#651 サルワ作戦会議
翌日、朝食を食べて、ログインした俺は起きると動けない。ベッドの中ではリリーたちが俺の体を拘束してぐっすり状態だからだ。
昨日ライヒのお城の一室を提供されたわけだが、キングサイズのベッドが一つだったのだ。結果リリーたちは大喜びで一緒に寝ることになり、今に至る。
リリーたちを起こして、朝食は自分たちで用意したものを食べる。リリーたちはライヒの食事があまり好きではないからだ。
するとカレーの匂いと美味しそうに食べるリリーたちのように城の人たちが興味を示し、提供することになった。
「う、美味い!」
「それぞれ味が違っていて、面白いな」
「それも重要だが、何よりこの効果だろう。我々も料理のことを研究したほうがいいのかも知れないな」
概ね好評だ。もしこれでカレーが普及したら、ライヒ産のレトルトカレーとか出てきそうだな。
その後、俺は約束の時間の少し前にサバ缶さんとライヒの作戦本部に顔を出すとそこには各国の最強戦力たちが大集合していた。一応ゴネスの関係者として、ジャンヌたちも参加している。
ジャンヌたちの中には俺が知らない人がいる。一人はベルトランさんと同じくらいのダンディなおじさん。恐らくライヒにいると言っていたジャン・ド・メス。もう一人は子供だ。この子はもしかして…・。
俺たちはシルフィ姫様とサラ姫様の隣に座る。他の国のプレイヤーたちも続々集まり、作戦会議に参加するメンバーが集まった。
「全員揃ったな。少し早いが魔王サルワの作戦会議を始める」
最初に自己紹介をすることになった。俺が知らないのはライヒのメンバーだ。作戦会議の進行役をしてくるのがローラン。シャルルマーニュの聖騎士の筆頭だ。背中の長剣が聖剣デュランダルなんだろう。
聖剣デュランダルはトロイヤ戦争の英雄ヘクトールが使っていた剣としても有名で瀕死の状態となったローランが聖剣デュランダルを敵に渡さないために岩に叩きつけたら、岩を両断して折れなかった話があるほど切れ味と丈夫さを誇る剣だ。
更に軍師として司馬懿さん、更にライヒの禁呪使いオッペンハイマーさんが紹介された。
オッペンハイマーさんは間違いなくロバート・オッペンハイマーのことだろう。原爆の父と呼ばれている人だ。どんな禁呪を使うか予想出来るな。でも原爆ではない気がする。今までの禁呪と比べてたら、原爆が可愛く見えるからな。恐らくハイパーノヴァのような爆発系の禁呪だろう。
そして最後にジャンヌたちの自己紹介がされ、子供の名前が判明する。
「ぼ、僕の名前はシャルル。一応ゴネスの法王の血縁者…です」
やはりか…ジャンヌ・ダルクの話は元々、王太子シャルルを助けてフランス領を奪還せよという神様の声から始まる。緊張しているのは子供なら仕方無いだろう。
ジャン・ド・メスの話では現在のゴネス法王は自分の命が危ないことを悟り、妊娠した妻を軍事国家であるライヒに送ったそうだ。ジャン・ド・メスはその話をゴネス法王から聞き、ライヒに向かうとシャルルの護衛をしていたらしい。
自己紹介が終わり、ローランさんがサルワについて分かっていることを説明してくれる。
「まず魔王サルワは海上に現れ、港町を破壊。その後、上陸するとこのような進路を取り、現在はここにいる」
幻術で必死にだましだまし、侵攻を防いでいることがわかるな。
「次に能力についてだが恐らく破壊の力を持っていると思われる」
破壊の力…ヘリヤと同じ能力だろうな。あれが敵に回るとなると嫌になる。
「その根拠はなんですか?」
するとオッペンハイマーさんが説明してくれる。
「こちらの大砲や銃弾、魔法などの攻撃はサルワに当たる前に壊されているからです。有効な攻撃で確認出来たのは地面に仕込んだ爆弾と必殺技級の攻撃のみ。魔法系では上級以上の魔法と幻術は有効であることが判明しています。なお武器や防具は耐久値80以上なら耐えることが出来ます」
この結果、最初の段階で武器や防具を失ったプレイヤーが続出したそうだ。俺の武器で魔法剣が一度の攻撃でギリギリ持ちこたえるレベル。二回攻撃すると壊れてしまう。滅茶苦茶だ。
その結果アダマンタイトの武器を持っている人たちも現在武器の修復を受けている。何せ斬りかかっただけで耐久値を80減らされるのだ。溜まったものじゃない。
「つまりサルワへの攻撃は爆弾か必殺技級の遠距離攻撃に限定されていると言っていい。そこでワントワークの軍師たちから作戦が掲示された。地図を見てくれ」
俺たちはローランさんに言われ、地図を見る。
「サルワの進行上の横にそれた場所に渓谷があり、抜けた先に大きな山がある。この山に必殺技級の技を使える者たちが段に並び、サルワへの同時攻撃で仕留めるというものだ」
すると今度は司馬懿さんが話す。
「これなら敵を一撃で倒すだけの火力があるだろう。山は我々の技で敵から認識出来ないようにすることは出来る。問題はサルワをここに誘導しないといけないということだ。一応話しておくが幻術での誘導は出来ない。幻術だと気付き、暴れ出した攻撃が山に当たれば、元も子もないからな」
次は周瑜さんが話す。
「分かっている。これが可能な者はサルワ自身が興味を持ち、サルワの攻撃を回避し続け、且つ攻撃をなるべく空に向けることが出来る空の機動力が無ければならない。それが可能なのはこの場に一人いる」
周瑜さんに言われ、俺が話す。
「俺はアジ・ダハーカ、タルウィ、アカ・マナフの討伐に関わり、ペガサスとエンゲージバーストがあります。条件としては十分でしょう」
「昨日の船は使えないのか?」
「エクスマキナの船は魔神を討伐する能力があります。確実を期すためには使えません。それについてはサルワの会議の後にご説明します」
「サルワの撃破にも確実を期すべきだと考えるが?」
そうなるだろうな。攻め込まれて、実害が出ているならその発言にも理解出来る。しかし破壊の力がある敵にバトルシップを当たらせるわけにはいかない。
「おっしゃることは理解出来ます。しかしバトルシップはご覧の通り巨大で誘導には向いていません。その点、俺が誘導する場合は失敗しても俺と同じ条件を持つ召喚師がフリーティアには多くいます。もし俺が倒されても彼らが後を次ぐならば確実とは言えませんが保険としては十分だと考えますがどうでしょうか?」
この話をした時にみんな驚き、反対されたが、残念ながら俺とずっと行動を共にしたのが運のツキだ。ここまで魔王討伐に関わってきたんだ。ここら辺で貧乏くじを引かないとバチが当たる。
「そこまで考えているならこの任務はあなたたちに任せましょう。こちらに適任者がいないのは事実ですから」
ここで自分では出来ないことを認めて、引いてくるか。
「話は纏まったな? 続けるぞ。誘導が必要になるのは大きく四箇所。第一ポイントが渓谷を進ませるこのポイント。第二、第三は分かれ道があるこのポイント。そして最後は山のほうに近づかせるこのポイントだ」
「このままでは誘導役が最後に死んでしまうので、私からエリクサーラピスに何か案がないか訪ねました」
「わしが作ったこれを使えば万事解決じゃ!」
アインシュタインが取り出したのは等身大の身代わり人形カイン君だ。
「これって、ダメージ無効とかじゃなかったですか?」
「あの時の身代わり人形カイン君ではない。これはお主の闇のドラゴニュートを元に開発した身代わり人形カイン君改じゃ!」
「どうしてデザインを変更しないのかな?」
「わしの趣味じゃよ」
ならしょうがない。
このアイテムは使用者を登録しておくと、登録者が死亡する攻撃が放たれると身代わりとなり、位置を入れ代える効果まであるそうだ。つまりまんまノワのチビノワ、身代わりコンボと同じ能力だった。
欠点は身代わりカインさん人形から一定の範囲内にいないと発動しないということ。登録しておいて、ホームに置いておけばデスペナから解放されるとはならないようだ。まぁ、ここの運営がそんなこと許可しないだろう。
つまり俺たちが助かるためにはこの範囲内に入らないといけない。具体的な範囲を教えて貰うと第四ポイント圏内。完全に狙ったような範囲だ。
俺たちはこの後も作戦を細かく決め、更にその後のアンラ・マンユとの作戦を決めて、ウィザードオーブについて話す。
「そのような兵器の存在を黙っていたことは褒められたことではないぞ? エクスマキナの船などは国際法では古代遺産扱いだから罪ではないがな」
「そうなんですね。ただ俺がそれだけの力を持っていると知ったら、皆さんはどうしますか? いつその兵器が向けられるかも知れない状態を黙って見ているだけですか?」
全員が黙る。そんなことは絶対にしないだろう。俺に近づきその兵器の力を研究するなり、戦争に手を貸すように要求してくる可能性がある。
「俺はこの力を緊急事態を除き、使うつもりはありません。国の戦争でも使うつもりはないとはっきりこの場で言わせて貰います」
「それはフリーティアが戦争になってもか?」
「はい。これについては先程おっしゃられた国際法でエクスマキナの船の取り扱いを決めるのがいいと思います」
契約を破った時のための罰則も書かれれば他の国は安心するだろう。
「まぁ、その辺りがまず出来ることでしょうね。それでこの場にいないウィザードオーブについてですがどうしますか?」
「それもこの一件が終わった後でいいだろう。秘密裏に製造された大規模兵器は重大な国際法違反だ。しかもそれを一国の姫に向けたとあっては弁解の余地はない」
「恐らく認めないと思いますが?」
「この作戦の参加を蹴ったことは言い逃れできまい? 魔王の被害を受けたのはこの場にいる全員がそうだ。自分たちだけ参加しないということはただの逃げだ。逃げた代償はしっかり償って貰わなければな」
これには全員が頷く。まだあの兵器でサルワを倒していればこんなことにはならなかったのな。
その後はやはりエクスマキナの武装の話になる。これはこの場にいる国同士で情報を共有することになった。対魔王にかなり有効であることが今回判明したからこのイベント後は国同士の兵器開発が加速することになる。
ログアウトを挟んだ長い作戦会議が終わり、ようやく解放され、俺はアラジンとジンのお見舞いにいくと全身包帯姿で意識がない二人の姿があった。
話によると彼らはアンラ・マンユの魔力球の直撃を受け、大爆発にあったらしい。俺はフルーツの盛り合わせを置き、二人に言う。
「ありがとな。お前らがやられた分はしっかりやり返すからな」
部屋に帰った俺はベッドで伸びる。
「タクト、お疲れだね」
「大丈夫ですか? タクトさん」
「いや、流石に疲れた…」
完全に気疲れだ。こういう会議はあまりしたくないとしみじみ思う。
「じゃあ、リリーがタクトの疲れを治してあげる!」
こんなことを言い出すのは初めてだな。どんなことをされるんだ?
「何をするつもりですか?」
「え? ……」
『考えてなかったんだな(ですね)…』
全員からの総ツッコミだ。なんか体の力が抜ける。するとノワがベッドに飛び込んで来た。
「にぃがだらけモードになった…ノワも伸びる」
「リリーも!」
「あたしもです!」
「わたしも伸びるぞ!」
なぜか全員でベッドで伸びることになった。凄い変な光景だが、英気を十分に養えたと思う。休息の重要性を再認識した一時だった。




