#266 起死回生の一手と老人エルフ
牢屋の前に怒り心頭のエルフィーナの兄がいた。
「…よくもやってくれたものだな」
「なんの事を言っているのかわからないな」
「全くです」
セチアが俺のローブから顔を出しながら言う。あれから俺たちは散々いちゃつき、挙げ句の果てに出された料理に罵詈雑言を浴びせた。
名誉のために言っておくが料理といって出されたのは皮剥き、水洗いすらされてない何かの根っこだ。鑑定が出来ないから正体は謎だがこれはぶちギレて当然だと思う。
それからエルフの料理人を呼び出し、説教したらこうなった。
「ごめんなさい…食材無駄使いしてごめんなさい…皮剥きに2分もかかってごめんなさい…1ミリの皮剥きなんて出来ません…ごめんなさい…もう料理人辞めます」
因みにイオンたちも出来ないがイオンたちは料理人じゃないからセーフだ。
「いい気になるなよ…たかが人間の召喚師風情が」
「セチア、ちょっと出ようか」
「仕方無いですね」
セチアがローブから出ると俺は立ち上がる。
「俺は客人としてここに来ている。お前こそ立場をわかってるのか?」
「わかっているさ。俺はエルフの議会に所属している。これの意味がわかるだろう?」
つまり最初から俺たちをはめるために呼んだと言いたいわけだな。
「そうかよ。だが、お前らに俺を殺せるか?」
「そんなもの殺せるに決まって」
「言っておくがお前たちのお目当ての魔法剣なら持ってきてないぞ」
エルフィーナの兄が止まる。
「あれぇ? まさか持ってくると思ったの? 昨日俺たちを襲っておいて? ははは! ないない!」
「昨日? なんの事かわからないな」
「知らないなら構わないさ。だが、俺はお前の言う通り召喚師だ。大事な仲間を殺されて黙っているほど、大人しくはない」
「ふん。ここに閉じ込められている貴様に何が出来る?」
挑発してきたエルフィーナの兄に俺は笑みを向ける。
「俺がなんのために料理人を呼んだと思ってる?」
「何?」
俺は料理人から皮剥きの手ほどきをした際に使ったナイフでジャミングリングがつけられた指を切り落とした。
このゲームでは町ではダメージは発生しない。だが、ナイフの危険性を教えるためか、それとも食材を切ることが出来るからか知らないが料理に使用するナイフで自分の手を切ることが出来る。
イオンたちも最初は手傷だらけになり、ヒールで治していたものだ。
「な!? 貴様!?」
「悪いが俺は冒険者だ。お前のように国を気にする必要はない。これで俺のワープゲートにエルフの森とユグドラシティが登録された」
エルフィーナがご丁寧に装備することで発揮されるアイテムだと教えてくれたからな。
「右の木から出口を見張ってるエルフに言ってくれ。随分幸せな家庭を持っているんだな。俺の仲間を殺したんだ。俺が何をしても文句はないよな? ってさ」
「き、貴様!? わかってるのか!? これは国際問題だ!」
「そうはならないことは知っていて、俺を罠にはめたんだろ?」
エルフィーナの兄は絶句する。
「これは俺たちとお前たちの問題だ。俺たちを殺したければそうすればいい。大精霊でもなんでも呼べ。ただ俺たちは死んでも何度でもここを襲う。お前の大切なエルフィーナも敵だと言うなら容赦はしない」
エルフィーナの兄はもちろんエルフの議会は知っている。タクトは三人の竜化が可能のドラゴニュートと獣化が可能なセリアンビーストが二体、かつてエルフに壊滅的被害を出したエクスマキナ、天擊を使えるエンジェルを有していることを。
「(これは脅しではない! この男、本気でここを潰す気か!?)」
戦士のエルフたちは騙し討ち対策で嘘感知スキルを有していた。皮肉にもそのスキルがタクトの言うことが事実だと告げる。
自分たちはフリーティアに手出し出来ない。化け物召喚師たちまで敵に回したら、意味がないからだ。
しかしこのままではタクトが一方的にここを攻めてくる。攻めてきてもタクトなら仕留められるが無傷では無理だ。
何度仕留めても襲いかかられたら、たまらない。ましてやタクトは戦士を狙わないだろう。
「…貴様を指名手配することも出来るんだぞ?」
「それでお前たちが助かるとでも思ってるのか? 随分甘い考えだな。もっとまともな脅しは出来ないのか? 俺はいくらでも思い付くぞ? 腐蝕土を空からばらまくとか。そういえばドワーフの工場は大嫌いだったよな? ドワーフの里を知っているからここにドワーフたちを案内してやろうか?」
「ま、待て!? なんてこと言い出すんだ! 貴様!?」
「それが嫌ならとっととここから出して貰おうか。そして俺と仲良く交渉しようぜ? エルフ」
俺が指を切り落としただけでエルフたちは俺と交渉するしかなくなった。
「流石タクト様ですけど…あの脅しは流石にどうかと思います」
セチアが引いているがそれぐらい言わないと脅しにならないんだから仕方無いんだよ。
その後、俺はエルフの議会に参加する。全員嫌そうな顔を隠そうとしていない。そんな奴らを俺は鼻で笑う。
「…人間は随分、態度が悪いな」
「お前らほどじゃないさ」
俺がそういうと別のエルフが言う。
「どうやら誤解しているようだが、今回の一件はエルビンが単独でしたことだ。そうだな?」
「は…はい」
エルフィーナの兄はエルビンって言うんだな。しかしあっさり仲間を切り捨てるか…嫌だね~大人って。
「当然エルビンは議会を辞め、それから厳粛な罰を」
「そんなことはどうでもいいから交渉と行こうか。俺はここの情報の秘匿を約束し、お前らがしたことを忘れてやる。人間はもちろんドワーフにも情報は公開しないし、ここの攻撃もしない」
「…そちらの要求はなんだね?」
「獣魔ギルドの要求と魔素に有効な薬を貰おうか…エルフならあるだろ?」
するとエルフたちがざわつく。老人のエルフが話す。
「確かに我々はそれらを持っておる。とはいえ薬は治せるものではない。あくまで魔素の進行を止める薬じゃ。それで良いか?」
「それで十分です」
「…わかった。用意しよう。付いてきなさい」
エルフたちはざわつくがやはり老人は相当上のエルフなのだろう。誰も何も言えなくなった。
俺たちは後を付いていくと老人の家に案内される。
「わぁ! 珍しい草が一杯ですよ! タクトさん!」
セチアの言う通り、鑑定出来ない草がたくさんある。
「ほっほっほっ。薬は好きかな? お嬢ちゃん」
「大好きです! タクト様が飲んでくれますから!」
セチア?俺の逃げ場を無くそうとしてないか?
「仲が良くて結構じゃ。えーっと…確かここに…お! あったあった。これじゃ」
老人エルフが薬と木を持ってきてくれた。鑑定する。
破魔薬?
? ? ?
浄化木?
? ? ?
凄い高級なものだろうな…俺が受け取ろうとすると手を引っ込められる…おいおい。
「先程の条件ではお主はここに来れるままじゃな?」
あ、バレてた。
「すみません。一応セチアの故郷なのでここに来ないとは言えませんでした。しかし必要事以外なら来ないことを約束します。しかし交渉条件が増えましたがどうするんですか?」
「ほっほっほっ! ワシ相手に交渉をするか! そんな奇特な人間はお主で二人目じゃわい! そうじゃな…これをやろう」
老人エルフが俺をじっくり見てから取り出したのは枝木だった。鑑定する。
マタタビ?
? ? ?
猫が大好きなやつだ。これをどうしろと?ゲイルたちに使えばいいのか?
「お主らの旅にそれが新たな道を指し示し、楽園に誘うじゃろう。冒険をし続けておればいずれ出会うものじゃが、それには時間がかかるじゃろう。これでどうじゃ?」
何か占いというか予言された気がする。これは有り難く貰うしかなさそうだな。
「ありがとうございます」
「お主がピンと来たら、使ってみるがよい。それと浄化木はお主が植えるのじゃ」
「えーっと…これは依頼では?」
「気のせいじゃよ。この浄化木はワシが品種改良した特別製じゃ。ゾンビやグール、グラトニーも寄ってくることはない。安心して植えるがいい」
なんか嫌な予感がするんだよな…これは獣魔ギルドが本来植えるべきもののはずだ…それを俺がするように言う理由はなんだ?
「なんでも疑っておるとワシのようになるぞい」
「余計なお世話です!」
「ワシはガーベラグロウと長い付き合いでな。ギルドの奴等よりガーベラグロウが祝福したお主が適役じゃと思っただけじゃよ」
え?この老人エルフ…さらりと凄いこと言った気がする。
「まぁ、お主がこれを植えると悪魔どもにエルフがフリーティアや獣魔ギルドと関係はないと言えるからの」
「それが本命でしょ!」
「安心せい。どうせお主は既に目を付けられとる。エルフも浄化木を使う以上、目の敵にされるじゃろ。国同士なら即戦いになるがお主とワシとの取引なら悪魔はお主とワシしか狙わん。そういう奴等じゃ」
俺たちが狙われるのは確定された。まぁ、狙われるなら返り討ちにするだけだな。経験値に変えてやる。
「わかりました。自分がこれを植えればいいんですね?」
「そうじゃ。それとエルビンたちを見逃した礼にこれをやろう」
老人エルフが今度は草を取り出す。鑑定する。
浄化草?
? ? ?
あれ?これって、セチアとミールが言っていた。
「浄化草!?」
「ドライアドと栽培し、調薬の鍛練をしなさい」
「は、はい! 頑張ります!」
セチアが満面の笑顔を見せる。すると老人エルフが追加で言う。
「それとエルフならおやつより自然を優先せい」
セチアが固まる。
「な…なぜその事を知っているんですか!?」
「大地の大精霊と大樹の大精霊が知らないとでも思っておるのかの?」
セチアの顔が絶望に染まる。まぁ、おやつを優先したセチアが悪い。更に老人エルフが俺に耳打ちする。
「せいぜい浄化草をフリーティアの王族に高値で売ってやれ」
この老人エルフ…フリーティアが好きなのかどうなのか謎だな。シルフィ姫様を治そうとしているように見えるし、王族が嫌いにも見える。
まぁ、これで俺の役目は終わりだ。俺は老人エルフにフリーティアに送られ、早速成果報告する。
驚かれるが早速破魔薬がシルフィ姫様に使用される。薬は飲んだシルフィ姫様が口を抑える。
「ま、不味い!!」
「ひ、姫様!? ダメです! 辛抱して、お飲みくだされ!」
「そう言われても…う!?」
「お姉様!? ダメです! お姉様がそんなことしては!」
俺はシルフィ姫様の部屋の扉を閉めた。見たら処刑されそうだ。そして何故か老人エルフの悪戯な笑みが過る…まさかな。
「セチア…浄化草の薬は絶対に味見しろよ? 美味しく出来たら、誉めてあげるからさ」
「苦楽は共にするべきだと思います」
ダメか…あのシルフィ姫様があそこまでなった薬だ。調薬は俺たちにとって、かなりの試練になるだろうな。
因みにヒポクラテスの話では効果は絶大だったらしい。ちゃんとした薬でホッとした。
しかし、シルフィ姫様はお休みになっているそうだ。何があったか聞けなかった。
名前 セチア ハイエルフLv12
生命力 53
魔力 143
筋力 47
防御力 36
俊敏性 39
器用値 143
スキル
杖Lv14 魔法弓Lv19 鷹の目Lv9 射撃Lv11 木工Lv16→Lv17
採取Lv24 調薬Lv12 刻印Lv5 宝石魔術Lv2 宝石細工Lv2
風魔法Lv7 火魔法Lv17 水魔法Lv24 土魔法Lv13 闇魔法Lv1
神聖魔法Lv6 雷魔法Lv3 爆魔法Lv2 木魔法Lv16 氷魔法Lv5
樹魔法Lv9 ハイエルフの知識Lv18→Lv21 精霊召喚Lv7 料理Lv12




