#403 上級エルフの試練
俺が目を開けると隣にはセチアがおり、目の前には天を貫くほどの巨大な木があった。これは以前には見れなかったが...
「世界樹ユグドラシル…」
「その通りです」
セチアの呟きに誰かが答えるとその人はユグドラシルから降りてきた。手には七つの宝玉がある木の杖に腰には一本の魔法剣を装備したエルフだ。
「あなた様は!?」
「初めてましてですね…私はエンシェントエルフのエリーベ。大罪を犯したエルフです」
ん?セチアはこのエルフを知っているのか?こんな人、あの議会にいたかな?
「ふふ…私はあの場にはいませんでしたよ。もっと言うと私は既に死んでいて、ユグドラシルと同化しています。今回はあなたたちのことを知り、エンシェントエルフたちとユグドラシルに許可を貰い、こうして試練役として来ました」
まじか…この話からするとエルフは死ぬとユグドラシルと同化することになるってことだな。するとセチアが聞いてくる。
「タクト様…以前お話した魔法剣の話を覚えておりますか?」
「ん? 覚えているぞ。…まさか」
「はい。私が最初に宝玉を作ったエルフです。そしてこれが私の愛する男が作った魔法剣ハイラントエリーベ。私たちの愛を斬り裂き、一国を滅ぼした呪われし魔法剣です」
セチアが絶句する。彼女が背負っている重さを理解しているからだろう。だけど俺にはあの剣が呪われているようには見えない。
「愛を斬り裂き、一国を滅ぼした呪われし魔法剣なのに死んだ今でも腰に装備しているんですね」
俺の指摘でセチアも気がついた。普通そんな武器を装備したりしないだろう。装備している理由は一つしかない。
「鋭いですね…流石数多の亜人種に好かれる人です。お察しの通り、どれだけ不幸になっても好きな人が作ったこの剣は離せないんですよね…あなたはどう思いますか?」
「俺は…あなたたちの話をセチアから聞いただけです。それだけでその剣を語ることは出来ません。しかしあなたが込めた思いが本物ならその剣はあなたかあなたが愛した男性が持つべき剣だと思います」
「これが私たちを別れさせた剣だとしてもですか?」
「そうだとしてもです。その剣は今あなたが持っている。それが答えだと思います」
剣は己の心を映す鏡と言われている。その剣が自分たちを不幸にしても、好きな人が作ったものを持っていたい。それがエリーベさんの心…今でもその人のことを好きでいる証拠だろう。なら俺はその気持ちを尊重したい。
「…あなたは私たちのことをどう思いますか?」
「私はあなたたちに起きたことを知っています。私が同じ立場なら私は国を滅ぼして、彼を蘇らす方法を探します。それこそあなたが宝玉を作ったようにこの手がどんなに汚くなっても最善を尽くします。そしてその人と出会えた時にその剣をその人に返します。そこからまた愛が始まると思うんです」
「ふふ…あなたは強いですね」
「当然です。タクト様のエルフですから」
セチアの言葉から愛の重圧を感じる。
「あなたたちの思いを聞けてよかった…あなたたちならきっと大丈夫ね…いいわ。あなたたちを信じて合格としましょう」
『上位エルフの試練をクリアしました。進化先を選択してください』
おや?進化が二つあるのか?すると説明を受ける。
「上位エルフには二通りいます。一つがホーリーエルフ。自然を守護する聖なるエルフです。そしてもう一つがダークエルフ。自然を壊す聖なるエルフです」
「自然を壊すのに聖なるエルフなんですか?」
「当然の疑問ですね。この世界は生と死の循環で成り立っています。それは自然も例外ではありません。木は枯れると、土の養分となり、また新しい木が芽吹く。これが自然です。また木は病気になることがあります。その病気は次々他の木に感染していきますが、感染した木が死ぬとそれを防ぐことになります」
なるほど、納得した。確かに新しい自然を作り出すために山を焼く野焼きも人間はしている。ダークエルフの役割がそういうことなら確かに聖なるエルフと呼ばれてもいいだろう。するとセチアが爆弾発言を言ってくる。
「ようは白い肌の私が好きか褐色の肌の私が好きか選んで下さればいいんです!」
いや、それは違うだろう。進化先が違う以上、明確な違いがあるはずだ。しかしさっきの言葉が正しいなら、ホーリーエルフは守り特化、ダークエルフは攻撃特化な気がするな。説明も見てもさっきと同じような説明だ…むむむ。普通に行くか。
「ホーリーエルフにします」
「やっぱりタクト様は白い私が良かったんですね!」
まぁ、否定はしない…しかし褐色が悪いとも思えない。ファリーダがいるせいか褐色の肌に抵抗がなくなってきているんだよね。
「わかりました。では、私とユグドラシルの力…あなたに託します」
セチアが進化する。そしてインフォが来る。
『セチアがホーリーエルフに進化しました。精霊召喚に【精霊契約】が追加されました』
『連続詠唱、同時詠唱、魔力操作、森林操作、精霊結界、精霊魔法を獲得しました』
進化したセチアは服装がお姫様が着るようなエメラルドグリーンのドレス姿になった。ステータスを確認する。
名前 セチア ハイエルフLv30→ホーリーエルフLv1
生命力 90→140
魔力 230→280
筋力 80→120
防御力 53→93
俊敏性 66→116
器用値 210→260
スキル
杖Lv18 魔法弓Lv31 鷹の目Lv21 射撃Lv22 木工Lv22
採取Lv33 調薬Lv19 刻印Lv11 宝石魔術Lv5 宝石細工Lv5
封印魔術Lv10 連続詠唱Lv1 同時詠唱Lv1 魔力操作Lv1 風魔法Lv8
火魔法Lv21 水魔法Lv24 土魔法Lv15 闇魔法Lv8 神聖魔法Lv7
雷魔法Lv9 爆魔法Lv10 木魔法Lv17 氷魔法Lv8 樹魔法Lv15
罠設置Lv2 森林操作Lv1 ハイエルフの知識Lv26→ホーリーエルフの知識Lv26
精霊召喚Lv8 精霊結界Lv1 精霊魔法Lv1 精霊契約Lv1 使役Lv8 料理Lv20
俺、魔法使いとして抜かれてない?対するセチアも落ち込んでいる。
「あぁ…タクト様が大好きな肌の露出が無くなってしまいました…」
誰が肌の露出が大好きだ。
「ホーリーエルフともなれば品格は大切です。そういう服がお好きなら買ってもらうといいですよ」
「タクト様はガードが硬いんです!」
「そこをなんとかするのが、女性の腕の見せ所ですよ?」
「う…レクチャーしてください」
こらこら…何を教えて貰うつもりだ!
「してあげたいのは山々ですが、時間がないようです」
エリーベさんの体が透けていく。最後にエリーベさんが笑顔を見せる。
「あなたたちが私たちのようにならないことを祈っています。願わくば証明してください。この世に愛に勝るものはないと」
俺とセチアは視線を合わし、返事を返した。
「「はい! やってみせます!」」
俺たちの視界が緑の葉に包まれ、俺たちは現実世界に戻った。