#494 侍の青年と和の国への救援
腹ペコの遭難者を救助した俺たちは魚介ラーメンを食べている。
「美味い! なんと美味く、体が温まる料理でござるか! おかわり!」
「はいよ!」
『ギルマス…大丈夫ですか? 十杯目なんですけど…』
『止められないだろう? うちの子たちも同じ量を食べているんだから』
リリーたちも初めてのラーメンを味わっている。そして何故か張り合っているのだ。そして俺はリリーたちのラーメンをふーふーばかりして、肺活量が限界だ。
『それよりもこの人って』
『羽織袴から見るからに新撰組…雰囲気や年、知名度を考えると沖田総司だろうな』
新撰組一番隊組長にして、天才剣士と呼ばれた人物だ。三段突きで有名だね。
『ユグさん、一応みんなに知らせて』
『もう送ったよ! ギルマスがまた凄いNPCを拾ったって!』
『ちゃんと細かく知らせて下さい!』
しかも拾ったってどうよ?するとやっと手が止まった。
「いや~、ご馳走になった。助けてもらった上にこんな美味い飯まで…この恩義、決して忘れませぬ」
「礼ならリアンに言ってくれ。見付けたのはリアンだからな」
「そうでござったか! 人魚どの…改めて礼を」
「いえ! 私ではなくタクト先輩の判断ですから!」
これでは埒が明かないな。すると青年は笑う。
「ふふ…我が国は人魚と縁があるらしい。あ、名乗りが遅れもうした。私の名は宗次郎。海向こうの国桜花の侍でございます」
宗次郎は沖田総司の幼名だ。つまり有名NPCで確定したな。
「俺はフリーティアでギルド『リープリング』のギルドマスターをしている召喚師のタクトだ。この子たちは俺の召喚獣だ」
「リリーだよ!」
「イオンです」
「リアンです」
それを聞いて宗次郎は驚く。
「フリーティアのギルド!? で、では! ここはフリーティアなのですか?」
「あ、あぁ…フリーティアのブルーメンの港町だが?」
「こ、こうしてはおられぬ! よく考えれば腹一杯ご飯を食べている場合ではなかった! ごめん!」
「待て待て。何か事情があるなら話してみろ。これでもフリーティアの王族と繋がりがある。大抵のことは手を回してやれるぞ?」
飛び出した宗次郎が止まり、こっちを向く。
「誠でござるか!?」
「誠でござる」
『ござるござる』
あ、つい…うつってしまった。するとリリーたちも真似をした。
それから話を聞くことになった。
「実は我が国は未曾有の危機に瀕しているんです…田畑は白い土に覆われ、作物は全滅。食べ物を保管していた蔵も白い土のせいで出すことが出来ず、みな餓死寸前なのでござる」
あぁ…魔塩の影響が桜花でも発生したんだな。しかし既に解除されたはずだが?
「我々では解決出来ず、この大陸に解決策を求めて私は海に出ました。そして四日前にワントワークにたどり着くとフリーティアが白い土を除去する薬を開発したと聞き、是非薬をお譲りして貰いたくこうして来た次第です」
な、なるほど…四日前ならまだ解除されてない。筏で旅している間に魔塩が除去されたことを知らず、ずっと旅をしてきたのか…不憫な。
「あの…それでどうかお力添えを」
「あぁ…まずな。その薬を開発したのは俺たちのギルドだ」
「へ?」
「もっと言うとな…既に大陸中の魔塩が除去されている。恐らく桜花の白い土も除去されているはずだ」
宗次郎は固まる。そうなるよな。一応周囲を見渡し確認すると全員が頷く。
「えぇええ~~!? どういうことでござる!?」
俺は事情を説明する。後、無理な桜花言葉はやめてもらった。明らかに変だから。
「そういうことですか…一先ず白い土が無くなっているなら良かった…」
「通信手段とか無いのか?」
「…侍ですから」
いや、それなら一人旅をするなよ。それとも桜花には侍しかいないのか?そんなことは無いと思うんだが…恋火たちで巫女がいることは証明されているみたいなものだからな。
「後は…帰る船と食べ物をなんとかせねば」
するとユグさんが乱入する。
「そういうことならギルマスにお任せだよ! すっごい巨大船に食料もたくさん持っているからね! 歩く食糧庫とはギルマスのことだよ!」
こら!誰が歩く食糧庫だ!変な呼び名をつけるな!
「それは本当ですか!? で、では是非我が国に来て貰えませんか?」
ユグさんがガッツポーズをする。狙ったな…まぁ、桜花に行けるなら是非行きたい。ただ問題がある。復興クエストが途中なんだよね。
復興を指揮している親方に相談してみたら、あっさり回答が来た。
「もう石運びは大分終わっている。後は職人の仕事が多いから終わってもらって大丈夫だ。ただ流石に全額報酬を支払うわけにはいかん」
それはそうだろう。しかしお金より新しい国だ。
「構いません」
「それじゃあ、これが報酬の金だ。お疲れさん」
インフォが来て、報酬を貰い、クエストはクリアされた。これで桜花に行ける!後はメンバーだが、問題発生。
「すみません…我が国は鎖国状態で出来れば六人だけにして貰えませんか?」
「それはこの子たちを含めてですか?」
「いえ、彼女たちは桜花では崇められているので、大丈夫です。ただ人は」
ダメなわけね…しかし崇められている?さっきも人魚の話が出たし、亜人種とは関わり合いが深い国なのかもな。さて、人数は俺が確定で残り五人。
『…』
行く気満々だったユグさんたちが固まり、自分が行くと主張するがそう簡単ではない。
「というかお前さんたちは抜けられると困るんだが?」
『あ…』
職人である復興クエストをしているユグさんたちは残念ながら途中棄権は許されなかった。ここからが仕事の本番だからな。
『酷い!』
ぶーぶー言っている。そうなると他のメンバーということになる。そして、島に行くメンバーが決まった。銀、霰、暁のくノ一三人とノア、シャローさんのパーティーメンバーで決まった。
まずメルたちはクラスチェンジのクエストの真っ最中。クラスチェンジがまだの攻略組は現在ホークリバーで見付かった遺跡の調査で脱出不可能状態。生産職はフル稼働中。それにメンバーも午後だからいない人も多い。
そうなると時間があり、和の国に行く意味がありそうなのはこのメンバーということになった。
ノアはスクナビコナから動かないから連れていくしかなかった。メンバーが決まったので、全員をワープゲートで送り、スクナビコナを出す。
「凄い…なんて立派な船なんだ」
そうだろうそうだろう。ノアも自慢げだ。やはり自分が作った物を褒められると嬉しいものだ。
俺たちと宗次郎はスクナビコナに乗り、宗次郎の指示に従い俺たちは和の国桜花を目指して出航した。




