#532 蒼の竜騎士VS湖の騎士
ダーレーから飛び降りた俺はイオンを召喚する。
「来い! イオン!」
「はい! どうしました?」
「ちょっとあの懲罰騎士と戦わないといけなくてな。悪いが手伝ってくれ。たぶん本気で戦わないと勝てない敵だ」
「わかりました!」
俺とイオンはエンゲージリングを掲げる。
「「エンゲージバースト!」」
蒼い竜騎士姿になった俺を見るとリーダーの騎士が馬から降り、剣を構える。俺は迅雷を取り出す。こいつはそれだけの価値がある騎士だ。
「ランスロット様!」
「今、手助けを!」
「来るな! 手出しは無用だ。お前たちが来たら、一瞬で死ぬぞ」
懲罰騎士たちが息を呑み、止まる。やはりランスロットか。
ランスロットはアーサー王伝説に出てくる円卓の騎士だ。湖の乙女に育てられ、決して刃こぼれしない剣アロンダイトの持ち主として知られている。
なぜゴネスにいるのかわからないがランスロットはアーサー王の妃グィネヴィアと恋に落ち、円卓の崩壊の一因になった騎士でもある。更にランスロットには円卓の騎士の身代わりになる話が何度も出てくる。
フリーティアの騎士の…名前は忘れたが洗脳されたやつがいたんだ。何らかの理由で捕まり、洗脳されていても不思議じゃないだろう。
わかることはランスロットが敵でここで止めないとスクナビコナを壊される危険が高いということだ。
俺は迅雷を構えたまま、ゆっくり海面に降りる。
ランスロットは槍、剣術、乗馬において円卓の騎士最強といっていいだろう。実際にガウェインとの一騎討ちで勝っているからな。
それでもイオンとのエンゲージバーストと迅雷なら勝てる見込みがある。
アロンダイトから膨大なオーラが解き放たれる。大丈夫…それはルーナで知っているスキルだ。
「…行くぞ! 聖剣解放!」
アロンダイトが振り下ろされる瞬間、縮地で間合いを詰め、迅雷を抜刀する。
一瞬で感じたのは手に感じた衝撃。どうやら一撃必殺の斬擊を止められてしまったようだ。
「残念だったな」
「そうでもないさ」
「何? っ!?」
そう…斬擊を止めてくれたのはむしろ俺にとって幸いだ。何故なら始めて迅雷を振るい刀を感じることが出来たのだから。
今までは余りの速さと斬れ味のせいで刀を感じることが出来ず、俺本来の剣術が発揮出来なかった。しかし今ならそれが出来る!
俺は迅雷を連続で振るう。それを必死にランスロットは防ぐ。やはり円卓最強の剣術使いなのは伊達じゃない。俺の攻撃はことごとく防がれるが、俺はどんどん迅雷を振るう速度、鋭さが増していく。
「(この男、刀を振るう度に成長している!? このままでは捌ききれなくなる!)」
ランスロットの持つ剣は大剣よりの剣だ。剣自体はパワータイプの剣でランスロットは技の剣士。そして迅雷はスピードタイプの刀で俺は技タイプの人間だ。
この結果、俺はスピードという面でランスロットの上となった。ならば攻撃を許さない速度で攻撃をし続ければ俺の勝ちは必然だ。
それをランスロットは悟り、突如蹴りを放ち、俺は吹っ飛ばされる。迅雷でガードした蹴りの威力でこれかよ。するとアロンダイトのオーラが極限まで高まる。
「目覚めよ。我が剣アロンダイト! 伝説解放!」
知らないスキルだ。するとアロンダイトから莫大の輝きが放たれ、アロンダイトに空色の聖なるオーラと青い稲妻が走る。ならば俺も使おう。
「雷竜解放!」
迅雷から蒼い稲妻が発生し、それがドラゴンの姿になると俺に巻き付く。聖なる空色のオーラと蒼雷のドラゴンが相対する。
俺は召喚師だ。伝説の騎士に力や剣術で勝てる筈がない。それでも勝てるように俺はこの迅雷を求めた。力、技で勝てないなら速度で勝てばいい。
行くぜ…相棒。今までより更に速く…誰よりも速く…斬り込む!
「「はぁああ!」」
ランスロットはアロンダイトを振り下ろし、俺は縮地で間合いを詰める。雷竜解放の加速は俺とランスロットの予想を越えていた。ランスロットが数センチ動いている頃には俺は懐に飛び込んでいた。
「(速すぎる!? 防御を)」
しかしランスロットは必殺技体勢だ。防御に回ることが出来ず、俺はランスロットの腹を斬り裂く。そして万雷を発動する。
「ぐあぁああああああああ!?」
ランスロットは数え切れない雷を浴びて、倒れる。見ている人にはまるで蒼雷のドラゴンにランスロットが呑み込まれたように見えたかも知れない。
倒れた際にアロンダイトが海面に触れると海が割れる。あぁ…受けていたら、死んでたな。おっかない。
これが俺の新たな切り札。俺は迅雷を強く握る。俺はまだまだ強くなれる。
さて、ランスロットはどうしよう。姿が残っているから助けるべきなのか?それとも解体する?アロンダイトが欲しいなら解体だよな。よし。
俺が解体しようとしたら、ランスロットが起き上がる。なんだ…生きてた。
「俺は一体何をしていたんだ?」
おや?洗脳が解けたのか?
俺が事情を説明しようとした時だった。
『タクトさん! 危ない!』
エンゲージバーストが解体させるとイオンが俺を庇う。俺の背後の空間から伸びた禍々しい爪にイオンが貫かれた。
「カハッ!?」
「イオン!?」
俺はイオンを抱き寄せる。すると空間から俺が知っている女性が現れる。
「あら? 外しちゃったわね。まぁ、厄介な海竜のドラゴニュートを仕留めただけでよしとしましょうか」
ドォルジナス!
「てめぇ!!」
俺は力が入らない体で、ドォルジナスに斬りかかるがドォルジナスは空に逃げる。
「怒れる獅子に噛みつかれたりしたら、大変だから今日は引くわ。精々頑張って生き延びなさい」
そういうとドォルジナスがいなくなる。くそ!逃げるなよ!
しかし体は言うことを利かず、俺は海に落ちる。くそ!なんで俺はあの一瞬、気を抜いたんだ!ここは敵地なのに!
「おい! 大丈夫か! 君たち!」
ランスロットが俺たちを引き上げてくれた。俺はイオンを見ると貫かれた胸から黒いオーラが広がっていく。
やはり魔素、シルフィ姫様と同じ状態だが、イオンには対抗手段がない。俺はセチアが作っている浄化の丸薬を出し、イオンに飲まそうとするがイオンは口を開けない。
「んん~!」
「こら! 今、拒否する状況か!」
くそ…ペナルティが効いているのに!イオンの口を無理矢理開けて中に入れると水を入れる。
「ま、まず…」
バタバタ動いていたイオンが動かなくなった。
まぁ、まずいが効果はありだ。魔素の広がりは止まった。だが、早くなんとかしないと。するとダーレーが来る。とりあえずスクナビコナに合流して、ゴネスから脱出しないと。すると大砲が船から飛んでくる。
それをダーレーが蒼炎で破壊する。俺はランスロットに話し掛ける。
「俺たちはフリーティアの冒険者です。状況が状況ですので、ひとまず船に来てくれませんか?」
「…わかった。君を信じよう。案内してくれ」
俺とイオンはランスロットさんにダーレーに乗せてもらい、スクナビコナを目指すとスクナビコナは船に囲まれ、大砲の袋叩きにされていた。エーテルシールドでなんとか防いでいる感じだ。
俺が先にスクナビコナに戻る。
「タクトさん! 大丈夫ですか!?」
「イオンが敵にやられた。銀たちは?」
「それは大丈夫です。タクトさんが派手に戦ってましたからその隙に向かいました」
ならもうここに用はない。ジャンヌもちゃんといる。ダーレーはちゃんと約束を果たしたんだな。いい子だ。
「全速力で撤退するぞ! ノア!」
「了解!」
ノアが準備に入る。その間に敵の船のことを聞く。
「敵の船もシールドを張っていて、召喚獣でも突破出来ない状況です。スピードで振り切るしかないので、チロルたちはスクナビコナに乗せました」
「わかった…エーテルシールドは切れる状況じゃないな…」
ランスロットを回収しないと…テレポーテーションで行けるか?
やってみたら、出来た。
「タクトさん、彼は?」
「俺が戦っていたランスロットだ。洗脳が解けたみたいでな…とりあえずフリーティアに連れていこうと思う」
『ランスロット!?』
まぁ、全員名前ぐらいなら知っているよな。するとノアの声が聞こえた。
「タクト! 準備出来たよ!」
「よし! 全員、船にいるか?」
「います。全員船に掴まって下さい!」
ランスロットもちゃんと船に掴まる。俺はイオンが飛ばないようする。
「(風のルーン!)」
スクナビコナの後方で爆風が発生し、急加速すると一気に船に包囲を突破する。
しかしすれ違い様にゴネスの懲罰騎士たちが叫ぶ。
「ははは! 逃げるのか! 異教徒ども!」
「我らの神の加護を受けた船には勝てないと思い知ったか!」
「所詮異教徒の船などその程度だ!」
あいつらは今、スクナビコナを侮辱したのか?
「…タクト、あいつらに魔導砲撃たない?」
「俺もその意見には賛成したいが、今は脱出を優先してくれ。あいつらには次戦うときにスクナビコナを侮辱した分までしっかり返してやる」
「…わかった」
ゴネスの船は追跡してこなかった。こうしてジャンヌクエストはクリアされた。しかし今はイオンだ。絶対助けて見せる!




