#287 ライヒ帝国と交渉
昼飯を食べ終え、休憩してからログインする。
俺はルインさんたちに見送られ、使者がいるフリーティア城に向かう。サラ姫様とアンリ様に気をつけるように言われてからライヒ帝国の使者と会う。
「あなたがエクスマキナの召喚師ですか?」
「はい。召喚師のタクトと申します」
「うむ。証拠を見せてくれませんか?」
「わかりました。来い! イクス!」
俺はイクスを召喚する。これで俺がイクスの召喚師であることは間違いだろう。
「確かにエクスマキナですね。では用件はなんでしょうか?」
「今夜貴国で行われる俺と暗黒召喚師との決闘について、直接貴国の皇帝陛下とお話をしたく思います」
「はて? なぜ決闘について、我が国の皇帝陛下と話をするのか私にはわかりませんね」
まぁ、しらを切るよな。
「そうですか…では仕方ありませんね。諦めます。貴国の皇帝陛下に伝言をお願い出来ませんか?」
「内容を聞いてから判断いたしましょう」
俺はライヒ帝国の使者に近づき、話す。
「これでお前たちがエクスマキナもその武器もお目にかかる未来は無くなることが確定した」
「ッ!?」
「以上です。伝言のほど、よろしくお願い致します。では失礼致します」
「お、お待ち下さい! 先ほどの伝言の意味をお聞かせ願いたい!」
食い付いたな。まぁ、食い付くしかないわけだが。
「おや? ご存知ではありませんでしたか? 俺のエクスマキナは俺の魔力で動いています。俺がもし暗黒召喚師に負ければ、エクスマキナは暴走し、全エネルギーを使い果たすでしょう。そうなればエクスマキナは二度と起動しません。当然武器を見ることなど不可能となります」
因みにこれは嘘。イクスの話では契約が切れても、カプセルで再契約して、魔力を流せばイクスは元通りになるらしい。
「逆に俺が暗黒召喚師に勝ったとしても俺はもう二度と貴国と交渉するつもりは無くなりました。それだけの話です」
「…それはつまりエクスマキナのことで我が国と交渉すると言うことですか?」
「はい。取り次いで貰えますか?」
「…少々お待ちを」
使者は誰かと会話する。会話が終わるとこちらにくる。
「…皇帝陛下があなたにお会いなるそうです。私がご案内致します」
「よろしくお願い致します」
第一関門突破だな。
俺は使者の人にテレポーテーションでライヒ帝国に案内され、ライヒ帝国の王城に入る。そしてライヒ帝国の皇帝陛下と面会する。
「貴様がエクスマキナの召喚師か?」
「はい。召喚師のタクトと申します。この度は面会を許可して頂き、感謝致します。皇帝陛下」
「我が国にとって、重要と判断したからだ。用件を話すがよい」
「はい。私は貴国とエクスマキナが使う武器について、交渉がしたいと考えています」
皇帝陛下が目を細める。
「ほう。それでお前さんはわしに何を要求する?」
「今夜の決闘は前回行われたルールに乗っ取り、公平な審判で戦わせて頂きたいのです」
すると皇帝陛下は手すりを叩き、立ち上がり、怒声を発する。
「我が国の決闘場で不正が発生すると申すか!!」
「そうは申しておりません。ただ少しのルール変更と公平な審判を約束して頂きたいだけです」
「そのぐらいならいくらでもしてやるが、それだけで良いのか?」
「はい。私の望みはきちんとした決闘で暗黒召喚師と決着を付けることのみです」
皇帝陛下が俺をじっくり見てくる。
「その結果、負けたら、どうするつもりじゃ?」
「私はそこまでの男だったということです」
「それは困るの…先ほどの交渉が有効では無くなるのではないか?」
鋭いね。
「その通りです。なので事前に装備をお見せしようと思います。そして前回と同じルールにして頂けたなら貴国が見たいものをお見せすることを約束致します」
それだけで皇帝陛下は俺の狙いをわかったようだ。皇帝陛下が笑う。
「なるほどの! お前さんはどうやらわしらと同じようだな! それでそれだけではあるまい?」
「もちろんです」
俺は俺の狙いの全てを話し、皇帝陛下が俺の交渉に乗ることで話は終わった。
交渉の通り、俺は早速ライヒ帝国の技術者たちにエクスマキナの武器を見せるために退出した。
玉座の間で一人の騎士が皇帝陛下に話す。
「よろしいので?」
「かまわん。わしはより美味しい話に乗るだけじゃ」
「あの男…危険では?」
「危険じゃろうな。じゃがそれは敵に回せばじゃ。こちらから何もしなければ害はない。何もせず、蜜を吸い続ければよいだけの話じゃ」
騎士は皇帝陛下の言葉に頷く。
「なるほど。流石です。皇帝陛下」
「そう思うか?」
「…と言いますと?」
「あの男はただ蜜を吸い続けさせてくれるほど、甘い人間ではない。あの手の人間は利用するときだけ利用するに限るわい」
そして皇帝陛下は誰かと声をかける。
「監視は続行。だが決して手出しはするな」
隠れていた者たちが一斉に動く。
「先ほど聞いた話の通りに行動せよ」
「はっ」
こうして暗黒召喚師たちが知らない間に歯車は狂い出したのだった。
俺はライヒ帝国の技術者にやっと解放されて、ログアウトすることが出来た。技術者が嫌いになりそうだ…もう質問ばかりで大変だった。
風呂に浸かりながら、疲れを癒す。皇帝陛下の面会はめっちゃ緊張したからな。それにずっと監視されてたし、流石にしんどい。
風呂から出て、料理を作り終わったタイミングで佳代姉からテレビ電話が来る。
「もしもし。風呂上がりのお兄様ですよ」
「わざわざお風呂上がりをアピールしなくていいし、私からは弟でしょ! それで交渉はどうだったの?」
「ばっちりだよ。そっちは?」
「私たちもばっちり。後はせい君次第だよ」
プレッシャーかけるなぁ。すると佳代姉が意を決した様子で話す。
「正直私は複雑なんだ。このままゲームを続けて貰いたい気持ちと止めて欲しい気持ちがある。なんだかゲームを始めてからせい君が私のせい君じゃ無くなっていってる感じがするの」
俺は俺のつもりでいるが確かにゲームを始めたことで昔の俺が戻ってきている感じはしているな。だけどやっぱり俺は俺にしかなれない。
「確かに変わっていってるかも知れないな。でも俺は俺さ。変わりようがないよ。あの時と同じさ。俺は俺の大切な人のために戦う。それだけさ」
「…そっか。それを聞けて安心したよ。でも私たちとリリーたちを同一視するのは色々危ないよ!」
「そうか?」
俺からしたら、同じなんだが。
「はぁ~…本気で言ってるよ。まぁ、今はいいや。リリーちゃんたちを悲しませないでね?」
「誰に言っているんだ?」
「ロリコンのせい君にです。じゃあ、試合頑張ってね」
「おい。ちょっと、待て。切りやがった」
リリーたちも成長しているんだから、いい加減ロリコンや幼女サモナーは終わりで良いだろうが。誰にも言えなかった言葉を心の中でいいながら、ご飯を食べた。いよいよ、暗黒召喚師との決闘が始まる。