#265 エルフの森
昨日はエルフの事を考えてテスト勉強と学校の勉強も手に付かなかった…俺も大概だな。
ルインさんたちからも言われていたがゾンビイベントからどうにも流れが変化した。
俺はグラトニー、昨日の襲撃者を経験している。デスペナ期間が終わった後、色々考えないといけないのかも知れない。
現在みんなはイベント予選の為に必死に戦っている。一応話はしてあるので、大丈夫だ。
俺はスーパーで買い物を済まし、ゲームにログインする。
「それじゃあ、フリーティア城に行くか」
「はい! では、タクト様と二人で行ってきますね!」
『む~!』
セチアはご機嫌だ。二人旅は初めてだから仕方無いかも知れないが、わざわざリリーたちに言わないでくれ。
昨日は結構駄々をこねられて大変だったのだ。襲撃されたから尚更だ。
しかし向こうの会談の条件が俺とセチアのみだからこちらはそれに従うしかない。
もし、ノワたちを潜ませてバレでもしたら、外交問題だ。せっかく向こうからカードを渡してきたんだ。有効に使わないといけない。
俺たちはフリーティア城に着くとエルフの大使と面会する。
「初めまして。召喚師のタクト様。大使のエルフィーナと申します。本日は宜しくお願いします」
エルフィーナと名乗ったエルフは太陽のような笑顔を見せる幼女だった。この娘は昨日の襲撃者じゃないな。
もしこの娘が腹黒で襲撃者だったら、俺は爆発しそうだ。
「召喚師のタクトです。こちらこそ本日は宜しくお願いいたします」
「はい! それでは早速エルフの森にご案内いたしますね! まずはこの指輪をつけてください」
何気に指輪をプレゼントされたのは初めてである。因みに背後からセチアの視線が突き刺さってます。
「この指輪は?」
「ジャミングリングという呪いの指輪です。装備した者の魔法やスキルを使用できなくする指輪です」
俺の感動を返して欲しい。人生最初の指輪のプレゼントが呪いの指輪なんて嫌だ!
「すみません。失礼だと私も思いますが、ワープゲート対策です。ご理解のほど、よろしくお願いします」
なるほど…ワープゲートの登録を阻止するためのアイテムなのか。
それなら仕方無いな。どうせあろうが無かろうがデスペナ中の俺たちには関係がない。
「わかりました。セチア」
「タクト様がつけてくれないと装備しません」
変なところで駄々をこねるなよ…俺はセチアの指に指輪をつける。それを見ていたエルフィーナが羨ましそうに見ていたのが印象的だった。
その後、目隠しをされる。
「では、ご案内いたしますね! テレポーテーション!」
これは名前からしてテレポートの上位魔法か?
「到着しました! ここがエルフの森です! そしてエルフの街『ユグドラシティ』です!」
自慢気に言われるが問題がある。
「目隠しされて見えないんだが?」
「そういうことは目隠しをとってから言ってください」
「わわわ! ご、ごめんなさい!」
エルフィーナに目隠しを外して貰い、改めて見る。
「これは凄いな…大樹をそのまま家にしているのか」
エルフの街はエルフの森の大樹を元に作られた街だった。大樹には階段が作られ、巨大な枝木が家と家を繋ぐ橋となっている。
こんな街はまず現実世界ではお目にかかれない。これぞファンタジーの街だな。
ある意味、里帰りをしたセチアが一点を見ていた。
「あれが世界樹『ユグドラシル』…」
え?北欧神話で有名な世界樹があるのか?どこだ?
探す俺を見て、セチアがいう。
「ユグドラシルは人間では見ることが出来ませんよ?」
はい。期待した俺がバカでした!
俺が残念がっていると男が来た。
「エルフィーナ…そいつが噂の召喚師か?」
「そうです! お兄様!」
兄妹なのか…すると兄のエルフが俺に言う。
「一応冒険者カードを確認させて貰おう」
「はい。どうぞ」
俺がカードを見せると納得する。
「確かに本物のようだな。では、客室に案内しよう。それとエルフィーナ、大使の大役ご苦労だったな。ここからは俺が案内役を務める。休むといい」
「は、はい! お兄様!」
そして俺たちはエルフィーナの兄に客室に案内された。
「…エルフの客室は随分変わった客室なんだな? セチア」
「…私もこんな客室は聞いたことありません! お願いですからエルフに変なイメージを持たないでください!」
そうは言われても…窓の外には矢を構えたエルフ、鉄格子の先には見張り役のエルフがいる。
そう…誰がどう考えてもここは牢屋だった。
「どうしますか? タクト様?」
「どうしようもないな…拘束はされてないし、いつも通り過ごすか」
「では、タクト様。膝枕と耳掃除をお願いします」
「いいぞ」
いつもはリリーたちがいて、積極的に甘えて来ないセチアが甘えてくる。
「あっ! そこ…いいです…そん、な。タクト様の、熱い息が…ん。気持ちいいです」
注意、耳掻きしているだけです。決してやましいことをしている訳じゃない。
因みにさっきから見張りのエルフが咳払いやチラチラこちらを見るが、俺たちは無視。チラチラ見てもセチアが見えないようにしているから意味がない。
ついに我慢の限界が来た見張りが叫ぶ。
「貴様ら、いい加減にしろ! 自分たちの立場を理解しているのか!」
「当然理解しているさ。俺たちはエルフの客人でここは客室なんだろ?」
「ぐっ…」
「ここが客室ならカップルがいちゃついても何も問題ないじゃありませんか?」
セチアの奴…策士だな。さらりとカップルにされた。ここで俺は否定出来ない。
「それは…そうだが…」
「今、認めましたね? では、次は私がタクト様の耳掻きをして上げますね」
「優しくしてくれよ?」
「任せてください!」
俺たちのいちゃつき攻撃が続き、見張りをしていた男のエルフに多大なダメージを与えたのだった。