#593 決闘メンバー決定と決闘イベント予選開始
近衛家の自室で初めて、ゲームにログインする。今日の昼からイベント開始だからだ。ログインした俺はみんなを集める。
「それじゃあ、メンバーの発表をするぞ」
『は、はい!』
全員期待と不安を宿した目でこちらを見る。
「まずは…リリー」
「やったぁあああ~! ありがとう! タクト!」
リリーが飛び回り、地面を転がり出し、喜びを表す。
「どれだけ嬉しいんですか…」
「次はイオン」
「ま…まぁ…当然ですね!」
「…イオンも大概」
ノワを追い掛け回すイオン。俺は指名を続けよう。
「次は恋火」
「え!? あたしですか!? は、はい! 頑張ります!」
恋火は大会で固まる危険があるが今回はチーム戦。ガチガチになるならフォローしてやれる。
ここまでは順当。俺が悩んだのはここからだ。
「次はノワ」
「…ん。呼ばれた」
「きゃ!? いたた…急に止まらないで下さい。ノワ」
「…ごめん」
そして最後だ。俺が選んだ。
「ユウェル。お前だ」
『…は?』
全員が何言っているんだ?という顔をする。まぁ、普通そうなるだろう。
「え? わたしが選ばれたのか?」
「あぁ。頼むぞ。ユウェル」
「あ…あぁ! 頑張る!」
すると当然異議が出る。
「私が選ばれないのはわかりますが…なぜユウェルを選んだんですか? 盾役が必要ならユウェルよりブランを選べはいいと思いますが」
「わたしも盾役をこなせます。マスター…納得のいく説明を求めます」
「そうだな…それじゃあ、ユウェルを選んだ理由を話そうか」
俺もガチメンバーで挑むつもりならイクスを選んでいただろう。ただイクスを使うには問題がある。
「予選は大丈夫なんだけどな。決勝にはシルフィ姫様を始め、他国の王様たちが集まるそうだ。イクスを使うと当然エクスマキナの武器に目を付けるだろう。この時点でイクスを使うわけには行かなくなったんだよ」
「なるほど…納得しました」
運営はこれを見越して、他国の王様たちを招待したんだろう。
「次にブランや他のみんなを選ばなかった理由はやはり手の内を知られているのがでかい。その点、ユウェルは完全に未知の存在だ。俺たち自身がどうなるか分からないぐらいだからな。今回はユウェルの可能性に賭けて見たくなったのさ。みんなには悪いと思うけどな」
するとブランが話す。
「いえ。そういうことなら私に異論はありません。ユウェル、主たちをお願いしますね」
「ブランの分までみんなを守ってみせるぞ!」
ブランがユウェルの頭を撫でている一方でリビナたちが話す。
「…やっぱりタクトってドラゴニュートが大好きなのかな?」
「うむ…怪しいのじゃ…」
「まぁ、戦闘においてドラゴニュートが特化しているのは紛れもない事実よ。盾役で選ぶなら特化しているユウェルを選ぶのは当然の判断だけど…疑惑は晴れないわね」
変なことを言うなよ…俺も選んだ時に四人のドラゴニュートを選んだことに驚いたもんだが、リリーの代わりにファリーダを選んでもパワーにおいてリリーが有利で武器も豊富だ。
イオンの代わりにリアンを選んでも、リアンはどちらかと言うと魔法、歌によるバフの遠距離サポートタイプ。決闘には向かないだろう。
恋火の代わりにイクスや和狐を選んでもイクスは先程の理由でアウト。決闘ならやはり和狐より恋火に分がある。
ノワの代わりの候補はリビナとセフォネだったが、リビナは第四のクラスチェンジには加護があって、それによっては無効化されてしまう。アイテムでの対策もされやすい。同じくセフォネも俺がバエルの時にした氷結作戦は結構知られている。やはり俺たちの中で一番のトリックスターはノワだろう。
別にバランス重視で選ばなくて良かったんだが、特化していると隙が生じやすい。結果的に俺はこの編成が一番強いという結論に至った。
それじゃあ、俺は新しく作られたフリーティアのコロッセオに向かう。
すると俺の危惧が現実のものとなる。
「誰も戦ってくれないよ? タクト」
「というか私たちを見て、叫ばれるのはどうにかならないんでしょうか?」
みんな「でた~!?」とか「うそだろ~!?」とか「本物!?」とか悲鳴や喜びの叫びをしている。
「俺は先に言ったぞ? 予選はたぶん退屈になるって…それでも中には俺たちの力を試そうとする人もいるはずだ。油断はしないようにな」
しかし俺たちの開幕ギブアップによる連勝は止まらない。まぁ、手の内が大体わかっている相手と戦い、自分たちの情報を渡す奴は中々いないだろうな。
するとだんだん知り合いと当たる率が増してきた。どうやらランダムと言っていたが連勝が続いているプレイヤー同士は当たりやすくしているみたいだな。
「げ…兄ちゃんたちだ」
「折角連勝を続けたのにリセットだね」
「まぁ、仕方無いですよ」
メルたちまで逃げ出すし、リリーたちがお願いする中、開幕ギブアップ。与一さんと満月さんのパーティーもルークとチロルにも避けられた。しかし中には俺たちと戦ってくれた人もいた。
「恩を仇で返す形になって、すみません」
「決闘なんだ。構わないよ」
彼らは俺が大筒をプレゼントしたプレイヤーパーティーだった。決闘開始のコールがされる。
『これが男の! 生きる道!』
大筒が放たれると恋火が飛び出し、恋煌と陽火を抜刀すると大砲の弾を斬り裂き、更に前に出ると大砲の爆風に乗って更に加速し、大筒パーティーの全員を斬り落とした。
『つ、強い…』
他にもリリーたちのファンが向かってきたりしたが、リリーにファン心理が通用せず、全員ぶっ飛ばれた。
「俺は…イオン様のファン…なのに…」
「恋火たんに斬られたかった…」
「ノワ様…」
「リリー様…ご馳走様でした!」
リリーが俺の方を向く。
「タクト」
「何も聞くな」
「リリーはそのままでいいと思いますよ? おかげで私たちは安全なわけですし」
「? なんだがよくわからないけど、わかった!」
他にも闇落ち職のパーティーとかいたが、俺を見た瞬間逃げ出した。その後も連勝は止まらず、俺たちは無敗で決勝トーナメントの出場が決定した。
予選が終わり思ったことは凄い無駄な時間を過ごした気がする。それだけだった。




