#552 イジ鉱山麓戦とイジ鉱山城
翌日の朝、俺たちはご飯を食べてログインする。
俺たちはイジ鉱山のお城に向かう。そう…日本のお城だ。生産職の悪のりここに極まる。
何せ城を建てただけじゃなく、山ごと改造して山城を作ってしまったのだ。山城といっても、天空の城として有名になった竹田城と同じちゃんと石造りで罠満載の生産職渾身の自信作だ。
「あ、ギルマス。こちらに来たんですね。皆さんも」
「えぇ。準備の具合を確認しに来ました」
「完璧ですよ。山道のトラップもばっちりです。ただ昨日の敵の規模を見ると弾丸が不安なのでお願いします」
だよな…ワントワークのほうはよく持たせているよ。まぁ、生産のワントワークと軍事国家のライヒが組んだから弾薬には困っていないのかも知れないけどな。
すると偵察のホークマンが来る。
「ゴネスの騎馬たちが現れました! 現在この山の麓を目指し進行中です」
やはり朝から来るか。昨日の時点でみんなには朝から戦闘が発生するかも知れないとは言ってあるから人数は大丈夫だ。
「俺は予定通りホークマンの村に向かいます。弾薬は運んで貰いますね」
「了解です。海は平和なので私はここの指揮に回ります。メルさんたちは予定通り麓に展開して下さい」
「了解!」
更にサバ缶さんは指示を出す。
「トリスタンさん、ケーゴさんたちは秘密兵器で出撃準備を。クロウさんはトラップの指示をお願いします」
「任せて」
「おう!」
「よっしゃ! 任せろ!」
みんなが城から出ていく。更に他のメンバーは籠城に備える。俺もしっかりホークマンの村を守ろう。
ゴネスの騎馬部隊が山の麓を進んでいた。この山の麓はほぼ平らなので野戦に向いている地形だ。
しかし馬鹿正直に野戦する者はここにはいない。ゴネス騎士たちがダイナマイト地雷源に入り、次々爆破されていくが今回の騎士は恐れず突っ込んで来た。
「我らが神が見てくださっているぞ!」
「異教徒を殺せ~」
危ない薬を飲んでいるみたいだ。そんな奴らとみんながぶつかる。
「いたぞ!」
「ん? なんだ!? あれは!」
トリスタンさんとケーゴが乗っているのはヘーパイストス作のチャリオット。戦闘用馬車だ。
みんながヘーパイストスの伝説でチャリオットの製作者というのを見つけて、依頼があったのだ。
俺たちが作ったチャリオットは前に長槍があり、左右には刃がある作りだ。
「恐れるな!」
「あんなもの見かけ倒しだ!」
『今だ! トラップ発動!』
地面から鉄の槍柵が斜めの向きで一面に現れる。
いきなり現れた槍柵に対応出来ず、先頭の馬は槍に貫かれ、騎士たちは落馬する。更に止まろうとした騎士が後ろの騎士とぶつかり、次々落馬する。
『トラップ、戻せ!』
槍柵が地面に戻る。これはレバーで操作可能なのだ。槍柵が戻るとチャリオットの出番だ。
「ヘリヤさん!」
「はい! 破壊の加護!」
「ロイヤルランパード! 行くぞ! チャリオット部隊突撃!」
「私たちも行くよ! 乱戦になるから仲間のフォローを忘れないで! 全軍突撃!」
チャリオットの正面に破壊の能力があるロイヤルランパードが張られてからチャリオットは走り出した。するとチャリオットの効果、強激突が発動する。
チャリオットは一気に加速し、チャリオット進行上の全ての敵は回避することが不可能となった。
ロイヤルランパードに触れたゴネスの騎士たちが次々破壊されていく。まるでブルドーザーのようだ。チャリオットの進行上から逃れても左右の刃が逃がさない。
これがチャリオットの利点。馬は鉄騎馬で更にぶつかる範囲が広いチャリオットは敵の部隊の分断に非常に優れている。
更にトリスタンさんは平気で馬上から弓を使っているが普通の人は中々出来ない。しかしチャリオットは足場が安定し、馬の操縦は別の人がするから思いっきり、狙撃することが出来る。
「いたわ! スルーアロー!」
トリスタンさんが部隊長を見つけ、狙撃する。
「ふん!」
部隊長は矢を剣で弾こうとすると矢は剣をすり抜けて脳天に命中する。他のチャリオットからも次々長弓やバリスタで強そうな奴を狙う。
すると進行上から外れた騎士から槍で攻撃されたり、弓矢が飛んでくるが一緒に乗っている重装歩兵がガードする。
チャリオットに蹂躙された騎士たちが悪魔になるとメルたちとぶつかり合う。乱戦になると空を飛べる悪魔は空路でお城に向かう。しかしそんなことで落とされるお城ではない。
城には所々に小さな窓があり、そこから銃口が出てきて、炸裂銀弾が撃たれ、悪魔たちは倒される。
しばらくすると悪魔たちが城の大砲の射程範囲に入り、次々砲撃されながらも接近してくる。
そしてイジ鉱山の中腹に続く、整備された急斜面の石段ゾーンに入る。そこを登って来る悪魔たちは何度も躓く。
「くそ! なんだこの歩きにくい階段は!」
「うざったい! 階段すらまともに作れないのか! 人間は!」
当然わざとうざく作ってある。石段の段差や幅が統一ではないため、走って昇ると簡単に躓いてしまう階段トラップ。これは日本の城で実際に使われているものだ。
そして、石段の上には銃士が待っており、三段撃ちで絶え間なく撃ち続ける。それでも悪魔たちは近付いて来て、銃士たちは撤退する。
当然追ってくるが軍師NPCがレバーを引くと地面から槍柵が飛び出し、悪魔たちを足止めする。
その後、槍柵を壊し、中腹の山道をゾーンに入る。追撃する悪魔は張り巡らせたワイヤーを強引に引きちぎると山道の横にある木からバリスタの矢が飛んできて、悪魔たちが倒される。
更に山道の側面にある木に隠れていた火影さんたちが襲撃し、全滅させるが次々悪魔が登って来ており、石垣に囲まれた道に逃げ込むとまきびしをばらまきながら撤退する。
「くそ!」
「変な罠ばかり作りやがって!」
石垣ゾーンにはニックさんたち錬金術師が陣取る。
「行きますよ! 皆さん!」
『はい!』
『錬成武装!』
石垣と地面から錬成された槍や剣が飛び出し、悪魔たちを刺していく。
更に石垣に仕組んだ吹き矢が飛び出して、悪魔たちを倒していく。しかし大型のオーガやキングダエーワが来ると止めきれず、撤退する。
俺たちが考えた嫌がらせを乗り越えた悪魔たちは遂に城の入り口である城門にたどり着く。しかしこの城門に地上から入るには橋を通らないといけない。
城門を通らない手も当然あるが城を囲む水堀に悪魔たちが入ると絶叫する。現実では罰当たりな聖水の水堀だ。
それを越えると急斜面の土手がある。この土手は二段に設けた犬走りで狭間を開けている作りになっている。これは有名な真田丸で考えられた戦法だ。
犬走りは犬が歩けるほどの平らな細い道のことで。急斜面を登り、平らな道があると身体を起き上がらせないと行けなくなり、そこを櫓から石を落としたり、銃で狙撃する戦法だ。
起き上がった所に銃で撃たれたら、当然転がり落ちることになり、真田丸の土堀にはたくさんの犠牲者が溜まったとされている。
今回の相手は悪魔で行き着く先は聖水の水堀だ。溶けてなくなるから目と鼻にはとてもいい作りとなっている。耳にはたぶん悪い。
まぁ、普通に考えるなら橋を渡るしか無いのだが、その橋もまた怖い。しかしみんなが櫓から銃やバリスタで攻撃する中、悪魔たちは橋に突っ込んでくる。
彼らは日本が誇る枡形虎口の恐ろしさを知ることになる。
まず、橋を進む悪魔の左側面にある櫓から銃撃が行われる。銃撃された悪魔は手すりがない橋のため、水堀に落下して即死。
それを突破した悪魔たちは城門の中に入る。しかし正面には巨大な石垣と渡櫓がある。右も同じで残すは左だがそこは櫓門になっており、正面左右の櫓から銃撃されて、悪魔たちを一網打尽にする。
これが枡形虎口だ。逃げ出す悪魔もいるが空には鋼線。出口に逃げ出したら、また側面から狙撃される。
悪魔たちが来れたのはここまでだった。するとメルたちが城に転移してきた。
「間に合いませんでしたか…」
「ですね」
「被害はどうですか?」
「枡形虎口まで攻め込まれてしまいましたね。夜はもっと悪魔たちが来るでしょうし、荒れそうです」
みんなが協力してお城を直す。一方ホークマンの村にいた。俺たちはというと。
「…誰もこないね? タクト」
「だな~」
悲しい時間を過ごしていた。




