#607 決闘イベント本選Aブロック一回戦
さて、今日はいよいよパーティー戦だ。パーティー戦は個人戦と違い、二日にまたがって行われる。
まずはAブロックだ。第一試合の対戦カードは『闇討ちこそ正義』と『ゼンレン』だ。『ゼンレン』はニックさんたち錬金術師パーティーだが、『闇討ちこそ正義』は初見だ。その姿は黒い布で顔を隠す怪しげな集団だった。昨日の在日米軍の人がいたら酷い絵になっていただろうな。
「試合、開始!」
『武装錬金!』
ニックさんたちはたくさんの武器を作り出し、投げようとする。しかしその瞬間、敵の姿が消えた。これは凄い…気配どころか音まで聞こえない。
『ま、まだ最初の位置にいるはずです! 一斉投擲開始!』
武器を投げるが当然のように外れ、背後から首に短刀で刺されてニックさんたちが倒れる。見事な暗殺術だな…最初に当たらなくて良かった。
「勝者、『闇討ちこそ正義』!」
一部の人から歓声が上がる。たぶん闇落ち職の人たちが彼らに賭けている人だろう。
次は第二試合。対戦カードは『魔双騎士団』と『剣に魅入られた者の集い』だ。『魔双騎士団』は魔法双剣士のパーティーだ。『剣に魅入られた者の集い』は剣豪パーティーで男らしく剣一本。ただし、大きさは様々だ。どうなるかな。
「試合開始!」
『ミスト!』
試合開始と同時に『魔双騎士団』は最初に霧を発生させ、目くらましを実行する。それに対し、『剣に魅入られた者の集い』の大剣が使いが思いっ切り、大剣を振り回し、霧を吹き飛ばした。
「テレポート!」
「な!? この! あぶねーな!」
テレポートの奇襲に辛うじて対応した男は力任せに押し返す。
「アクセラレーション!」
「く!?」
うんうん。これが魔法剣の使い方だよね。わかりますとも。すると『剣に魅入られた者の集い』の一人が援軍に加わった。
「なるほどね」
この作戦は今回のルールならではだな。上から見ている人たちは気づいている。現在戦闘が行われているのは三箇所。一対二が二箇所。二対二が一箇所。『魔双騎士団』の二人が戦闘に参加していない。
『よし! 一人倒したぞ!』
『こっちもだ! うん?』
二本の魔法剣を構えた二人がイリュージョンを解除して現れる。
『しまっ』
「融合魔法! ボルティックミスト!」
「融合魔法! ダイヤモンドストーム!」
広範囲に発生した感電する霧に『剣に魅入られた者の集い』たちは麻痺し、そこにダイヤモンドダストの猛吹雪が襲い掛かり、全滅した。
派手な魔法で観客は大盛り上がりだ。個人戦では魔法はほとんど観れなかったからな。
「今のはタクトさん?」
「目くらましと同時に魔法役の人を隠して、アクセラレーション使いの人たちが複数人数を相手をする状況を作ったんだ。いくら人数が減っても一人残っていれば勝利出来るからな」
囮役と決め役をしっかり役割分担した作戦勝ちだな。
第三試合は『ライヒ第一師団』と『鉄鋼銃部隊』だ。俺の中で優勝候補の満月さん、与一さんパーティーの登場だ。相手は…おや?見覚えがあるな。
「バエル戦の時に最初に指揮をしていた人だよ」
「あぁ! ってメルたちか」
「こんにちは。リリーたち」
『こんにちは!』
今日も元気なリリーたちだ。こっちは穏やかな空気の一方でフィールドは何やら揉めている。
「たぶん満月さんたちに向こうがいちゃもんつけているんじゃないかな?」
「あたしたちのこと、嫌いみたいだからね~」
すると運営のNPCが出てきた。たぶん警告したな。するとリーダーの男が運営のNPCに指をさして何か言っている。これはアウトじゃないか?それをパーティーメンバーの人たちが必死に止めているがどうやら手遅れだったようだ。
リーダーだった人が消える。あーあー。パーティーメンバーの人たちが頭を抱える。そりゃあ、そうなるよ。
「『ライヒ第一師団』の不適切行動により、失格。勝者! 『鉄鋼銃部隊』!」
歓声も何もなし。全員心ではあーあーだ。
「可哀想に…あの人たち、戦争イベントに参加出来なくて、その間一生懸命レベル上げをして、この決闘イベントに出場したんだよ」
「あれだとたぶんアカウント停止されちゃったから、ライヒの大ギルドの一つは自動的に消滅することになるかな?」
「…帝さんたち、可哀想」
「どういうことだ?」
強いメンバーが増えるならラッキーじゃんと思ったがそんな簡単な話ではないようだ。
「まずメンバーが増えるということはその分、お金が掛かるということなんだよ。私たちはルインさんたちがいるから安定しているけど、ライヒは生産職のパイプが弱いから安定した収入が得られないんだよ」
「だから依頼クエストでお金稼ぎをして、なかなかフィールド攻略が出来ないのがライヒギルドが抱えている悩みの種らしいよ」
ルインさんたちの偉大さを痛感したよ。そこにまた人数が増えると大変なことになるわけだ。最悪だと人数切りが発生する恐れがあるらしい。今まで一緒に頑張ってきた人たちを切るのは嫌だな。
そんなトラブルがあったが、次は第四試合。『エレメントマスター』と『ライヒ暗黒騎士団』だ。ルークの登場だな。さて、ルークのメンバーは…ヴィヴィアン、ツリーゴーレム、キングトロール、アルラウネ、ハマドリュアスだ。
ツリーゴーレムは俺たちの宿敵、ウッドゴーレムの進化でアルラウネはケサランパサランからマンドラゴラ、その次の進化だ。ここで疑問が発生する。
「エレメントマスター?」
「疑問に思ってやるなよ…」
「でもあたしたち全員そう思ったよね~」
チロルたちだ。なんだかんだで俺の周囲にギルドメンバーが集まってきたな。敵は…お!リーダーの人は身に覚えがあるな。以前の決闘で鉄心さんと決勝戦で戦った人だ。団体戦で出ていたんだな~…意外だ。
さて、これは強力な人が来たな…ルークがどう出るか見ものだな。
「試合、開始!」
俺は前言撤回せねばなるまい。ルークの奴…何やっているんだ。
「ユニゾンエレメント! 更にシンクロバースト!」
ユニゾンエレメントで精霊の強化分をシンクロバーストで召喚獣の加算させたコンボは見事だ。ただこれは一回戦で使用するようなコンボじゃない。
「大方、満月さんと与一さんには勝てないから一回戦だけでも勝とうとか考えたんじゃないか?」
「それなら満月さんたちに使うべきだと思うが?」
「…だよな。弁護出来ねーわ」
「だよね。負けちゃえばいいのに」
チロルが闇落ちしそうになっているぞ。ルーク。
ただこの試合はルークが思っているほど、楽勝の展開にはならなかった。ツリーゴーレム、キングトロールの素早くとんでもない攻撃を暗黒騎士の二人がぐぐりぬけ、ルークに迫るとルークの大好きなアルラウネ、ハマドリュアスがルークの身代わりになって、剣に貫かれてしまった。
「うわぁあああああ!?」
アルラウネ、ハマドリュアスを更に蹴り飛ばし、ルークを刺そうとしたところにヴィヴィアンの聖剣解放が放たれ、二人の暗黒騎士を吹っ飛ばしたが、ガードされていた。
ヴィヴィアンの聖剣解放を防いだのは見事だが、続くキングトロールの攻撃はガード出来なかった。
「うわ! うわ! だ、大丈夫?」
アルラウネ、ハマドリュアスは無事だったがルークにリーダーの暗黒騎士が迫っているのを見るとハマドリュアスが体を貼って守ると両断されたハマドリュアスは暗黒の炎で燃やされて死んだ。
「終わーー何!?」
生き残ったアルラウネが植物召喚でリーダーの暗黒騎士は巨大人食い植物に食べられるが、ルークの様子が目が虚ろになっており、隙だらけのルークは別の人に斬られて倒された。
「タクト…」
「これが決闘なんだ。仲間が倒されたからって立ち止まっていたら、勝てやしない。そのせいで負けたら、倒された仲間まで自分を責めてしまう。余程ショックだったんだろうがハマドリュアスの事を考えたら、止まるべきじゃなかったな…」
『うん(はい)…』
俺はリリーたちの頭を撫でる。あまりいい光景では無かったからな。
「ルーク、大丈夫かな?」
「精神的にはかなり効いただろうな…あいつのハマドリュアスの溺愛っぷりは異常だったから。もし心配ならお前が行ってやれ。それぐらいの干渉は良いだろう? ギルマス」
「俺たちもこうして話してしているからいいだろう。行ってきてやれ」
「うん!」
その後、お昼休憩になったところで俺にインフォが来た。
『プレイヤー『ルーク』にハラスメント警告が押されました』
俺は頭を抱えながらギルマスとして通信を送った。
『…何が起きた?』
『『違うんです! タクトさん!』』
だって、インフォが来たし…ねぇ?話を聞いたら感極まってチロルに抱きついたルークをチロルがどかそうとしたら、そこにハラスメント警告の画面が出て、チロルが押してしまったらしい。
「ギルマスとして言っておくが、合意だとしてもほどほどにしておいてくれよ。そんなのでアカウント停止者が出たら、俺は責任を取ってギルマス辞めるから」
『『だから~!』』
ま、このぐらいにしておいてやりますか。お昼を食べた後は俺たちの出番だ。俺が考え抜いた作戦をお披露目するとしよう。
 




