#272 デュエルトーナメント個人戦決勝戦
夜、いよいよデュエルイベントの優勝者が決まる。
まずは侍さんと抜け忍との戦いだ。
これが凄かった。
「チッ!? これも効かないか…化け物め」
「ははは、化物になっちまった奴に言われたくないな〜。で、もう暗器は無しかい?」
侍の人が抜け忍の暗器を全て刀で撃ち落としていた。圧倒的過ぎた。
「凄いです…」
恋火が感動している。それほど、あの侍の強さは群を抜いている。しかし忍者が印を結ぶ。
「舐めるな! 火遁の術!」
「よ!」
忍者の火遁の術を刀で斬り裂く。通常は出来ないから何かスキルを持っているな。かっけー。
しかし抜け忍は火遁の術を囮に一瞬で背後に回る。恐らく縮地。上手いが王道すぎだな。抜け忍の変わり身が発動する。
後ろに回った瞬間、居合いで斬られていた。火を斬った瞬間、鞘に刀を収めていたから完全に見切られていたな。
「くそ!」
抜け忍が距離を空ける。すると抜け忍の首が飛ぶ。
「悪いな。縮地なら俺も出来るんだわ」
忍者の背後から侍の人が現れ、居合いが炸裂した。こうして侍の人が決勝戦に進んだ。
次の戦いは今まで剣と盾で戦っていた暗黒騎士が装備を変え、異常に分厚い大剣に変えたことでチェーンソーと大剣の勝負となった。
互いに何度もぶつかりあり、火花が散る。
勝敗はやはり武技が使えて、ステータス的にも有利な暗黒騎士に軍配があがった。
「負けちまったか…行けると思ったんだがな…」
「これらもギリギリだったさ…あんた用に耐久値だけ無駄に高い武器を用意しなければ、俺が負けていた」
実際に大剣の耐久値はギリギリだった。それほどチェーンソーという武器の凶悪性が浮き彫りになった試合だった。
「さらばだ。ダークスラッシュ!」
最後は暗黒騎士が使える専用武技で勝負ありだった。
相手の武器を見て装備を変えた暗黒騎士と最後まで自分の愛用した武器を選んだ木工職人。単純な勝負だったが、中々熱い勝負だった。
「次の戦い、タクトさんはどちらが勝つと思いますか」
「どちらも本気を出していないからわからないな。ただやはり決勝戦は相当な高度な戦いになる。みんなもよく見ておけよ?」
『うん(はい)!』
そして決勝戦が始まる。侍は刀がなんと二本持ち。一本は通常の刀でもう一本は小太刀と言われいる短い刀だ。暗黒騎士は剣と盾だ。
これは暗黒騎士が少し不利になったな。ブランが呟く。
「あの暗黒騎士の人…やりにくそうですね」
「刀は基本的に大ぶりになることが多い武器だ。必然的に盾で防御しやすい。しかし小太刀があると今度は盾で大きく弾くとそこを小太刀で狙われる。完全に予想外の武器の登場で自分が立てた作戦が崩れたからやりにくいのは当然だろう」
そしてその相手の動揺の回復を待つほど、優しい相手じゃない。
二刀流の攻撃が暗黒騎士に襲いかかる。
必死に防御しつつ、剣で攻撃しているが、手数で責められ、防御一辺倒になる。しかしそのまま終わるはずもなかった。
暗黒騎士は盾を捨て、剣を両手で持つ。それが正しい選択だろうな。そして初見のスキルを使う。
「覇気!」
黒いオーラが暗黒騎士から沸き立つ。それに対し、侍も練気で対抗する。
だが、強化の差が明らかだった。圧倒的なパワーで今度は侍が防戦になる。この覇気という技、強すぎると思っていたら、やはりリスクがあった。
時間が経つに連れて、どんどん強化されていくが、その分、自分で攻撃をコントロール出来ないみたいだ。人間版の暴走状態とでも言えばいいのか…攻撃が大雑把になれば侍の人に分があると思ったが、刀で斬っても、傷つけることは出来たが防御力が高すぎて致命傷にならない。
そしてその攻撃を当てたカウンターで剣の攻撃を受ける。小太刀で防御していたが、小太刀は壊され、壁に衝突する。
「ぐ…やれやれ…参ったな…こりゃ」
暗黒騎士が侍に剣を構え、必殺の武技を使う。
「ジャガノートカリバー!」
暗黒のオーラが天に昇り、侍に向けて下ろされる。すると観客席から声が響いた。
「お父さん、負けないで〜!!」
暗黒騎士の剣が迫り、声援に答えるように侍が抜刀する。
「魔気切断!」
すると暗黒騎士のジャガノートカリバーを侍の刀は斬り裂く。そのまま暗黒騎士のオーラも斬り裂き、首が斬られた。
「な…ぜ…?」
「侍の職業は斬ることに特化している。魔法も気も鉄も全部斬っちまうのが俺の職種さ」
カウンターを食らう前の攻撃で自分のスキルが通用するのか試したな…相手の防御力が上がってはいたが攻撃は届いていた。後は油断して突っ込んできた暗黒騎士の首を刎ねればそれで終わりだ。
冷静さを失い、自分の有利性を信じて疑わなかった暗黒騎士の敗北だ。
「なるほどな…俺の負けだ」
こうして、デュエルトーナメント個人戦優勝者は侍の人に決まった。準優勝は暗黒騎士、三位に抜け忍という結果に終わった。
イベント終了後、ライヒ帝国の国王様が授賞式に登場し、個人戦イベント参加者に報酬が贈られた。
現在は侍の人とパーティーメンバーの人たちに拍手が送られている。…あれ?
「タクト…あの人、こっち見てない?」
「やっぱりそうだよな…というか完全に俺、見られているんだが」
「タクト君は有名人だし、目立つから見られても仕方ないんじゃないかな?」
メルに言われた通り、ドラゴニュートにエルフ、セリアンビースト、エンジェルを連れているのは目立つか…あんな強い人とトラブルだけは勘弁したいな。
そんなことを思いながら、フリーティアに戻り、ログアウトした。