#501 クーシーの村とボスザル
俺たちは早太郎の案内でクーシーの村にやって来た。そこには顔が犬の者と犬のセリアンビーストがいたわけだが、すぐにあることに気付く。女性がいないのだ。
早太郎の案内され、俺たちはクーシーの村の村長に出会った。杖をついたよぼよぼの秋田犬顔のクーシーだ。
「ここの村長をしております。ハチですじゃ」
忠犬ハチ公か?
「今、この村は狒々どもによって女子供、赤子まで連れ去られてしまいました…どうか! どうか! 連れ去られた女子たちをお助けください」
近づいて来るなよ…ハチ公。よぼよぼなのは顔だけかい。
「狒々どもを倒し、無事に女子たちを助けてくださったなら、我が村に伝わる秘宝をお礼に差し上げますじゃ」
「わかりました。お引き受けいたします」
「なんと! ありがたや~ありがたや~」
年寄りに土下座で崇められると辛いんだが…これでクエストを受けることなった俺は早太郎と話す。
「この村の人たちは戦わなかったのか?」
「もちろん武器を持ち戦いました。ただボクらは女の狒々たちに全く勝てませんでした…戦えるのが男しかいないボクらでは勝ち目がありませんでした」
なんというか悪夢の映像が脳裏に映った。俺はクーシーたちに同情する。
「狒々たちはどうやって攻めてきたんだ?」
「え…えーっと…最初に女の狒々が現れて、後から男の狒々が来てみんなを拐っていきました」
随分頭が切れるな…クーシーたちが男しか戦わないことを知っていて攻め込んだように思える。
因みに女性を拐われたと知ったリリーたちはご立腹だ。
「なるほどな。それで狒々たちの居場所とか分かってるのか?」
「はい! あの山に人間が作った鉱道があるんです。そこを住処にしているようです。ボクが近道を知っていますので、案内しますね」
俺たちの目的地と同じかい…ということは安綱さんを襲ったのは狒々だったわけか。
「早太郎が住処を見つけたのか?」
「はい! ボクらは鼻が効きますから追跡とかが得意なんですよ! もっとも見付かっちゃって、追いかけられましたけど」
それで俺たちと出会ったわけね。状況の整理が終わったところで鐘がなる。
「狒々たちだ! 狒々たちが来たぞ!」
「そんな…どうして」
「俺たちがいるからだろうな」
「あ…」
奴らの目的が女なら当然リリーたちも狙われるだろう。
「ここで戦うわけにはいかないな…村の外に出るぞ」
『うん(はい)!』
俺たちが村の外に出ると目視で敵を捉えた。狒々の他に軍服を着た一際大きい狒々がいた。識別する。
マント狒々Lv42
テイムモンスター 討伐対象 アクティブ
運営よ…寒いぞ。いくらマントがある軍服を来ているからってこれは酷いだろう。
「ウキー! 全員止まれ!」
狒々たちが止まる。やはり指揮能力がある奴がいたか。
「ウホ。まだ可愛い女がいたか…しかも全部上玉じゃねーか! おい、そこのエルフ! 特別に俺様の妻にしてやろう!」
セチアがエンゲージリングをマント狒々に見せて、俺と腕を組む。
「私の夫はタクト様しかあり得ません。たかが猿と付き合う女性などここにはいませんから、さっさと連れ去った人たちを返して山に帰りなさい」
マント狒々が顔を真っ赤にして、地団太を踏む。しかしリリーたちはセチアの言葉に異議申立中。誰も見ていない。
「ウッキ~! この糞アマどもが! もういい! 連れ去って俺様を侮辱させたことを後悔させてやる! 野郎共やっちまえ!」
『ウッキー!』
狒々が来る。俺は無銘を抜く。
「怒らすなよ…全部オスなんだぞ」
「これぐらい言うのは当然の権利です。それに怒っているタクト様には相手不足じゃありませんか?」
「どうだろうな…まぁ、本気でやられて貰おうか。みんなは下がっててくれ」
流石にセチアたちを侮辱され、更には連れ去るとまで言われて黙っているわけにはいかないな。
狒々が襲い掛かって来る。
『『『『アクセラレーション』』』』
「あ?」
襲い掛かって来た狒々たちの首が飛び、倒れる。強化がないと脅威じゃないな。
「ウキー!」
「ウッキー!」
左右から狒々たちが飛び上がり、武器を構える。俺は縮地で移動し、首を飛ばす。
俺はマント狒々に無銘を向ける。
「もうお前らのことは見切っている。お前が戦うか全滅するか好きな方を選べ」
「に、人間風情が舐めるな! やれ! お前ら!」
「全滅がお望みか?」
『ウ、ウキ…ウキー!』
俺の殺気にビビりながら狒々たちは俺に向かってきた。ちょうどいい…色々試すにはいい敵だ。俺の実験に付き合って貰おうか!
数分後、狒々の死骸の山が出来た。
うーむ…上手くいかないな…難しい。
「残りはお前だけだな」
「お、おのれ! よくも仲間を!」
「お前が死ねと部下に命じたんだろう。お前も殺してやるからかかってこい」
マント狒々が大刀を抜く。
「ぶっ殺してやる!」
俺は大刀をいなし、斬る。こいつは流石に硬いな。
「ぐ…ウキー! ウキー!」
あぁ…全然ダメだ…大刀を振り回しているだけ。これは剣術とは言わないな。攻撃を流す度に俺は確実にダメージを与えていく。
するとマント狒々が笑うと大刀の攻撃が幻となり、別の大刀の攻撃が来る。朧だな。俺はそれを見切り、止めた。
「な、何!?」
「こんなの止めれて当然だろ。もっと真面目にやれ!」
わざわざ笑われたら何かしますよと言ってるようなものだ。子供のような剣捌きを見れば、狙いぐらい大体わかる。俺は大刀を弾き飛ばした。
「…取れ。待ってやるよ」
「き、貴様!」
マント狒々が大刀を取る。
「もう許さん! こいつで死ね!」
マントヒヒが上段に構えると雷が宿る。虎徹と同じ技だな。お前が虎徹の技を使うとは侮辱している。虎徹が見たら、マジギレものだろうな。
虎徹の怒りに答えて俺も見せよう。俺は無銘を突きの構えで構える。
『アクセラレーション』
ふぅ~…準備オッケー。
「死ね!」
「疾風突き!」
同時に縮地を使う。
縮地で間合いが一瞬で詰まり、そのまま疾風突きの加速とアクセラレーションの加速が加わり、マント狒々の首を一瞬で貫いた。成功!
「な…何が…起き…た…」
俺が無銘を抜くとマント狒々は倒れる。リリーたちは口を開けている。何が起きたのかわからないみたいだ。
そして最初に動いたのは恋火だ。尻尾が凄い動いている。大興奮状態だ。
「凄いです! タクトお兄ちゃん! 今のなんですか!」
実はクーフーリンに負けてからずっとこのままの剣術じゃいけないと思い、魔法を組み合わせた剣術を色々考えていたのだ。
俺の理想は自分の剣術と魔法の融合なのだが、これがなかなか上手くいかない。狒々たちはその犠牲になった。
俺がさっき使った技は真っ先に出来るだろうなと思った技だ。宗次郎の三段突きで見たが突き技とスピード強化は王道だからこれは成功する自信があった。
「むぅ…タクトだけオリジナル技を使うなんてずるい!」
「そうですよ! ずるいです!」
「教えてください! タクトお兄ちゃん!」
「リリーたちは既にスキルを使ったオリジナル技を使っているだろう?」
イオンは氷刃と二刀流武技、恋火は黒炎と刀武技など意外にオリジナル技を持っている。だから教えるのは却下。
そもそもアクセラレーション、縮地、疾風突きが必須のこの技は残念ながら使えるのは俺だけだ。教えるのは残念ながら出来ないのだよ。
『ぶーぶー』
リリーたちにぶーぶー言われながら解体するが狒々の毛皮だらけ。いらないって…武器を落とせよ。
「すげー…」
「あの強い狒々たちが全く相手にならないなんて…」
「凄い…凄いぞ! あの人!」
「あの人なら妻を…子供たちを助けてくれる!」
どんどんクーシーたちの期待が上がっていく。期待したくなる気持ちはわかるが恐らくボスはマント狒々より強い奴が来るだろうから困るんだよな…まぁ、やるだけやってみますか。




