここの食卓は賑やかじゃのう…トロトロなのじゃ~」
「く…この美味しさ! ヒッポグリフを怒れない!」
「相変わらずすぐに意見を変えますね。アストルフォ」
「僕は僕だからね。それにしてもまさかそんなダンディになっているとは思わなかったよ。オリヴィエ」
ん?どういうことだ?
「それはこっちのセリフです。あなたが行方不明になって、何十年も経過しているというのにまさか若い頃の姿のまま現れるとは思いませんでしたよ」
あぁ…木になっている間にだいぶ時間経過していた感じなのか。一応俺はわかっている範囲で説明する。
「そういうことなんですね…それでアストルフォ。あなたはどうするつもりですか?」
「ん? 取り敢えず年取ったローラン君を見に行ってこようかな?」
「…それはやめてあげなさい。彼の過去の傷を抉る真似は」
「ご馳走様! いこ! ヒッポグリフ!」
行ってしまった。
「やれやれ…相変わらずですね」
「爺は彼を知っておるのか?」
「えぇ…彼には命を救っていただいた恩があります。恐らくローランからデュランダルの一撃を受けて逃げ帰って来ると思いますから、よろしければうちで暫く泊まらせてよろしいでしょうか? リーゼお嬢様」
「爺の友人なら妾は一向に構わぬぞ」
これでたぶんアストルフォがフリーティアに暫くいることになったのかな?ただ不安がないわけでもない。
「ありがとうございます。リーゼお嬢様の身の安全は私が保証しなければ」
リーゼにも手を出すんだな。アストルフォ。さて、全員の満腹度の回復したし、リリーたちの様子も元通りだ。今回のイベントは久々にリリーたちとのみのイベント。楽しむとしよう。




