#26 リリーVSイオン
約束の時間にはまだ余裕がある。新しい魔法も使ってみたい。とりあえずイオンの食事だが、今回はボア肉の焼肉で我慢してもらうつもりだったが、一口食べての反応がこちら。
「美味しいです! タクトさん!」
目を輝かせている。これなら大丈夫かな。
「当然だよ! タクトの作った料理は世界一なんだよ!」
リリーが自慢げに言う。はっきり言うがそんなわけない。俺に料理は教えてくれた人達には勝てる気がしないからな。
食事を終え、フィールドに行ったところでリリーが声を上げる。
「ちょっと待ったー! 約束!」
約束? 何かしてたか?
「決闘の話かと」
あぁ、そんな話してたね。
「その通り! 同じ武器だし、平等だよね」
全然違うぞ。レベル差が11もある。
「私は構いませんよ」
イオンが承認するなら決闘は成立する。何気に初めてだな。
俺はステータス画面から決闘を選択し、リリーとイオンを選択すると二人の周りに決闘のフィールドが形成される。
「条件はどうする?」
「相手の撃破!」
「構いません」
「了解」
俺は決闘の勝利条件を相手の戦闘不能にする。そして審判は俺がする。
決闘
対戦者:リリー、イオン
勝利条件:戦闘不能、タイムオーバー
審判:タクト
《この内容で決闘を行いますか?》
俺はOKを触り、決闘用のフィールドが作られる。
そして二人に確認をする。
「じゃあ、二人ともいいか?」
俺の問いかけに二人は武器を構える。リリーいつも通り横に剣を構え、イオンは左右の短剣を構えながらステップを踏む。
俺はイオンのその姿にやはりイオンはスピードタイプであることを確信する。そして、この勝負の行方が大体見えた。
「いつでもいいよ、タクト」
「私もです」
「では、始め!」
俺がそういうと同時にリリーが突っ込む。そしていつも通り、武技を発動する。
「ヘビースラッシュ!」
リリーが大きく振りかぶり、必殺の一撃を放つ。これに対してイオンはリリーが突っ込んで来るのに合わせて武技を発動させる。
「ダブルスラッシュ!」
ダブルスラッシュは二刀流の初期武技だな。左右に構えた短剣でそれぞれスラッシュを放つに武技みたいだ。
そして肝心の最初の斬り合いだがイオンのいた位置にヘビースラッシュを放ったリリーとリリーの動きに合わせてダブルスラッシュを放ったイオンとの差は決定的だった。イオンがリリーをすれ違い様に斬り裂いていた。
「いったーい!」
俺はこうなることがわかっていた。リリーの戦闘を後ろからずっと見てきたから当然リリーの弱点も知っている。リリーの攻撃はずっと大振りばかりだ。今まで戦ってきたモンスターが相手ならパワーで誤魔化してきた。
例えば武器を大振りして、その隙にウルフに噛まれたことがあったがそのまま力任せに振りほどくことがあった。振りほどかれたウルフは木にぶつかり死亡したんだよね。
だが、これは対人戦。思いっきりフルスイングしてくる相手の土俵で戦う道理がない。
リリーは一生懸命に剣をブンブン振り回すがイオンは円を回るように走り、リリーの攻撃の間合いに入らない。
「むー! ヘビースラッシュ!」
「は!」
そしてリリーが焦って武技を使用するとそれを躱して、スキだらけのところに攻撃を当てていく。
この決闘を見ていた俺は折角なので対人戦について観察させてもらうことにした。
まずリリーが武技を使おうとしている時にイオンが攻撃を加えると武技の発動がキャンセルされ、少しの間、膠着する。その間に攻撃を加えると連続ヒットボーナスが発生して、膠着時間の増加とヒット数に応じてダメージも上がっていく。チュートリアル通りだな。
だがチュートリアルでは言われていなかった興味深い現象を見つけた。リリーがむきになってスキルを発動させるとそのスキルが不発したシーンがあった。俺はその現象がなぜ起きたのか理解した。
「へぇ、そんなことが可能なんだな。面白い」
俺がそういうとリリーが勝負に出る。
「うがー! もう怒ったよ! イオンちゃん! 闘気!」
「っ!?」
リリーが闘気を使用する。だがイオンはそれを見て、後退。それを見たリリーは突っ込むが闘気は筋力をあげるスキルだ。それでは根本的な解決策になってない。
結果、リリーは終始イオンに斬り刻まれ続け、試合終了。
「ざっとこんなものです。身の程がわかりましたか?」
「う、うわーん! 悔しいぃ~!」
リリーが泣き叫ぶ。本当に姉になりたかったんだな。とここでイオンがレベルアップ。へぇ、決闘でも経験値が入るんだ。
名前 イオン ドラゴニュートLv1→Lv5
生命力 10→16
魔力 10→16
筋力 8→12
防御力 6→8
俊敏性 20→28
器用値 14→22
スキル
二刀流Lv1→Lv3 水中行動Lv1
リリーを倒した経験値と見るとこれくらい当然なのかな?
「お互い頑張ったけど、リリーはわかっただろう? 攻撃が大振りしすぎだ。モンスター相手なら大丈夫だけど、これから気を付けるようにな」
「うぅ~。ひょっとして、タクトはこうなることわかってたの?」
「まぁな」
「なんで止めてくれなかったの!」
なんでって…言えるわけないだろうが。
「リリーたちが望んだ決闘に俺が口を挟むのは無粋だろ?」
「その通りですね」
「そうだけど、納得いかないぃ~」
リリーがむくれる。まぁ、リリーの悪い癖を直すいい機会だと思ったのは事実だ。
「これでもグレイたちに見せないように気を使ったんだけどな」
「う……確かにグレイたちに見られたら姉としてのリリーの立場がピンチだった!」
「私に負けた時点で立場も何もないと思いますけど?」
「イオンちゃんの意地悪!」
やれやれ。
「ほら、勝負はついたんだ。気持ちを切り替えて狩りに行くぞ」
その後、始まりの草原でボア相手にリリーが八つ当たりのように大振り攻撃を繰り返した……直さないんかい。
ゲームの用語説明を作ったら、1万語超えるという事態になりました。スキルや武器、職種の説明していたら超えそうな気はしていましたが…そこで本来なら1章終わり時点で公開する予定でしたが来週予定しています掲示板回と同時に公開することにしました。