#61 新武器と謝罪
バイトが終わり、早速冒険者ギルドへ向かう。そこでフリーティアの入国審査が行われた。といっても俺の場合は召喚獣を全部見せて終わった。一応把握しないといけないらしい。それでお金を支払い、許可証をゲット。今日手配したから出発は明後日になるらしい。
その前にまだやり残していることを片付けないといけないな…とりあえずはレベル上げだな。新しい国に行くってことは強いモンスターに出くわすってことだもんな。
フレンドからメッセージが届いた。クロウさんだ。
『依頼の片手剣と杖、防具が出来たぞ。悪いが受け取りに来てくれ』
おー、完成したのかナイスタイミング。クロウさんには人狼の爪と貯めていた水性石。ミュウさんにはピラニアの皮と人狼の皮を渡しておいたので、どんな出来になっているか楽しみだ。早速クロウさんの所に向かった。
「「「「お邪魔します」」」」
「おう。早速来たな…あー、昨日は悪かったな…なんというか大丈夫か?」
「クロウさんたちのせいじゃないことはわかってますし、大丈夫ですよ」
「そうか…しかしキレたお前さんがあそこまで強いとは思わなかったぜ」
「その話は終わりにして貰っていいですか?リリーやイオンが気分を害するので」
俺がそういうとリリー達が文句を言う。
「別に気分悪くなったり、しません」
「イラっとするだけだもん」
それは気分を害しているんだよ。リリー。
「そうだな…とりあえず俺の出来上がった品から渡すぞ」
「拝見します」
人狼の大剣:レア度3 重さ30 耐久値40 攻撃力+20
追加効果:水属性付与(微)
人狼の爪で作られた大剣。追加効果で水属性も僅かに付加されている。
切れ味はあまり良くないが、しかしちゃんと切ることが出来る
水石の短剣:レア度2 重さ5 耐久値25 攻撃力+7
追加効果:水属性付与(微)
水性石で作られた短剣。
追加効果で水属性も僅かに付加されている。
「おぉー。水属性付いたんですね」
「あぁ。おかげで鍛冶スキルに水属性付与が解放されてな。大助かりだったぞ」
それはよかったですね。
「それでこれが預かり物だ」
「拝見します」
ピラニアのローブ:レア度2 重さ5 耐久値25 防御力+10
追加効果:火属性耐性(微)
ピラニアの皮を基盤に人狼の皮で作られたロープ。
追加効果で火属性耐性も僅かに付加されている。
人狼の靴:レア度2 重さ5 耐久値25 素早さ+5
追加効果:火属性耐性(微)
人狼の皮を基盤にピラニアの皮で作られた靴。
追加効果で火属性耐性も僅かに付加されている。
クスノキの杖:レア度2 重さ5 耐久値25 魔法攻撃力+15
クスノキで作られた杖。
普通の木よりも魔法攻撃力が高い。
クスノキの木刀:レア度2 重さ5 耐久値25
クスノキで作られた木刀。
形状は刀だが軽いので、片手剣スキルで使うことが出来る。
おぉ!なんかいいぞ。靴はおまけらしい。俺がウルフマンに蹴り技を使っていたから必要だと思ってくれたらしい。ミュウさんには感謝のメールを送っておこう。
しかし武器を見てふと疑問が出た。
「そういえば攻撃力や防御力、素早さ、魔法攻撃力って筋力や魔力とかとどう違うんですか?」
「あぁ、その疑問か…俺達もわからないから、現在検証してるんだが、筋力と攻撃力は別らしいな」
あ、やっぱり違うんだ。
「あくまで仮説だが、筋力と俊敏値、様々なスキルレベルで攻撃力が決まっているというのが今の仮説だ」
ほぅ、それは確かにこのゲームならやりそうな設定だな。武器の威力は純粋な筋力と武器を振るうスピードで決まるからな。
「ということは魔法攻撃力は魔力と器用値とスキルですか?」
「それが今の仮説だな。防御力はステータスにある通りなのか筋力とかが影響受けているのか謎だ。魔法防御力は魔力と防御力が今の仮説だな。ちなみに運営に問い合わせたら、お答えできませんって返事が来たらしい。つまりは自分たちで答えを見つけろってことだな」
なるほどね。
「納得しました。ではお金を払いますね」
「はいよ。大剣が1000G、短剣500G×2、杖500G×2、靴500G、ローブ500G、木刀300G。合計4300Gだ」
結構な出費だが、まぁ大丈夫だ。昨日色んなプレイヤーを倒さなかったら、やばかった。
「それじゃあ、俺たちはこれで」
「あー、ちょっと待っててくれないか?」
「なんでしょうか?ひょっとして昨日の件ですか?」
「当たらずも遠からずだな。ルインがお前さん達に会わせたい人がいるらしいんだ」
その話からすると昨日あの場にいた人だな…全員はログイン禁止にならなかったって話だし、とはいえ待たないわけにはいかないか。
「わかりました」
待つこと数分、ルインさんと女の人が来た。その女の人を見て、リリーとイオンは新しい武器を構える。
あの人は…一回アーサーを注意した人だな。
「リリー、イオン。武器を下ろせ」
「でも、タクト! あの人は!」
「わかってる。だが、戦うつもりなら俺達をフィールドで襲うはずだ。すぐに戦闘にはならないから武器を下ろしてくれ」
「…わかりました」
「タクトがそういうなら…」
リリーたちは武器を下ろして、俺たちは彼女と対面する。彼女は円卓のメンバーで弓術師だった人だ。
「まずは対話に応じてくれて、ありがとう。私は円卓のメンバーの一人でトリスタンです」
「召喚師のタクトです。詳しい話は何も聞いていないんですが、何か俺たちに話があるんですね」
「えぇ。昨日の一件について謝罪したくて…本当にごめんなさい!」
そう言って彼女は頭を下げた。昨日の今日で謝罪に来るとは凄いなこの人…。
「謝って許されると!」
イオンが怒りの声を上げる。俺はそれを止める。
「イオン、やめろ」
「でも、タクトさん!」
「この人は自分の過ちをすぐに謝りに来たんだ。なかなか出来ることじゃない。誠意には誠意で答えるべきだ」
「タクトさん…わかりました」
いい子だ。お前たちには怒りに取り憑かれて、クズな人間にはなって欲しくない。人間じゃないけど、そう思わずにはいられない。
「その子達に敵意を向けられると流石にダメージが来るわね…でもそれだけの罪を私はあなたたちに与えたことを理解してるつもり…だからこそ、まずは謝らないとダメだと思って…」
「俺たちにこうして謝りに来たわけですね?」
「えぇ」
「話の内容は分かりました。俺はあなたを許します。酷いことをしたのは俺も同じですから。そして俺からも謝罪します。あんなことをしてすみませんでした」
「あなたが謝る必要はないわ。でもありがとう。正直許してもらえるとは思ってなかったわ。昨日とはまるで別人ね」
「これでも理性を保つの大変なんですよ? アーサーやアグラヴェインがいたら、昨日の再来になっている自信があります。あの二人とテイマーたちだけは絶対に許すことは出来ません」
アーサーはリリーたちをいじめて泣かした奴だ。アグラヴェインは恐らくあの作戦を考えた人物。アーサーが知恵者とは思えなかったからな。そしてテイマーたちは恐らく依頼者だろう。
「そうでしょうね…でもあいつらならアカウント停止やゲームを辞めることになったわ」
へ?
「アーサーたちがアカウント停止になったんですか?」
「えぇ。運営はPKを公認しているけど、負けを認めた決闘なのにそれを無視して、攻撃した行為は流石に見逃せ無かったみたいね。それでアーサーに警告をしてきたんだけど、アーサーが逆に抗議したのよ。そしたら、問答無用だったわ」
それはそうだろうな。しかしリリー達からしたら勝ち逃げされた形になったか…俺的にはアーサーともう一度対戦して、リリー達の手でボコボコにしてもらいたかったな。
トリスタンさんによると他のメンバーは自主的にゲームを辞めたらしい。彼女によるとまた俺に会うのが怖いし、リリーたちを泣かしたことで彼女たちのファンから狙われる恐れがあるからという理由らしい。つまり謝りもせず完全に逃げ出したわけだ。
そして俺たちは事件のことをトリスタンさんから聞いた。
まず発端は俺がテイマーたちを負かしたところから始まる。俺に負けて町に帰ったあいつらは偶然アーサーたちと出会い、そこで俺にPKされたと話したそうだ。
「その話は本当なのかしら?」
「結果的にはそうなりますけど、挑んできたのはあいつらですよ? わざわざストーキングまでされましたから」
「やっぱりそういうことだったのね…」
話を戻すとテイマーたちの話をすっかり信じたアーサーは俺のことを極悪人と判断するようになり、リリーたちを俺から助ける正義感に陥ったらしい。そしてアグラヴェインはアーサーを注意することなく、あの作戦を考えた。
「あなたや他の人はアーサーたちの計画を知らなかったんですか?」
「えぇ、その通りよ。私はアーサーから当日に『僕らは正義の騎士団として極悪人に制裁を実行する!』と言われて、やたら怒っていたから信じたんだけど…ここまで馬鹿だったとは思わなかったわ。まさか私怨だったなんて…最悪よ」
完全に正義感が空回りした感じだな。トリスタンさんは続ける。
「…でもね。関係ないでは済まされない。作戦の指示に従ったのも事実だもの。だからこそ謝りに来たの」
「一応聞いておきますけど、その謝罪はあなた個人のものですか? それともあの場にいたメンツを代表しての謝罪ですか?」
「勿論、私個人の謝罪よ。代表しての言葉ならアーサーがするべきだと思うわ」
だろうね。これでアーサーの指示で謝りに来たとか言っていたら、俺は許していない。
「分かりました。後は…リリー達はどうする?」
俺がリリー達に聞く。俺が許すのとリリー達が彼女を許すかは別問題だからね。
「私はタクトさんが許すなら許します」
「リリーも!」
リリー達はそう言うが…それじゃあダメなんだよ。
「リリー、イオン。それじゃあダメだ。俺が許したからではなく、お前たち自身が彼女を許すか決めてくれ」
そこが一番重要なんだ。トリスタンさんが緊張する中、リリーとイオンは悩みながら答えを出す。
「リリーは…お姉さんたちがしたことは許せない。でも、必死に謝るお姉さんは悪い人じゃないと思う。だからリリーは許してあげようと思う!」
「私はあなたから実害は受けませんでしたが、タクトさんを危険に晒した事は許せません。ですがあなたの真摯な態度を見て悪い人じゃないと思いました。なので許してあげようと思います」
二人とも立派に考えて答えを出したな。俺はこの決断を評価したい。悪いことをした人を許せる強さを二人は持っているってことだからな。
「ありがとう」
トリスタンさんが二人に礼をいい、二人も笑顔を見せる。これでこの件は終わりかな?あ、一応聞いておかないといけないことがあった。
「そういえば最初は掲示板にリリーたちのことを載せなかったのを怒ってたみたいですけど…あれってテイマーとの依頼とは別ですよね?」
「その通りよ。ああ見えてアーサーたちはあなたたちのことが好きなのよ。だから彼女の情報を出さないタクト君に元々怒りがあったみたいね。それで依頼の話が入ってきて暴走した感じになったのよ」
え…好きなのにあんなことをしたのかよ…なんというか…。
「「「気持ち悪い!!」」」
リリー達が断言する。好きなのにいじめて泣かせるってどんだけだ。普通に引いたぞ。
「同感よ…あいつとは幼馴染なんだけど、私にあなたが悪いだの、僕が正義だのうるさかったから一発叩いて、関係を終わらせたわ」
うわー、そこまでやっちゃったか…ちょっと責任を感じなくもない。そこでトリスタンがフォローする。
「あなたは気にしなくていいわよ?元々、あいつにはついていけないとは思ってたからね」
そうなんだ。いや、そうだろうな…リアルでもあの性格だとしたら相当やばいやつだ。
「これからどうするんですか?」
「私はしばらく自主的にログインを禁止するわ。それで信頼が回復するとは思えないけどね。人によっては逃げてるって思われるみたいだし」
俺がさっき思った感じか。そこでルインさんが話す。
「トリスタンもさっき話したけど、円卓のメンバーは今、掲示板で凄い叩かれているの。特にリリーちゃんたちのファンの人たちが殺気立っているわ。これに目を付けたPKのプレイヤーも動き始めているみたいなのよ」
嬉しいんだけど…殺気立つのはなぁ~。怒りを爆発させた俺が言うのもなんだが…。
「なるほど。今後はどうするんですか?」
「ゲームが続けられるなら続けたいと思っているけど、アカウント停止するかも知れないわ…寧ろそうしたほうが」
そこで俺は口を挟む。
「それでいいんですか?」
「え?」
トリスタンさんが俺を見る。
「俺に言わせたら、それこそ逃げです。ここでやめたら、あなたはずっと後悔したままですよ? ですから逃げずに続けてください」
「…厳しいのね」
「もちろん協力はするつもりです。何をすればいいかわかりませんが」
そこでルインさんが提案する。
「それなら掲示板でこの情報を流せばいいわ。しっかりリリーちゃんたちがあなたを許している動画があれば、ファンの人も納得するでしょう」
なるほど。確かな証拠があれば良い訳か。
「それじゃあ、撮り直しますか」
「その必要はないわ。さっきのを撮影済みよ。後はあなたたち次第」
俺とトリスタンさんは動画の公開を頼んだ。しかしルインさんはこうなることが分かっていて、準備していたな。流石としか言い様がない。
最後に俺はトリスタンさんとフレンドになった。協力するといった以上、連絡は取れるようにしておかないとダメだからね。
トリスタンの真剣な謝罪が少しでも伝われば幸いです。そしてアーサーとアグラヴァインはアカウント停止にしました。遅いなど色々意見があると思いますがご了承ください。
次回はリリーたちがスライムと戦います。もう展開は読めているとは思いますがお楽しみにです。