#614 邂逅と決勝トーナメント第一試合
メルたちの悔しいだの反則だの負け惜しみを聞いていて、コロッセオの外に出ると予想外の人たちに遭遇した。『ブルーフリーダム』のメンバーだ。
「良かった~。会えた」
「あなたたちは!」
「いいんだ…メル。俺に話があるんだろう?」
「はい」
わざわざ待っているくらいだ。余程重要な話なんだろう。
「先に行っててくれ」
「…普通こういうのは干渉しないものだよ?」
「俺たちに普通を説くのか? なぁ?」
「くす…ですね」
メルたちが頭を抱える。俺は移動中偶然通りかかったマーリンを捕まえて、人気がないところに案内してもらった。これでメルや他のプレイヤーたちの追跡は巻いただろう。
マーリンにお金を渡し、帰ってもらった。
「さて、これで話しても大丈夫だろう。それで話はなんだ?」
「えーっと…まずは…僕たちのこと、どれだけわかっています?」
「現実の君たちのことか?」
全員が頷く。一応話していいか聞くと構わないとのことだから話す。
「俺の勝手な推測だが、君たちは体になにかしらの障害や重い病気を持っている人たちだと思っている。気分を悪くしたなら謝るよ」
「いえ…正解です。どこでわかりましたか?」
「色々あるが…まず人間は慣れる生き物だ。それは恐怖とかでも同じで君たちが魔法や銃、剣に対して恐怖を感じていなかったのが最大の決め手かな? 君たちはずっと理不尽な現実世界と戦ってきた。そんな君たちにゲームの恐怖が勝てるはずがない」
「それは…あなたもですよね?」
やはり似たもの同士バレ合う物だな。この子たちなら話していいだろう。
「ある意味そうだが、君たちほどではないかな? これは俺が君たちのことを知ってしまったから話すが俺は子供の頃に事故で両親を亡くしていてね。君たちと同じで理不尽な現実世界を呪った人間だ」
俺の告白に全員が驚いた。
「そう…だったんですか。道理で親近感を持つわけです。僕らは今日、あなたにお礼が言いたくて声をかけました」
「お礼? 俺が何かしたのか?」
「直接的には何もしてません。僕らがこのゲームにログインしたのはゾンビイベントの前でファストの町にいた僕らはフリーティアに避難をして、そしてフリーティアでの戦闘に参加していました」
マジっすか…ごめんなさい。記憶にないわ。
「そこで僕たちは利き腕を失ってもなお敵を圧倒するあなたの姿を見ました」
「なんというか…その…格好良くて…俺たちはあの時のあなたを目指して今までゲームをしてきたんだ」
速さ重視の正確な攻め…確かに俺に似ている。ただ彼らは彼らなりの強さを追求してきたんだろう。そして阿吽の呼吸の連携と自分たちだからこその秀でた能力を見つけてそれにあった戦闘スタイルを確立させた。俺には彼らの苦労が少しだけわかる気がする。
俺は爺さんに教えられたからな。彼らは真っ白な状態でここまで積み上げて来た。俺という背中を追って…なんとも恥ずかしくもあり、誇らしさもある。そしてやはり俺たちは似ている。俺も爺さんの背中を追っているからな。
「ですから…その…次の試合、本気で戦ってくれますか?」
「そんなことを気にしていたのか? 安心しろ。手加減とかして君たちに勝てると思うほど馬鹿じゃない。ゲームの中なら少なくとも体においては平等だ。レベル差による差はあるけどな。しかし本当に本気を出していいのか? そうなると俺は昨日ぶっぱなした物を超える究極の魔法剣を使うことになるが」
『いぃ!? それはちょっと』
まぁ、そうなるよな。
「というか…昨日のを使われただけで私たちは終わる」
「それは安心していいぞ。昨日のはバンバン撃てる代物じゃないからな」
「それはそうですよね…でもそれを超える魔法剣があるのにどうして使わないんです? あなたが魔法剣の使い手であることはみんな知っていますよ」
「だろうな…ただ昨日のを超える武器というのが問題なんだ。俺の考えすぎかも知れないけどな。それにそんな武器を使って勝っても面白くないだろう?」
『ブルーフリーダム』のメンバーはどれだけやばい武器なんだと思った。
「と、とにかく本気で戦ってくれるんですね」
「あぁ。君たち用の作戦も用意してあるから楽しみにしているといい」
「あら? そんなもので私たちに勝てるのかしら?」
「勝てるさ。俺ばかり見ていると足元を掬われるぞ」
堂々と勝利宣言をした俺はホームに帰り、ログアウトした。
そして決勝トーナメントで俺たちは相対する。俺の装備は迅雷と初公開のテウメソスのローブだ。それを見て、やはり警戒される。さて、俺たちの作戦を止めれるかな?
「試合開始!」
『ブルーフリーダム』のメンバーはやはりいつもどおりの戦闘スタイルで来た。これが俺たちの本気だ。
「イオン!」
「はい! 竜化!」
竜化したイオンが現れた。それを見た『ブルーフリーダム』や観客は俺の作戦を悟った。
「これはまずい!」
「全然容赦ない!」
「というか正面から戦うんじゃないの!」
本気で戦って欲しいとお願いされたが刀で戦えとは言われていないぞ?俺の姿から完全に誤解を生むと思うけどな!彼らには魔法使いやルーン魔術はない。これで終わりだ。
『竜技! ドラゴンウェーブ!』
水の壁が彼らに迫る。そんな中、唯一攻撃出来たのが銃士の子だ。跳弾で俺を狙ってくる。しかし飛んできた弾丸をユウェルが食べてしまった。どれだけ跳弾してもユウェルは食べる。うちの子たちの食欲を舐めたら、いかんよ。
『うわぁああああああ!?』
『ブルーフリーダム』のメンバーは波に呑まれた。
俺たちも水に呑まれるがリリーたちは空、ユウェルは地中にいるから問題はない。水の中で確認する。まだ勝者コールがないということは対策をしていたか。
空にいるリリーから連絡が来る。
『タクト! 真ん中にいた子が無事みたいだよ!』
『私がとどめを!』
『…いや、俺がする。恋火、エンゲージバーストを頼めるか?』
『は、はい!』
俺もなんだかんだで甘い。このままイオンに襲わしたら、楽だろうに。これを見越して俺に接触してきたのだとしたら、彼らの作戦は成功したといえるだろう。
水が引き、俺たちは相対する。彼はどうやら水中行動が出来るアクセサリーか何かを持っていたみたいだ。
「本当に容赦ないですね…」
「そうか? 俺は甘いと思うよ。こうしているんだからな」
俺と恋火が指輪を翳す。
「「エンゲージバースト!」」
狐耳モードの俺が現れる。そして迅雷と恋煌を抜く。
「俺たちのとっておきの作戦から生き延びたご褒美だ。約束通り本気を見せてやる。雷竜解放!」
『炎竜解放!』
雷のドラゴンと炎のドラゴンが現れる。
「…容赦無さ過ぎません?」
「このぐらいでビビるタマじゃないだろう? それに笑っているぞ」
そう。この状況でも彼は笑っていた。彼が立ち上がり、剣を構える。
「そうでしょうね。僕はこの状況が堪らないくらい嬉しい…いや楽しいのかな」
楽しめているなら彼はもう立派な剣士だろう。
「…行くぞ」
「はい!」
互いに縮地で飛び出し、迅雷と彼の剣がぶつかる寸前、彼は攻撃をいなした。迅雷の攻撃をやはり完璧に見切ってくるか。続く恋煌の攻撃を避けて、斬りかかっている。
俺はそれを迅雷で受け止めようとすると剣が擦り付けてくる。それを俺は迅雷を横にして柄で叩き、体を回転させながら回避しつつ、恋煌を振るうと彼は跳躍して躱し、距離を取る。
『凄いですね…タクトお兄ちゃん』
『あぁ…この状態の俺たちが相手でも対応してくるとは思っていたが大したもんだ。しっかり隠し玉も用意していたからな…だが、俺たちの本気はこんなものじゃないよな?』
『もちろんです! 血醒!』
俺たちの更なる強化に流石の彼も苦笑いする。
「(これが今のあなたの本気なんですね。なら僕はこれを超えてみせます!)」
俺たちは武器を構える。
雷竜解放と炎竜解放、それに俺の百花繚乱と恋火のシュトルムエッジを組み合わせたオリジナル技。止めれるものなら止めてみろ!
俺と恋火の連携が発動し、雷のドラゴンと炎のドラゴンが混ざり合い、青い稲妻を纏う蒼炎のドラゴンが現れ、そのドラゴンの周囲を美しい桜が更に舞う。
『『奥義! 百火蒼竜刃!』』
「はぁあああ! 疾風突き!」
俺たちと彼がぶつかり合い、そして一瞬の静寂。俺たちが立ち上げると『ブルーフリーダム』の彼の剣が折れて、万雷と灼熱の効果が彼に発動し、倒れた。
『勝者! 『リープリング』!』
いや~…凄かった。百花繚乱の斬撃を見切り、致命傷となる桜を弾いて、俺たちを疾風突きで狙ってきた。しかし最後は彼の剣と恋煌がぶつかり合い、溶断がある恋煌の前に彼の武器が耐え切れず、勝負があった。
恐らくあれを見切れた人は早々いないだろう。鉄心さんなら見切れたかも知れないがたぶん雷竜と炎竜が邪魔で中の攻防は彼の後ろの観客からでしか見ることが出来なかっただろうし、後ろからでは中々難しい。
俺たちは最後に刀をしまうと一礼して控え室に帰った。そして倒れる。
「…どうするんですか? タクトさん?」
イオンの目が責めるような目だ。
「どうするもこうするもこうなったからにはやれることは決まっているだろう? 次は頼むぞ? リリー、恋火、ユウェル」
「任せて! タクト! 思いっ切り戦っちゃうよ!」
「はい! タクトお兄ちゃんの分まで頑張ります!」
「わたしも頑張る!」
さて、リリー、恋火、ユウェルの全力と戦うのはどちらになるかな?俺たちは控え室の画面に視線を向けた。




