#650 エイルの治療とスルーズの目覚め
その後、俺たちは戦後処理。操られていた円卓のメンバーはひとまず牢屋送り。どうするかはアーサー王が決めることとなった。個人的にはランスロットとモルドレッドは許して上げて欲しいな。この二人は完全に操られていた感じだった。
そもそもモルドレッドは今では裏切り者扱いされているが初期の話では勇猛で栄誉ある騎士と書かれていた。それがいつの間にかアーサー王が留守にしている時に邪心が芽生えて反乱を起こすことに物語が変化したんだ。この邪心がアカ・マナフのことなら許してあげて欲しいと思ってしまうわけだ。
俺はエンゲージバーストの代償で寝込んでいるとエイルさんが薬を作ってくれて、普通に動けるようになる。
「エンゲージバーストというものは使えないと思いますがどうでしょうか?」
「みたいですね。でも普通に動けるだけでもありがたいです」
「いえいえ。スクルドもタクトさんを見習って薬を飲む時はまずいとか言ってはいけませんよ」
「なんで私だけに言うんだ! それに兄ちゃんはなんで薬を飲んでも平気な顔をしているんだ!」
もっとまずい薬を飲んできたからだよ。セチアが無言の笑顔を見せているから言えない。因みにこの薬のレシピは教えて貰えなかった。無念。
俺たちはパラディンロードのお城でサバ缶さんとルインさんに勝利報告をする。
『ギルマスが魔王化してパラディンロードの騎士たちを半壊させた!』
確かにセフォネが俺に先を越されたのじゃ!とか言ってたけどさ。半壊させたのはバトルシップで俺は追い打ちをかけただけ…考えてみると酷いな。でもみんなも追い打ちをかけていたから酷さでは同じだと思う。
因みに俺たちは経験値は少なかったみたいだが、メルたちや元々パラディンロードにいたプレイヤーたちはかなり経験値を貰えたらしい。ずっと戦って来たんだから、経験値の差が出るのは当然と言っていいだろう。するとルインさんが返事を返す。
『いつものことでしょう? それで勝ったのよね?』
いつもって…酷い!
「はい。これで反乱に参加しなかった円卓のメンバーとワルキューレであるエイルさんとスクルドも一緒に行動することになりました。ただアーサー王とマーリンはサルワ戦には参加出来ないそうです。国の状況が状況ですから」
『それはそうでしょうね。でも、残りの円卓の騎士が参加してくれるのは心強いわ。それでどのように来るのかしら?』
「なんかバトルシップで運ぶことになりました。みんなが甲板に乗っていたので、自分たちも乗りたいとか言い出しまして」
『それはそれでしょう! 私も乗りたいですよ!』
増えたよ。まぁ、サバ缶さんならそう言うだろうとは思ったけどね。
『わかったわ。それなら先にエリクサーラピスに向かって頂戴。魔王は倒したらしいからそこで全員拾ってくれると助かるわ』
あぁ…絶対エリクサーラピスの人たちはみんな乗りたがるよ。特にアインシュタインさんとニュートンさん。そこで考える…プレイヤーもいるから全員乗れるのか?無理だろう。
「了解です。集合場所と作戦開始日時は決まりましたか?」
『みんなが予定通り、魔王を倒してくれたから決まったわ。集合場所はライヒの帝都。作戦開始日時は明日の夜よ』
『作戦会議は明日の朝十時からです』
俺たちは返事を返し、最後にジンたちの話を聞いた。随分派手に戦ったらしく、あのアンラ・マンユの進行を防いだだけでなく、随分後退させたらしい。その結果、アンラ・マンユが本気となり、ワントワークはボロボロ。ジンとアラジンはライヒまでぶっ飛ばされ、瀕死の重症で現在はライヒで治療を受けているそうだ。
流石の俺も良心が痛むので、お見舞いの品ぐらいは贈るとしよう。通信を終えた俺たちは早速エリクサーラピスに向かうと国民全員が大興奮の歓迎を受けた。この国、魔王の被害が一番少なく感じる。
そして甲板争奪戦が発生し、一番長く乗っている召喚師たちは自前で空を飛ぶことになった。ちゃっかり乗っているシルフィ姫様やカインさんたちは思いっきり召喚師だと思うんだが、言ったらダメなんだろう。
エジソンは自分が持っている船のほうが凄いとか張り合ってきた。研究者は自分が作ったものが一番じゃないと気が済まないんだろう。しかし誰がどう見ても負けているからエジソンが凄く惨めに見えてしまう。
俺たちはその後、フリーティアに立ち寄る。これはブリュンヒルデさんにお願いされたからだ。
「エイルならスルーズやキキさんの治療の力になってくれるはずです。フリーティアに立ち寄って頂けませんか?」
そう言われたら、立ち寄るしかない。そして寝込んでいるスルーズさんを診断したエイルさんは薬箱から何やら取り出し、鼻歌を歌いながら薬を作り出した。
おかしい…セチアならどんな薬を作っているか見ることが出来るがエイルさんが作ったものは見えない。
「この歌は! 私は外で遊んでくる!」
スクルドが逃げ出した。滅茶苦茶怖いんだが…。
「出来ました! さぁ、スルーズちゃん」
エイルさんが薬を飲ます。
「ま、まず!? ッ~~~!?」
「起きました~」
いや、起きたけどさ。この起こし方は最悪だろう。ちゃんと見えないように処理されているが現実だと大惨事だぞ。道理でスクルドが逃げ出したわけだ。
「セチア、この起こし方だけは絶対真似しないようにな」
「…」
「いいな?」
「…はい」
どれだけする気だったんだ!その後、キキの治療は普通に行われた。
『なんで?』
「この子は疲労が凄いからよ? スルーズちゃんはただのお寝坊さんだからいつもの起こし方をしてあげただけ。ちゃんと起きたでしょう?」
「スクルド…大変だな」
「…うん。凄く大変なんだ」
悪気が全くないから恐ろしい。ただこれでキキはだいぶ回復したみたいだ。俺はエイルさんにお礼をいい、復活したスルーズさんに現状の説明をする。
「そうか…二人はもういないんだな」
「二人はあなたや私たちに思いを託しました。あなたはどうしますか?」
「決まっている。魔神の討伐に力を貸そう」
「決まりですね」
これで戦力は集まった。
俺たちはその後、ライヒの帝都に向かう。到着したのが深夜でライヒ帝国が用意した宿でそれぞれログアウトすることになった。俺はわざわざお城の一室を用意して貰えた。
バトルシップを島に帰還させると全員から失望の声が多数。無いとは思うがバトルシップを制圧される可能性があるから一応の安全策だ。我慢してくれ。




