#592 過去の夏祭り事件
これは今から四年前の話。俺はこの春に近衛家の養子となった。
来たときは佳代姉たちとの関係は最悪だった。いきなり知らない男が家族になったら、仕方無いが今でもあの時の辛さは覚えている。
「何こっち見てるの? 気持ち悪い」
俺はご飯を食べて顔を上げて、視線があっただけでこれだったのだ。因みに佳代姉は当時女子高生だ。それに対して理恋と未希は小学生だ。
「家から出てけ~!」
理恋にはそう言われながら、物を投げられ、未希は俺からひたすら逃げ続けた。
因みに両親がいるとそういうことは言わなくなる。それでも俺が嫌である感じは隠しきれていなかった。
一応フォローをしておくと佳代姉たちは美人で有名で当然男は仲良くなろうと寄ってくるわけだが、それが三人の男のイメージになってしまっていたのだ。
そんな関係最悪の転機となるのが、これから話す山の神社の夏祭りでの事件だ。
俺は学校で友達になった真也と夏祭りの屋台制覇を目指していた。対する佳代姉たちは三人で夏休みに行ったのだ。
「ねーちゃん! ねーちゃん! あれ、食べたい!」
「…わたあめ」
「はいはい。順番にね。すみません。フランクフルトを一本下さい」
「まいど! 熱いから気をつけてね」
ここまでは普通の夏祭りだった。しかし理恋が食べ歩きをしていると高校生のグループの一人にぶつかってしまう。
「おいおい、おいおいおいおい! どうしてくれるんだよ! 俺の浴衣にケチャップが付いちまったじゃねーか!」
「ご、ごめんなさい! 今、拭くので!」
「ったく。そんなんじゃ落ちねーよ! おい、神社の水のところまで行くぞ。お前らももちろん一緒に来るよな?」
「…はい」
こうして佳代姉たちは人気がない所に連れていかれることになる。
その頃は俺は真也と射的で勝負していた。
「すっごい! ねぇねぇ。お兄ちゃん。あの大きいぬいぐるみ落とせる?」
「あれは一人じゃ無理だね。誠吾、会わせてくれる?」
「任せろ」
俺と真也は協力撃ちで巨大なぬいぐるみを落とした。
「サンキュー、誠吾。ほい、プレゼント」
「あ、ありがとう! お兄ちゃんたち! 大切にするね!」
「さて、勝負の続きを」
「もう勘弁してくれ~!」
屋台のお兄さんが泣いたところで俺たちは次の屋台に行こうとすると偶然佳代姉たちを見つけた。
「(あの三人が男と一緒に? それに取り囲まれて歩いているような…)」
「…悪い。真也。屋台潰しはまた今度にしてくれ」
「ん? どうかした?」
「ちょっといい感じじゃないのを見つけてね。行ってくる」
ケチャップが付いた男は水で洗うが当然落ちない。
「チ! 全然落ちねーな。さーて、これどうしてくれるんだ? あぁん?」
「もちろんきちんとクリーニング代は支払います」
「それだけか? ちゃんと誠意を見せろよ!」
「きゃ!?」
佳代姉は男に押され、倒れる。
「ねーちゃん!」
「…離して!」
「おー! 怖い怖い」
「どこまでそんな顔が出来るのか楽しみだな」
理恋と未希も捕まり、倒れた佳代姉に男たちが近付く。
『だ、誰か助けて!』
すると未希を掴んでいた男の股関を俺は思いっきり蹴り上げ、男は倒れる。
「ぐほぉおおお!?」
「え?」
「何する気か知らないけど、そういうの犯罪なんじゃないの?」
『君(兄ちゃん、お兄ちゃん)!』
すると理恋を掴んでいた男が俺に殴りかかってきた。俺はパンチにカウンターを合わせ、ぶっ飛ばす。
「なんだてめぇは!」
「俺は…そうだな…この子たちの家族かな?」
「ふん! 嘘も休み休み言え! この三人の他に兄弟がいるなんて聞いたことがない!」
「大方いい格好したいだけだろ! ぶっ殺してやるよ!」
男たちは刃物を取り出す。これで正当防衛成立かな。
すると俺に注意を向けたことで佳代姉は男たちの包囲から逃げ出そうとする。
「おっと、何逃げーーッ!?」
男に石が命中し、佳代姉は逃げることに成功する。男は頭から血を出し、完全に怒りの矛先を俺に向ける。
「…ここは危ないから早く祭りに戻って、警察を呼んで来てくれ」
「で、でも!」
「お兄ちゃんの強さを見たろ? こんな奴等に負けないから大丈夫さ」
「う、うん! すぐに警察を呼んで戻ってくるから!」
これで三人はいなくなったから俺も久々に本気で戦える。家族を助けるためだ。やっていいよね?じいちゃん!
これが俺たちに起きた夏祭りの事件。佳代姉たちの通報でやって来た警察が見たのは、ぼこぼこにされた男たちとところどころ切り傷がある俺の姿だった。
流石に浴衣と足場の悪さで何回か切られてしまった。それでも致命傷ぐらいは避けられる。
しかし血を流していたから俺は男たちと救急車で病院送りになった。そこでじいちゃんが見舞いにきた。
「…派手にやったのぅ。誠吾。じゃが、切り傷を受けるとはまだまだじゃ!」
「…どうせ何をやってもまだまだとか甘いとか言うんでしょ?」
「まぁの! じゃが…良い男の顔をするようになったのぅ」
この時のじいちゃんの言葉は生涯忘れないだろう。それほど誇らしく感じられる言葉だった。
「…そうかな?」
「そうじゃよ」
「…じいちゃん、俺は天国にいる二人に誇っていいのかな? 新しい家族を守れたって」
「わしは誇って良いと思うぞ?」
あの時、俺は初めて死んだ両親に自分を誇った。
佳代姉たちを襲った犯人たちは防犯カメラの映像で犯行が計画的であることが証明され、逮捕された。
銃刀法違反、殺人未遂、強制性交等罪が該当するから当然だろう。そしてこの街にも家族は居られなくなり、引っ越したらしい。因みにボロボロになった俺の浴衣代はしっかり請求した。
すぐに退院した俺は佳代姉たちの両親から感謝され、佳代姉たちからもお礼を言われた。
「助けてくれてありがとう…そ、それから今日から君のことはせい君と呼ぶから!」
「…はい?」
「あたしはにーちゃんって呼ぶね!」
「…私は兄様」
あの時は突然のことに思考が停止したんだよな。
「…ホワイ?」
「どうして英語なの? 理由は君、じゃない。せい君が家族って言ったからだよ。それとけじめかな?」
「けじめ?」
「私たちはせい君を誤解していたみたいだから…だからこれは決定事項です! お姉ちゃん命令!」
めちゃくちゃだと思った。しかし佳代姉の要求は止まらない。
「それから私たちのことは名前で呼ぶように! ほら! 言ってみて!」
「いぃ!? えーっと…理恋と未希…それから…あ~…佳代お姉ちゃん? いや、今のなし。佳代姉で」
「なんで却下したの!?」
恥ずかしいに決まっている。佳代姉が俺なりの最大限の譲歩だった。こうして俺はある意味、この日から近衛誠吾をスタートした。
余談だがこの事件後、佳代姉たちに話し掛ける男は激減した。理由は佳代姉たちに手を出すと一人で刃物を持った男たちを病院送りにする兄弟が出て来ると知れ渡ったからだ。
これがきっかけで賢吾は勘違いから俺と大喧嘩することになり、更に俺の強さを聞いた桃子さんに戦おうとかしつこく誘われたりすることになる。本当にこの事件は俺の転機となる事件だった。
そんな事件があったからそれから祭りに行く時は必ず俺が付いて行くことになった。しかし無理に行く必要はないだろう。
「まぁ…夕飯で少し屋台で買い物するぐらいでいいんじゃないか?」
「にーちゃんのおごりだよね!」
「…かき氷」
ゲームで食べれるのにそれを選ぶか。予定が決まったところでゲームにログインしよう。




