#643 葉焼けの魔王タルウィと水樹の精霊
俺たちがエルフの森に転移すると枯れ葉がたくさん落ちてきていた。エルフの村までこんな状況ということはかなり攻め込まれているんだろう。
すると魔法攻撃と結界を破る時に発生する音がした。俺はスピカを召喚し、空から状況を見る。するとユグドラシルの反対方向に七色の壁に襲いかかっているこの世の物とは思えない毒々しい赤色の花の魔王の姿があった。
タルウィ?
? ? ?
気持ち悪い奴だな。ロボアニメの敵役で出てきそうな宇宙生命体のような顔をしている。手や足からは歪な赤の触手があった。するとクーフーリンがゲイボルグを構えている姿を見つけた。
「おぉらぁあああ! ぶっ殺せ! ゲイボルグ!」
ゲイボルグが投擲される。はい、終わり。助けに来た意味ねー。
そう思っていたら、タルウィはゲイボルグに貫かれても動いていた。うそーん。エルフの魔法や精霊たちの攻撃も効いていないみたいだし、何かからくりがあるのか?
すると全員が空に上がってきた。
「あれが魔王ですか?」
「みたいですね」
『キモ!』
やはりみんなそう思うよね。すると誰かがスピカに飛び乗った。
「遅いぞ。タクト」
「スカアハ師匠、あいつの能力とか判明しているですか?」
「ある程度はな。まず奴は我々やエルフ、ワルキューレとは相性が最悪の魔王だ。杖や魔導書など木や植物を使う攻撃はどれも効果がない。ルーン魔術も効果が無かった」
うわ。それは相性最悪だ。しかしそれでゲイボルグが効かなかったのか?ゲイボルグは木が由来の武器ではなかったはずだぞ。
「ゲイボルグはなぜ効かなかったですか?」
「簡単だ。奴に心臓がないからだ。体をずたずたにしてもすぐに元に戻ってしまう。悔しいが打つ手がない」
うむ…つまりあいつは一斉攻撃で完膚なきまでに消し飛ばすしかないのか。するとタルウィが俺たちに気がついた。
『あれ? あれは召喚師? ということはアジ・ダハーカはやられちゃったんだ。凄いじゃん』
こいつに褒められてもね。するとエルフたちもこちらに気がついた。するとタルウィは聞いてくる。
『でもさ。その様子じゃ、倒した後すぐ来た感じかな? そんな状態でボクに勝てる? いや、戦えるのかな?』
痛いところを言われる。確かに全員満身創痍だ。少なくとも切り札を使える者は殆ど残っていない。
『ふふん。どうやら図星みたいだね。大人しくそこで僕がユグドラシルを枯らすのを見てるがいいさ』
「そういうわけには行きません! 召喚!」
シルフィ姫様がドラゴンを五体召喚する。
「ドラゴンブレスです!」
五体のドラゴンのドラゴンブレスがタルウィに命中する。するとタルウィは復活する。
『ざーんねーん。その程度で僕は倒せないよ』
つまり攻略法は間違っていないわけか?いや、何か変だ。こいつから感じる余裕はまるで命の危険が無いようだ。ひょっとして?
俺はイクスを召喚。
「お呼びですか? マスター? 現在バトルシップの点検中なのですが」
「悪いな。ちょっとレーダーで調べてくれないか?」
「イエス、マスター」
イクスがレーダーを使うとタルウィの様子が劇的に変化する。
『異星の機械人形!?』
「微弱ですがレーダーに反応あり」
「どこだ?」
「結界の外、遥か後方です」
やはりそういう仕掛けか。そしてスカアハ師匠も気がついた。
「なるほど。道理で心臓もなく、ボロボロにしても生きてるわけだ」
「そういうことですね」
目の前のこいつは偽物。本体は別にいるということだろう。
「イクス、行けるな?」
「イエス、マスター」
「「エンゲージバースト!」」
俺とイクスの切り札だけは残っているんだよね。何せバトルシップに乗っていただけだから。
『お前、エンゲージバーストが使えるのか!?』
驚くタルウィを無視して、俺はイオンブースターで一気に加速する。そして敵を目視で捉えた。そこにいたのは人間サイズのタルウィだ。
俺はツインエネルギーソードを構える。するとタルウィが地面に潜り出す。逃がすか!
俺はツインエネルギーソードを投げるが間に合わなかった。
『く…今日はこの辺にしといてやる!』
そう言うと巨大なタルウィが姿が枯れる。逃がしたか…状況から見たら、ここで仕留めたかったな。するとスピカに乗ったスカアハ師匠がやってきた。
「敵は確認出来たか?」
「はい。人間サイズのタルウィでした」
「あんな小物にいい様に騙されるとは私も焼きが回ったものだ」
俺たちはその後、エルフィーナたちと再会する。
「援軍に感謝します。タクト様」
「いえ、被害は?」
「今、調べていますが最悪の事態は回避出来ていると思います。農作物のことは考えたくないですね」
「それについては手を回させて貰います」
米、小麦粉、チョコレートはかなり余裕がある。ヴェルドーレ村も守れたし、農作物は大丈夫なはずだ。
「タクトとシルフィ姫、スカアハ殿よ。ちょっと良いかの?」
エルサリオンさんに呼ばれた。ということはもうわかる。俺たちはユグドラシルまで案内され、エルフの女王と再会する。俺はサフィに乗ったままの面会だ。
「シルフィ姫さまとは初顔合わせだな。エルフの女王をしているイヴリーフだ。此度のフリーティアの救援、エルフを代表して、感謝する」
「当たり前のことをしただけです。それよりもユグドラシルは大丈夫でしょうか?」
「いきなりの襲撃でダメージを受けたが、大丈夫よ。あの魔王のことは何かわかっているな?」
「はい。あくまで推測ですがお話します」
俺が敵の正体について話す。
「植物タイプの魔王だからこその能力ということか」
「魔法剣で消し飛ばしても無事なわけじゃ…タクトよ。敵はどう来ると思う?」
「俺が本体を確認しましたから恐らく別の手で来ると思います。もし自分の分身をたくさん作り出せるなら次は総力で来るんじゃないでしょうか?」
「そうであろうな。いずれにしても生きているならここを何度でも狙ってくるであろう。エルサリオン、宿を人数分の用意せよ。全員の滞在を許可する。ただしこちらのルールは守ってもらうぞ」
それだけでも有難い。するとユグドラシルから精霊が出てきた。
「あら? どうしたのかしら?」
「わぁ! 世界樹の精霊をこの目で見れるなんて感激です! ここに来た甲斐がありました」
完全に公私混同してない?今更か…はぁ。するとイヴリーフ様が俺に聞いてくる。
「お主、水樹を育てておるのか?」
「え? はい。育てていますよ。アクアスで苗木を頂いて」
「そうか! ではすぐに水樹の水を頼めるか? 水樹の水ならばユグドラシルや森の回復にかなり有効なはずだ。その後、時間が出来たら、お主のエルフとドライアドをここに連れて来てくれ」
というわけで全員で空から水樹の水を森全体に撒くことになった。すると枯れていた木々から新しい芽が出ているのを確認した。
その後、俺たちは敵の能力を知った。タルウィは水枯れや葉焼けという夏に植物を枯らせる原因を集めたような魔王であることが判明した。
水枯れは水が不足して枯れること。夏では葉や土から水が蒸発しやすくなるので、水不足になりやすくなるので、夏では植物に頻繁に水を上げる必要があるんだ。
葉焼けは一言で言うなら葉っぱの日焼けだ。強い日差しを浴びると葉を形成する組織が壊れて枯れてしまうらしい。他にも高温で葉焼けを起こすこともある。恐らくタルウィは高温だろう。
これを水樹の水はどうやら治してくれる効果があるそうだ。タルウィ戦での切り札となり得るかも知れない。だとすると俺は会話しているミールを見る。タルウィの天敵はミールかも知れない。それをエルフの女王は分かっていたんだろう。
俺たちは再びエルフの女王と話す。
「お主ならもう気づいておるな? あのタルウィとか言う魔王の天敵は水樹だ。ならば使わない手はない。世界樹の精霊の話ではお主たちが育てている水樹には既に精霊が宿っている。世界樹の精霊が口利きをすればお主たちなら水樹の精霊と契約することが出来るだろう。魔王を退治するため、水樹の精霊と契約してはくれぬか?」
「え!? それは…いいでしょうか?」
「いいも何もお前たちが育てたのだろう? むしろ他の者では契約できないと言っていい。無論決めるのはお主たちだ」
そりゃ、出来るならしたい。ということで世界樹の精霊を島に案内する。
そして水樹の根元にたどり着くと世界樹の精霊が水樹に触れる。すると水樹から精霊が出てきた。それから二人の精霊が何やら会話し、水樹の精霊が俺の頭を叩いてくる。
「な、なんだ? 怒っていないか?」
「えーっと…タクト様が水樹の面倒を見ないので、ご機嫌斜めのようです」
「…ごめんなさい!」
これは完全に俺が悪い。セチアとミールに任せておけばいいと思っていたからな。
「えーっと…これからはいい肥料や栄養剤を用意するようにとのことです」
結局美味しいものを食べたいおねだりじゃん。でも水樹の精霊がそう言うなら俺は答えないとな。
「わかった。これからはちゃんと用意するし、面倒を見るよ」
俺がそう言うとガッツポーズをして、飛び回る。すると世界樹の精霊が捕まえると叱る。なんか子供を叱る母親のようだ。
世界樹の精霊のお叱りが終わるといよいよ契約だ。
「水樹の精霊様、私たちにお力を貸してくださりますか?」
水樹の精霊が笑顔でセチアの指に触れ、続いてミールには触れる。するとインフォが来る。
『セチアが水樹の精霊と契約を結びました。精霊召喚に水樹の精霊が追加されました』
『ミールが水樹の精霊と契約を結びました。植物召喚に水樹が追加されました』
こうなるんだ。これでタルウィ対策が出来た。後はあいつが来るのを待つだけだな。その後、俺は世界樹の精霊をユグドラシルまで届けるとユウナさんに事情を話し、一番高い肥料と栄養剤を水樹にあげた。まずは態度で示さないとね。
さて、みんなのほうは大丈夫だろうか?




