#406 仙狐の試練
目を開けると以前の試練で来た場所と同じところみたいだ。ただし隣に恋火がいる。
「どんな試練を受けることになんでしょうか…不安です」
「恋火なら大丈夫さ…行くぞ」
「は、はい!」
俺が恋火と歩いていくと空天狐様がいた。
「よう来たなぁ。お久しぶりどす」
「お久しぶりです。空天狐様」
「お、空天狐様です」
恋火はビクビクしすぎだ。大丈夫かな。すると空天狐様は笑う。
「そない緊張せんでええよ。試練言うてもこれを飲むだけや」
出されたのは透明な水が入った盃だ。お酒じゃないよな?
「中身は仙水っていう特殊な水でな。仙人になるためにはこれを飲まなあかんのや」
「これを飲むだけでいいんですか?」
「そうやよ」
「わ、わかりました! いただきます」
恋火が一気に飲むと恋火が倒れる。やっぱりお酒じゃん!
しかし、倒れた恋火に異変が起きる。体から黒い瘴気が溢れだし、恋火の毛並みが黒くなっていく。更に巫女服まで白が黒く染まる。
これはなんだ?暴走ではないみたいだが…黒くなった恋火が起き上がる。
「やっと出てこれたです。全く…いい子ちゃんぶるのもつれーもんです」
れ…恋火?
「ん? 何見てやがりますか。見る暇あれば頭を撫でやがれです」
え…えーっと…撫でればいいのか?
「んん…尻尾も同時に…です」
いや、撫でろと言われたら、やるけどさ。
「…」
「あ~恋火? そろそろ疲れて来たんだが?」
「誰かが休むのは許可ですか。ずっと続けろやです」
無茶言うな。
「いや、それは無理だから」
「根性ねーですね」
根性あっても出来ないだろう。それよりこれはなんだ?恋火の言葉使いが変なんだが…
「そん子は恋火の陰…普段表に出さない裏の側面どす」
それは本音か?言いたくても言えない感情とか…
「ババアが何得意げに解説してやがりますか。ダセーです」
恋火…それは言っちゃいけない言葉だと思うぞ。
「小娘にはわからへんやろうけど、これも仕事なんよ…堪忍しておくれやす。恋火も今、試練を受け取るはずどす。あんさんの試練はそん子を暴走させへん事どす」
この子を暴走させなかったら、いいのか?なら簡単だな。俺は胡座をかいて座る。
「何座ってやがりますか。立って撫でやがれです」
「さっき疲れたって言っただろう? それよりこっちにこい」
「何するつもりですか。セクハラですか」
難しい言葉知ってるね。でも、尻尾を撫でろとおねだりしてくるのにセクハラを気にするもんだな。
俺は警戒する恋火を強引に膝枕をして、頭を撫でる。
「あ…こ、これは…だ、誰が膝枕をしろと」
「ならやめるか?」
「……やめろとは言ってねーです」
なんとなくこの恋火の扱い方がわかった気がする。ちょっと口が悪くなっているが基本的には恋火なのだろう。
恋火の甘えん坊な性格は命名、黒恋火にもある。ただ素直に甘えられず、それでも口には出す感じだ。
恋火は口に出すときは素直に甘えてくるがため込むことがある。結果黒恋火はこんな性格になってしまったんだろう。本質が甘えん坊なら甘えさせれば暴走はないだろう。後は恋火次第だ。
一方恋火はもう一人の自分と一部始終を見ていた。
「な、何しているんですか! タクトお兄ちゃんに頭や尻尾をあんなに撫でてもらうなんてずるいです!」
「ずりーことねーです。あれはタクトお兄ちゃんがあたしにしたことです。してほしければさっさと口にしねーほうが悪いです」
「そ、それはそうかも知れませんが…」
「いい加減、周りを気にするのはやめやがれです。大切なのは本音…そんな有り様ではタクトお兄ちゃんは守れねーですよ。もし守れなかったら、どう責任を取るつもりですか?」
恋火は何も言い返せない。自分の弱さを恋火は知っているからだ。他人が怖い…みんなに嫌われたくない。それは誰しもある感情かも知れない。
だが、それは弱さだと黒恋火ははっきり告げた。そしてその弱さはいつか自分を傷つけると伝えたのだった。それは恋火も思っていて、ずっと目を背けてきたものだった。
「強くなりたかったら、今ここでその弱さを捨てやがれです。それが出来ないなら今日からあたしがタクトお兄ちゃんを守るです」
「…嫌です。それだけは絶対に譲れないです!」
恋火から激しい炎が放出される。
「タクトお兄ちゃんを守るのもタクトお兄ちゃんに甘えていいのも全部あたしだけです! この気持ちだけは誰にも負けれないんです!」
真っ向からぶつかってきた恋火に黒恋火は笑む。そして腰の刀を抜く。
「それでいいです。でもあたしも譲れないです。タクトお兄ちゃんを欲しければ、あたしから実力で奪いやがれです」
「わかりました! 奪い返して見せます!」
恋火は居合い斬りの構えを取る。
「「はぁああ!」」
刹那の交錯…勝ったのは恋火だった。
「はぁ…はぁ…やった…」
「気持ちが籠ったいい太刀筋だったです…これであたしの力、託せるです」
黒恋火が消えていく。
「あたし…」
「そんな顔するなです…ここで消えてもあたしはお前の中で残るです。もし弱さを見せたら、体を奪ってやるから覚悟しやがれです」
「…はい! でも絶対に奪われたりしませんから!」
そう告げた恋火に黒恋火は吸い込まれ、現実の膝枕で寝ている恋火から鮮やかな紅の光が放たれ、恋火は進化した。そこでインフォが来る。
『仙人の試練をクリアしました』
『恋火がハーミットビーストに進化しました。仙術【空中浮遊】を取得しました』
『狐技【シュラインテイル】が【ハーミットテイル】に進化しました』
『仙気、他心通、神足通、魔力切断、物理切断を取得しました』
進化した恋火が目を醒まし、起き上がる。進化した恋火は元の姿に戻り、服装に羽衣が追加された。尻尾の数も八となっている。
「んん…あたし…」
「試練をクリアしたみたいどすな。これで恋火も仙狐の仲間入りや」
「…空天狐様…タクトお兄ちゃん…あ」
恋火が俺の膝を見て、また寝る。
「タクトお兄ちゃん、頭と尻尾を撫でてください」
「まだするのか?」
「あたし、全部見ていたんですよ。陰のあたしより撫でてくれるまでここから退きません」
なんか、恋火は進化して雰囲気が変わったな。恋火がそういうなら仕方無いか…そう思っていたら、恋火の尻尾を空天狐様が握り、持ち上げる。
「く…空天狐様!? 何を」
「全部見とったんならうちに何言うたか覚えとりますな?」
恋火の顔が絶望に染まる。
「あれはあたしが言ったわけじゃないですよ」
「黙りや。連帯責任どす。これから仙狐としての修行をたっぷりしたるから覚悟しいや」
「いや~」
凄いとばっちりだな…まぁ、帰ってから膝枕をしてあげよう。では、進化した恋火のチェックだ。
名前 恋火 シュラインビーストLv30→ハーミットビーストLv1
生命力 105→155
魔力 150→200
筋力 165→215
防御力 65→100
俊敏性 190→250
器用値 110→150
刀Lv28 二刀流Lv8 風刃Lv11→鎌鼬Lv11 炎魔法Lv12 時空魔法Lv1
邪炎Lv17→黒炎Lv17 忌火Lv26→聖火26 火炎操作Lv1 気配察知Lv29→天耳通Lv29
他心通Lv1 危険予知Lv29 気配遮断Lv1 魔力切断Lv1 物理切断Lv1
霊力Lv12 仙気Lv1 仙術Lv1 幻術Lv2→幻影Lv2 神道魔術Lv7
見切りLv12 俊足Lv19→縮地Lv19 神足通Lv1 妖術Lv5 血醒Lv9
料理Lv22 シュラインブレスLv3→ハーミットブレスLv3 狐技Lv4 神降ろしLv2 獣化Lv4
強くなったな。完全に侍タイプだ。
注目は新しい仙術かな。空中浮遊、神足通の違いがよくわからないが何か違いがあるのだろう。そして魔力切断を先に取られたな。まぁ、恋火なら覚えるだろうとは思っていた。
後は仙気と気配遮断だな。何気に恋火は強化がなかったし、刀持ちで気配遮断はかなり強いはずだ。縮地もあるし、硬い敵でも物理切断を覚えたからある程度は有効だろう。
魔法系は火スキルがパワーアップして、操作可能になった感じか。
俺が確認をしていると空天狐様が来る。
「あんさんは先にお帰りおくれやす。恋火もすぐに届けるからな~」
そう言われると俺は元の場所に戻った。




