#298 マタタビ祭りとなぞなぞ
夕飯を食べ終え、ゲームにログインし、リリー、イオン、恋火、ノワ、和狐を連れてケットシーの村に向かう。
「あ、マタタビの人! お待ちしていたにゃ!」
ダルタニャンが来る。俺はマタタビの人か…それにしても村はすっかりお祭りムードだ。
「マタタビは持ってきて、くれたかにゃ?」
「持ってきたよ」
「ありがとにゃ! じゃあ町の中央に薪を組んであるから、その中にマタタビを入れて欲しいにゃ! 案内するにゃ!」
ダルタニャンの案内で向かうとそこには井桁型に薪が組まれていた。キャンプファイヤーでよく見る組み方だ。わかってるな。
俺はマタタビを入れるとダルタニャンが音頭を取る。
「これよりマタタビ祭りを開催するにゃ! みんな、頼むにゃ!」
『にゃ~!』
ケットシーたちが一斉に蒔に火を付け、祭りが始まった。
そのはずなんだけどね…現在ケットシーたちは地面を転がり回ってる。
「ハッピーにゃ~…」
ダルタニャンも脱落している。どうやらマタタビ祭りはケットシーたちがマタタビの匂いでハッピーな気分になるお祭りみたいだ。俺たちには一切利点がないな。むしろ恋火と和狐がマタタビの匂いで被害を被ってる有り様だ。
さて、このまま何もないということはないはずだが…俺がそう思っていると強い風が吹き、大量の火の粉が吹き上がる。一瞬火事の心配をしたが、火の粉は線になり、空に集まっていく。
『綺麗…』
リリーたちがそういってしまうほど、それは幻想的な光景だった。そして集まった線が俺がよく知る存在を描いた。そいつは古代エジプトなどで有名な神獣だ。
王家の墓であるピラミッドの守護者であり、敵を打破する力でもあった顔が人、体がライオンの神獣。
その名をスフィンクス。
因みにスフィンクスの姿は千差万別だ。男と女があり、羽がある種類もいると聞いたことがある。
描かれたスフィンクスが本来の姿となり、俺たちの目の前に降りてくる。
「私はスフィンクス。名はアブル・ホール。偉大なるファラオを守護せし、神獣です」
どうやらモデルはギザの大スフィンクスだな。しかし守護する神獣がここに来て、いいのだろうか?
「あなたたちが儀式を行い、呼び出したのでしょう?」
これ、スフィンクスを呼び出す儀式だったんだ。
「用件は砂漠に入りたいのですね?」
「はい」
「では、試練を受けて貰います」
スフィンクスで試練なら有名な話があるよな。
「私のなぞなぞに五問連続で正解することが出来れば、あなたたちには砂漠に入れる資格があると判断致しましょう」
やっぱりか。インフォが来る。
『特殊クエスト『スフィンクスの試練』が発生しました』
特殊クエスト『スフィンクスの試練』:難易度E
報酬:スフィンクスのメダル
スフィンクスのなぞなぞに五問連続正解せよ。
難易度低いな。まぁ、なぞなぞに答えるだけだから低くて当然かも知れない。
「どうしますか?」
「挑みます」
「わかりました。挑戦権は一人一回です。不正解した者には罰を受けて貰います」
罰ゲームありなのか…しかしこれは面子をミスったな。リリーや恋火がなぞなぞが得意とは思えない。いや、隠れた才能があるかも知れない。
「タクト、なぞなぞって何?」
…まずなぞなぞについての説明からだな。
「誰から挑みますか?」
「はいはーい! リリーから!」
「わかりました。では一問目です」
さて、どんななぞなぞが来る?
「リリーは100Gを持って、50Gの物を買いにいきました。途中80Gを無くしてしまいました。リリーに足りないのは?」
「簡単な問題ですね」
「いや、そうでもない」
これは有名ななぞなぞだからな。
「えーっと…えーっと…50G!」
リリーの答えに俺たちとスフィンクスが固まる。
これはきついな。普通の答えからして間違っている。スフィンクスも正解を言いづらいだろうな。
「ざ、残念ながら不正解です。正解はリリーの注意力です」
「そうなの!?」
素直に受け入れるリリーが眩しい…因みにこのなぞなぞは色々な回答がある。普通にお金、運などがあったはずだ。
「では、罰です」
リリーに雷が落ちる。
「キャアアア!」
『リリー!?』
俺達が駆け寄るとそこにはネコミミとネコの尻尾になったリリーの姿があった。
「あれ? なんともないにゃ?」
語尾までネコ語になっている。ちょっと待て、俺もこうなるのか?
「リリー、語尾が変になってますよ!?」
「え? 語尾ってにゃに? イオンにゃん」
「誰がイオンにゃんですか!」
リリーの奴、全く気付いていないみたいだな。しかしあまり酷い罰ゲームじゃない気がする。するとスフィンクスが言う。
「今、この村がどうなっているかお忘れではないですか?」
スフィンクスがそう言うとリリーが倒れて、転がり出す。
「にゃははは! いい匂~いにゃ! 幸せにゃ~ん」
マタタビの効果か!
「では、なぞなぞを続けましょうか」
これは被害が広がる前にさっさと終わらすに限るな。俺が行こうとするとイオンが止める。
「ダメです! タクトさんは召喚師なんですから、ここは私に任せてください!」
「止めておいたほうがいいぞ? イオン。リリーのようになりたくないだろ?」
「だ、大丈夫です! どういうものかわかりましたから!」
止めておいたほうがいいと思うけどな。イオンのようなタイプにはこういうのは相性最悪だろう。しかし意外に頑固なイオンは挑戦し、見事に真っ正直に答えた。
で、どうなったのか。
「タクトにゃ~ん。私の尻尾、触って欲しいにゃ~ん」
お尻を付きだし、おねだりしてきた。後でイオンが知ったら、爆発しそうだ。
「イオンお姉ちゃん…大胆です!?」
「うちらには出来んね~」
しかしリリーとイオンが挑んだから自分も挑まないと行けないと恋火が挑戦し、当然のように不正解。
すると恋火は抱きついて来て、俺の顔をなめだした。
「にゃ~。タクトにゃん、美味しいにゃん。ペロペロ」
そういえば猫って手とかなめるな。しかし恋火、さっきの自分の発言を思い出して欲しい。
恋火が挑戦したので、姉である和狐も挑戦することに…結果は言わずもがな。
猫になった和狐に押し倒され、和狐が俺の胸で丸くなる。
「タクトにゃん、あったかいにゃん…ゴロゴロ」
俺の胸は電気カーペットじゃないぞ。それと姉キャラが崩壊しているぞ?
最後はノワ。嫌々挑戦し、さっさと諦めて猫になる。なんともノワらしい。
猫になったのは、俺の前に来る。
「…にゃあ」
それだけ言うと離れた場所で丸くなった。俺の中で最も猫に似ているのはノワだと思った。
「最後はあなたですね」
「はい」
「では、第一問。200グラム300Gのお肉があります。1キログラムではいくらでしょう?」
「違います」
イクラではない。よくあるなぞなぞだ。
「正解。では、第二問。あなたはいつもどこで靴を履いていますか?」
「足」
玄関とか答えそうになるがいつもなら足になるだろう。
「正解。では、第三問。墨の筆で赤色の家と青色の家を書くにはどうすればよい?」
「赤色の家と青色の家と文字で書けばいい」
この世界の墨がカラフルかも知れないが俺の回答も正解なはずだ。
「正解。では、第四問。チューリップ、バラ、桜。この中で花に棘があるのは?」
「ない」
花にはどれも棘はない。
「正解。やりますね…では最終問題です。青色と黄色と赤色の家があります。青色と黄色の間にあるものは?」
「と」
青色と黄色の間にあるのは、ひらがなの「と」だ。この手のなぞなぞも知ってた。
「お見事です。あなたには先に進む資格がある。これを差し上げましょう」
インフォが来る。
『特殊クエスト『スフィンクスの試練』をクリアしました』
俺はスフィンクスからスフィンクスが描かれたメダルを受けとる。鑑定してみる。
スフィンクスのメダル:重要アイテム
所持しているとサンドウォール砂漠に入ることが出来る。
俺が鑑定している間にスフィンクスが薄くなっていく。
「それを持っていればサンドウォール砂漠に入れます。しかし気を付けなさい。サンドウォール砂漠は神が眠りし土地です」
やはりエジプトがモデルのように感じるな。
「あなたたちが冒険を続けるならばいずれ出会うこともあるでしょう…そのときまでさらばです」
スフィンクスが透明になって消えた。ちょっと待て、リリーたちは!?
俺が見ると元に戻っていた。しかし様子が変だ。キョロキョロしている。
『あ、あれ?』
「大丈夫か?」
「大丈夫…だけど…」
「何かありました? タクトさん?」
これは記憶がないのか…そっかぁ…あれの記憶がないのか…俺はイオンに言う。
「ナニモナカッタヨ」
「なんで片言なんですか! 絶対何かありましたよね!?」
「イオン…知らないほうが良いことってきっとあると思う」
「な、何をしたんですか? 私…凄く怖いんですけど!」
イオンに追及されるが、俺の口から言うには難易度が高かった。