#292 ミノタウロスの迷宮と未来を視る妖怪
ご飯を食べて、お風呂を済ましてから再度ログインする。
とはいえ、どこに冒険に行くか決めていなかったので、悩んでいるとリリーが元気に提案した。
「はい! 思いっきり戦いたい!」
「それはいいが、どうしたんだ?」
「イクスに出番を取られたせいだと思いますよ」
「ち、違うもん」
リリーはそういうがイオンの指摘が事実なのは間違いないだろうな。俺もさっさと闇落ち職の連中のことは忘れたいし、リリーの提案に乗ろう。
しかしサンドウォール砂漠はいけない。ラグーン海は強くない。ナール湿地はご期待に応えられないだろう。なら自然とイエローオッサということになる。
「かなり危険だと思うが、イエローオッサ草原の先を進んでみるか?」
俺の提案に全員が頷き、俺たちはイエローオッサ草原に向かった。メンバーはリリー、セチア、イクス、ヒクス、ストラだ。公平なじゃんけんの結果、俺はセチアとヒクスに乗ることになった。
そして空から探索していると空に謎の綿のような生命体が無数に出現した。識別する。
ケサランパサランLv1
召喚モンスター 討伐対象 ノンアクティブ
おや?明らかに気づかれていると思うがノンアクティブだ。どうするべきか悩んでいるとセチアが警告する。
「タクト様。ケサランパサランを倒したら、ダメです!」
「ん? 何か知っているのか? セチア」
「はい。ケサランパサランは私たちと同じ木の妖精です。彼らは空を飛び回り、他の地に植物の芽吹かせる存在と言われています。彼らには攻撃能力はなく、倒さなければ無害の存在です」
ほうほう。ん?
「倒したら問題があるのか?」
「はい。彼らが倒されると植物召喚をする能力があるんです」
「つまりミールが召喚した植物モンスターが出現するということか?」
「はい」
それはやばいな。仕方ない…迂回しよう。ケサランパサランの大群を避ける。
その後、探索を続けるが、大きな山にぶつかった。迂回しようとするが、一向に景色がかわらないから、どうやらここで通行止めみたいだな。
ということはこの山に何かあるはずだ。調べているとイクスが山に書かれている謎の絵を発見した。イクスの案内でその場に向かうとそこには見覚えがある絵があった。
「これはおうし座か?」
なぜおうし座?あ、ここが牛天国だからか?しかし絵が描かれているだけだ。どうすることも出来ないぞ。
とりあえず触ろうと近づくと突如、絵が光り出し、俺たちはその絵に吸い込まれた。
………
……
…
「…絵に吸い込まれるのは、初体験だな。みんな無事か?」
「ビックリしたけど、大丈夫だよ! タクト」
「私も大丈夫です」
「問題ありません」
リリーたちが返事をくれる。ヒクスとストラも大丈夫そうだ。さて、ここはどこだ?周りを確認すると俺たちがいるのは石造りの部屋だ。そして通路が一本ある。
すると通路の入り口にある牛の彫刻の目が赤く光り、声が聞こえる。
「モォオオオ! よく来たな。牛をいじめた人間どもよ!」
牛をいじめた?ひょっとして和牛を倒しまくったことか?
「ここは俺様、ミノタウロス様の迷宮『ラビュリントス』だ! ここでは俺を倒すか死ぬしか脱出手段がない!」
ミノタウロスはギリシャ神話の牛の獣人として有名な怪物の名前だ。
因みにおうし座とミノタウロスの関係はかなり微妙だ。おうし座は色々な話がある。ゼウスが牛に変身してエウロペをさらった話やイオという美人がゼウスの妻ヘラに牛に姿を変えられた話などがある。
ミノタウロスと関係がある話がミノタウロスの父である牡牛が英雄ヘラクレスの試練で捕まり、星になった話がある。
他にも冠座がミノタウロスの話とかかわって来るが、結局ミノタウロスは討伐される怪物だから俺の知識内では空に上がることはなかったはずだ。
そしてこの迷宮ではリターンとかでは脱出出来ないわけね。ならこの迷宮を攻略するしかないな。
「4体いる牛モンスターを倒すことが出来たら、俺様が戦ってやろう! モモモ! 精々今まで倒した牛の無念を思い知るがいい!」
そういうと牛の彫刻が元に戻った。そしてインフォが流れる。
『特殊クエスト『ミノタウロスの迷宮』が発生しました』
今回はクエストの説明もあった。
特殊クエスト『ミノタウロスの迷宮』:難易度B+
・脱出方法はミノタウロスの撃破か脱出の赤糸の使用、死に戻りのみ。
・迷宮では大部屋に5体のボスモンスターがいる。ボスモンスターと戦えるのは最大6人。
・大部屋に入ると編成を変えることはできなくなる。
・一度戦った者はボス戦ができなくなる。迷宮では編成可能。人数が30人以下だと連戦可能。
・奥に進むにつれて、敵の強さが上がる。
・道中には罠や宝箱がある。
・ログアウトと休憩は可能。ログアウトした場合、その地点からスタートとなる。
レギオン召喚は禁止なわけか…いや、戦闘を禁止されただけだから問題ないかもな。いずれにしてもメンバーを自由に変えられる召喚師は有利だな。もしこれが召喚師以外のプレイヤーなら連戦は厳しいだろう。ログアウトも休憩も出来ることを考えると数日に分けて、クリアするイベントなのかも知れない。
しかしこうなるとメンバー選びも重要になってくるな。取り敢えずは今のメンバーのままで行くか。
迷宮を進む。暗くないので、リリーが元気に進む。
「罠があるらしいから気をつけろよ」
「へーき、へー」
リリーがカチャって、何かを押す。するとリリーがいた床が無くなる。落とし穴だな。
「きゃあああ!」
リリーが落ちるがリリーは空を飛べるから問題はない。戻ってきた。
「びっくりした…」
「落とし穴で良かったな」
しかしこれはメンバーを代えた方がいいな。ヒクスとストラを代えて、グレイと恋火を召喚する。
事情を説明して、二人に先頭を行ってもらう。するとこの迷宮、罠だらけであることが判明した。床から槍は出てくるわ。壁から矢は飛んでくるわ。
「迷宮…怖い…」
リリーがすっかり俺の後ろをキープするようになってしまった。
途中で宝箱をセチアとイクスが俺に知らせる。しかし解錠スキルがない。これはお持ち帰りだな。そして二人が出口を知らせてくれる。
「どうやら出口みたいです」
「モンスター反応あり。数は一体です」
うむ。俺には見えないな。スキルのせいか?
「どんなモンスターかわかるか?」
俺の質問にイクスとセチアが答える。
「牛の体に顔が人の変なモンスターです。周りには水晶が浮いていますね」
「はっきり言って気色悪いです」
どうやら鷹の目のような遠くを見るスキルならボスを確認出来るようだな。
体が牛で顔が人のモンスター?まさかスラビーか?いや初っ端インド神話の聖なる牝牛神が来るはずないか。それに怪物と神様では流石に神様のほうが格上だろうからな。
しかしそうなると残念ながら俺が知らないモンスターだな。メンバーはどうするか…最初だし、そこまで強くないだろう。しかしここで負ける可能性もある。それに強いメンバーは残さないといけない。
かなり考えた結果グレイ、ゲイル、ミール、ルーナ、アステル、シンスにした。ミールとルーナなら任せられるし、グレイとゲイルがいるなら大丈夫だと思う。
メンバーを召喚し、部屋の中に入る。俺は入り口で待機する仕様のようだ。
そして敵を識別する。
件Lv15
通常モンスター 討伐対象 アクティブ
件?知らないモンスターだな。漢字ということは日本の妖怪か?
それにしても姿が最悪だ。がりがりの牛の体にセクハラしそうなおっさんの顔のモンスターだ。セチアの言うとおり、気色悪いぞ。
「我が名は件。未来を見通す妖怪なり。見える、見えるぞ~。ドライアドの未来が見えるぞ~」
件が水晶を覗き込みながら言う。その様子にミールが引く。
「な、なんですか? 凄く嫌な予感がするのですが…」
「見えた!」
すると件は俯き、プルプル震えだした。何事だ?
件が顔を上げると顔を真っ赤にし、その目は怒りに燃えていた。
「入り口にいる召喚師と手を繋いでいちゃこらしている未来が見えたわ!」
「え? 手を繋ぐくらいいつもしてますよ?」
「じゃあ、俺と手を繋いでくれるか?」
「嫌に決まってるじゃないですか」
件が絶叫しながら、号泣する。俺も男だからそのダメージは理解できるが、話の流れが変だった気がするぞ。そもそもその姿で手を繋げるのか?
「入り口にいるお前! 絶対に許さん! お前に生まれてから一度もモテなかった俺の悲しみを教えてやる!」
酷いとばっちりだ。しかしこいつは大切なことを忘れている。
「あなたの相手は私たちです!」
「パパに手出しはさせません!」
「俺の邪魔をするか! いいだろう! 俺の恐ろしさ、教えてくれるわ!」
やっと戦闘が始まった。まずはミールが寄生木を放つ。件はなんなくそれを躱す。その後、グレイとゲイルが襲い掛かるが、それも避けられてしまう。
こいつ…ミール、グレイ、ゲイルの攻撃を読んだのか?
続くルーナ、アステル、シンスの魔法攻撃も避けられる。俺はそれを見て、からくりを理解した。なら取るべき作戦は決まる。どうやらゲイルを選んだのは正解だったみたいだな。
「ゲイル! 雷化だ。件の周りにある水晶を全部壊せ!」
「何!? 貴様、告げ口するか! 卑怯者!」
別に禁止されていないからセーフのはずだ。卑怯者扱いされるのは心外だ。
件は攻撃をされる際に浮いている水晶を見ていた。それがトリガーで間違いなさそうだな。
「ガァアア!!」
ゲイルが雷となり、水晶を全て破壊する。流石に雷の速度では回避できないだろう。そしておまけで件が雷となったゲイルに貫かれ、倒れる。
だが、黒焦げのまま、件は起き上がりミール、ルーナ、アステル、シンスに近づく。
「「来ないでください!」」
「おふ…もっとだ…もっとこいよ」
「「ひ!?」」
ミールたちが必死に攻撃を加えるが、件は全部くらいながら、近づいてくる。女性からしたら、トラウマになるんじゃないか?これ。
「どうした? もっと来――」
「ワオーン!」
まったく予期しないグレイからの咆哮が直撃し、件は消し飛んだ。未来が見えなくなった時点で勝負ありだったな。しかしこれならグレイを使うのは勿体無かったかな?
「グレイさん、ありがとうございます!」
「格好良かったです!」
ミールたちがグレイに抱きつき、お礼を言っている。この姿を見るとこれで良かった気がするな。インフォが流れ、新たな通路が出現する。先に進もうとしたが、グレイが何か持ってくる。どうやら件を倒したときのアイテムのようだ。鑑定する。
未来視の水晶:レア度4 水晶 品質D
占い師の専用装備。未来予知スキルを覚えることができる。
占い師の専用装備かよ。ノストラさん、欲しがるだろうな…帰ったら、売るか。俺には必要がないものだからな。俺の脳裏に薄笑いするノストラさんの姿が映った。未来視の水晶が無くてもこの未来は当たると思った。
名前 恋火 シュラインビーストLv11
生命力 77
魔力 98
筋力 98
防御力 48
俊敏性 112
器用値 77
スキル
刀Lv18 二刀流Lv1 風刃Lv6 炎魔法Lv11 邪炎Lv14 忌火Lv21
気配察知Lv21 危険予知Lv20→Lv22 霊力Lv2 幻術Lv2 神道魔術Lv5
見切りLv6 俊足Lv7 妖術Lv2 血醒Lv6 料理Lv18 神降ろしLv1
獣化Lv2
名前 グレイ シルバーウルフLv13
生命力 53
魔力 37
筋力 80
防御力 38
俊敏性 84
器用値 50
スキル
噛みつきLv23 銀の爪Lv16 鉄壁Lv14 気配察知Lv25
夜目Lv25 危険察知Lv25→Lv26 銀の牙Lv22 疾風Lv18
咆哮Lv13
名前 ゲイル 雷獣Lv9
生命力 42
魔力 80
筋力 60
防御力 30
俊敏性 91
器用値 38
スキル
噛みつきLv20 飛行Lv10 角撃Lv8 雷爪Lv22 威圧Lv12
暗視Lv18 挑発Lv12 雷魔法Lv24 充電Lv4 放電Lv4
閃電Lv5 雷の牙Lv3 雷化Lv3→Lv4
名前 ルーナ ニュンペーLv6
生命力 61
魔力 106
筋力 35
防御力 28
俊敏性 91
器用値 72
スキル
飛翔Lv25 竪琴Lv5 舞踊Lv17 気配遮断Lv3 危険予知Lv3→LvLv4
魅了鱗粉Lv9 風魔法Lv15 水魔法Lv1→Lv3 木魔法Lv12
光魔法Lv1 譲渡Lv3 祝福Lv3 守護Lv3 幻術Lv4
名前 ミール ドライアドLv11
生命力 76
魔力 80
筋力 36
防御力 36
俊敏性 75
器用値 74
スキル
土潜伏Lv18 蔓Lv10 俊足Lv8 風魔法Lv3→Lv5 土魔法Lv8
木魔法Lv7 水魔法Lv7 光合成Lv3 譲渡Lv3 花蜜Lv3
花粉Lv4 採取Lv27 植栽Lv14 寄生木Lv10→L11 罠設置Lv12
植物召喚Lv2
名前 アステル フェアリーLv9→LvLv11
生命力 27→28
魔力 51→55
筋力 18→19
防御力 21
俊敏性 46→50
器用値 32→34
スキル
飛行Lv5→Lv6 竪琴Lv1 舞踊Lv3 魅了鱗粉Lv1 風魔法Lv10→Lv11
木魔法Lv10 幻術Lv3
名前 シンス インプLv8→Lv10
生命力 25→26
魔力 44→46
筋力 22→24
防御力 22
俊敏性 44→46
器用値 27→28
スキル
飛行Lv3→Lv4 吸血Lv1 夜目Lv3 気配遮断Lv3 潜伏Lv1
闇魔法Lv3→Lv5 呪いLv1
ミノタウロスの迷宮はかなりえげつないクエストとなっております。




