#46 宴と新人召喚師
俺はモッチさん達に勝利報告する。すると客達全員に喜ばれる。なんと言うか、恥ずかしいね。こういうのは…とはいえさすがに疲れたので、一旦ログアウトする…そして夕飯を作る…冷凍ピラフを電子レンジでチンする。残念ながら、今の状況で手の込んだ料理は作る気にはならなかった。
ゲームではある程度料理は簡単に出来ると聞いたことがあった。EOでは本物の異世界がゲームのコンセプトだ。本物の異世界で料理を簡単に作れるのは変だと言うことだろう。
夕飯を食べ終わり再びログイン。部屋から降りるとまだ騒いでいた…というか見覚えがある人達がいる。
「お邪魔しているわ」
ルインさん達だ。それと知らない男女がいるな。ルインさん達はリターンの実験で俺がこの宿屋にいることは知られている。つまりルインさん達がその男女を連れてきたんだな。
「お前…なんだ?その女の子…」
クロウさんがセチアを見る。そういえばみせたことなかった。
「新しく召喚したエルフのセチアです。セチア、挨拶して」
「嫌です」
おー、明確な拒否は初めてだな。
「どうかしたのか?」
「その人から邪念を感じます。そんな人と知り合いになりたくありません!」
「ぐはっ!?」
クロウさんに大ダメージ。俺がセチアにそんなことを言われたら立ち直れる自信がない。
「それじゃあ…仕方無いわね~」
「クロウがダメだね。女の子を邪な目で見ちゃダメだよ」
女性陣からバッシングだ。
「ま、待て!俺は無実だ!そもそもそんな格好」
「こっち見ないで下さい」
セチアが俺の背中に隠れる。その言葉と行動に再び大ダメージ。
「端から見たらクロウさん、完全に悪役ですね」
「く、いや…いいんだ…俺には…イオンちゃんが…」
クロウさんが最後の希望をかけてイオンを見るが、イオンも俺の背中に隠れる。その行動が止めになった。
「クロウは置いときましょうか…実は今日はタクト君に話があって来たの」
「話ですか?察するにそちらの二人のことですか?」
「当たりよ。二人共、自己紹介して」
まずは男の子から。
「は、はい!新人召喚師のルークです」
名前は由来はチェスかな?それとも有名映画の主人公かな?
「お、同じく。新人召喚師のチロルです」
元ネタはお菓子の名前かな?というか二人共召喚師なんだな。召喚獣はなんだろう?そう思ったが一匹はすぐに発見した。ゴブリンだ。だが微妙に違うな。女性か?
もう一匹はなんだろうと思ったら、狼が一匹いた。昔のグレイに似ているな。
「あ、僕の召喚獣でゴブリナのゴブーナです」
おー。わかりやすい名前をつけたな。そしてゴブリナはやはりゴブリンの女性だったか。
「私の召喚獣はウルフのゴン太です」
あー、犬の名前で付ける人がいそうだな。
「初めまして召喚師のタクトです。こちらは俺の召喚獣でドラゴニュートのリリー、同じくイオン。それからエルフのセチアです」
それぞれリリー達が挨拶する。うんうん。よく出来ました。
「ほ、本物に会えるなんて感激です!」
「あの…ご迷惑でなければ他の召喚獣も見たいんですけど、ダメですか?」
ダメではないんだが。店中で召喚はまずいよな。そこはルインさんも分かっているようだ。
「流石に店中で召喚はまずいわよ」
「そ、そうですね…ごめんなさい。無茶なこと言って」
「機会があればお見せしますよ」
「ほ、本当ですか!?ありがとうございます」
さて、大体話がわかった気がするが、一応聞いてみる。案の定、初心者の彼らの指導を頼まれたのだ。
「召喚師で断トツのトッププレイヤーのタクト君なら適役でしょ?」
「誰がトッププレイヤーですか…俺は平凡な召喚師ですよ」
俺の言葉に全員が黙る。なんで?
「本気で言ってるね。タクト君」
「あのね…初めて中ボス倒した人をトッププレイヤーと言わずなんと言うのよ」
むぅ…確かにそうかもしれないけど。
「でも、昨日は魚釣りしてましたよ?」
「はい?」
なんだそりゃ?って顔ですね。ルインさん。でもね…イオンの食事のために必要だったんだ。
「あー、そういえば重りや釣針を作ったな」
「私も釣竿、作ったよ」
ルインさんが頭を抱えてる。
「確かに釣りをしているトッププレイヤーは聞いたことないけど、お願いできないかしら?」
ルインさんがそこまでお願いするのは珍しいな。何か訳ありかな?
「実はここにいるルーク君はタクト君以外で初めて女性の亜人種を当てた召喚師なのよ」
おー。おめでとう!でもそれがどう話が繋がるんだ?
「はっきり言って、ルークがプレイヤーに狙われる可能性がある」
「私達は彼らに頼られたのだけど、どうすることも出来ないのよ」
「そこで俺なら大丈夫だと?」
「とりあえずはな。お前さんと一緒にいたらそうそう狙うことは出来ないだろうさ。今の状況で激レア亜人種と進化している召喚獣フルパーティを相手にしようとする奴は中々いないだろうからな」
それって、護衛しろってこと?ま、ボスに挑むつもりはないし、やることも釣りぐらいしかないからな。
「「お願いします!」」
まぁ、俺もこのゲームを楽しんでる身だ。ちょっとだけ、協力しますか。
「もちろん。引き受けてくれたら、報酬を出すわ。ミュウ」
「ここからは私が話すね。タクト君は初期の防具のままだし、ピラニアの皮を結構持っているよね?」
あぁ。すっかり忘れて溜め込んでいる。
「ありますね。色々忘れてた…」
「あはは。よくあることだよ。でも今回はそれがいい方向に向いたと思うよ?何せ人狼の皮とピラニアの皮でローブが作れるからね。それとタクト君は蹴り技スキル持っているから靴も作れるよ。この二つが報酬でどう?」
マジで!?タダで作ってくれるなら願ったり叶ったりだ。
「わかりました。引き受けます」
「「あ、ありがとうございます!」」
素直に喜ばれるとどうすればいいか分からないな。こっちは報酬まで貰うわけだからちょっと後ろめたい。
「私たちも色々探ってみるわ。何か困ったことがあったら、言ってちょうだい」
「わかりました」
こうして俺はルークとチロルの面倒を見ることになった。とりあえず二人とフレンド交換をしてパーティーを組む。さて、何から始めようかな?
新キャラのルークとチロルでした。これから暫くタクトと行動を共にします。
さて、次回は初めてのリスト召喚を挑戦します。タクトがどの召喚獣を選ぶのかお楽しみにです。