#610 決闘イベント本選Dブロック一回戦
俺と義父さんがお寿司屋で買ってきたお寿司をみんなで食べる。きっかけは俺がメルたちにお土産を上げた話だ。義父さんは「それで夢中になるとは」と呆れていたら、義母さんの「一度もお土産を買ってきたことがない人には言われたくないと思いますよ」と言われ、一緒にお寿司を買いに行くことになった。
なぜ一緒にか?買ったことがないから色々知っている俺にこっそりお願いしてきたのだ。しかし完全にバレている。さっきからみんなのニヤニヤが止まらず、義父さんは非常に居心地が悪そうだ。
なんかこういうところは俺と義父さんは似ているのかも知れないな。そう感じた一幕だった。
食べ終わり、お風呂に入ってから、ログインする。夜はDブロックだ。
第一試合は『王道サモナー』と『ブルーフリーダム』。烈空さんの登場だ。メンバーはヴィヴィアン、シルバーゴーレム、エンプーサ、ヒュドラ、ドレイクだ。ただ一言、王道?
俺が疑問に思ったのがエンプーサ。インプからの進化でスクブスの次の進化だ。一言でいうと妖精版リビナ。違いはやはり角がないところかな。召喚された途端に男の観客が『おぉ!』と乗り出したの見て、女性の観客は冷たい視線だ。
見た目に反して恐らくリビナとほぼ同等の能力があるだろう。対する相手は女もいるけど、やはり男もいるパーティーだ。編成は戦士が三、重戦士一、槍使い一、銃士一と変わったパーティーだがそれよりも彼らには変なところがあった。
「…第三クラスじゃないか?」
俺がそういうとみんなも見て、俺と同じ結論に至った。今まで全員が第四クラスだ。その中で彼らだけが第三クラスパーティーだった。しかも武器に変わったところはない。
これが意味するところを俺たちは目撃することになる。
「な、なんだ!? こいつら!?」
一言…ただ強い。召喚獣たちの攻撃が誰にも当たっていない。パーティー全員がスピード特化だ。重戦士が銃士を守ることもしない。全員が連携して動き回り、的確に攻めている。
圧巻だったのがエンプーサの能力発動とヴィヴィアンの妖精の輪が発動したときだ。
エンプーサが淫夢結界を使おうとした瞬間、その効果範囲から外れ、効果範囲ギリギリのところを走り、エンプーサを斬ってみせた。
更にヴィヴィアンが召喚した水の精霊の連続射撃を身のこなしだけで避けてみせた。一切剣で弾いていない。俺は彼らを見て思った。彼らは俺より強いと。
「勝者! 『ブルーフリーダム』!」
『やったー!』
彼らは戦闘そのものを楽しんでいるな。俺には彼らが眩しすぎた。
「彼らのこと、タクトさんはどう思います?」
「ただ強いな…同じブロックじゃなくて良かったと本当に思うよ」
とんでもないダークホースがいたもんだ。あまりの強さに不正ツール疑惑が出たが、そんなことをすれば運営は必ず動くし、俺にはあれが彼らの実力であることはしっかり理解出来た。
俺が彼らのことを考えていると第二試合が始まろうとしていた。『甲賀の読み方はこうか』と『火竜最強』の決闘だ。やはり以前火影さんが戦った忍者の人がいた。それと戦うのはタクマだ。メンバーは花火ちゃん、ワイバーン、ドレイク、プラチナゴーレム、双頭竜。
双頭竜はアナコンダから進化するオロチ二体の合成召喚で召喚出来る。見た目はレッサーヒュドラと似ているが防御力と素早さは双頭竜が優っている。
マッドゴーレムの進化先、マッドゴーレムからマーキュリーゴーレムとなり、プラチナゴーレムとなる。プラチナゴーレム以外は見事なドラゴンパーティーだ。
これは強いだろうな…このパーティーに忍者たちがどう挑むのか。お手並み拝見だ。
「試合開始!」
試合開始と同時にタクマはワイバーンに乗り、空へ行く。花火ちゃんとドレイクも空に行くが忍者たちは一切動かなかった。
プラチナゴーレムと双頭竜が忍者たちに襲いかかる。まず最初にプラチナゴーレムの代名詞、拡散光線が襲いかかる。これは光線が分散して放たれるスキルで戦争イベントでは大活躍した技だ。
プラチナゴーレムの前方にいる敵のほとんどに光線が放たれるからだ。それは忍者たちも例外ではなく、仲良く全員拡散光線の餌食になった。
しかしそれで終わるはずがない。忍者たちの姿が丸太に変わる。変わり身の術だ。
現れた忍者たちに次は双頭竜が攻撃をする。口から巨大な岩が発射されると忍者たちは直撃するがまた変わり身の術だ。
すると双頭竜に肉薄した忍者たちは小太刀を取り出し、攻撃する。双頭竜が悲鳴を上げる。見ると致死毒になっている。あの小太刀に毒が塗ってあるな。流石、忍者だ。
他の忍者たちはプラチナゴーレムに肉薄するとバケツを取り出すと何かをプラチナゴーレムにかける。すると美しいプラチナゴーレムの体が真っ黒になってしまった。墨か?いや、光って見えるから墨じゃないな…あれはまさか。
「く…レイン!」
タクマが雨が降らすが落ちない。やはり油性マジックか。こうなるとプラチナゴーレムは相手を狙えない。下手に撃つとタクマたちまで攻撃範囲に入る恐れがあるからな。
だが、タクマは冷静だった。空からの攻撃に専念する。しかし忍者たちはプラチナゴーレムを盾にした。そりゃあ、いい傘だろうな。するとタクマが決断する。プラチナゴーレムが光りだす。自爆だな。
それを見た忍者たちは一切動じない。そして大爆発。しかし忍者たちは無傷だ。変わり身の術で。これでタクマは二体を失ってしまった。もうやるしかないだろう。
「エンゲージバースト!」
火の竜騎士となったタクマがワイバーン、ドレイクと共に攻めに出る。それを忍者たちは待っていた。取り出したのは爆弾。それをタクマたちに投げつける。
「そんなもん効くか!」
タクマが爆弾を斬り裂くと青白い光がタクマたちを包み込んだ。光が収まるとタクマとワイバーン、ドレイクは墜落。そしてのたうち回っている。あれはまさか…白リンか?
俺が以前話したかなり強い毒性があるリンだ。実際に戦争では兵器として使われた歴史があるものだが、まさかあるとは思っていなかった。白リン爆弾を諸に受けてしまったタクマは為すすべもなく倒されてしまった。
「勝者! 『甲賀の読み方はこうか』!」
今回の勝負は典型的なパーティーがバレバレで対策をされた例だな。もう全ての動きと準備が完璧だった。これでは負けて当然だ。
「召喚師の対策が完璧過ぎないか?」
「それはあれや。掲示板で有名な召喚師のメンバーは出回っておったからや」
「目立ちますからね。召喚師は」
それで戦争イベントでも活躍が書かれていたら、対策を考えるのは簡単というわけだな。これは当然俺たちにも言えることだ。気を引き締めないとな。
第三試合は『スマイリーピエロ』と『近衛騎士団』の決闘だ。いよいよメルたちの出番だな。相手はピエロの仮面をした謎のパーティー。もう闇落ち職のパーティーだとなんとなく分かるな。
「試合開始!」
ピエロ軍団の姿が消えた。そして毒ナイフや針などを使ってきた。それをメルとケーゴ、ユーコが冷静に対処していく。
するとミライが一人のピエロに襲われるとリサがカウンターで殴り飛ばした。
「ミライには手出しさせないよ!」
「…」
リサがそういうとピエロはズボンのベルトに手を掛けるとベルトを取った。
変態だ~!うちのリサとミライの目の前で何してくれとんのじゃ!こら!
「え!? え!? 何やってーーッ!?」
取ったベルトが刃物となり、混乱するリサに斬りかかるとリサはそれを受けてしまった。するとリサは麻痺になる。あのベルト、暗器だったのか…メルたちは圧倒的に女性率が高いから狙って装備したな。
更にミライを狙おうとしたピエロは強烈な火炎に包まれて、消し炭となる。レッカのブリーシンガメンだ。
「もう十分、楽しんだろう? そろそろ決めるよ。ブリーシンガメン!」
ブリーシンガメンの火炎が次々ピエロを追跡する。そして触れると容赦なく燃やし尽くされた。あれがブリーシンガメンの効果である追跡と焼失か。やはり伝説級の武器は強いな。
「勝者! 近衛騎士団!」
格好つけれるレッカに言いたい。あれを手に入れたのは俺で本来の持ち主は雫ちゃんだ。因みに雫ちゃんはレッカにアダマンタイトと魔法使い専用のクエストで手に入る海神のオーブ、セイレーンの羽を注文しているらしい。
俺が知る限り最難関のクエストだ。確かにこれで杖と防具を作れば、交換に匹敵するぐらいの装備は作れそうだ。火メインのレッカに水の最難関のクエストを押し付ける雫ちゃんは流石だな。
第四試合は『ケモナー王』と『シグルドの弟子』。今度はギルド対決だ。チロルのメンバーはカーバンクル、アルミラージ、ゴールドシープ、マーナガルム、ヘルオルトロスだ。
アルミラージは白兎の進化先。玉兎からジャッカロープその次がアルミラージとなっている。因幡の白兎の討伐に反対していたのはこの子がいたからだ。
完全な趣味パーティーだが、個人的にはチロルを応援しよう。竜騎士は怖いからな。その竜騎士は一見すると普通の騎士だが鎧は半袖で動きやすさを重視しているように見えるな。さて、お互いにどんな戦闘をするかな?
「試合開始!」
開始同時にチロルたちは一斉攻撃。カーバンクルは光線を放ち、アルミラージは角から赤雷を飛ばし、マーナガルムは冷凍弾、ヘルオルトロスは火炎弾、ゴールドシープの雷霆、チロルの魔法が襲いかかった。
普通ならこれで終わりだが…攻撃が終わるとそこには竜騎士たちがいた。
『擬似竜化!』
彼らの体がドラゴンの鱗のように変化していた。
「あれはリリーたちの!?」
「ずるいですよ! あれ!」
いや、ずるくないだろう。確かに俺もあれはドラゴニュートのみの技だと思っていたから使ったことには驚いた。しかし驚きはそれだけにとどまらない。
全員が速さのルーンで加速するなか、チロルたちはひたすら撃ちまくる。それを斬り裂いて前進してくるとチロルも危険を感じて、カーバンクルの切り札を使おうとする。
「魔眼!」
同じギルドメンバーだ。カーバンクルのやばさはみんな知っている。カーバンクルを魔眼で封じられたチロルは接近される前にゴールドシープに乗り、空に避難する。そして他の召喚獣たちが戦いを挑む。
『竜技! ドラゴンクロー!』
ドラゴンの爪を宿した一撃で召喚獣たちがぶっ飛ばされた。
「そんな…でも空までは飛ばないでしょ!」
チロルが魔法詠唱に入ると竜騎士の内、一人が奥義を口にする。
「竜化!」
一匹の巨大なドラゴンとなる。へぇ、やっぱりドラゴンになれるんだ。
「うそ…」
チロルはドラゴンブレスの直撃を受けて負けてしまった。
「勝者! 『シグルドの弟子』!」
歓声が響く。やはり通常のクラスでドラゴンに成れる衝撃はそれだけの価値があった。
帰り道、リリーたちは元気がなく、ホームで話しかけると竜騎士の話をした。
「リリーたちの技が…」
「ドラゴンに成れるなんて…」
「…勝てる自信がない」
「…うむ」
すっかり自信喪失だ。やれやれだ。
「俺は試合を見て、勝てそうでホッとしたけどな」
『え!?』
本気で驚いているな。
「いいか? まず彼らの竜化。リリーたちの竜化とどちらが強いかよく考えてみろ」
『え? あ』
彼らの竜化は通常のドラゴンだった。対するリリーたちは名持ちのドラゴン。比べるまでもないだろう。
「で、でもタクト! 凄いパワーだったよ!」
「元々騎士の人たちで力のルーンを使っているんだから当然だろう?」
『…』
全員が口をポカンとしている。それがなんとも面白い。
「ショックだったのはよくわかるがだからこそ冷静に相手を見るようにな。ドラゴンの血を引くのはドラゴニュートなんだ。血を引かないドラゴンに負けるはずがない。それぐらいの気持ちを持つようにな」
『えへへ~』
「? どうした?」
「ううん。タクトにそう言って貰えて嬉しかっただけ~」
なんか凄いご機嫌になった。まぁ、自信を取り戻せて良かった。ログアウトする前にトーナメント表を見て気づいてしまった。召喚師で一回戦突破したの俺だけじゃん!




