#479 エルフの森の救援
夕飯を食べ終え、ゲームにログインする。料理をしていて気が付いたがアクアスの水樹が塩害対策していないから向かうことにしよう。
外に出るとグリフォンがあちこち飛び回っている。なんだ?事件か?
サラ姫様に連絡すると各国や生産ギルドが小麦粉や米を買いに来てるらしい。フリーティア城はその手配で大忙しという話だ。
追加の小麦粉と米を頼まれたので、ルインさんたちに連絡をして、アクアスに向かった。
「お邪魔します。リーシャさん、いますか? ちょっと用事が」
「あ、はい! ちょっと待って…え? いいんですか? 知り合い!?」
うん?なんだ?知り合い?アクアスに知り合いなんてほとんどいないが…
「あ、えと。開いているので、入ってください」
「お邪魔します。あ」
「久しいのぅ。マタタビは役に立ったようで何よりじゃ」
リーシャさんの家の中にはエルフの村で浄化草やマタタビをくれたエルフのお爺ちゃんがいた。
「え…なんであなたがここに?」
「エルフのワシがここにいるのは変かの?」
「いえ。変ではありませんが…何か大事な話をしているなら俺は席を外しますが」
「外して貰ってはワシが困るわい…お前さんじゃろ? アクアスの水樹を救ったのは」
ん?アクアスの水樹を救った話をしていたのか?ということは…
「そうですが…まさかエルフの村には魔塩の影響が出ているのですか?」
「うむ。神の力は伊達ではないと言うことじゃ。森の木々が魔塩にやられ、作物や薬草は壊滅的な被害を受けた。ユグドラシルも魔塩に包まれておる」
ひでぇ…
「私も先程被害を聞いた所なんです。農作物や薬草はエルフにとって、生命線です。それが壊滅的な被害だと…」
「エルフはもうあの森では暮らしていけなくなることを意味しておる。しかし何処も被害を受けて、逃げ道がない所にアクアスの水樹が魔塩から解放されたと聞いてのぅ。こうして足を運んだのじゃよ」
なるほど…もう話の流れがわかるな。俺が治したことバレてるし。
「率直に聞く。魔塩の対抗策を持っておるか?」
「持っています。これです」
俺は魔塩除去剤と塩害防止剤を取り出し、見せる。
「ほぅ…ワシでも知らん素材が使われておるな」
「あのこの塩害防止剤というのは?」
「これをアクアスの水樹に使うために来たんですよ。この薬は次嵐が来ても魔塩の被害を抑えることが期待されている薬です。現在フリーティアでは急ピッチでこれの生産が行われています」
「なるほどの…フリーティアは動きが早いわい。さて、もうわかっておるな? ワシからお主に依頼をしたい。これを使って、エルフの村を救ってくれんか? 身の安全、報酬はワシが保証する」
インフォが来る。
『依頼クエスト『エルフの村を救え』が発生しました』
依頼クエスト『エルフの村を救え』:難易度D
報酬:ダイヤモンド
塩害で被害を受けたエルフの村を救え。
ダイヤモンドなら文句はない。それにどれだけ酷い目にあっても、セチアの故郷やユグドラシルをほっとくわけにはいかないよな。大地の精霊もきっとユグドラシルやエルフの森が救われることを望んでいるだろうしな。
「お受けします」
「いい顔じゃな…では早速行くか」
「ま、待ってください! 先に薬を買わせて下さい!」
うん。そこは重要だよね。リーシャさんに塩害防止剤を売り、効果を確かめたが成功したみたいだ。これでアクアスの水樹は大丈夫だろう。
その後、俺はエルフのお爺ちゃんのテレポーテーションでエルフの村に向かった。
エルフの村に着いた俺は絶句する。一面真っ白で以前見たエルフの村とは全く違っている。
「先程の薬はどれ程ある?」
「結構ありますが、この村や森全体となると足りませんね…」
「そうか…ではまずはユグドラシルに使ってくれるかの? ユグドラシルは魔塩などではびくともせんが影響が全くないわけではないじゃろうからな」
「わかりました」
俺がエルフのお爺ちゃんの後を着いていく。するとエルフたちが騒ぎだし、武器を手にしたエルフが来た。
「お前はあの時の召喚師!」
「結界で入れないようにしたはず!」
ほほぅ…そんなことをしていたのか。教えてくれてありがとよ。
「この者はワシの客人じゃ。下がれ」
「エルサリオン様!?」
「しかしこの者は」
「ワシの言葉が聞こえんかったのか? これ以上止めると言うならワシは黙っておらんぞ」
すげー迫力…エルフたちが道を開ける。やはりこのエルフ…レベルが違うな。そして名前はエルサリオンって言うんだ。意味は知らないがなんとなく強そうだ。
しかし村を歩いているとエルフの議会の連中が現れた。
「エルサリオン様、これはなんのおつもりですか?」
「この者は魔塩を取り除く手段を持っておってな。ワシがこの者に依頼を出し、受けて貰ったのじゃ」
「それはそれは…では、その手段を渡して貰いましょうか」
イラッ…何その上から目線…絶滅危機なのにこの態度。正気か?こんな奴等に薬を渡すなんてごめんだ。
俺が断ろうとしたがエルサリオンさんが俺を制止し、前に出る。
「今がどれ程危機的状況か理解できないわけでは無かろう。時間は窮を要するのじゃ。この者をユグドラシルに連れていく」
「例えあなたでも許可出来ません。これはエルフ議会の総意です」
「若造が…笑わすでない。ユグドラシルとエルフの滅亡が総意か? 現実を見よ。昨日食事をした者はおるか? 精霊を見た者は? おらんじゃろうが!」
「あなたこそ、人間をユグドラシルに近付けるなど正気ではない! 我々はあなたを議会から外し、あなたたちを拘束する!」
エルフたちに囲まれる。また牢屋かよ。セチアを連れてこなくて良かった。
「ワシに刃を向けるか…」
「あなたはもう若くない…大人しく捕まってください」
「断る」
「では実力で取り押さえさせて貰う! やれ!」
俺が臨戦態勢になるとエルサリオンさんは手で制する。
「ワシに任せよ。お主の安全はワシが保証すると言ったからの。何…切り札は常に取っておくものじゃ」
エルサリオンさんが薬を取り出し、それを飲むとエルサリオンさんがみるみる若くなり、魔力がみるみる上がっていく。なんじゃこりゃ!
そして飛び掛かってきたエルフの戦士たちは仲良く膨れ上がった魔力に吹っ飛ばされ、魔塩が付着した木にぶつかる。痛そう。
「ふぅ…成功したようだな」
そこには屈強なイケメン戦士のエルフがいた。手には七色の宝石が嵌め込まれた杖を持っている。
「な!?」
「まさか…若返りの薬!?」
「そうだ。さて、俺に喧嘩売ったこと、もう撤回は出来んぞ」
ノリノリだな…エルサリオンさん。
「いつまでもその姿でいられる筈がない! デメリットは存在するはずだ!」
「その通りだ。だがな…お前らそれまで生きていると思うのか?」
『ッ!?』
エルフたちに緊張が走るがエルフは魔法を使用しようとする。だが、エルサリオンさんはレベルが違った。
一瞬でエルフたちが全滅した…魔法の発動を感じなかった。それだけではなく移動した際の足音、風を切る音、気配、何も感じなかった…間違いなく最強クラスの人だぞ。
「何もかも遅すぎだ。俺の全盛期時代でそれだと秒殺だぞ。お前ら」
どんな時代を生きていたんだ…この人。
すると元に戻る。
「久々に運動したわい…では行くぞ」
「え? はい。あの…デメリットは?」
「そんなものないわい。デメリットがある薬を作るなどエルフがするはずないじゃろ。そんなことを口にする時点でこやつらはダメダメじゃ」
ひで~…俺も人のことを言えないけど、まぁ、強いと知っていて喧嘩売って、負けたなら彼らも本望だろう。
俺はエルサリオンさんと一緒にユグドラシルに向かった。




