#557 迷いの森作戦
魔法の霧を浴びた騎士や悪魔の軍団は霧の濃い森の中で数人のグループに分かれていた。
「なんだ? これは?」
「先程まで大部隊で進軍していたはず…ッ!?」
一人の騎士にエルビンが斬りかかるが止められる。
「エルフだと!?」
「中々の相手だ。エルサリオン様からお前さんも戦争に参加して、武勲の一つでも上げてこいと言われているのでな…悪いが貴様らには死んでもらうぞ!」
「抜かせ! エルフの若造に負ける俺たちではないわ!」
互いに距離を取るとエルビンに騎士たちが殺到する。すると斬ったエルビンの姿が霧散する。
「森の戦闘ではエルフこそ最強だ。魔法剣技ミストエッジ」
騎士たちが全員倒れこみ、全員が苦しむ。
「俺の剣は魔法剣であり、刃にはトリカブトの毒が塗ってある。俺の剣に斬られるべきじゃなかったな。人間」
他のみんなもそれぞれ、強い騎士と相対していた。樹魔法ファントムフォレストは魔法の霧を発生させ、敵を迷わし、孤立させる魔法だ。
数が少ないエルフが人間に対して、戦えたのはこの魔法の恩恵が大きい。何せ相手は孤立、こちらは人数をかけることが出来る魔法なのだ。しかも発動中、魔法の霧を抜けるには術者がわざと抜かせない限り突破出来ないそうだ。
風魔法で吹き飛ばしても霧はすぐに集まり、魔力妨害などを使っても、霧の方向感覚を惑わす効果が切れることはない。エルフィーナ曰く、森全てを魔力妨害すれば突破はできるかも知れないとのこと。
「そんなことは並みの魔王でも出来ませんが…今回の魔王はそれぐらいの強さはあるかも知れませんね」
「あいつは恐らく出てこないだろう。ここで出てくる意味が無いからな」
「そうですね。普通ならタクト様が留守のトレントの森に現れるのが普通。話を聞く限り、他の戦いでも現れるチャンスはありました。それをしなかったのはやはりタクト様の存在と常に警戒をしていた皆さんがいたからでしょうね」
そんな会話をエルフィーナとしていた。俺が思い出している間に全員が敵を決めて、襲いかかっていた。グレイはゴネス騎士の集団に目をつけた。
「な、なんだ!? この狼の群れは!」
「こ、殺せ!」
幻狼に武器を構えた騎士たちの後ろからグレイは奇襲し、グレイの登場に幻狼から目を離した騎士たちは幻狼たちに噛まれ、全滅した。
虎徹は熟練のゴネス騎士と戦っていた。激しい剣戟の応酬を繰り広げていた。
「ぬぅ! なんという強さ…ありったけの強化をしていて互角とはな…」
「ガァアア!」
虎徹が妖刀解放を使う。それを見て熟練の騎士は笑む。
「まだ本気ではなかったか…虎の剣豪よ! 生き恥は晒さん! 来い! グランドスラッシュ!」
「ガァアア!」
虎徹は熟練のゴネス騎士の剣を折り、体を両断した。虎徹が勝利の雄叫びを上げると次の獲物を探しに向かった。
一方でコノハはゴネスの騎士をおちょくっていた。
「はぁはぁ…くそ! 仲間が次々! ここはどこだ! みんなはどこにいった!?」
「ホー」
「は!? 悪魔の声!? もうやだ! 助けてくれ! 誰かぁああ!」
逃げ回っていた若い騎士は気づかぬまま首を切り落とされた。
騎士たちの中には運良く合流した者もいた。もちろんこの魔法に運という要素はないわけだが、彼らにはそう感じたことだろう。
「はぁ…はぁ! あ、お前は同じ部隊にいた! おーい!」
「良かった! 無事だったのか! いやそれより」
「大変だ! お前たち!」
「みんなが集まっている! 助かった!」
騎士たちが合流して、発した言葉に絶望する。
「助けてくれ! 巨大な黄金のライオンに追われている!」
「助けてくれ! 巨大な白い虎に追われている!」
「助けてくれ! 巨大な白い狼に追われている!」
「助けてくれ! 巨大な双頭の犬に追われている!」
それぞれゲイル、白夜、優牙、ハーベラスに追われていた騎士だった。思考が停止する騎士たち。
「「「「ガァアア!」」」」
「「「「嘘だろ~!?」」」」
四方から襲われたら、堪らないだろう。仕組んだのはエルフィーナたちだ。
当然これに参加しているのは俺だけじゃない。他の召喚師たちも参加している。
「熊~!? はぁ…はぁ…また熊~!? ぜぇ…ぜぇ…ここには巨人~!? もうやだ~! なんなんだ! この森は~!」
すると石に腰掛けた三味線を持った狐のセリアンビーストにゴネスの騎士が出会う。彼はムジナに憧れている狐のセリアンビーストらしい。最初に出会ったときは嘘だろうと思ったが、なぜか憧れる気持ちが分かってしまった俺はやばいんだろうな。
「この森を歌にしました。聞いてくれ。『奇想天外』」
間違いでは無いかな~普通では絶対にないから。ただもっと相応しい言葉がある気がする。そこが本家との違いかな。そしてやはり音楽だけだ。
「歌わないのかよ! あ」
ツッコミたくなるよな。その隙に飯綱を食らってしまった。こんな間抜けな死に方は酷だな。
「あんたの今の気持ちを歌にしました。聞いてくれ。『死亡確定』」
「そのまんま」
最後までツッコミできず、爆発して死んでしまった。
「あばよ。坊や」
渋くきめているが彼は三味線を引いただけだ。恐らくこの騎士はこの大戦で一番情けない死に方をした騎士として名を残すことになるだろう。
俺が知る限り、この森は一番難易度が高い森だろうな。最低でも第三進化の召喚獣が集まる森だ。リープリング所属の召喚師たちは第四進化になっている召喚獣が複数いる。
原因は当然俺だ。因幡の白兎のレベル上げ方法を確立したから、みんなのレベル上げが凄まじいのだ。
これまでは騎士たちの戦闘だが当然悪魔たちも同じ被害が出ている。その最前線にいるのがリリーたちだ。
「ふ~ふふ~ん! えい!」
「ぐべら!?」
「たぁ!」
「ぎゃあああ!?」
リリーがエストオラシオンを振るたびにダエーワたちが吹っ飛んでいく。するとキングダエーワが来る。
「死ね! ドラゴニュート!」
リリーがキングダエーワが振りかぶった大剣をエストオラシオンで止める。
「な…なに?」
「そんなんじゃあ、リリーは止められないよ!」
リリーが大剣をエストオラシオンで弾くと力を集める。
「竜技! ドラゴンクロー!」
リリーは空高くキングダエーワを吹っ飛ばした。
「ぐは…なんて馬鹿力しているんだ…あのドラゴニュート…ん?」
「ドラゴンブレス!」
「何!? 障壁! ぐぅうう! ぐぎゃあああ!?」
リリーのドラゴンブレスはキングダエーワの障壁を破壊し、飲み込まれ死んだ。
「タクトに思いっきり戦っていいって許可貰っているし、タクトにお願いされた今日のリリーたちはいつもより強いよ!」
一方イオンたちも絶好調のようだ。イオンの周囲には凍り付けのダエーワやオーガがいた。冷凍光線が解放されたから使い心地をためしたみたいだな。
セチアはストレス発散をするように魔法弓で悪魔たちに奇襲をしている。
「バーストアロー!」
弓の武技、バーストアローは命中した瞬間、起爆する武技。魔法弓だと属性が付与され、毒が塗ってあると毒が飛び散り、広範囲に被害を及ぼす。セチアの場合、両方使っているからタチが悪い。
恋火は悪魔たちと戦っていたがレベルが高い懲罰騎士のパーティーとぶつかり、苦戦していた。
「強い…」
「ふん。たかが狐のセリアンビーストに遅れを取る我々ではないわ!」
「じゃあ、私の本気を見せてあげます! 血醒!」
恋火に静かな青いオーラが宿る。苦しさもない。あるのは相手に勝ちたいという静かでありながら、燃えるような思いのみ。これが今の恋火の血醒だ。
「おまけです。恋煌の真の力を見せちゃいます! 炎竜解放!」
恋煌から溶岩のドラゴンが現れ、恋火にまとわりつき、懲罰騎士たちに殺気を放つ。
「な、何…?」
「こんな奴がいるなんて聞いていないぞ!」
「動くな! 守護結界!」
「無駄です!」
溶岩のドラゴンは守護結界を破壊し、そのまま懲罰騎士たちを飲み込んだ。
「ふぅ…まだまだ使いこなせてないです。早くタクトお兄ちゃんに追いつかないと!」
恋火は決意を新たにして、元気に次の獲物に向かい走りだした。
一方セフォネとファリーダはゴネスの騎士の相手をしていた。
「くそ! この!」
「どうしたのじゃ? 折角斬られてやっておるのにもう少しに真面目にやれんのか?」
そういうセフォネは既に槍や剣で何度も攻撃を受けているのだが、その度に蘇生し、ゴネスの騎士たちに絶望を与えている。
「か、覚醒しているヴァンパイアがいるなんて聞いてないぞ…」
「お前ら! どけ! くらえ! 化物! 神罰!」
ゴネスの神官の神罰がセフォネに直撃する。
「は、ははは! ざまー」
セフォネがゴネス騎士の影から現れて、噛み付くと干からびていく。干物になったゴネスの騎士に血の棘で串刺しにした。
「まずい血じゃな…少しはタクトを見習え。お主ら」
そう言いつつも残らず血を吸い続けるセフォネだった。一方ファリーダのところではゴネスの騎士たちが頭から木や地面に刺さっていた。地面に人が刺さっている墓標に見えるから不思議だ。
リビナたちは空を担当している。空は残念ながらエルフィーナたちの魔法の範囲外だから実力で排除するしかない。最も森の中に入ると魔法に囚われて、霧で前が見えない状態で飛行するという危険飛行をすることになる。
その犠牲者が出ると流石に不用意に森には入らなくなり、トレントの森上空でぶつかり合う。ここには当然アルさんの部隊が参加している。
リビナは次々悪魔を堕とし、ブランはキングダエーワを機動力で圧倒した後、神罰でキングダエーワを消し飛ばした。他にもヒクスに乗ったヘリヤ、スピカに乗ったレギンが楽しそうに暴れている。
するとスピカがキングダエーワに新スキル天鎖を使った。スピカの足から輝き、キングダエーワの周囲を回ると光の鎖がキングダエーワを拘束する。
「こんなものーーぎゃぁああああ!?」
強引に解こうとすると電撃が発生し、黒焦げになる。更にスピカが雷霆を落とし、レギンが聖波動を放ち止めを刺した。なんかスピカはトリスタンさんやレギンが騎乗したほうが強いんじゃないかと思う。いや、まだ俺はまともな騎乗戦していないからきっと大丈夫なはずだ。
他にも俺の空中戦力は大暴れしている。その筆頭はやはりストラ。開幕からブレスを撃ちまくり、現在は肉弾戦をしている。
すると蒼穹がナイトメアロイヤルナイトを発見し、和魂を使う。蒼穹が持つ宝珠が青く輝くと光を浴びたナイトメアロイヤルナイトは動きが止まる。
相手のステータスに表示された状態異常は停止。相手の動きを止める状態異常で拘束の完全上位の状態異常だ。何せこの状態異常は抵抗を一切許さない状態異常だからだ。しかも和魂の場合は光を浴びたら、魔法やスキルまで停止させてしまう効果を持っている。
攻撃を受けたら、解除されてしまうようだが、はっきり言うと魔法使いなどの紙防御力の職種にとって、蒼穹やコーラルは天敵と言っていいだろう。
妖精組も活躍している。ルーナが妖精の輪を使用し、召喚された風の妖精たちが鎌鼬で悪魔たちを次々倒している。グレーターデーモンは吹雪に襲われ、雪の中で眠るように落ちようとした瞬間、伊雪に頭を貫かれて、死んだ。
ミールはドライアドたちと共に植物召喚をして、恐怖の植物ゾーンを作り上げた。クリュスは槍使いの騎士と戦い、同じ間合いの敵に苦戦したが最後は槍の突きを止めた騎士の背後から尻尾の刃で突き刺し、仕留めた。
他にも迷い込んだ先に毒沼を展開しているデュランがいて、噛まれて毒沼に落とされる騎士やアラネアの鋼線でバラバラにされる騎士。狐子に取り憑かれ、味方を襲う哀れな騎士などがいた。
フリーティアの騎士NPCたちもしっかり作戦を立てて、悪魔やゴネスの騎士たちに勝利を挙げているがやはり森に押さえ込むには数が多すぎてすこしずつゴールである砦にたどり着く騎士たちが出てくる。
騎士たちが見たのは迅雷を抜いている俺の姿と俺に付きそうイクス、ノワ、和狐、リアン、黒鉄、月輝夜の姿だ。他にも砦の門から弓を構えているエルフたちがいるが、現状彼らの出番はない。
なぜなら俺たちの周囲には地面に真っ黒になった騎士や影に串刺しにされた悪魔、原型を留めていないゴブリンなどの亜人種の見るも無残な姿だった。
「う…うそだろ…」
「騎士長…それに軍隊長まで…くそ! この化け」
俺は迅雷を抜刀する。
「今日の俺たちを止めたかったら、口を開かないことだ。既にバラバラにされたお前たちには意味がない忠告だろうけどな…」
万雷が騎士たちを襲い、黒焦げになる。今までずっと我慢して指揮やホークマンの村の防衛をしてきた。既にホークバレーとイジ鉱山の間にあったキャンプはオプスたちが潰した。更にホークマンの村の護衛にネフィさんたちを付けたから、ホークマンの村はほぼ安全と言っていいだろう。
これで俺が暴れていい条件が整った。悪いが今までの鬱憤はここに来た全ての奴らに支払って貰うとしよう。俺たちは時間の限り、暴れまくった。
魔力や満腹度が危険域となったみんなが帰って来るとルークたちが俺が作った地獄絵図の前で一言。
『暴れすぎ!』
「たくさん俺のところに来たのが悪いんだ。それにお前たちも散々暴れてきたんだ。怒られる筋合いがないぞ」
『う…』
全員、俺がどれだけ我慢をしてきたか知っているから何も言えない。そもそも今回の戦いで俺の狙いはドォルジナスのみ。だからこそ俺は事前にみんなに伝えてあった。
「俺は今回、守りや作戦指揮に徹することにする。どうしてもピンチの時や戦力が足りない時はリリーたちを出すことになるとは思うけどな。その代わり、ドォルジナスだけは俺に倒させて欲しい」
それをみんなが了承してくれたのだ。
「…俺たち結構頑張ってきたと思うんだが…霞まないか心配だ」
「だよなぁ…しかもこれ。召喚獣とか切り札なしで作り上げたんだからなぁ…」
自分たちのここまでの活躍が霞まないか心配するみんなだった。俺たちは交代で砦内で休憩をして、再度騎士と悪魔たちに襲いかかるのだった。




