#338 天才研究者と奴隷解放
お昼にラーメンを食べながら、佳代姉たちにアラジンと出会ったことを話す。
「試練の迷宮はせい君が言っていたミノタウロス関係のものかな?」
「よく似てるものだろうな…牛オンリーとエジプトの神関係の違いがあるけど」
「…牛のほうが絶対楽」
だよな。牛の対象は全世界だが、エジプトの神と比べればやはりスケールは下がるだろう。
「あ! 例のアイテム、この迷宮で使うんじゃない? アヌビスやホルスってエジプトの神様だったよね?」
理恋にしては鋭いな。その意見には完全に同意する。神様繋がりだし、間違いないだろう。
「そっちはポイントどうなるんだ? イベント最終日だろう?」
「せい君は気付いていると思うけど、中々稼がせて貰えないね…ウーパールーパーは水着装備か開幕必殺技で勝てるけど、フロッグドラゴン、バーバヤーガは今のところ、誰も勝ててないね」
それはそうだろう…フロッグドラゴンを倒すならリリー、イオン、恋火、ノワ、和狐の切り札を投入すれば勝てるかな?
恋火と和狐で激おこ状態に持っていって、リリー、イオン、ノワで激おこ状態と戦う…勝てそうな気がするが、勝った後が大変だな。
「…兄様の戦闘がみたいな」
「断る。勝てない戦いはしない主義なんだよ」
「攻略はガンガン行く癖に~」
そんなこと言われても戦いません。どうにも砂漠のクエストがキナ臭い。ジンの情報で以前戦った暗黒召喚師の他にも謎のキャラがいることは確定した。
そいつらが奴隷商売をしている流れだが、普通のキャラバンを襲っているのは変な話だ。別に普通のキャラバンが奴隷商売を邪魔しているわけじゃないからな。
こういう空気の時はやはり切り札は温存したほうが良いだろう。フロッグドラゴンに挑むのはその後だ。どうせイベント終わってからでもあの森にいるだろうからな。
ゲームにログインするとメールが来る。カインさんからだ。
『保護した彼らのことで話がある。獣魔ギルドに来てほしい』
あまりいい話じゃなさそうだが、とりあえず向かうことにした。
「わざわざ悪いね。早速だけど、奴隷の首輪はボクたちじゃ解除出来そうにない」
ほらー。やっぱりいい話じゃなかった!するとネフィさんが言う。
「私たちは召喚師です。アイテムのことなどわかるはずがないギルマスがいい顔しようとするから、こうなるんですよ」
言われてみれば確かにそうだ。そこに気付けなかった俺も間抜けだな…
「じゃあ、解除は無理なんですか?」
「いやいや! そこは大丈夫! ボクの知り合いでこういうのが得意な人物がいるからさ! …ちょっと変だけど」
なんか付け足した!
「その人はギルマスと同じ領域にいる人物です。ただその人物に連絡したら、条件を言ってきました」
もうわかったよ。その条件。
「イクスですね」
「はい。個人的にはイクスさんとあの人は絶対に会わせてはいけないと思うのですが、興味があることには物凄い執着を見せる人なんです」
「具体的にはアウラのリリーちゃんたち以上だね。アウラが一番苦手な人でもある」
俺の中でこの世界の危険人物ランキングでその人物はトップになった。
「…大丈夫なんですか?」
「イクスさんの身の安全は獣魔ギルドが保証します。錬金ギルドに話を通して、動いて貰います」
「その人は錬金術師なんですか?」
「いや…彼は研究者だよ。でもあまりに規格外な研究者だから放置なんて出来ないから錬金ギルドとエリクサーラピスが管理しているんだよ」
管理って…するとネフィさんの股の間からじいさんの顔が現れた。
「ワシのこと、呼んだかの?」
「へ? きゃあああああ!?」
ネフィさんの攻撃が続いているため、しばらくお待ち下さい。
「はぁ~…はぁ~…はぁ~」
「ふぇふぇふぇ。通用しないのぅ」
「く!」
なんだ?ぼっこぼこにされたのに一切ダメージがない。カインさんと同じ領域ということは事実らしい。
「ワシがダメージがないのが不思議かの?」
「へ? あ、はい。不思議です」
「秘密はこれじゃ!」
そのおじいちゃんが取り出したのはカインさんの顔の藁人形だ。ボコボコにされている。これって。
「名づけて身代わり藁人形カイン坊じゃ」
「そういうのはやめてくれないかな!? 君も欲しそうな顔しない!」
え?だって、ダメージをこの藁人形が受けてくれるならめっちゃ強くないか?
「ふぉふぉふぉ。見た目より性能を正確に見抜くか…流石エクスマキナに選ばれた召喚師と言ったところかの?」
おや。バレてる。ならば名乗ろう。
「召喚師のタクトです。お察しの通りエクスマキナの召喚師です」
「うむ。ワシの名はアインシュタイン。よろしくの」
はい。ぶっ飛んでいるわけですね。アインシュタインは研究者というより物理学者だ。20世紀最高の物理学者や現代物理学の父などと呼ばれている偉人だ。
有名なのが相対性理論だろうか?他にも光量子仮説、ブラウン運動の理論の論文を書き、それまでの物理学の認識を根本から変えるという偉業を成し遂げた人物だ。
このゲームではセクハラのおじいちゃんだな。
「早速エクスマキナを…とカイン坊、約束のアイテムじゃ」
眼鏡?というかこれは問題だな。
「…何か取引していたんですか?」
「え!? いや、そんなことはないよ?」
「まだまだ青いの…男なら堂々と服が透けて見える眼鏡を作って貰ったといえばいいじゃろ」
アインシュタインがそういった瞬間、ネフィさんによって、眼鏡は破壊された。
「あぁ~!? 男のロマンが~!?」
「約束のものは渡したし、取引成立じゃな。ではエクスマキナを見せとくれ」
「それは構いませんが、エクスマキナに触れることは許可出来ません。これでも召喚師ですから」
「ふむ。そう言われたら、ワシも従うしかないの。ワシも折角の研究材料を見れなくなるのは避けたいからの」
案外話せばわかってくれる人みたいだな。
「後、条件で」
「奴隷の首輪じゃろ? わかっておるよ。ただしこちらも条件を言わせてくれんか?」
「なんでしょうか?」
「お主をワシの研究室に招待したい。もちろん身の安全は保証する」
え?エリクサーラピスに行けるってこと?それにアインシュタインの研究室は普通に見たい。だけど、帝国やエルフの森のことがあったからな。
「君たちにとって、とても有意義な時間になると思うが、どうするかね?」
これは…行くしかなさそうだな。奴隷にされた人たちもほっとく訳にはいかないからな。
「…わかりました」
「ふぉふぉふぉ。決意を決めたいい目をしておるな。では、先に奴隷の首輪を外すかの」
アインシュタインと共に奴隷たちのところに行く。
「ほほぅ。これが奴隷の首輪か…どれ」
アインシュタインが見たことがない小さな魔方陣をたくさん展開する。なんだあれ?
「ほれ。解錠出来たぞい」
全員の奴隷の首輪が外れて地面に落ちる。
えぇ~…まさかの一瞬かよ。
「外れた?」
「は、外れたぞ!」
「やった!」
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
みんな喜んでいるな。砂咲との約束も守れて良かった。するとクエストクリアを知らせるインフォが来る。
『特殊クエスト『キャラバンの奴隷を解放せよ』をクリアしました』
よし。クエストクリアだ!すると砂咲が俺にお礼を言ってくる。
「あ、あの! 本当にありがとうございました!」
「いや。お礼はアインシュタインさんに言ってくれ」
解錠したのは俺じゃないからな。すると他の奴隷だったセリアンビーストが話す。
「しかし私たちだけ助かってしまっていいのかしら?」
「それは…」
「…良くはないだろ」
これは…追加クエストだな。
「…やっぱり奴隷は君たちだけじゃないだね」
「はい…大人から子供までたくさんいます」
「サンドウォール砂漠では獣魔ギルドは動けませんね」
ネフィさん…なんでこっちを見るの?他のみんなもなんで俺を見る。俺はサンドウォール砂漠に入れるからか。カインさんが俺に言う。
「彼らの仲間の解放、頼めないかな? これは獣魔ギルドからの正式な依頼と思ってくれていい」
『依頼クエスト『賊に捕まった奴隷たちを解放せよ』が発生しました』
依頼クエスト『賊に捕まった奴隷たちを解放せよ』:難易度B-
条件:参加プレイヤー人数制限なし。
報酬:後日獣魔ギルドから配布
賊に奴隷にされた亜人種全てを解放せよ。
ぐぬ…周りからの視線がきつい。
「引き受けますけど、期待しないで下さいね」
「引き受けてくれただけで十分さ。敵のアジトとか見つけるだけでも難しいだろうからね」
わかってて、依頼したのか。
「では、いこうかの…あぁ、カイン坊。この首輪、半分貰って行くぞい」
「…悪用や生産しないだろうね?」
「…ワシが神の逆鱗にふれるような真似が嫌いなのは知っておるじゃろ?」
「まぁね。一応の警告さ。これはこの世界に不要なものだ」
カインさんがまともなことを言った…服が透けるメガネのことが無ければ今日はまともに思えたのに…残念だ。