#414 魔王バエルの三変幻
翌日、いよいよ最後のイベントだ。
ご飯を食べて早速ログインする。みんなも続々ログインしてくる。ボスのフィールドには行けるが、俺たちは第五の島でアイテムの整理と修復してもらった武器を受け取ることにしたのだ。
理由が作戦とアイテムなどにいちゃもんを付けられたく無かったからだ。
そして新しい島に来た。ここが舞台か…拠点を作る前の島に似ているな。高低差も岩もないフィールドだからボスの攻撃を隠れて防ぐことは出来ないフィールドだな。後はちゃんと海もあるから船も使える。
すると早速事前に聞いていた人に絡まれた。昨日の夜の作戦会議に参加しなかった者は邪魔だから後方に下がれだとさ。作戦会議があるとか何も知らせていない癖に何言ってるんだ?こいつは?
更には作戦に口出しするなとか命令には従えとか行ってきた。頭が病んでいるとしか思えない。
「へーい」
「ッ!! 貴様」
返事しただけでお顔が真っ赤だ。ゲームなのによくできているよな。本当に…その後、俺たちは案の定船で最後方に配置された。計算通りだ。
「最強の船を最後方に設置する時点で失策よね」
「スクナビコナはエーテルシールドがありますからね。普通なら盾役として使うことも考えますよね」
「この後の展開が予想できますね。かなり荒れるイベントになりますよ。これ」
俺はサバ缶さんの予想を聞くとそれは余りにも酷い話だった。
更に陣形もまぁ、酷いものだ。陸地は流石と言うべきだが、問題は船だ。砲船が前で運搬船が後方なのも納得だ。問題は船の数。ぎゅうぎゅうで動けない。幸い俺たちは最後方だからまだ動けるが、前の船たちは絶望感半端ないだろう…もしブレスのような攻撃が来たら、逃げることが出来ないわけだからな。
どうなることやらだ。
そしてイベント開始時間になった。レイドボス、魔王バエルが現れる。
フロッグ・バエル?
? ? ?
最初は馬鹿でかい王冠を被ったカエルだ。
「攻撃開始!」
『うおぉぉぉ!!』
攻略が開始された。一斉に大砲が撃たれ、攻撃部隊が襲いかかる。出だしは完璧だな。だが、フロッグ・バエルもただ攻撃を食らうだけのはずがない。
大砲がフロッグ・バエルに当たった瞬間、大砲が砲船に向けて跳ね返される。最前線にいる砲船に逃げ場はない。
「か、回避~」
「船が多くて動けません!」
「何!? ええい! ぶつかってもいいから回避しろ!」
「は、はい!」
しかしぶつかったところで逃げられるはずはない。こうして最前線にいる砲船は一斉に沈んだ。
「あーあー…」
「攻略組の人たちでしょうに…経験値なしとは…今後のフィールド攻略に絶対影響出ますよ」
そんな砲船には目もくれず、陸地の部隊は攻撃を加える。
するとフロッグ・バエルは早速雨乞いを使って雨を降らす。対して、プレイヤーも快晴のオーブを使う。それでもフロッグ・バエルは雨乞いを繰り返す。
「…どう見る?」
「アイテム使いすぎじゃないですか?」
「ですね…たくさんあるから遠慮する必要はありませんがバエルの動きが気になりますね」
雨を降らしたほうが有利ではあるのが、気になるな。暫く天気の争いが続いたがフロッグ・バエルの生命力が半分になると始めて魔王バエルが口を開ける。
「シャローさん、エーテルシールドを!」
「はい! エーテルシールド展開!」
「イエッサー!」
エーテルシールドが展開されると舌が飛んでくる。俺たちは狙われなかったが運搬船が多数、舌に絡め捕らえて食べられた。
「気にするな! 攻め続けろ!」
気にするなは酷いだろう。ルインさんたちも不快感を隠そうとしていない。狙われたのは同じ生産職の人たちだろうからな。
するとフロッグ・バエルは次々方向を変えては運搬船を狙ってくる。
「狙われてるぞ!?」
「逃げろ~!」
「逃げ場なんかねーよ! ぎゃあああ!?」
船に動かすことができず、次々食べられていく。あれでは的だ。しかし誰も助けることは出来ない。出来ることといえば、こっそりスクナビコナの後ろに移動することぐらいだ。
それにしてもこれは…何かを狙っているな。運搬船を狙う理由はアイテムしかあり得ないが…するとルインさんがバエルに狙いに気が付く。
「多分快晴のオーブを狙っているわね…最初から快晴のオーブを使っているのは陸の人たちばかりだから」
確かにそうだ…それに攻略組は恐らく快晴のオーブを持っている人は少ないはずだ。武器と交換したはずだからな。これはヤバくないか?
その後も陸にいるプレイヤーはフロッグ・バエルの攻撃を気にすることなく攻撃を続けてフロッグ・バエルが死にかけになった時だ。
何人ものプレイヤーが指示を無視して必殺技を使用して、フロッグ・バエルを倒した。
「ッ!? 誰だ! 今、許可無く攻撃した奴は!」
『…』
全員知らんぷり。これはサバ缶さんが予想していたこと。ワールドクエストと違って、ボーナスポイントがある以上、それは取り合いを意味している。
古の島でもやはりプレイヤー同士の敵対はあった。俺たちもそうだったしな。今回は必殺技があるせいでどうしてもこういうのが出てくる。
するとフロッグ・バエルが膨れ上がり、破裂するとネバネバの液体が降ってきた。俺たちや船内にいるプレイヤー、そして水着のプレイヤー以外はネバネバになる。水着の効果はこれを防ぐものだったんだな。
『危なかった…』
俺たちがほっとしているとフロッグ・バエルが死んだところから黒い光の柱が上がると猫姿の魔王バエルが現れる。
キャット・バエル?
? ? ?
『あはははは! 勝ったと思った? そんなわけないじゃ~ん』
いい性格しているな…こいつ。流石魔王だ。
『ぶっ殺す!』
プレイヤーの意志が一つになった。しかしキャット・バエルには大苦戦している。挑発などが通用せず、魔法や大砲は躱され、動き回られるだけでプレイヤーは踏み潰されて死んでいく。
「タクトさんならあれをどう攻略しますか?」
「まず動きを封じないとどうしようもないですね…攻撃するとなると広範囲に一斉攻撃しないとダメージを与えられないですよ」
すると魔法使いたちが広範囲にバラけるように魔法を使った。するとキャット・バエルが黒い霧になって消えると魔法使いたちの上に現れ、踏み潰した。マルバスが使っていたスキルだな。
すると俺が知らないスキルが使われる。空から光が魔王バエルに降り注ぐと魔王バエルの能力が封じられる。
「あれは神官職の悪魔封印だと思います。悪魔のスキルを封じる効果があるらしいです」
それは有能だな。別のところから魔法使いたちの魔法が使用され、ダメージを与えると動きが止まった隙に忍者たちが影縫いをする。
「今だ! 全員、総攻撃だ!」
生命力がみるみる減っていく。猫は防御力や生命力は低いみたいだ。ただ半分切るとプレイヤーの動きが悪くなる。
するとキャット・バエルはその隙に影縫いから脱出してしまった。これは酷い。
「何をしている!? 神官たち! 忍者たち! もう一度動きを止めろ!」
「無茶言うなよ…」
「こちらも動きを止めて貰わないと出来ないでござるよ!」
「く…魔法使いたち! 広範囲に魔法攻撃だ!」
魔法使いたちが魔法を当てると一斉に必殺技が放たれ、キャット・バエルは倒される。滅茶苦茶だ。
「酷いバトルだな…」
「魔法使いたちはいやいや魔法を使ったわね…こうなることがわかってたから…」
「関わらなくて良かったです…こんなバトルの指揮をしていたら、評価最悪ですよ。掲示板は間違いなく罵詈雑言の嵐です」
俺たちが勝手に評価していると倒れたキャット・バエルが黒い霧になり、蜘蛛の姿になる。
スパイダー・バエル?
? ? ?
『中々やるね。だけどここまでだ!』
褒められているはずが内容が内容なだけに馬鹿にされている気がする。
するとスパイダー・バエルは何もしていないのに、あちこちでプレイヤーの必殺技がプレイヤーに向けて使用される。
「な、何をしている!?」
「違うんだ! 体が勝手に!」
「うわ!? 誰だ! 今、矢を撃った奴は!」
プレイヤーたちは大混乱だ。
「何が起きてるの?」
「操り糸ですね…プレイヤーを操っているんでしょう。アラネアが使えますね」
「対処法はなんですか?」
「あくまで糸ですから糸を斬れば解除されると思います」
このままだと全滅しそうだから待機しているみんながこっそり戦っている人たちに情報をばらまく。
「糸だ! 糸で操っているんだ! 糸を斬れ!」
プレイヤーたちが糸を対処しているとスパイダー・バエルは戦術を変えた。スパイダー・バエルは口から鋼線を吐き出すとプレイヤーが次々バラバラにされる。
重装歩兵の人たちが盾でなんとかしようとするが盾で止めてもぐるぐる巻きにされて、体がバラバラにされてしまう。
「タクト君…対処法は?」
「スパイダー・バエルは動かないみたいですから大砲で攻撃しつつ、鋼線は斬るしかないですね」
因みに斬れるかどうかは知らない。しかし可能性がある人はいる。
「おぉ!!」
鉄心さんが斬っていく。斬れるんだね。すげー。
大砲も撃たれるが鋼線で砲弾がバラバラにされ、ガレオン船も次々バラバラにされる。よく斬れたな…鉄心さん。それでもスパイダー・バエルは砲弾を対処しきれず次々当たる。
するとこちらにも攻撃が来た。だが効かん!
「スクナビコナ様々ね」
「今ので普通の船はバラバラですからね…というか大型船、残ってますか?」
視界にある大型船は全滅しているな…救いはこれが終わった後は元に戻るということだ。
そしてプレイヤーの被害も甚大だ。既に参加したイベントを一緒に戦ったメンバーはほぼ全滅。鉄心さんは無事なようだが、他のメンバーはやられてしまったようだ。
「よくも…子供たちを!! 妖魔裂斬!」
鉄心さんが渾身の必殺技を使うが倒せない。するとまだ必殺技が使えるプレイヤーたちが必殺技を次々使い、スパイダー・バエルを倒す。
もっと早く使っていれば、結果は違っていただろうに…それを見て、俺はある疑問を持った。
「あの…ルインさん、サバ缶さん。ちょっと質問良いですか?」
「何かしら? タクト君」
「答えられる質問ならなんでも答えますよ」
ありがたい。じゃあ、遠慮なく質問しよう。
「死んだ後に当たった必殺技ってダメージポイントに加算されるんですか?」
「え? それは…」
「…恐らくされませんね。死んだモンスターに攻撃してもダメージは0でしたから」
じゃあ、死んだ後に当たっている必殺技は全てポイント0ってことか?凄いマイナスじゃん。
「この事がもっと早く伝わっていたら、状況は少し変わっていたかも知れませんね…」
「必殺技のダメージポイントが確実に欲しい人は先に使うでしょうからね…それに最初から必殺技を使うことを前提に攻めていたら、被害はもっと減らせたでしょうね…結果論ですけど」
ごめんね…気付かなくて。
サバ缶さんが話しているのはキマイラ戦での戦闘のことだろう。あの時はみんなで大技ラッシュをしていたからな。
現時点ではキマイラのほうが生命力も防御力も上な気がするからな。キマイラ戦のようなことをしていたらだいぶ楽に攻略出来ていたかも知れない。
俺たちがそんな会話をしていると黒い柱が天を貫き、真の魔王バエルが降臨する。姿は下半身が蜘蛛、上半身は顔が三つあり、正面は王冠を被ったボンボン貴族風の少年、右がカエル、左が猫だ。
魔王バエル?
? ? ?
「まさかここまでやるとは思わなかったよ! 我こそは魔王バエル! さぁ、君たちに引導を渡して上げよう!」
シーン…
あれ?誰も指示を出さないな。ルインさんがコミュニケーションを使う。
『ちょっと、ちゃんと指示を』
『ルイン…指示していた奴なら既に死に戻ってるぞ』
鉄心さんから驚き発言…そういえば途中から声が聞こえないな。
『もう君たちを邪魔する者はいないだろう…頼む』
鉄心さんに頼まれたら、やるしかないか。戦闘に参加していなかった全員が頷く。
俺はテレポートで鉄心さんのところに移動し、回収するとワイフさんの船に鉄心さんを下ろす。
「鉄心さんの回復をお願いします」
「任せてください。タクトさんたちも気をつけてくださいね?」
「はい!」
俺はスクナビコナに移動する。
「私たちは残っているプレイヤーをまとめるわよ!」
『イエスマム!』
俺たちがテレポートで移動する。さて、魔王バエルとの大一番だ。
「まだそんなに生き残っていたんだね」
『レギオン召喚!』
召喚獣たちや猛獣使いのモンスターたちが展開される。
「フリーティアの人間…そうか。君たちだね? ネビロスたちを倒したのは! 面白い!」
魔王バエルが戦闘態勢になる。俺たちも武器を構える。俺たちと魔王バエルとの対戦が始まった。




