#289 闇落ち職の末路とその後
コロッセオに集まっていた闇落ち職たちは興醒めな感じだった。
「あれだけ掲示板で余裕ぶっておいて、あの様かよ」
「闇落ち職の評価が下がっちまったよな?」
「決闘イベントの報酬とは別で暗黒ギルドから貰った武器を使ってあの様だぜ? 下がって当然だろ」
暗黒召喚師兄弟は闇落ち職専用の掲示板でタクトとの勝負を宣伝し、自分たちが必ず勝利すると書き込み、タクトの敗北を見に来るように宣伝していたのだ。
すると闇落ち職の人が聞く。
「じゃあ、お前ならあの幼女サモナーに勝てるのかよ?」
「無理無理。間近で見て確信したね。あれは関わったら、いけない奴だ」
「そうね。その意見には同感よ」
いきなり第三者の声が聞こえた。声をかけたのはルインだ。周りには何百人ものプレイヤーだ。
「な、なんだよ? お前ら」
「彼らはあなたたちに倒された初心者プレイヤーよ」
それを聞いて闇落ち職たちは状況を理解した。
「待て待て!? 俺たちは今は懸賞金はかかってないはず」
「それならもう冒険者ギルドに貼られているわよ?」
『え…』
闇落ち職たちは絶句する。初心者プレイヤーたちが闇落ち職たちに怒りの目を向ける。
「よくも殺してくれたな」
「凄く痛かったよ」
「奪った金はお前たちの懸賞金で弁償して貰うぞ!」
『おぉ!!』
闇落ち職たちは慌てて逃げ出すが、既にコロッセオの周囲は包囲されており、コロッセオにいた闇落ち職たちは全員捕まり、牢屋送りになった。
それをビルの屋上から見ている男たちがいた。
「まさかこんな罠を用意するとはな」
「おっそろしいよな~更にあの強さだ。世の中、広い」
決闘イベントで決勝を戦った侍の鉄心さんと暗黒騎士だ。
「なぜ俺に教えた?」
「あんたは悪い奴じゃないからだ。それにまた戦いたい」
「変な奴だ。しかしその様子なら許可は取っているようだな?」
「あぁ。あんたに伝言だ。あなたとは正々堂々戦いたいそうだよ」
暗黒騎士は笑う。
「楽しみにしていると伝えてくれ」
「あぁ。またな。デスペナ喰らわないでくれよ」
「誰に言っている? 次は俺が勝つ」
そして暗黒騎士は姿を消した。
ところ代わりライヒ帝国の街道から行ける、森の中。
「幼女サモナー…恐ろしい奴だ。まさか俺たちまで罠にかけるとはな」
決闘イベントで三位に入った暗黒忍者は冒険者ギルドに手配書が復活したのを発見し、慌ててライヒ帝国から逃げ出していた。
「ッ!?」
暗黒忍者は気配察知でプレイヤーの気配を察知する。
「流石はサスケ。よくタクト殿の罠に気が付いたでござるな」
木の上には火影がいた。
「お前か…ふふ。まさか誘導されるとはな」
「理解が早いでござるな。お主とは決闘で決着を付けたかったでござるが、とある人物から依頼されては忍者としては引けぬ」
「ほう。誰だ?」
「言えるはずないでござろう?」
火影はガーベラグロウとの戦いで暗黒忍者が自分たちを見捨てたのを見ていたプレイヤーから依頼を受けていたのだ。
ガーベラグロウとの戦いでは闇落ちせずにしっかり罪を償っているプレイヤーもいた。彼らは搬送されているときに襲ってきた敵の情報を話し、牢屋で反省したのち、普通のプレイヤーに戻っていた。
「確かにな。それでどうするつもりだ?」
「拙者たちのオリジナル忍術の最初の犠牲になってもらうでござる!」
火影の言葉を聞き、風影、水影、雷影、土影が一斉に動く。すると罠設置されたワイヤーが暗黒忍者の足を拘束し、更に爆弾がくっついたワイヤーが暗黒忍者に迫る。
「何!?」
「全方位では変わり身でかわすことは出来ないでござる。これが拙者たちのオリジナル忍術」
『忍法! 捕縛爆破の術!』
「忍術じゃなーー待て!? そこは!?」
ワイヤーに締め付けられ、ワイヤーにくっついていた爆弾同士がある場所で当たる。次の瞬間、暗黒忍者は自分にくっついた大量の爆弾が連鎖爆発した。
「己の過ちを認め、やり直すでござる」
「格好つけているところ悪いがもういないから聞こえてないぞ」
「しかも火影は何もしてないし」
「いやいや!? 足止めしたし、爆弾もたくさん作ったでござるよ! ん? どうした? 水影?」
水影は下半身を抑えていた。
「いや…最初に爆発した場所が…その…当たっちゃいけない場所でな…」
水影の指摘に全員が黙る。
「ま、まぁ…悪いことをした天罰でござるよ!」
「狙ったわけじゃないし、セーフだよな?」
火影たちは一生懸命誰もいない森で言い訳を繰り返した。
そしてタクトとイクスに負けた暗黒召喚師はコロッセオから逃走し、追いかけられていた。
「指名手配犯がいたぞ!」
「外に逃げるぞ! 逃がすな!」
「はぁはぁ…くそ! あいつ! 絶対に許さねー!」
「あぁ! 絶対リリーちゃんを奪ってやる!」
そんなことを言いながらライヒ帝国の外に出る。しかし外にはプレイヤーが待っていた。
『レギオン召喚!!』
暗黒召喚師兄弟を待っていたのも追いかけていたのも召喚師だった。前後でレギオン召喚をし、暗黒召喚師の逃げ場を防いだ。
召喚師たちはわざと外に誘導したのだ。何故なら外に誘導しないと彼らの犠牲になった召喚獣を呼び出せないからだ。
「「な…」」
「あなたたちはここで終わりです」
「召喚獣たちが受けた苦しみを知りなさい」
ルークとアロマの指示で一斉に召喚獣たちが暗黒召喚師たちに襲いかかった。
「くそったれ!」
暗黒召喚師兄弟はリターンで逃げようとしたが、ルークのゴブリンアーチャーに狙撃され、逃げ手を失った。
「「うわぁあああああ!?」」
流石に前後から何百の召喚獣に襲われてはどうしようもなかった。彼らは散々馬鹿にしていた召喚獣たちに襲われて、生命力を失った。だが彼らの本当の地獄はまだ終わらなかった。
生命力を失った彼らは気がつくと暗い部屋にいた。そこは彼らが使っていたホームだった。本来ならゲームオーバーしたら現実に戻るので、不思議に思っていると声をかけられた。
「あらあら。あなたたちも負けてしまったのね。残念だわ」
彼らの目の前にはドォルジナスがいた。
「…あんたが助けてくれたのか?」
「助かった~」
そんな暗黒召喚師たちの様子にドォルジナスが笑む。
「助かった? まさか私との契約を忘れてないわよね? 闇の力をあげる代わりにもし負けたら、あなたたちの力をいただくといったはずよ?」
「わざわざそのためにこんな演出を用意したのか…いいぜ。どうせもうこのゲームする気ないしな」
「そう。じゃあ、始めましょうか」
ドォルジナスが指を鳴らすと、暗黒召喚師たちに激痛が走る。
「な、なんじゃこりゃ…」
「おい。何のつもり」
「悪魔と契約して、ただ力を失うだけと思ったのかしら? 随分甘い考えね」
暗黒召喚師の兄が生命力を確認すると減ってはいなかった。
「へ。生命力が減ってねーじゃねーか」
「えぇ。そうよ? あなたたちも楽に死なせるより、苦しませたほうが好きだったでしょ? だから私も真似させて貰うことにしたわ」
「「な…」」
暗黒召喚師兄弟は絶句する。確かに自分たちは今まで召喚獣たちをいじめてストレスを発散していた側面はあるのだ。
「あなたたちには感謝してるわ。あなたたちの歪んだ悪感情は素晴らしいものだったわ。でもね、まだ知らないことがあるのよ。あなたたちがもし逆の立場になったら、どうなるか私に教えて欲しいのよ」
「「ひっ!?」」
彼らはドォルジナスに弄ばれたのち、闇落ち職の力と自分たちが今までゲームで得たもの全てを奪われ死に戻った。
「ふふ。本当に人って、素晴らしいわ。あなたもそうは思わない?」
闇の中から歪なピエロが現れる。
「否定はしませんよ。それよりもあなたたちのせいで他の魔王が動きます」
「そう…大変ね。魔王たちの管理をするお仕事って」
「そう思うなら仕事を増やさないで欲しいものです。では確かにお伝えしました」
そういうとピエロは姿を消した。
こうしてデスペナを受けた闇落ち職は全員やめることになる。
まだ闇落ち職をしているプレイヤーの中でタクトに関わることは最大のタブーとなるのだった。
そんなことが起きていることなど知らない俺は控え室でミライに目を治してもらい、リープリングに戻った。そこでリリーたちに抱きつかれ、色々質問されるが、俺が勝ったことを伝えるとみんなほっとするのだった。
「マスターとわたしのコンビは最強です。負けるはずがありません」
『む!』
リリーたちが自分こそは最強のコンビだと言い合っていると後始末を終えたみんなが帰ってきた。俺はルークに話す。
「お疲れ様。その様子なら上手く行ったみたいだな」
「はい。タクトさんのおかげです。改めてありがとうございました。何かお礼を」
「いらないよ。これは俺とあいつらの決闘だからな。ルークからお願いされたものじゃない」
話を持ち込んだのはルークたちだが、俺が自分の意思で受けた決闘だ。それで報酬はもらいたくなかった。それでもみんなお礼と行ってきたが、俺は無視して、アロマに話す。
「悪いな…倒すしかなかった」
「大丈夫です。こうして私の元に帰ってきてくれただけで私は十分です」
「そっか。アークエンジェルに戻ったのか?」
「いいえ。元に戻りませんでした。治す方法があるかも知れませんが、私はこのまま育てようと思います」
マジか…どうしてだろう?聞いてみるとアロマは答えてくれた。
「私が今回のことを忘れないようにしたいことと、タクトさんがアークエンジェルを育てているなら私は別ルートで行きたいと思いました。それにイクスさんと互角に戦えてましたからね」
確かにフォーレンエンジェルは強かった。アークエンジェルの天撃のような火力はないが、戦闘に隙が少なく、アークエンジェルよりも戦闘特化していた気がする。
「そっか。ならいつか天使同士で戦う日が来るかもな」
「その時は絶対に負けません」
アロマの目は真っ直ぐで俺には眩しく見えた。その後、みんなで勝利を祝して宴を開き、ログアウトした。何はともあれ、ゲームを引退せずに済んでよかったとほっとして、俺は眠りに落ちた。