#51 運営雑談 #1
ここはエリュシオン・オンラインの運営をしているとある会社の一室。その部屋には誠吾にエリュシオン・オンラインを渡した小柳さんがいた。そこで数人の人からゲームの定時報告を受けていた。
「プレイヤーの数はかなりの数となっておりますがやはり日本だけではここからは伸び悩むと思います」
「そうだね。翻訳ソフトの調子はどうだい?」
「そちらは問題ありません」
近年のVRゲームの発達と同時に翻訳ソフトも既に完成されたシステムとなっている。当然エリュシオン・オンラインにも搭載されており、在日外国人でもゲームを問題なくプレイ出来るようになっている。
「それは何より。とはいえ日本はいち早くゲームの規制に動いたけど、他の国ではまだ規制がされていないから色々問題があるんだよね」
「確かにどうしてもプレイ時間の差が生まれてしまいますからね」
「この件は社長や部長たちと協議することにするよ」
この問題はゲーム全体の運営に関わってくるので、とりあえずこの場では小柳さんは保留にした。
「次はイベントの話ですが」
「完成したかな?」
「はい。予定通りゴールデンウィークに発表出来ます。後で確認して見てください」
「わかった。私もゲームがしたいからね。後で楽しませてもらうよ」
彼らはテストのためにアカウントを所持している。ゲームを作る彼らもまたゲーマーというわけだ。当然これで他のプレイヤーに干渉することは禁止されている。
「では次に人工頭脳の話ですが」
「順調かな?」
「はい。予想以上の成長を見せてます」
「やはり初日から亜人種が出たのが影響していますね」
その言葉に全員が苦笑いだ。
「例のプレイヤーはこのゲームの開発に関わっていたんですよね?」
「そうだよ。当時僕が教えていた子でね。初回版をプレゼントしたんだよ」
そこでとある疑いが発生する。
「何か不正ツールでも仕組んだんじゃないですよね?」
「残念ながら僕はそんなことはしていないよ。僕自身驚いているからね。それにそんなことをしたら、君たちにもわかるだろ? 実際に何人も見つけて、アカウント停止しているんだし」
「そうですけどね。説明を受けると不正を疑ってしまいますよ」
「確かにドラゴニュートを初日と二日目で当てるなんて奇跡的な確率じゃないか?」
そこで召喚獣の担当の人が補足する。
「あ、二体目はそうでもないです。水晶石を使った水性石に水性石を四つも使って召喚してましたから、寧ろ納得しちゃいましたね」
実は魔石召喚は最初に水性石を使えば、残り全ては普通の魔石で召喚出来るのだ。それをタクトは四つも使い召喚した。これなら水のドラゴニュートを引けてもおかしくはない。
「そこまでして、水のドラゴニュートが欲しかったのかな?」
「それはわかりませんね。案外何も知らずに勘違いして、召喚しただけかもしれませんよ」
「その結果が水のドラゴニュートなら偶然も大したものだね。いや、水性石をそんなに安定して集められるのも驚きだから偶然とも言い切れないのかな」
デスニアは最初のモンスターに比べるとかなり強いモンスターだった。何せ普通のプレイヤーは水泳スキルはまず取らないので、激流の中に落ちたら、まず助からないようになっている。それを倒しまくるタクトは異常と言えた。
小柳さんがそういったところで、最後の人が立ち上がった。彼は人工知能を担当していた。
「NPC、召喚獣、モンスターの人工知能は全て正常です。寧ろ、成長が早いですね」
「やはり人と関わったからかな?」
「そうだと思います。ただこれには一長一短があります。人を理解するにはより多くの人と関わりを持つことは正しいことでしょう。しかし人間には悪いところがある。今はエラーになるほどのことではありませんがこれからも監視していこうと思います」
「わかった。よろしく頼むよ。他に何か意見はあるかな?」
一人が手をあげる。
「掲示板の監視はどうしますか? どうにも先程の召喚師が悪目立ちしているように感じますが」
「そうだね。これから亜人種持ちはどんどん出てくると思うけど、一応監視をしておいてくれ。もし規約に違反することが行われていたならアカウント停止にしよう」
「わかりました。監視しておきます」
「他には何かあるかな? ないみたいだね。それじゃあ、今日の会議は終わりにしようか。明日から通常版が発売されるから今以上に忙しくなると思うけど、よろしく頼むよ」
全員が返事をし、会議が終わった。すると召喚獣を担当している人と人工知能を担当した人が小柳さんのところに来る。
「一応、追加で報告しておきます。先程の召喚師の召喚獣の人工知能ですが、他の人工知能より成長が早いみたいです」
「元々、召喚獣はプレイヤーと最も関わる人工知能だからね。さらに亜人種は言葉を話せるほどの高性能人工知能だ。プレイヤーとコミュニケーションが取れるからそれが原因でしょうね」
「それだけじゃないと思うよ?」
小柳さんは誠吾を知っている。誠吾はバイトの短い間にデバッグ作業を覚え、プロ顔負けの仕事した。通常ならかなり難しい。それを可能にしたのは、誠吾のコミュニケーション能力の高さだと小柳さんは考えていた。
自分と同じバイトをした人、社内の人達と仲良くなり、仕事でわからない箇所を聞き、短時間でどんどん仕事を覚えていった。
我ながらとんでもない人物をゲームに誘ってしまったものだと小柳さんは思い、窓の外を見る。
「君が関わったこのゲーム。存分に人類の楽園を楽しんでくれ。誠吾君」
ゲーム開発者として小柳さんはそういった。それはエールでもあると同時に挑戦状でもあった。
ここでプロローグの話と繋がったことになります。これからリリー達が何を学び、どう成長していくのか見守っていく形となります。
次回の2話更新ですが一気にまだ進化していない4体が進化します。セチアが初めてのポーション作成にも挑むので、結果がどうなるかお楽しみにです。