#481 アップルパイとエルフとの和解
学校が終わり、急いで帰宅する。やらなければいけないことが沢山あるんだよ。
ゲームにログインし、島で生産をこなす。すると島で異変が発生。俺たちが育てていた野菜や木が一日の間に立派に成長していた。
生命の苗木も立派な木となり、たくさんの木の実を実らせている。世界樹の祝福の効果だな…すげー。ミールが収穫した木の実がこちら。
生命の木の実:レア度9 素材 品質A
生命の木に実る木の実。生命力を全回復する効果があり、フルポーションなどの素材として知られている。
うん。これはセチアとハルさん送りだな。カカオの木も木の実をたくさん実らせ、リリーたちが大興奮していた。
現在、島では小麦粉製造のためにユグさんたちが風車を増産して、フル稼働中。本当に生産クエストをしておいて良かったよ。
そして俺はパンの作製に入る。普通のパンはイオンたちに任せて、俺は新作を作製することにした。エルフの女王様を唸らせて見せよう。
使うのは薄力粉、塩、水樹の水、金羊毛のバター、リンゴ、砂糖、コカトリスの卵、レモンだ。レモンはルインさんから貰った。では作成に入ろう。まずは生地から薄力粉、塩、金羊毛のバターを切るように混ぜる。
細かなポロポロになったら 水樹の水を加えて更に混ぜる。頃合を見て手を使って生地をぎゅっとまとめる。触り過ぎると金羊毛のバターが溶けるので、あまり触らないのがポイント。 ラップで四角く整えて、発酵させる。
次に麺棒で押さえるように生地を伸ばし、三つ折りにして再びラップで整えて、発酵。これを四~五回繰り返すとパイ生地が完成する。
次にパイの味を決める作業だ。鍋に皮を剥き、一口大に切ったリンゴと砂糖を鍋に入れて中火で焼く。暫くしたら弱火にして、レモン汁を加えて煮詰める。五分ほどで火を止め、金羊毛のバターを加えて混ぜる。これで完成。
作ったパイ生地をシートのように伸ばして、丸くカットする。更に別のパイ生地をまたシートのように伸ばして、十等分に細長く切る。
最初に作った丸いパイ生地からはみ出ないようにリンゴを乗せ、その上から網状になるように細いパイ生地八枚を乗せ、円からはみ出したところはパイのつなぎ目を指で押さえてくっつけてカットする。
ふちに水樹の水を塗り、余った二枚のパイ生地をねじり、まわりにのせて軽くおさえコカトリスの卵の卵黄を塗る。石窯でじっくり焼くとアップルパイの完成だ!
アップルパイ:レア度8 料理 品質A
効果:満腹度100%回復、魔力全回復、2時間全属性アップ(極)
リンゴを詰めてオーブンで焼いたパイ。リンゴ好きには堪らない焼き菓子。金羊毛のバター、コカトリスの卵を使用しているため、通常のアップルパイより美味しく出来上がっている。
超力作。そして一緒にパンを作っていたリリーたちがいつも通り大変なことになっている。
『美味しそう!!』
しかしこれはエルフの女王様に作ったものだ。しかしリリーたちが体にくっつき、俺が行くのを阻止しようとする。全員総掛かりとは卑怯だぞ!仕方無いので、みんなで味見することにした。
『お、美味しい~』
全員泣いた。まぁ、今までのお菓子とはある意味レベルが違うものだからな。俺も食べたがいつものように現実はゲームに負けたな。
もう一枚作り、俺は一旦ログアウトした。
夕飯を食べてからログインするとサバ缶さんから注文した魔塩除去剤と塩害防止剤を貰い、エルフの村に向かう。今日はセチアと一緒だ。
すると昨日と違い歓迎された。理由がユグドラシルが助かったところをエルフたちが見ていたからだ。
それからエルフの女王様からユグドラシルを救ったのが俺であることをエルフの人々に伝えられ、更に村の救援を頼んだことも教えたらしい。
『助けて貰えると知った途端に態度を変えるなんて最低です』
セチアがそう言っているが同じエルフと楽しそうに会話中だ。こちらはこちらで怖いぞ。
まずは食材から配ることにする。まぁ、パンなわけだが…セチアのお墨付きだから大丈夫だろう。だが、やはり最初は警戒する。しかし子供は素直だ。
「美味しそうな匂い…食べていいの?」
「あぁ…どうぞ」
「ありがとう! はむ!」
「こ、こら!」
大人は注意しようとするが子供の反応は劇的だ。
「お、美味しい~! こんな美味しい食べ物、今まで食べたことないよ! お兄ちゃん」
「当然です。私の召喚師様ですから」
ドヤ顔のセチア。それから子供たちがあっという間に集まり、パンが次々無くなっていく。大人のエルフたちは子供たちの笑顔を見て、ホッとしている。やはりかなり状況は厳しいみたいだな。
すると以前出会ったエルフィーナが来た。
「お久しぶりです。美味しい食材を届けてくださり、感謝いたします。タクト様」
「いえ。こちらも以前キマイラ討伐の際にはお世話になりました」
「同胞を救って下さった…救援に向かうのは当然のことです。改めて最初の非礼を謝罪いたします。本当に申し訳ございませんでした」
しっかりした子だな。この子はあの出来事には関わっていないだろうに…
「過去のことですし、それを決めたエルフたちはもういません。なのでもう恨むことはしません。お顔をお上げください」
「はい…あの。なぜ此度のエルフの救援をお受けしたのですか?」
「俺はセチアの召喚師ですから。セチアが悲しむ顔は見たくないだけですよ」
「そうですか…セチア様はいい召喚師様と出会いましたね」
すると子供たちが来る。
『お兄ちゃん、パンはもうないの?』
え?俺はセチアに視線を向ける。セチアの手にはパンはもう無かった。はや!?
「あぁ~…悪いな。今は手持ちにはもうないんだ。また持ってくるから待っててくれるか?」
『わかった! 絶対たくさん持ってきてね!』
たくさんかい…ちゃっかりしているな。
「あぁ。約束しよう」
『わーい!』
ふぅ…さて、仕事をするか。
「ユグドラシルを救った薬を持参しました」
「早い対応に感謝します。こちらへ」
俺はエルフィーナに案内され、エルフが作った畑や森に薬を撒いていく。
「本当に魔塩が無くなった…」
「これで作物を作れる! 感謝します!」
「しかし作っていた作物はダメだな…枯れてしまっている」
「森の木々も弱っている。枯れていないのが救いだな」
やはり相当ダメージを受けたみたいだな…そしてエルフの女王の元に向かう。今日は案内なし。セチアがいるがガチガチの緊張状態だ。きっと俺も同じだと思う。
そしてユグドラシルの根元で女王に出会う。そして注文通り様々なサンドイッチとフランスパン、クロワッサン、そして渾身のアップルパイを出す。
「ほう…これは美味しそうな物を作ってきたものだな。早速頂くとしよう」
さすが女王だ。サンドイッチなどでは頷かせるだけだ。しかし最後の爆弾は効果ありだ。
「これは…参ったな。私でもこんな美味しい物は食べた記憶はちょっと思い出せんほど美味だ」
「ご希望に添えることで出来たようで何よりです」
「うむ。このアップルパイというものはここでも作れるものか?」
「食材と色々な備品が必要ですね」
考えていると結構手間暇がかかっている。しかしエルフの女王はやる気満々だ。
「このパンの素材を売ってくれぬか? どうせ食材は作り直すのだ。ならば美味しい物を作製したほうが良いだろう」
「わかりました。苗は少し余っているので、お譲りいたします」
「感謝する。後、作り方を村人に教えてくれ」
「それなら俺のお店で働いて貰っているエルフにパンの作り方を教えてあります。アップルパイはまだですが作り方を教えれば作れるでしょう」
協議の結果その子はエルフの森に一旦戻り、パンの作製を教えることになった。一応俺もパン作りを教えて、希望者はオルレアンベーカリーで雇うことになった。
その方が早く色々なパンがエルフの中で広まるからだ。因みに石窯などは俺が集めることになった。大変だ、こりゃ。
「そうだ。美味しい物をくれた礼をしないとね」
「いえ、それは…」
「此度神の逆鱗に触れたのはフリーティアの人間よ」
な、何!?
「正確にはフリーティアにいた人間というべきかしら? 海に行っていた者が神のアイテムを盗んだようなのよ。それで海の神が怒る事態を招いた…この情報をどうするかは任せるわ」
チロルたちは最近海に行っていないはず…シャローさんたちは島に夢中…他のギルドメンバーも海の話は設立の時以外は…そういえばチロルたちがトラブルを起こしていたな…まさか。
「情報ありがとうございます。俺の方で動いて見ます」
「そう…期待しているわ。早めに動かねば被害は広がると思うから急いだほうがいいわよ」
「わかりました。失礼します。セチア、帰るぞ。セチア?」
セチアに声を掛けると返事がない。
「その娘なら最初から意識を失っていたわよ?」
意識を失うって…いや、これが普通かも知れない。その後、エルフィーナに小麦を提供することを伝えるとお礼に苗木を貰った。
オリーブの苗木:レア度7 素材 品質B
育てるとオリーブの木になる苗木。オリーブの木には木の実が実り、木の実からは食用油が作れる。
オリーブ!?しかも木の実がなるってことはオリーブオイルが作れる!これはパンやパスタ料理が一段階進むぞ!
帰ると早速ギルドに情報を伝える。それを得てルインさんとサバ缶さんたちが情報集めに動くことになった。俺は島にオリーブを植えてログアウトした。




