#64 落ちこぼれ鍛冶師と専属鍛冶師
ウルフマンを見事に仕留めたリリーが戻ってくる。
「勝ったよ! タクト!」
リリーが無邪気に俺に飛び付こうとするがイオンがガード。
「どうして止めるの!? イオンちゃん」
「最後危なかったじゃないですか。抱きつき禁止です」
「イオンさんに同意します」
「むー!」
イオンとセチアの発言に頬を膨らますリリー。そんなリリーの頭を撫でた。
「あ…」
「抱きつくのは禁止だがこれならいいだろ? よくやったな。リリー」
「えへへ~」
満面の笑顔を見せるリリー。そして俺は全員を見渡す。
「みんなもお疲れ様。本当によく頑張ってくれた。ありがとう」
俺の言葉にみんな叫んで答える。そしてイオンとセチアが彼らを代表するように答える。
「お礼の言葉はいりません。私たちはタクトさんの召喚獣なんですから」
「イオンお姉様の言う通りです。タクト様と共に戦えることが私たちの喜びです。お気をなさらずに」
本当によく出来た二人だよ。
「あの…助けていただきありがとうございました」
あ、少年を忘れてた。
「大丈夫だったか?」
「お陰様で無傷です。ありがとうございました」
「それは良かった。それで君は一体」
「あ、自己紹介がまだでしたね! 僕の名前はヘーパイストス。鍛冶師です」
ちょっと待て。今、凄い名前が出たぞ!
お、落ち着け。とりあえずウルフマンを解体して、ウルフマンの爪とウルフマンの皮をゲット。ヘーパイストスと名乗った少年に食事をご馳走する。なんでも何日も満足に食事をしたことがなかったらしく何度も感謝される。
この少年がヘーパイストスとは思えないな。
ヘーパイストスはギリシア神話に登場するオリュンポス十二神の一柱。雷、火山、炎そして鍛冶の神だ。日本ではへパイストスと呼ばれるのが普通だと思う。オリュンポス十二神の一柱というわけで逸話は凄まじい。まずゼウスの三脚器。アポロン、アルテミスの矢、ヘルメスの武器ハルパー、アキレウスの武器一式、ヘラクレスの青銅の鉦など数々の神の武器を作成したことで有名。因みに美女パンドラや青銅の巨人タロスも作ったはずだ。
どれだけ化け物かわかるだろうか?美女作れるんだよ?神か!神ですね。
とりあえず色々聞きますか。
「あー、それでどうして君のような少年がこの森に?」
「僕は元々鉱山の国ヴェインリーフで産まれたんですけど、鍛冶の腕がなくて、暮らしていくことが困難になりました。それで鍛冶の腕を上げるために国を出たんです」
あー、聞いたね。そんな話。というか鍛冶の神でそれとかヤバくないか?その国。まぁ、少年だから仕方ないかも知れないが。
「元々お金がなく戦闘も出来ないので、モンスターから逃げながら旅をして、この森に来ました」
「ということはこの森に来たのは偶然か?」
「いえ、この先の町でたくさんの初期武器の依頼があると聞いて。それなら僕でも商売が出来ますから」
それって、俺達プレイヤー相手に商売するつもりだったって話か。
「あわよくば誰かの専属鍛冶師を狙ってました」
「専属鍛冶師?」
知らない言葉だな。鍛冶師の次の進化先かと思ったが違った。
「知りませんか? 冒険者が専属の鍛冶師を雇うことがあるんですよ。そして雇われた鍛冶師のことを専属鍛冶師と呼ばれています。レベルが高い冒険者だと複数の専属鍛冶師を雇うこともあるそうですよ」
へー、雇うってことはお金を払うってことかな?クロウさんとの関係とは大きく違うな。
「専属ってことは雇い主しか商売出来ないのか?」
「その通りです。ただ安定したお金が手に入るので、僕のような弱い鍛冶師は目指すんです。トラブルも雇い主としか起きませんからね」
なるほどね。というかこの流れ、専属鍛冶師をする流れだよね…まぁ、クロウさんとの付き合いもいいみたいだし、提案してみるか。
「なら俺の専属鍛冶師にならないか?」
「え!?」
驚かれる。そんなに驚くか?そんな流れだったよね?
「いいんですか!? いや、そんなにお強いのに専属鍛冶師を雇っているのでは?」
「雇ってはいないな。付き合いがある鍛冶師はいるけど、明後日フリーティアに向かうから新しい鍛冶師が欲しかったんだ」
「な、なるほど。でも、なんで僕なんかを」
鍛冶の神様だからでは変なんだろうな。
「勘かな? 君はきっと凄い鍛冶師になる気がする」
なんといってもギリシア神話の鍛冶の神様と同じ名前だからね。
「いまいち理由がわかりませんが、私で良ければ是非契約させてください!」
「決まりだな。これからよろしくな。ヘーパイストス」
「はい! タクトさん!」
という訳で少年を護衛しながら町に帰る。最初に鍛冶ギルドで契約をする。そしてインフォが流れる。
『鍛冶師NPC【ヘーパイストス】と専属鍛冶師契約を結びました』
これで正式にヘーパイストスは俺の専属鍛冶師となった。俺も鍛冶ギルドに登録が必要かと思ったがヘーパイストスが加入していて、問題ないらしい。という訳でヘーパイストスに契約料を支払い、モッチさんの宿屋で空部屋がちょうどあったので、2泊お願いした。
でも、なんで空き部屋があるか気になって聞いたみたら、俺の料理で宿代を高く設定しすぎたのが原因だそうです。そこはモッチさんの設定ミスだな。俺のせいではないはずだ。宿に着いたので今日はここまでにした。
ヘーパイストス君登場回でした。このヘーパイストスは少年なのでぶっ飛んだ強さも鍛冶の腕前もありません。タクトたちの武器を作成しながらタクトたちと共に強くなっていくキャラとなります。つまりNPCも成長させるゲームってことですね。当然プレイヤー次第でそのNPCがどう成長するか変化することになります。
ここでまた補足します。このタイプのNPCは他のプレイヤーでも仲間にすることが可能で複数仲間にすることも可能です。ただし同じ人物は存在しません。NPCハーレムが作りたいなら5人別人を集めないといけないわけですね。
次回はタクトがお世話になった人たちに別れの挨拶をします。いよいよ第1章も掲示板回合わせて、残り4話となりました。最後までお楽しみ頂けたら、幸いです。