#537 ワルキューレ装備とノートゥング授与
俺はダーレーに乗る。
「あ、あの人…いいんですか?」
「いいよ。あの程度の人を斬ったら、俺の迅雷が可哀想だ」
「可哀想…なんですか?」
わからないか…そうだな。
「例えばさっきの人の血が自分に付いたらどう思う?」
「「あ、凄く嫌です」」
シンクロされたグンナルに少し同情する。しかし納得はして貰えたみたいだ。
「今から炎の壁に突っ込むぞ。準備はいいか?」
「は、はい!」
「…だ、大丈夫です!」
「しっかり捕まってろ。ダーレー!」
ダーレーは蒼炎を纏い、炎を衝撃波で吹き飛ばし、飛び込む。
装備は効果を発揮しているが問題はダーレーだ。頼むぞ。
一面炎の世界をダーレーは疾走する。俺はローブの中に隠したファミーユでダーレーを回復させる。
そしてダーレーは全身にやけどを追いながら、炎の壁を突破した。
「よくやったな。ダーレー」
「ヒヒーン!」
うんうん。帰ったら、ご褒美だな。任せなさい。
「プリンを作ってあるからな~」
ダーレーの目が光った。甘いデザートはみんな好きなんだよね。
「二人も無事か?」
「は、はい…不思議でした。全然暑くなくて」
「うん…あ、ダーレーさん、ありがとう」
「ヒヒーン…」
おや?照れているのか?ダーレーも男の子だな。俺たちはダーレーから降りる。俺たちの目の前には氷の屋敷だ。凄いな。
二人を先頭に屋敷の中に入る。すると正面の大きな部屋のドアが開くと一人の武装した女性が現れた。
「よくここまで来ましたね…レギンレイブ、ヘリヤ」
「「ブリュンヒルデお姉様!」」
三人は抱き合う。頑張った甲斐があったな~。
「あなたがこの子たちを連れてきてくれた人ですね」
「召喚師のタクトです」
「この子たちはお世話になっております。また助けていただいたことワルキューレを代表して感謝いたします」
これは流石に照れる。二人はブリュンヒルデが頭を下げたことでわたわたしている。
「頭を上げて下さい。俺がここに来た理由については知っていますか?」
「はい。ミカエル様から事情を聞いています。二人は戦うことを選んだんですね」
「はい! 私はタクトさんや優しいフリーティアの人たちの力になりたいんです!」
「…私も同じ気持ちです。後悔は絶対にしません!」
ブリュンヒルデは二人を撫でる。
「…レギンレイブ、ヘリヤ…強くなりましたね。二人の意思を尊重しましょう。二人とも、付いてきなさい」
俺だけ放置。仕方無いので、ノートゥングを出す。やはりノートゥングを持つと弾かれる。
どうにかして使えないかな?自分が闇属性になれば使えるはずだが、そんな装備やアイテムなどに心当たりはない。
「それはまさか…ノートゥングですか?」
おや、帰ってきてた。しかし背中の槍は何かな?
振り返るとそこにはマジギレしているめっちゃ怖いブリュンヒルデと金色のワルキューレとなったレギンと紫色のワルキューレとなったヘリヤの姿があった。
「ちょ、ちょっと待ってください! これにはわけが」
俺のバカ野郎。伝説の武器をゲットしたからつい出してしまったが、ブリュンヒルデの前で出すなんて絶対アウトだ。ヤバい…殺される。
「ほぅ…」
「ブリュンヒルデお姉様! 落ち着いて下さい!」
「その剣はここに来る前に変な男が持っていたものです」
「どういうことですか?」
なんとか話を聞いてもらうことになった。助かった。マジギレした綺麗なお姉さん…変な迫力があった。俺はゲットした経緯を話す。
「…そうですか。その剣は私の将来の夫、シグルドが持っていた剣の一本です。恐らくシグルドが渡したのでしょうが妙ですね。シグルドがそんな男に自分の剣を預けるとは思えません」
そこだよな。しかし伝説ではグンナルがここに来ているってことはシグルドは既に薬を飲みブリュンヒルデの約束を忘れている状態のはずだ。そしてこの後は炎の壁を越えられなかったグンナルに代わり、グンナルの姿となったシグルドが炎の壁を突破して、グンナルとブリュンヒルデを結婚させるんだよな。
つまりシグルドがグンナルに手を貸すところは不思議じゃない。それでも自分の剣をさっきの奴に貸すとは俺には思えないけどね。
「ですが事実です。ブリュンヒルデお姉様…私たちも実際に見ました」
「…はい」
「二人がそういうなら事実でしょうね…だとするとシグルドに何かあったと思うべきでしょう…やはりこの指輪の力が」
ブリュンヒルデの指には黄金の指輪があった。間違いない…あれがニーベルングの指環。しかしブリュンヒルデは能力を知っているみたいだ。
「あの…その指環、外さないんですか?」
「はい。この指環には強烈な呪いがありますが、シグルドとの結婚の約束を示すものでもあります。なので例え呪われても外すつもりはありません」
伝説のブリュンヒルデも案外知っていたのかも知れないな。ブリュンヒルデはシグルドにルーンなどを教えるほど博識だったはずだからな。
「素敵ですよ。ブリュンヒルデお姉様」
「…お似合いです」
「ふふ。ありがとうございます。話がそれましたね。ワルキューレの装備の説明をしましょうか」
説明して貰えるんだ。さっきから鑑定しているが装備が鑑定出来ないんだよね。どうやら装備をセットでレギンたちのスキルになっている感じだと思う。すると二人がこちらを見る。
「え、えーっと…」
「…ど…どうでしょうか?」
「あぁ…二人とも、凄く似合ってるぞ。二人の魅力が割り増しになった感じだな。というか俺、装備で負けてないか?」
「一応ワルキューレの正装ですからね。これは私たちの主神オーディン様から頂いた装備なんですよ」
そりゃ勝てるわけがない。まずはレギンの装備からだ。
「レギンレイブは光属性の装備です。鎧には味方全てを強化する効果があり、あらゆる闇属性の攻撃、状態異常を無効化し、靴と羽根飾りには飛行能力があります」
「更にその光る剣の名はクラウソラスといいます。クラウソラスは魔を祓う聖剣と呼ばれております。その力はクラウソラスの光は味方を祝福し、全ての攻撃に神聖属性を付与させます。更に悪魔には強力な弱体化の効果も発揮します。盾には反射の効果があります」
さらりとクラウソラスが出てきた。クラウソラスはヌアザの剣とも呼ばれている剣だ。最も光る剣全てを指す言葉という感じでもあるからはっきりしない剣だ。言えることはレギンが強すぎるということ。
次はヘリヤの説明をされる。
「ヘリヤは闇属性の装備です。装備全てに破壊の効果があり、あらゆる武器、魔法、攻撃スキルを破壊し、無効化する力があります。靴と羽飾りはレギンレイブと同じものです」
「槍と盾は通常のワルキューレと同じ神聖属性ですが、槍には味方全てに破壊の加護を与える効果があり、盾には激突の効果があります」
ヘリヤが破壊神になってしまった。これは恐らくヘリヤの名前から来た能力だな。ヘリヤは古ノルド語で壊滅させるという意味の言葉と関係していると言われている。
これはどちらが強いんだろうか?クラウソラスがあるレギン?破壊神のヘリヤ?ヘリヤっぽいが対悪魔ならレギンが優勢なのかな?分からない。帰ったら、実際に訓練して、能力の確認をしないとな。特に味方の範囲次第で作戦が大きく変わるぞ。
「これで私の仕事は終わりです。二人とも、頑張りなさい。あなたたちの願いのままに多くの人を助けなさい」
「「はい! ブリュンヒルデお姉様!」」
「タクトさん、二人をよろしくお願いします」
「はい」
あ、ノートゥングはどうしたらいいのかな?
「…その剣はあなたが使ってください」
「いいんですか?」
「はい。剣は人を選びます。あなたの元にその剣が渡ったのなら、それは剣が選んだからです」
「嫌われてますけど…」
俺がそういうとブリュンヒルデは笑う。
「それはあなたが闇属性ではないからですよ…でもあなたは闇属性になれるはずです。その条件も整っているのではないですか?」
何!?装備なんてあったか?作ればいいんだろうけど、どういうことだ?
するとブリュンヒルデはニーベルングの指環を見せる。指環?あ。
「もしかしてエンゲージバーストですか?」
「はい。だからあなたはその剣に選ばれたんだと思います」
そういうことなら使わせて貰おうかな。切り札はいくつあってもいいし。
「最後に残念なことですがワルキューレ全てがあなたたちの味方をするとは限りません。そのことだけは覚えておいてください」
俺たちが出会っていないワルキューレが敵になるのか?もしかしてゴネスのワルキューレが俺たちの敵になる可能性があるから、あの依頼クエストが発生したのか?
だとするとクリアしないとまずいクエストかも知れない…だが、あれの攻略法は俺では思いつかない。一応銀たちにはクリア出来そうならチャレンジしてもいいとは言ってあるが、全ての判断は彼女たちに任せた。彼女たちで無理ならギルドの誰にも不可能なクエストだからな。
俺たちはそこでブリュンヒルデの屋敷を離れる。ブリュンヒルデのことも気になるがこれ以上は踏み入れることはないと思う。しかし運命は既に狂っていることを俺は知らず、フリーティアに帰った。




