#695 人魚姫の婚約破棄と最強の金属
突如現れた女神テーテュースは俺を見る。
「あなたとは一度、宝瓶宮で会いましたね?」
「はい。お久しぶりです。テーテュース様」
「ふふ。活躍は拝見させていただきましたよ。リアンもよく頑張りましたね」
「きょ、恐縮です!」
リアンはガチガチだ。まぁ、これはみんなが大体同じような感じなんだけどね。
「私がここに来たのはカリュブディスとロデについてです」
「え? 私も?」
「あなたもです。まずはカリュブディスについてですが、この子が受けた罰は金の子牛の破滅の効果で壊され、別の天罰を受けたようです。それがお腹が一杯になる天罰みたいですね」
金の子牛に書かれていた説明ってそういうことだったのか。ゼウスの天罰を破滅…つまり滅ぼすことでカリュブディスは元に戻り、代わりに最も重い罰、お腹が一杯になる罰を与えたってことか。紛らわしい説明を書くのはやめてくれよ。
「これならポセイドンもあなたを拒否することはないでしょう。私が仲を取り持ちますので、安心してくださいね」
「…ありがとうございます」
そういう流れになるんだ。悪いことなど何も起こらない流れだな。ありがとう…金の子牛。君の犠牲は忘れない。
「ふふ。さて、次はロデ。あなたです」
「もしかして…帰らないとダメですか?」
そういう感じだよな。
「ここにいることは問題ありません。ただこのまま両親の元に帰らず、ずっとヘリオスから逃げ続けるつもりですか?」
「そ…それは…」
「あなたの思いは既に聞いています。まずはそれをポセイドンたちとヘリオスに言ってあげなさい。私が付き添ってあげますから」
「…わかりました。テーテュース様がそこまでしてくださるなら言ってみます」
おぉ~…なんか解決しそうだ。良かった良かった。
「では、今からアトランティスに向かうとしましょう。あなたも来てください。ポセイドンにしっかりお礼をさせないといけませんので」
ふ…今度は俺がドナドナされるわけか。するとチロルが勇気を出して聞く。
「あの~…私たちはどうすれば?」
「流石に全員をアトランティスに連れいくことは出来ません。彼の場合は一度行っているので、問題はありませんが神の領域に入るには自力かその領域の神の許可が必要なのですよ。皆さんの分の報酬もしっかり支払わせますので、我慢してくれますか?」
『そういうことなら大丈夫です!』
報酬が貰えるなら問題ないみんなだ。ということで俺たちはアトランティスに転移すると目の前にいきなりポセイドンが現れる。まさかの神殿に直接転移した。
「な…!? テーテュース!? それにロデ! そうか! ロデを連れてきてくれ」
近寄ってきたポセイドンにテーテュース様の大杖のフルスイングが決まり、ぶっ飛ばれた。杖ってそう使うの?俺も余り人のこと言えないけどさ。
「ぐ…何をする! テーテュース!」
ポセイドンが槍を取り出す。あれがポセイドンが誇る最強の槍トリアイナか。
「今日はあなたとアムピトリーテーを叱りに来ました。さっさと出てきなさい! アムピトリーテー!」
「は、はい!」
アムピトリーテーが出てくる。ポセイドンに見せていた姿がまるでないな。
「まずはポセイドン。この子を覚えていますか?」
「む? お、お主はまさかカリュブディスか!?」
「…うん。ただいまお父様」
「…」
娘の言葉にポセイドンの顔がばつが悪そうな顔をする。事情は聞いているからそういう顔になるのもわかる。
「さて、ポセイドン。あなたは怪物となり、手に負えなくなった彼女を自分の海域とは違う所に追放しました。しかしここにいる彼とその仲間たちは怪物となった彼女を解放し、あなたが危惧している大食いをやめさせました。これをどう思いますか?」
「な…何? そんな馬鹿なことがあるはずが」
「嘘だと思うならその目で確認して見なさい」
ポセイドンが確認すると絶句する。
「そんな…馬鹿な…」
「これでこの子は普通の子となりました。あなたは再び娘としてこの子を受け入れますか? カリュブディスはそれを望んでいますよ?」
「ほ、本当なのか? それならば私もカリュブディスを娘として育てることを誓うぞ!」
「その誓い。確かに聞き届けました。その誓いが破られたときは覚悟するように。それからあなたには彼と彼の仲間たちにオリハルコンを報酬に渡すことを命じます。自分の娘を救ってくれたのですから文句はありませんね?」
流石のポセイドンも文句は無かった。自分が出来なかったことを俺たちはしたんだ。これで貰えなかったら、何でオリハルコンを貰えるのか分からなくなる。
オリハルコンが手に入ることが確定したがまだロデの話がある。
「さて、次はロデの話です。アムピトリーテー…あなたはポセイドンから逃げ出した時のことを覚えていますか?」
「も、もちろんです!」
「では何故この子の気持ちに気づいてあげられなかったのですか?」
「え?」
ロデがしっかりポセイドンとアムピトリーテーに自分の気持ちを話した。
「そうだったの…ごめんなさいね。ロデ。あなたの気持ちに気づいてあげれなくて」
「わしもすまなかった。お前の気持ちをしっかり聞いてからヘリオスと話をするべきだったな」
「ううん。分かってくれてありがとう。お父様、お母様」
いい話だな。するとテーテュース様が反応する。
「本人の登場のようですよ」
周囲が太陽のように輝くと一人の男が馬に引かせた戦車で登場した。あれがヘリオス。イケメンだが、なんか生理的に受け付けない奴だ。
「ロデよ! やっと会えたね! さぁ、美しいこの私と一つになろう!」
やっぱり無理!自分を美しいとかいうナルシストは俺はダメだ!気持ち悪くて鳥肌が!するとポセイドンが話す。
「ヘリオスよ。婚約の話、一度白紙に戻させてくれぬか?」
「は? 何言っている? ポセイドン。そんなこと出来るはずがないだろう? 私がロデとの結婚をどれだけ待ったと思っているのだ? そもそもロデが石から戻れば結婚するという約束だったはずだ!」
「だからそれを無理を言ってお願いしておるのだ。もちろん結婚はしないと言っているわけではない。お互いに愛を育んでから結婚するように言っておるのだ」
「愛を育む? その必要はない。私は最も美しい男性神だ。私との結婚こそが至上の愛! 問題あるまい?」
いいのか?そんなことを言って、他の神様とか怒るんじゃないか?アポロンとか絶対怒りそう。後、これずっと聞かないとダメかな?オリハルコン貰って帰ったら、ダメ?耳が腐りそうなんですけど。するとテーテュース様が話す。
「問題ありますね。あなたがそう思っていてもロゼがそう思っていなければ意味がありません」
「テーテュース!?」
流石のヘリオスもテーテュースの登場に驚くが反論する。
「古い神が私たちの婚約に口出しするか」
「はい。私も出張るつもりはありませんでしたが、一人のマーメイドが不幸になるのは見逃せません。この話はハイペリオンとテイアーに話させて貰います。今日は帰りなさい。ヘリオス」
「く…話したところで結果は変わら」
テーテュース様が大杖を地面に突くとヘリオスが消えた。ナイス!テーテュース様、最高!
「話は聞いての通りです。私はこれからこの話を白紙にさせます。その後のことは頼みましたよ? ポセイドン、アムピトリーテー」
「「ありがとうございます」」
その後、俺はポセイドンから人数分のオリハルコンを貰った。鑑定するとこちら。
オリハルコン:レア度10 素材 品質S+
海底都市アトランティスで作られた幻の神の金属。金属の最高峰であり、オリハルコンで作られた武器は神と戦えるほどの性能を有している。ただし、この金属を扱うためにはそれに相応しい資格と装備を得らなければならない。
俺はこれを持って、いよいよ帰還だ。するとロデとカリュブディスが来る。
「私の婚約はどうなるかわからないけど、色々ありがとね」
「はい。幸せになれることを祈っています。カリュブディスも幸せにな」
「…うん。ありがとう」
こうしてロデとカリュブディスのクエストは終わった。最後にテーテュース様に人魚の入江がある島に送って貰う。すると別れ際に気になることを言われる。
「眷属が迷惑をかけてしまいましたね。迷惑ついでなのですが、実はもう一人問題がある娘がいるんです。出来ればあの娘たちと同じように救ってあげてください。根はいい娘ですからきっといいことがあると思いますよ」
「それって、どういう意味」
詳しく聞く前に転移されていなくなった。何かフラグを言われたが取り敢えず俺はみんなにオリハルコンを配る。
その後、早速クロウさんたちのところでオリハルコンを持ち込むわけだが、オリハルコンを受け取った瞬間にクエストが発生したらしい。
「…おい。難易度がSSSSSで参加条件が究極の鍛冶師とかになっているクエストが複数発生したんだが?」
どうやら鍛冶師にとっての最高難度のクエストを発生させたらしい。オリハルコンならそうなるだろうな。
『頑張ってください!』
『出来るか!』
追い返された。一途の望みを掛けてへーパイストスに渡したが現状では作れないらしい。どうやらへーパイストスが武器を作るためには専用の装備や設備が必要みたいだ。当然のようにクエストが発生した。それがこちら。
特殊クエスト『へーパイストス溶解炉を作製せよ』:難易度S
アドラヌスの火焔石を100個集めて、溶解炉を作製せよ。
特殊クエスト『へーパイストスハンマーを作製せよ』:難易度SSS
オピーオーンの牙とアドラヌスの火焔石から鍛冶用のハンマーを作製せよ。
アドラヌスはローマ神話の火の神様。オピーオーンはギリシャ神話の神様でオリュンポスの原初の支配者とされている。一節によると蛇神らしいがそんな奴の牙を手に入れるというのはかなりの無茶ぶりな気がする。
居そうなのがうみへび座の試練とアトランティス周辺の海。無理だね!しかしこれで済むから大したものだ。今言えることはオリハルコンの武器が作れるようになるのは随分先ってことだな。
「とう!」
「甘いぞ」
「うぐ…無念」
オリハルコンを食べようとしたユウェルを躱す。いつものやり取りをして、ログアウトした。




