#58 事後の学校生活
朝です。目覚めは最悪です。昨日、ひたすら暴れまわっても、全然物足りない。気分が晴れることはない。わかっていたことだ。己の狂気は決して晴れることはない。殺しまくってその果てに殺す相手がいなくなれば残るのは空しさだけだ。
昔の俺なら、俺の狂気を全てを受け止めて、晴らしてくれる人がいたからこんな気分になることはなかった。だが今は胸糞悪さがこびり付いている。
「はぁ…これは長引きそうだな…」
俺はそうつぶやきながら朝食を食べ終わり、学校に到着する。席に座ると俺たちのクラスの委員長である姫嶋 優希が話しかけてくる。
「おはよう。誠吾君…その…ひどい顔してるよ? 大丈夫?」
「大丈夫じゃないな…姫委員長」
俺がそういうと怒る。
「誠吾君まで変なあだ名で呼ばないでよ」
すると誰かが割り込んでくる。
「そうよね。姫にはゆっきーっていう私がつけた立派なあだ名があるからね」
「それもどうかと思うよ。椎名ちゃん」
椎名 真子。このクラスの副委員長で姫委員長とは親友みたいだ。
「なんだ。椎名か」
「よーし。いい度胸ね。近衛誠吾。って本当に顔色悪いわね。どうかしたの?」
「あぁ、今日は過去最大に機嫌が悪い…悪いが今日はずっと寝させてくれ」
「そんなこと言ってもいつも寝てるでしょうが…」
椎名に呆れられたがそこで海斗のやつが来た。
「おいーす。誠吾、昨日は大変だったみたいだな。掲示板に書かれていたぞ」
「あぁん?」
俺が殺気を込めて海斗を睨むと海斗は慌てて土下座して謝り出した。
「ごめんなさい、ごめんなさい、生きててごめんなさい。お願いします。殺さないで」
「いったい昨日、あんたに何があったのよ」
椎名に聞かれたので、答えるか。
「昨日ゲームでトラブってね。久しぶりにマジギレした」
「誠吾君がマジギレ? ちょっと想像つかないな」
姫委員長が首を傾げる中、海斗が語る。
「掲示板では鬼だの、悪魔だの言われてるぞ」
鬼も悪魔も俺が知る限り、股間を狙う奴はないな。
「というかまるで見ていたような言い方だな?」
「動画が上がっていたんだよ。もう掲示板ごと消されたけどな」
それは良かった。学校で知れ渡るとか最悪だからな。こいつには知られてしまったが。
「へ~。ちょっと気になるわね」
「やめておいたほうがいいぞ。というか誠吾、お前があんなに強いなんて聞いてないぞ」
「話してないから当然だろう」
俺がそう言うと姫委員長が笑いながら聞いてくる。
「あはは。でも誠吾君がそんなに怒るなんて何があったの? あ、言いたくないならいいよ」
その質問を聞いた海斗の奴がニヤニヤする。
「それがこいつの召喚獣である可愛い女の子を二人倒されていてね」
「ヘー。それでキレたんだ~」
椎名までニヤニヤする。こいつら、うぜー。
「俺も普通の戦いの勝ち負けならキレたりはしないさ。ただあいつらのやり方だけは断じて許すわけいかなかっただけだ」
人にはそれぞれの価値観が存在する。それゆえに善悪の判断も人それぞれだ。
俺はあいつらの行いを悪と断じて、俺の行いを善とした。人にはあいつらの行いを善と見る者もいるだろう。俺の行いを悪と断じる者もいるだろう。俺はそれらの考えを否定しない。だが俺の価値観も否定させない。
あいつらの行いを善と見る者は俺の敵。それだけだ。
「誠吾君がそこまで言うところ初めて見たかも」
「確かにそうね」
「そうでもないだろ? 一年生の委員長に海斗を推薦したときは頑張ったんだぞ」
「その理由が俺に押し付けておけばとりあえず自分は安全って理由だったけどな!」
結果は姫委員長の圧勝だった。まぁ、海斗では相手にならないだろう。男は美少女に投票する生き物である。
「そういえば誠吾君も候補に上がっていたっけ?」
「バイトがあったから無理だったけどな」
俺は当時バイト三昧で見事に委員長の立候補から外れることが出来た。そこで海斗が話をゲームに戻す。
「あー…悪いけど先に俺の話をさせてくれ。ちょっと誠吾に重要なこと聞くんだが」
「なんだよ?」
「お前さ…PK職になったりしないよな?」
「PK職? なんだそりゃ」
そういえば以前、テイマーと決闘した時も聞いたな。
それに昨日の夜、途中の戦闘でいくつか称号貰っていたな。確か『PKK』って奴と『無傷の覇者』って奴を貰ったな。気持ちが荒れていたから内容は確認していない。
「PKはプレイヤーキラーって意味。ほら昨日の夜、お前襲われただろ? まぁ、全員返り討ちにしたみたいだが」
「あぁ、あいつらのことか…じゃあPKKってなんだ?」
「そのまんま、プレイヤーキラーキラーだよ。というかやっぱり称号手に入れていたんだな」
「意味はプレイヤーキラーをキラーする人って感じか?」
「正解。今、掲示板でお前がプレイヤーを狩る人間になるかプレイヤーキラーを狩る人間になるかで荒れているんだよ。昨日のようなことをまだ繰り返すのかキャラを作り直すかとかな」
なるほどね。
「俺個人としてはとりあえず何もする気はないな。リリーたちがお前らを狩るって言うなら狩るけど」
「全ては彼女達に委ねられたのか…」
海斗がそういうと祈りを捧げた。その様子は余りにも…。
「「「気色悪い」」」
「ひっど!? というか姫委員長まで!?」
我らが姫委員長にここまで言わせるとは海斗の奴は流石だな。授業が始まるチャイムがする。学校にいる間にこの感覚をなんとかしないとな。
明日からまた23時1話更新に戻します。
次回はタクトが決闘の事をリリー達に話します。お楽しみにです。