#485 嵐の海の進軍
今日から夏休みだ。というわけで朝からログインし、準備をする。俺はダイナマイトとルーン魔術を仕込んだ木片を作る。
更には爆風石に試しに風のルーンを仕込み島で実験した。
「風のルーン!」
爆風石から強烈な爆風が発生した。試しに喰らってみたら、普通にぶっ飛んだ。ヒクスにキャッチして貰ったが心臓に悪いトラップだな。
火のルーンも試したが火が出るが爆風石の風が強すぎて消えてしまう結果になった。上手くいかないか。更に複数の爆風石を投げ風のルーンを一回使うと全ての爆風石が同時に発動した。
更に調べるとこれはかなり距離があると風のルーンが発動しないことがわかった。そして近づくと発動が可能になる。中々難しいスキルだな。
さてと、俺は見学させたノアに話しかける。
「見せた通りだ。ノア。これでスクナビコナを加速させることは可能か?」
「凄いよ! タクト! これなら確かに船を加速させることが出来ると思う。ただ問題点が二つあるかな?」
「言ってみてくれ」
「一つ目はそのスキルは一回しか使えないこと。連続で使いまくって常時加速は望めないかな。瞬間速度はかなり出ると思うけど」
なるほど、確かにそうか…しかし瞬間加速でも十分だろう。
「もう一つは?」
「タクトがいないと使えない」
「いや、そこは問題じゃないだろう」
「大問題だよ! せっかく加速装置、ボクも使いたいじゃないか!」
本心ぶちまけやがった。まぁ、確かに俺だけ使えるのでは商品価値はないか。
「今回は何が起きるかわからない。やれることはやっておきたいんだ。頼めないか? ノア」
「タクトにはご飯や宿をお世話になっているし、スクナビコナを壊されるのも嫌だから、何とかしてみるよ。素材はアカシアの木がいいかな…」
「わかった」
出番だぜ。マイチェーンソー。伐採するのは俺の仕事だ。
後は生産をこなし、ノア指導でセチアにも手伝って貰い、スクナビコナ専用の加速装置が完成した。ただし完全にぶっつけ本番の装置だ。スクナビコナが心配なノアが一緒に乗ることになった。
そしていよいよ決戦の時だ。俺はギルドで約束の時間にみんなでブルーメンの港町に向かった。
そこにはボロボロになってしまったブルーメンの港町の姿があった。そういえばモンスターに襲撃されたんだっけ。
「話には聞いていたが、かなり酷いな…」
「町の防衛というより、町の人たちを守るクエストだったんだよ」
「町に着いたら、ディープワンズたちに襲われている町人の姿だったからな」
「情報とか陣形とか無視してとにかく一人でも多く助ける戦闘だったからね」
かなり混沌とした戦闘だったみたいだな。俺たちが港に付くと船がたくさんあった。色々な旗を掲げていて面白いな。
中には海賊旗もある。悪ノリだな。
「リープリングの攻略組が来たぞ!」
「リープリングのギルマスだ!」
何気にそう呼ばれたの初めてな気がする。いつもいつも幼女サモナーだったから。
「侍の鉄心だ!」
「燃える男、満月もいるぞ!」
「大人気ですね」
「これからずっと燃える男と呼ばれると思うと憂鬱になる」
わかります。その気持ち…さて、表向きの作戦を説明する。
「今回の目的は海神の退治です。作戦は道中の雑魚退治は集まってくれた皆さんに基本はおまかせしようと思います。リープリングからは敵の索敵とアイテムの提供をします」
「我々の任務は護衛というわけですね」
「アイテムはどのようなものですか?」
「料理とサバ缶さん」
サバ缶さんが木箱を持ってくる。
「これは我々が開発した未完成ですが、機雷です」
重石で爆弾を水中に沈めて、魔法で起爆されるものだ。出来れば魔法なしで起爆したいそうだが、現状ではそれが出来ない。サバ缶さんたちが海の神との戦闘があり得ると考え、開発していたものだ。こういうところは流石だ。
機雷は戦闘する側面にいる部隊に二つ配布することにした。
「本当はもっとたくさん配布出来れば良かったんですけどね…今回はこれが精一杯でした」
ダイナマイトも生産しているから仕方無い。さて、改めて説明をする。
「砲船は機雷と海上の敵に集中します。海中は召喚師、猛獣使いが対処します」
「また今回は海が荒れている状況で戦闘することになるでしょう。通信が出来なくなる可能性もあります。そこでこの鐘を合図に敵襲や攻撃、撤退を指示しようと思います」
「それで全艦に指示出しをするわけですね」
俺は合図を説明する。そして次はボス戦の説明だ。
「ボス戦ではリープリングの魔導船の魔導砲を使用します。なので前面の船には道を開けて貰うことになります」
実際に紙で動きを確認する。
「魔導砲の後は砲船が支援しながら、高速戦で距離を詰めるんですね」
これは嘘情報。まともに戦闘するつもりはないからな。
「援護には俺がバアルに使った切り札を切ります。何か質問はありますか?」
「陣形はわかりましたがポジションはどのように決めますか?」
「それはくじで決めます。リープリングのメンバーは参加してくれた皆さんの後に引きます。なのでリープリングメンバーと違う人たちと別れて、それぞれ順番を代表者のじゃんけんで決めましょう」
全員がじゃんけんをしているとチロルたちから通信が来る。
『私たちが怪しんでいる人たちがいました。タクトさん』
『怪しまれてないと思います』
『銀たちに教えておいてくれ』
『『わかりました』』
出陣の準備が終わり、いざ出港する。俺のメンバーはリアンとサフィのみ。水中の偵察係だ。
最初の敵は空から来た。土砂降りの悪天候が突如止み、暗雲が晴れ、空から魚のエラの翼を持つ天使たちが現れる。
マーエンジェルLv7
通常モンスター 討伐対象 アクティブ
マーアークエンジェルLv14
通常モンスター 討伐対象 アクティブ
あれがヴェインリーフを襲った天使か…確かに魚の天使は聞いたことがないな。
言葉もなく、いきなりレーザーを撃ってきた。生憎天使対策は考えてある。
『リリース!』
魔法使いたちの遅延魔法が一斉に放たれ、全滅する。あれは雑魚だ。だとするとそろそろ来るか?
『タクト先輩! 音波で敵を捕捉! 海底から凄い数の敵が来ます』
リアンから連絡を貰った俺は敵襲を知らせる鐘を三回鳴らす。これが海底からの敵襲の合図だ。
『チロル、海底から凄い数が来るぞ』
『了解!』
『みんな、迎撃するよ!』
『おぉ!』
そしてチロルたちが敵を捕捉する。
『敵はディープワンズ、ヒュドラ、シーサーペント! 数は不明! 一面モンスターで気持ち悪い!』
『機雷を投下する!』
俺は鐘を二回鳴らす。それと同時に船から機雷が投げ込まれた。
『機雷確認!』
『全員退避! 船は?』
『安全圏に進んでる!』
『ならやっちゃおう! みんな!』
機雷に向けて、雷魔法が放たれると海が吹き飛び、水柱が上がる。
「派手ですね~」
「水中ではキノコ雲は流石に出ませんね」
「ははは…では自分は魔導砲の準備をします」
逃げたな…サバ缶さん。さて、敵はどうなったかな。
『ディープワンズ、生きています! こちらに来ます!』
『慌てるな…リアン。俺たちの任務は船の護衛だ。船の下からの攻撃だけは絶対に阻止しないといけない』
敵は爆発する銛を持っている。そんなものを船底に喰らうわけにはいけないからリアンたちを艦隊の下に配置している。
案の定、チロルたちがディープワンズとぶつかる。
しかしディープワンズは数で押してきて、チロルたちを突破する。
『ごめんなさい! 抜けられました!』
『チロルたちは目の前に集中してくれ』
俺は鐘を一回鳴らす。
ディープワンズたちはリアンたちに気付くと海上に出る。あれがディープワンズか…顔が魚の体がムキムキの魚人だな。中にはカニやタコ、カエル、エビもいる。
ディープワンズLv20
通常モンスター 討伐対象 アクティブ
ディープワンズたちは槍を構えるが一斉に飛んできた銛や銃、矢に撃ち抜かれた。シェローさんたちも敵を仕留めていた。彼らにはスピアガンを渡してある。流石にスピアガンの銛と手で投げる銛では差がある。
因みに鐘一回は海上に敵が現れる合図だ。ここから艦隊戦も始まった。
「槍来たぞ! 盾、頼む!」
「任せろ! 強制!」
「敵、接近! 乗り移ろうとしているぞ!」
「任せろ! 船の上で倒してやる!」
みんな楽しそうだ。しばらく戦闘が続くとリアンの警告が来る。
『海底から敵が一人、凄いスピードで上がってくるのがいます! これは…マーメイドです!』
マーメイドまでいるのか…しかし一人か…すると銀から連絡が来る。
『こちら、情報収集班。どうやらビンゴみたいだよん。そろそろ人魚が出て、霧が出るとか言ってるよん』
ならこれはボスの所まで案内してくれるマーメイドってことか…
『タクトさん! ディープワンズたちが引いていきます』
『全員警戒を厳に…マーメイドには攻撃されたら、攻撃してくれ』
『了解』
さて、どう来るか…すると通信が来る。
『こちら先頭艦! めっちゃ美人のマーメイドにウインクされました! 手招きをされています! 飛び込んでいいですか!』
『『『なんだと~!? 俺も向かう』』』
『男ってバカだ…』
『だから海の神様が怒るんだよ』
流石にそれはないと思いたい。
『タクト先輩…あのマーメイド、姿を隠していますが恐らくローレライです。たぶん罠があると思います』
『だろうな…しかし俺たちの目的はボスの討伐。この誘いには乗るしかない』
俺は鐘を四回鳴らすと全員が料理バフをかける。俺もリリーたちを召喚して、戦闘準備完了だ。そこで鐘役をシャローさんと代わる。
それからマーメイドの案内に従うと悲しい歌声と共に深い霧に包まれる。霧が晴れると遠くに島が見えた。
あそこが目的地だと思ったら、違った。
『タクト先輩! 海底から巨大な凄い存在がたくさん来ます!』
『全員、手を出すな! 手を出すと死ぬぞ!』
俺は鐘を一回鳴らすと海上にボスが現れる。そのボスは山サイズの魚人だった。出現と同時に海が大荒れになる。
更に俺たちの周囲の海から海竜タイプのドラゴンが現れた。完全に逃げ場を失ったな。識別する。
海神ダゴン?
? ? ?
海母竜ハイドラ?
? ? ?
こいつらと戦うのか…嫌だな。




