#697 カジノのトリックと生産ギルド海軍司令官
翌日、学校で海斗の奴は真っ白になっていた。これが返せない借金を背負ってしまった男の末路か…怖い怖い。
朝は燃え尽きていた海斗だが、昼になると元気になり、文句を言い出す。
「なんだよ! 二十億って! そもそも俺はもっとカジノで稼いでいたはずなんだ! それが無くなって、借金だけ残るとか意味わかんねーよ!」
「そうなのか?」
「あぁ。間違いない! それがなんでこんなことに…」
キルケーが請求書を寄越してきたんだから、キルケーの仕業と考えるのが妥当だが、キルケーにお金の話なんてあったかな?いや、神話には物々交換は出てくるがお金という概念は基本的に存在しないはずだ。
なら海斗たちの借金の原因は別にあるということになる。怪しいのはやはりカジノだな。
「あのカジノを調べるなら俺がして」
「ネズミの姿でか?」
海斗が机に沈む。すると委員長が来る。
「朝見たけど、私たちは姿は直って無かったから、参加出来そうにないよ」
「羊と豹じゃ、無理だよな」
「「…見てたの?」」
「ばっちり」
どうやら二人は人混みで見えていないと思ってたみたいだが、人混みの中でも知り合いというのは分かってしまうものだ。
委員長は顔を真っ赤にして逃げだし、副委員長は俺の記憶の抹消を狙ってきた。
「なんだよ。似合ってたぞ? にゃあ」
「この! 言ったらいけないことを言ったわね! 誠吾!」
しかしここでチャイムがなり、試合終了。計算通りだ。
「恐れを知らないな…お前」
「それでもないさ。副委員長はしつこそうだからなぁ」
「あぁ~…なんかわかるわ」
俺はあっさり捕まり、怒られた。こういうのは長引かせても得はないからな。
学校が終わり、スーパーで買い物をする。明日からイベントだからな。その前にキルケーと決着を付けないとギルドメンバーのほとんどがまともにイベント出来ないことになる。
ひいては次のイベントで大打撃を喰らうことになるからかなり事態は切迫していると言える。ログインすると俺はギルドに向かう。そこでサバ缶さんから状況の報告を受ける。
「まず獣魔ギルドと生産ギルドが動くことになりました。獣魔ギルドが島で奴隷たちの解放、生産ギルドが逃げ出す船の捕獲に当たります。私たちにもクエストが発生しました」
それぞれ確認する。
特殊イベント『ベガス島の真実』:難易度C
報酬:結果により、変動
NPC参加:可能
ベガス島の真実を暴き、奴隷たちを解決せよ。
特殊イベント『ベガス島の取締』:難易度D
報酬:結果により、変動
NPC参加:可能
ベガス島の奴隷商人、違法商売人を逮捕せよ。
両方キルケーと戦えとは書かれてないな。
「見ての通り生産ギルドのクエストでは相手を捕獲するクエストです。そのため、スクナビコナを貸してほしいとシャローさんたちから依頼がありました」
「わかりました。それで俺たちの戦力はどのくらいいますか?」
「偶然その時、ベガス島にいなかった人たちだけです。かなり少ないと言っていいでしょう。タクトさんが仲がいいのだとアイテムの効果で呪われ無かったミライさんと偶然用事でログインしてなかったチロルさんとアロマさん、アルさんぐらいでしょうか」
きっつ…難易度から見てキルケーと本気の戦闘になるとは思えないが…テーテュース様が言っていた娘の話が恐らくキルケーのことだから、戦闘は免れないかな。
「後、キルケーの動物変化に法則を発見しました。ただ話していいものか悩んでますので、内密にお願いします」
「やっぱり法則があるんですね。借金が多い人は黒いネズミですよね?」
「はい。具体的には五億以上の借金でなっていますね。恐らくことわざの『頭の黒い鼠』から来ていると思います」
聞いたことがないことわざだ。サバ缶さんに教えて貰うと物を盗む人のことらしい。
他にも胸が大きい人が牛、小さい人が鳥になったり、食欲が強い人が豚、大人しい人が羊、スタイルが兎などだ。運営にはうちのギルドメンバーから抗議文が行っているんじゃないだろうか?
この中で俺が気になったのが鼠だ。
「黒い鼠についてですが、その意味だとみんながお金を盗んだってことですか?」
「我々も気になって、どうしてあの金額になったのか調べているんですが…法則は見えないんですよね」
「勝っていたお金を失い、請求書だけ残ったんですよね?」
「はい。しかし話を聞いてもなぜその金額になったのか、わからないんですよね」
俺はアーレイを呼んで許可を貰って、状況を一から教えてもらった。
「何かわかったかチュウ?」
「確かに計算が合わないな。使った金でもないし…儲けた金でもない」
だが、何か分かりそうな気がする。
「…アーレイ、ベガス島のカジノをここで再現してくれないか?」
「ん? いいぞチュウ。とりあえず俺がしていたルーレットでいいかチュウ?」
また非効率的な物を選んだな。
「まずお金をチップに変えるだろうチュウ? その後、台に行って、自分が賭けるところにチップを置くチュウ。勝ったら、チップを貰えるって感じだチュウ」
「…普通のルーレットですね」
「…はい。ただ怪しいところはあります。アーレイ、チップはどんなのだった?」
「え? そりゃあ、金だよチュウ! 金チュウ! ゴールデンチュウ!」
わざわざ英語で言わなくていい。なんか金のキスのように聞こえて気持ち悪い。
俺はサバ缶さんも視線を合わせると頷き合う。どうやら意見が一致したみたいだ。
「どうしたんだチュウ?」
「アーレイ…勝った時のチップはお店から出されるよな?」
「当然だろうチュウ」
そうだな。それは普通だが、見方によってはお店から金を奪っていると言える。
「カジノのチップで使わている金貨がキルケーが所有している金で作られたものなら、キルケーが金のチップの元値のお金を請求してもおかしくはないですね」
「ちょ、ちょっと待てよチュウ! なんだよ、その話チュウ! そもそも俺たちの手元にチップなんて残ってないんだぞチュウ!」
「そのチップはなんで手元に無いんだ?」
「そんなのカジノで襲われたからに決まって…あチュウ」
ギャンブル台の上に置きっぱなしにしたわけだ。それは致命的なミスだな。カジノやチップは換金して初めて自分のお金になるんだ。台の上に置きっぱなしなんて、誰でもどうぞ使ってくださいと言っているようなものだ。
もちろん現実ならそんなことしたら、窃盗となるがこの世界には俺が知る限りでは監視カメラとかはない。誰のもので誰が盗んだかはっきりわかるのは、このゲームでは運営ぐらいものだろう。
そして当然NPCが起こした事件に運営が関わるはずがない。こうしてみんなに残ったのは金のチップの元値と自分たちが換金したチップの元値の値段の請求書となったわけだ。
「な…なんじゃそりゃあああ~チュウ!」
まぁ、そうなるよな。めちゃくちゃだ。
「いやいやチュウ! 俺たちはチップを一Gで交換しているんだぞチュウ? 金額が変だチュウ」
「それはカジノ側が金のチップを一G一枚で交換したってだけだろ?」
「ど、どういうことだチュウ?」
「カジノサイドはわざと金のチップを一G一枚という超安値で交換したんですよ。後々、金のチップの元値の値段を請求出来、かつ金のチップが自分たちの所に残るのならば恐ろしい儲けとなります」
固まるネズミのアーレイ。この顔は分かっていないな。仕方無い…物語形式で説明しよう。
「いいか? わかりやすく順番通りに説明するぞ? まずアーレイ君はカジノで一G一枚で金のチップに変えます。このチップは恐らくキルケーが所有している金で作られたもので仮に100Gの値段とするぞ」
「滅茶苦茶得じゃんチュウ」
うん。このシステムならチップに変えるだけでボロ儲け出来るシステムだからな。
「しかしアーレイ君はこのチップを使ってギャンブルをしてしまいます。そして奇跡的な連続勝利でチップの数を100万枚まで増やします」
「そうそうまさにそんな感じだチュウ」
「しかしアーレイはこのチップを換金し忘れて、外に出てしまいます。帰ってきてもチップはもうありません」
「何故換金しなかったんだチュウ!」
そうなるよな。まぁ、動物に変えられた挙句、銃で撃たれたからなんだけどな。もしここでお金に変えていたら、金はキルケーに返すことになるからお金は請求されることは無かったのかも知れない。話を続けよう。
「カジノはアーレイ君が残したチップを全て没収し、そのことを隠してキルケーにアーレイ君がキルケーの金のチップを100万枚持って、外に逃げ出したと報告します」
「異議有りチュウ!」
「報告を聞いたキルケーは100万枚の金のチップの元値一億Gをアーレイ君に請求しました。めでたし、めでたし」
「全然めでたしじゃねーチュウ!」
大筋の流れはこんなところだろう。俺がサバ缶さんを見ると拍手してくれていた。そこでアーレイも気がついた。
「なぁ? これってキルケーが悪者になるのかチュウ? 悪いのは全部カジノだと思うんだがチュウ?」
「その通りだ。しかも仮にも神様の血筋であるキルケーがこんなイカサマに踊らされるとは到底思えない」
「同感です。こうなると今回の敵はキルケーすら騙せるほどの敵だと想定するべきですね。怪しいのは銀たちが話していたカジノをまとめているオーナーですね」
「キルケーと一緒にいたペルセウスというのも怪しいですね。もし本当にペルセウスだとしたら、こんなことになるはずがないと思いますし、そもそもペルセウスとキルケーには接点がありません」
ペルセウスはゼウスの直系である大英雄だ。こんなことをするはずがないし、騙されることも有り得ないと思う。これがオデュッセウスやイアーソーンなら納得がいったんだけどな。
「それは霰も同意みたいです。ペルセウスに空間を繋げる能力はないし、武器がランスというのも変。そもそも本物なら瞬殺されていたはずと連絡が来ました」
敵は最低でもこの二人とブラッティウォーズ。キルケーとの戦闘も避けられないという認識で一致した。俺たちは作戦会議でカジノの謎を話としていると生産ギルドから今回の作戦の指揮者が俺たちのギルドに来た。
「私は生産ギルドで艦隊の指揮官をしているペリーだ。あなたたちの海での戦闘のことは聞いている。今日はよろしく頼む」
日本を開国させたアメリカ海軍の代将だ。もしかしたらお兄さんかも知れないが謎。ペリーは日本の歴史では黒船と開国のイメージがあるが実は東インド艦隊司令長官となっており、蒸気船海軍の父と言われている凄い人だったりする。
そんな人が海戦のスペシャリストが参加してくれるとは、生産ギルドの本気度がわかるな。
「よろしくお願いします。すみません…我々の都合で振り回してしまって」
「奴隷商売の取り締まりは我々の仕事ですから問題ありませんよ。それに話があったカジノも我々は把握していないことから違法営業の疑惑が発生しています。こちらにも旨味がある話なので、お互い立場は同じで挑むとしましょう」
「わかりました。それでは作戦会議をしましょう。どうぞ、こちらへ」
「失礼します」
俺たちはギルドの部屋で作戦を決めていると、艦隊を送るためには人魚の入江がある島がかなり重要であることがわかり、俺は人魚の入江がある島に向かうと捕まっているマーメイドたちを写真を見せてテテュスさんに確認してもらう。
「間違いない…我々の仲間だ」
「今夜この島に攻め込んで彼女たちを解放する予定です。それで限定的でいいですからこの島を船の港として使わせてくれませんか?」
「…それには条件がある。その戦いには我々も参加させて欲しい」
「わかりました」
これでマーメイドたちも作戦参加が決まり、帰った後、作戦を決めてログアウトした。




