#255 闇の申し子
吸血種ヴァンパイアについて、カインさんに説明して貰う。
「吸血種ヴァンパイアは不老不死の種族で亜人種では上位種に君臨しているんだよ」
え?上位種?ということはリリーたちより強いのか?
「まっさか~」
「お主、喧嘩売っておるのか!」
ヴァンパイア幼女が騒ぐなか、カインさんが説明を続ける。
「もちろん。進化してないヴァンパイアは驚異じゃないけど、進化すると魔王なんて問題じゃない化け物になる。僕も禁呪、召喚獣、切り札を全部使っても勝てないよ」
ど、どんだけ…
「ふふん。どうじゃ! 妾がどれほどの存在か分かったか!」
「あぁ。今は弱いことはよくわかった」
「お、お主! な、泣かす! 絶対泣かす! 決闘じゃ!」
「いいぞ」
というわけで決闘をする。とはいえ俺はデスペナ中で満足に武器も持てない。やばいかもな。
数分後…地面に倒れこむヴァンパイア幼女。アイム、ウィナー。イオンが感想を言う。
「タクトさんに噛み付こうとした必死さは伝わって来ました」
そしてカインさんとブランさんが感想を言う。
「ヴァンパイアが血を求めるのは仕方がないことだよ。吸血種だからね」
「見ていて微笑ましい決闘でしたね」
ぶっちゃけ空を飛んで噛み付いてきただけだった。俺はひたすらかわし続け、ヴァンパイア幼女は体力切れで現在地面に倒れ伏している。
そしてヴァンパイア幼女は泣き出す。
「うぅ…酷いのじゃ…あんまりなのじゃ…」
完全に悪者だな…まぁ、面白がったのは事実だから謝ろう。
「悪かった…謝るよ」
「…血」
ん?なんだ?
「血を吸わせるのじゃ! それで許してやるのじゃ!」
えー…生命力ないし、ヴァンパイアに吸われるのは不味い気がするんだが…
「ちょっとだけ! ちょっとだけなのじゃ! いいであろう?」
「生命力ないし、危険なんじゃないか?」
するとカインさんが説明してくれる。
「強いヴァンパイアなら眷属化の危険はあるけど、弱いヴァンパイアならコウモリに血を吸われるのと変わらないよ。なんなら僕が」
「お主のような変態の血など吸いたくないのじゃ!」
カインさんが変態なのは決定事項みたいだな。
「今までのことは全部無しにするからお願いなのじゃ!」
まぁ、これでチャラになるならいいか…
「わかったよ…腕でいいか?」
「首が理想じゃが…それでいいのじゃ!」
首は勘弁してくれ…そして噛みつかれ、血を吸われる。
「ぬ!? こ、これは!? チゥ~~~」
ちょっと待て!やり過ぎ!やり過ぎだから!あ、意識が…
「やり過ぎです!」
「痛っ!? な、何するのじゃ。いいところだったのに…」
イオンが止めてくれたが俺は倒れ込む。リリーたちが俺に駆け寄り、ヴァンパイア幼女に敵意を向ける。
「ま、待て! お、落ち着くのじゃ! 吸いすぎたのは謝るのじゃ!」
酷い目にあったが、なんとか回復する。
「すまぬ…人間の血は久々で…しかも今までで一番美味しかったので、つい吸いすぎたのじゃ」
「ん? その言い方だとずっとここにいたのか?」
「そうじゃ」
ちょっと待て、それってどのくらいだよ。
「わからぬがエクスマキナが暴れておった時代は知っておるぞ」
全員で顔を見渡す。このヴァンパイア幼女…相当やばいぞ。
「ずっと一人でいたのか?」
「ずっとではないぞ? 妾も最初は外で暮らしておった…じゃが人間のヴァンパイア狩りから逃がすために両親がここに特別な封印を施して、妾を守ってくれたのじゃ」
娘の命を守るためにしたことが結果ずっと孤独を与えてしまったのか…きっついな。
「外には出ようとは思わなかったのか?」
「出ようと思ってもブロックの封印が解けなかったのじゃ…」
娘に答えを教えておけよ…両親。
「だからお主には感謝しておる。血も吸わせて貰ったし、両親との約束じゃ。妾はお主と契約しよう!」
あ、やっぱりそういう流れになるんだな。
「しかし妾と契約するには暗魔石が必要じゃ。スカルオルトロスから暗性石を手に入れておったな?」
よく知ってるな…この子。早速作成して契約を結ぶが名前が先だな。
「な、名前か…恐ろしくて、可愛い名前を頼む!」
どんな名前だ!とはいえ考えないと…カオスは被りそうな気がするよな…よく使われる言葉だし…一つ案を思い付いたが大丈夫かな?提案してみるか。
「セフォネなんてどうだ?」
ギリシャ神話の冥界の女神でハーデースの妻のペルセポネーの別名のペルセフォネーから貰った。
「むむ! セフォネか…よし! 妾の名はセフォネ! 夜と闇の支配する魔王なのじゃ! どうじゃ? 決まっておるか?」
魔王を名乗るときに決まってるかがポイントなんだな…
「俺は決まっていると思うよ」
なんといっても魔王を飛び越えて冥界の女神の名前だからな。
「そうか! ならば決まりじゃ! これから妾のことはセフォネと呼ぶが言い! では、契約じゃ!」
俺は作った暗魔石を取り出し、セフォネと契約を結ぶ。
『ヴァンパイアのセフォネと契約を結びました』
これで完了だな。俺の召喚できる召喚獣は7体となった。ステータスを確認してみよう。
名前 セフォネ ヴァンパイアLv1
生命力 18
魔力 20
筋力 14
防御力 10
俊敏性 10
器用値 20
スキル
吸血Lv10 夜目Lv10 影潜伏Lv10 影召喚Lv10 隠密Lv10
暗黒魔法Lv1 夜不死Lv10
ノワにライバル現る。注目は夜不死。恐らく夜限定で不死になるスキルだ。セフォネによるとゾンビたちも夜不死を持っているらしいが、セフォネには浄化魔法や神聖魔法で倒しても意味がないそうだ。さすがは上位種だな。
そして暗黒魔法を先越された。セフォネに聞くと使える魔法は【ナイトメア】、【カース】。
ナイトメアは眠らせ、その間ダメージを与える魔法。カースは相手を呪いの状態異常にする魔法らしい。
ぶっちゃけ攻撃手段が吸血だけってことになるが…これは苦労しそうだ。
「これでやっと外に出られるのじゃ!」
喜ぶセフォネにカインが口を挟む。
「悪いけど、グラン国王陛下に話を通させて貰うよ。ヴァンパイアはそれほどの存在なんだ」
「妾は外の生活を満喫するのに忙しいのじゃ! お主が話せば終わるであろう?」
「そう簡単にはいかないんだよ。悪いけど、無理矢理にでも来て貰うよ」
「…猫の姿で女性のスカートの中を見ておることをばらすぞ?」
空気が一気に冷たくなった。
「な、なんのことかわからないな~。証拠もないのに疑わないでくれるかな?」
「証拠が必要ならこの洞窟に設置された映像結晶を見てみるがいい」
「いぃ!? ちょ、ま!?」
映像が映し出される。こんなアイテムもあるんだ。セフォネに聞くと両親が侵入者を確認するために設置したものらしい。
肝心の映像にはそこには降りてくるリリーたちを下から眺めている猫の姿があった。他にも俺を応援してくれているリリーたちの背後からスカートの中を覗いているのもあった。これはアウトだな。
「ブラスさん、現行犯逮捕お願いします」
「ですね。サラ姫様に突き出します」
「待ってくれ! 捏造だ! これは罠だ!」
しかし誰も信じない。無論被害者のリリーたちもだ。
『最低!』
リリーたちからの信頼を失ったカインさんは真っ白になり、連行された。
しかし怒られたのはカインさんだけではなかった。地下から出るとルインさんたちやメルたちがいた。
どうやらパズルに夢中になっていた俺はメールの返事に気が付かなかったみたいだ。そして地下に降りる時、鍵を俺がかけたせいで地下に向かえなかったらしい。
結果、怒られた…そしてグラン国王様にセフォネについて、話をするが何もなかった。どうやらヴァンパイアはイクスと違い存在しているらしいので、そこまで問題は大きくならなかった。一応召喚獣にした以上、責任は取るように言われた。
サラ姫様はブラスさんたちに怒り心頭。ブラスさんたちは暫く特訓漬けになるそうだ。悪いことをしちゃったな。
カインさんにはサラ姫様から絶対零度の視線を向けられるが、見逃された。理由はその場にいたネフィさんとアウラさんだ。
「仕事を無断で放棄したグラマスには私たちの分の仕事を全てやってもらいます」
「ちょ!? 無理だって!」
「言い訳は聞きいれないわ。私たちがどれだけ苦労したか身を以て味わいなさい!」
仕事を押し付けられたカインさんは仕事地獄を暫く味わうことになった。