#640 アジ・ダハーカ、トレントの森防衛戦
リリーたちが再びドラゴンブレスを使い、それが開戦の狼煙となった。アジ・ダハーカに直撃するのがやはりダメージが入らない。
それでも攻撃の手を温めない。次々飛行部隊が突撃し、最後に竜化したユウェルが体当たりをする。
『ふん。無駄』
『…影竜!』
『やぁああ! 竜技! ドラゴンクロー!』
『はぁああ! 竜技! ドラゴンテイル!』
ノワの影のドラゴンがアジ・ダハーカに噛み付き、左右から竜化したリリーとイオンが襲い掛かる。しかしリリーとイオンの攻撃は手で止められる。そして二人を振り回すことでノワとユウェルにぶつけ、放り投げる。
今度は恋火たちと狐のセリアンビーストたちが放射熱線をアジ・ダハーカに浴びせ、アジ・ダハーカの視線を砦から離す。その間にユウェルは地面に潜る。これで準備は出来た。
その時を待っていたのがサバ缶さんだ。手にはマナクリスタルの効果でチャージを終えたタスラムがあった。
「行きます! タスラム発射あああ!」
引き金を引くとトレントの森の砦から破壊の閃弾がアジ・ダハーカ目掛けて放たれる。
『ほう…小癪な武器を持っていたか』
アジ・ダハーカの障壁にぶつかり、超爆発を起こす。タスラムはアジ・ダハーカの障壁を破壊し、右半分を消し飛ばした。これはエクスマキナを持たない者が初めてまともな一撃をアジ・ダハーカに与えた瞬間だった。しかし喜んでいる余裕はない。俺は警告する。
『あいつは再生能力も並外れている! スキルを使う隙を与えるな!』
俺の言葉に真っ先に動いたのはイオンだった。イオンはアジ・ダハーカに巻き付き、蒼雷を使う。
『下らん』
『やらせない!』
イオンに向けられた爪を地面から現れたユウェルが噛み付き、更に自身の重さを重くすることでなんとか爪がイオンに向けられるのを防ぐ。
『いっけぇえええ!』
『…ん!』
リリーが力を収束させた渾身の拳を中央の首に放つ。続くようにノワが左の首に爪を振りかぶるがやはり硬い。
『いい連携だが、勝負を決めるのは圧倒的な力だ』
アジ・ダハーカが発光をする。あれはユウェルがやられた時のやつだ。
『全員離れて下さい! 私が受けます!』
『イオンちゃん!?』
『リリー、わかってますよね?』
『…うん! ノワちゃん、ユウェルちゃん! 離れて! みんなも!』
イオンとリリーの決断で全員が一時引く。
『氷牢! 水圧結界!』
『ふん。その程度で我らの攻撃が止められるとでも?』
『やってみたら、どうですか?』
『よかろう。消し飛ぶがいい! 海竜のドラゴニュート!』
アジ・ダハーカの強力な光の衝撃波を浴びたイオンは消し飛ぶ。
しかし全員がイオンの覚悟を引き継ぎ、全力を集めた渾身の一撃を放ち続ける。しかしアジ・ダハーカはその一撃を浴びながら、一歩一歩前進するのだった。
その戦いの一方で俺はダーレーと森を走っていた。アジ・ダハーカはみんなが止めていてくれているがザーハックたちは俺たちを狙い続けていた。
『タクト君! そのまま真っ直ぐ、地面に触れないギリギリを飛んで!』
木の上にトリスタンさんたちがいた。俺は言われた通りにすると俺に襲おうとしたダークドラゴンたちが鋼線に引っかかり、地面ではザッハークがダイナマイト地雷で爆発する。
更に砦からカタパルトの岩やアーバレストが飛んでくて、俺の後方に見事に命中する。そしてメルたちと桜花の武将たちがザッハークたちに襲いかかる。するとブランがいう。
「主よ。ここで私が守護結界を使い、足止めをします」
「わかった。頼んだぞ。ブラン」
「はい! 守護結界!」
俺はその後、新たなに作られた防衛ラインに到着し、それを飛び越えて砦に到着した。
リリーたちの戦いを見守ろうとした時だ。巨大なドラゴンの一団から一斉に攻撃が放たれた。
シルフィ姫様を中心とした獣魔ギルドのドラゴン部隊だ。
『ここからは私たちが引き受けます。タクト様は準備をお願いします』
『わかりました。お願いします』
出てきちゃったなら仕方無い。実際アジ・ダハーカの右半分がないこの状況は絶好のチャンスといえる。俺がリリーたちを召喚石に戻そうとしたが戻せない。この瞬間、嫌な予感がした。これは暗にアジ・ダハーカが逃がさないということを意味しているからだ。
『とんでもない攻撃が来る! 全員離れろ!』
『みんな! 一斉にぶつかってあいつを少しでも止めるよ!』
『おぉ!』
リリーの指示で俺の召喚獣たちがアジ・ダハーカに一斉にぶつかり、止めに入る。
『体を使ってでも止めに来るか。無駄なことを』
『リリーたちがしたことを無駄かどうか決めるのはあなたじゃない! タクトだよ!』
『あたしたちの命に代えてでも守ってみせます!』
『イオンはみんなに繋いだ! 次は私たちの番だ! 絶対に守って見せる!』
それを聞いたアジ・ダハーカの体が真っ赤に発光にする。
『今度は蘇生すら許さん。己の命を賭けて、守ってみせるがいい!』
『『『『やってみせる!』』』』
全員が一斉に防御スキルを発動し、アジ・ダハーカが超爆発する。しかしその超爆発はリリーたちの後方には届いていなかった。リリーたちは消えてしまったが俺はリリーたちが命を掛けて俺を含むみんなを守ったことは確かな戦果だと思う。
それを俺はあいつを倒すことで証明しよう。
『…俺は準備に向かいま』
「あの~…タクト様、たぶん大丈夫ではないかと」
俺がセチアを見ると空から声がした。
『きゃあああああ!?』
小さくなったリリーたちが砦に落下してきた。あれ?蘇生すら許さないんじゃないの?するとばつが悪そうにイオンまでいた。んん?
『何!? 何故蘇生をする!? 確かに封じて殺したはずだ』
あぁ…スキルの蘇生を封じただけなのか。リリーたちは全員クリームシチューを食べているから蘇生したんだな。魔術に詳しいアジ・ダハーカも料理には詳しくなかったらしい。ざまーみろ。凄く勝った気分。
『…え、えーっと。ここからは私たちが引き継ぎます! 全軍、アジ・ダハーカに攻撃開始! 隙を与えてはいけません!』
流石のシルフィ姫様も一瞬固まったな。俺も何が起きたかわからなかったし、仕方無いだろう。俺がリリーたちを連れて、島に転移する。
俺がバトルシップの調整をしている間にも戦いは続く。ダークドラゴンやザッハークはアジ・ダハーカの影から生まれ、絶えず防衛ラインに襲い掛かり、遂に防衛ラインを突破させてしまう。
そしてトレントの森の砦に襲いかかってきた。サバ缶さんたちは自分たちのロボを出して、迎撃するがその間にもアジ・ダハーカの攻撃が止むことはなく、次々脱落者が出る。
「サバ缶さん、もうこれ以上は無理です!」
「…そうですね。全軍砦を放棄! ヴェルドーレ村まで撤退します!」
全員がヴェルドーレ村に撤退するとそこにはサラ姫様率いる近衛騎士団が守りを固めていた。全員が休憩を取る中、トレントの砦は完膚なきまで破壊され、更にせっかく破壊した右半分もアジ・ダハーカは復活させてしまった。
その後、ヴェルドーレ村にダークドラゴンとザッハークが現れ、全員がこれの撃退に当たる。
午後一時が過ぎた頃、アジ・ダハーカは遂にトレントの森を抜け、ヴェルドーレ村とフリーティアの王都を射程に取られた。サラ姫様が活を入れる。
「誇り高きフリーティアの騎士たちよ! 恐るな! なんとしてもここで悪しきドラゴンを葬り去る!」
『お…おぉ!』
完全に及び腰の騎士たちに様子にアジ・ダハーカは笑う。
『我らに傷すら付けられぬ輩がよく吠える。それならば我らが渾身のドラゴンブレス! 受けてみよ!』
アジ・ダハーカが息を吸い込み、全員が覚悟を決めたその時、ヴェルドーレ村に展開していた騎士たちの上空に空間の歪みが発生する。
次の瞬間、空間から複数のレーザー同時攻撃がアジ・ダハーカを襲った。その攻撃は今まで大苦戦していたアジ・ダハーカの障壁をいとも簡単に破壊し、アジ・ダハーカにダメージを与えた。
そして空間から現れたのは未知の金属で作られた巨大な戦艦だった。その姿に全員が歓声をあげた。




