#65 別れの挨拶
学校が終わり、スーパーで食材を買い込む。それからゲームにログインする。今日の予定は夜に召喚師達の交流会だ。早速ルークからメールが来ていた。
『時間は20時から集合場所は町の中央広場です』
ということだ。そして明日にはいよいよ新しい街に旅立ちだ。ということで夜の前にやっておかないといけないことがある。それはお世話になった人たちに別れの挨拶。こういうのはきちんとしておかないといけないと思うわけですよ。
というわけでまず最初に獣魔ギルドに向かう。リリーとイオンが怯えるわけだが、セチアは事情を知らない。
「…何か嫌な予感がするんですが…タクト様。何か隠してませんか?」
セチアが聞いてくる。隠しているつもりはない。ただ世の中には知らないほうが幸せなこともあるという話だ。
獣魔ギルドに入るとアウラさんがいなかった。喜ぶリリーとイオン。だが世の中は非情なものだ。俺は咄嗟に何者かの襲撃を避ける。背後からの襲撃に三人は回避出来ず、押し倒された。
「リリーちゃん、イオンちゃん。いらっしゃーい! 会いたかったわ」
「「ヒッ!?」」
「え!? だ、誰ですか!? この人!?」
セチアが声を出してしまった。その瞬間、襲撃者アウラさんの何かが外れた。
「やだ~!? エルフ!? か、可愛い…はぁ…はぁ…」
「ヒ!? タ、タクト様。助け」
「お腹出しちゃって…可愛いわね…ふふふ…ふふ…」
「な、何をする気…ダ、ダメ!? お腹舐めたら…」
アウラさん勇者すぎ。というかNPCにはセキュリティ反応しないんだよな…それでいいのかな?
「ぬ、抜け出せない~」
「セチアがいいなら私たちは関係ないじゃないですか!」
必死に逃げ出そうとするとリリーとセチアを生贄にしようとする。イオン。イオン…なんとしても逃げ出したい気持ちはわかるがそれは酷いと思うぞ。
「ふふふ…ダメよ。四人で楽しみましょう」
「「「み、耳はダメ~」」」
アウラさんの暴走が続いている中、ハリセン装備の店員さんが来た。
「…またですか」
「またなんです…ちょっと今日はお二人にお話があって来たんですが」
「わかりました。ギルマス、話があるそうですよ」
「ちょっと待って! 今、いいところだから!」
「「「全然良くない!」」」
リリー達も必死だ。セチアまで口調が変わるほどの危機的状況のようだ。
「やれやれ。先にお話を聞きましょうか」
「実は明日この町を離れることにしました」
「…えぇ!? なんで!?」
俺の言葉を聞いたアウラさんが驚き、立ち上がる。解放された三人は慌てて逃げ出し、俺の背後に回る。やれやれだ。そこで店員さんが言う。
「なんでもなにも彼のレベルなら当然でしょう。この辺りで敵わないのは守り神様くらいでしょうからね」
「それはそうだけど…唯一の楽しみが…」
どれだけリリー達が好きなんだ…この人。と店員さんが聞いてくる。
「どの町に行かれるか決めましたか? まぁ、しっかり情報収集しているようですからなんとなく行き先に心当たりがありますが」
「外れていないと思います。自由の国フリーティアに向かいます」
「召喚師ならば当然の選択ですね。いい国ですよ。私達の出身国でもあります」
おや?そうだったのか。折角なので色々聞いてみよう。
「折角なので特徴など教えて頂いてよろしいですか?」
「いいですよ。ご存知かもしれませんがフリーティアは召喚獣、亜人に対して差別がない国として有名です。というのも建国した王様が召喚師なんですよ」
へー、それは初耳だ。確かに建国した王様ならそういう国を作っても不思議じゃないな。
「その血筋は現在も受け継がれていて、現在の国王と第一王女が召喚師なんですよ」
歴史を感じるな。というかフリーティア、結構強い国な気がするんだが…しかしどうやら問題がないわけじゃないらしい。アウラが説明してくれる。
「もっとも国王はお年で、満足に召喚できないの。第一王女は世界でも指折りの召喚師なのだけど、原因不明の病で倒れられてね…色々問題を抱えている国なのよ。だからタクト君のような召喚師は大歓迎されると思うわ」
あちゃ~。でも問題抱えているのはどの国でも同じだと思うな。現実でも恐らくそうだろうからな。
更にアウラさんが補足する。
「因みに建国した王様が獣魔ギルドの創立者でもあるわ」
「ん? ということは獣魔ギルドの本部は」
「ご想像の通り、フリーティアにあるわ。無駄に大きくて、設備が凄いのよ。召喚獣達用のご飯まで完備されてるのよ」
それは凄いな。ちょっと気になる。だが店員さんが言う。
「まぁ、あなたには必要ないでしょう。なんといっても三つ星シェフですからね」
ありゃま、バレてる。しかしアウラさんは知らないみたいだ。
「へ? 三つ星シェフってどういうこと?」
「知らないんですか? 彼は町で有名人ですよ? 貴族のシェフに料理バトルで全戦勝利し、五つ星シェフから称賛され、三つ星シェフになった召喚師だと噂になってます」
そんなに有名人になってるの?俺?
しかし俺の驚きより、アウラさんの驚きの方がでかかった。
「初耳なんだけど!? どうして教えてくれなかったのよ!?」
「教えたら、彼らが来るまで彼の料理が食べれるお店に居座るでしょ? そしたらギルドの運営に支障が出ます」
なるほどね。それは問題だ。
「別に休憩時間とかで行ってもいいじゃない!」
「ダメです。休憩時間がオーバーするのが目に見えてます」
うん。たぶんそうなるんだろうな。
「ぶーぶー。あなたはタクト君の料理が気にならないの?」
「気になりますよ。だから食べてきました。アブラハヤのつくね。美味しかったです」
「わざわざ食べに来てくれたんですね。すみません。留守にしていて」
「冒険者でもあるのですから、それが当然ですよ」
そう言ってもらえると有難いね。とアウラさんが爆発する。
「ずるい! この裏切り者! 私もたーべーたーいー。はっ!? ここで作ってもらえば」
「やめておいたほうがいいですよ」
「なんでよ!」
材料さえあれば作るけど、他に問題がありそうです。
「一つお尋ねしますが餌付けしたモンスター達は自分から近づいてきませんでしたか?」
「はい。料理を食べたそうにじっと見つめていたりしましたね」
「やはりそうですか。結論から言うと普通の料理でそれはありえません」
な、なんだってー!?
「えーっと。どいうことでしょうか?」
「恐らくあなたの作る料理が普通の料理より美味しいのが問題で起きたことです」
「なるほどね。つまり普通より美味しい料理を森の中で作っちゃうからモンスターが食べたくて近付いてきたのね」
あぁ、その気持ちならわかる気がする。美味しい匂いがしたら近付いちゃうよね。
「ということはタクト君の召喚獣達の異常な好感度は」
「料理が関係していると考えると腑に落ちますね。勿論本人がきちんと召喚獣達と接しているのも関係していると思いますが」
なんか恥ずかしいな。というか好感度って存在しているんだね。さらりと重要なことを聞いた気がする。
「そして本題です。ここで彼が料理を作るとどうなるかという話ですが、我々の召喚獣が大人しくしているでしょうか?」
「う…確かにしているはずないわね。最近同じご飯しか上げてないし…押さえつけれる自信がないわ」
「自分もですね。しかもここには他にもたくさん召喚獣がいますから暴動でも起きたら、大変ですよ」
「そうね。でも、諦めきれないのよ!」
よほど食べたいんだな。
「この町を出たあとはどうするつもりですか?」
「フリーティアでお店を借りることになりまして、そこを拠点にするつもりです。料理についてはギルド経由で現在お世話になっているモッチさんの宿屋に送る契約をしています」
「流石彼女は商売上手ですね。つまり今のところはいつでもモッチさんの宿屋に行けば食べることが出来るということですね」
「そうです」
「聞きましたか? 忙しくない時に食べに行けますよ」
「やった! 楽しみにしてるからね! タクト君」
プレッシャーだな~。でも期待されたからには頑張らないとね。
「ご期待に応えられるように頑張ります」
俺がそう言うと満足気な二人に改めてお別れの挨拶をする。
「今まで召喚獣のことで大変お世話になりました」
「いいのよ。仕事だから。フリーティアでの活躍期待してるわ」
「あなたたちの旅路がより良いものになることを祈ってます」
「ありがとうございました。それでは失礼します」
お別れの挨拶を済まし、最後にクリア出来るクエストをクリアして、ギルドランクが上がった。色は灰だ。そして俺達は獣魔ギルドを後にする。なお別れる際にリリー達がアウラさんに再び捕まり、獣魔ギルドを出る。
「ひ、酷い目に会いました…覚えておいて下さいね? タクト様」
セチアに睨まれました。これは仕方ないかな。
別れの挨拶回りを続行。冒険者ギルドで挨拶し、クエストを消化すると獣魔ギルド同様にギルドランクが上がった。ギルドカードが灰になる。他にも錬金術ギルドのお婆ちゃんや魚屋さんのおっちゃんに挨拶。おっちゃんからはアブラハヤのバカ売れの感謝でヤマメを貰った。
改めてこの町にはいい人がたくさんいた。次の町もいい町だといいな…
挨拶回りが終わり、早めにログアウト。夜は交流会だからな。
少しフリーティアの説明を入れてみました。これで第二章以降の話の流れが大体予想出来ると思います。
さて、次回は召喚師達の交流会です。ルーク達以外の召喚師や普通のテイマーさんなどが登場いたします。お楽しみにです。