#245 タクトVSゼパル
フリーティアのシルフィ姫様の部屋ではオセラの笑い声が響き渡る。
「ははははは! 俺を騙してくれたドラゴニュートよ! 貴様の主はもう終わりだ! ゼパルの奴に利き腕を斬られたぞ! 後は弄ばれて死ぬだろう!」
するとノワはバルコニーに出る。
「ははは! 今更助けに行っても遅いわ!」
「…助けに行く? ノワはそんなことしない」
「何?」
「…ノワの任務はあなたを捕まえることとドラウグルを倒すこと。竜化!」
ノワから紫色の光の柱が発生し、空を貫く。そしてフリーティア城の上空に邪竜となったノワが出現した。
名前 ノワ ドラゴニュート・オブセッションLv1→シャドードラゴンLv1
生命力 52→82
魔力 96→126
筋力 43→74
防御力 40→70
俊敏性 50→80
器用値 86→116
スキル
影操作Lv11 飛行Lv1→竜翼Lv1 竜爪Lv1 竜牙Lv1 竜鱗Lv1
呪撃Lv1 影探知Lv8 影移動Lv4 影潜伏Lv9
影縛りLv9 影召喚Lv2 気配遮断Lv7 擬態Lv4
暗視Lv15 邪眼Lv2 闇波動Lv1 竜技Lv3
邪竜の加護Lv1 ブレスLv1 竜魔法Lv1
竜化したノワはドラウグルに向かって、飛んでいった。
「何? どういうことだ?」
「タクト様と戦ったことがないあなたには理解できないでしょうね…あなたの言葉を返させて貰います」
サラ姫様は全力のタクトと戦った…故にタクトの事を理解していた。
「あなたは人間を甘く見すぎです」
ドラウグルと戦っていた恋火は苦戦していた。恋火は忌火で攻めるがドラウグルの鎧武者の装備のせいでダメージの入りが悪い。
そのせいかドラウグルはフリーティアに向けて歩き続けていた。
『あたしが…なんとかしないと!』
恋火が近接戦闘を挑もうとしたとき、ドラウグルに邪眼が発動する。
『これって』
『…恋火、助けに来た』
『ノワちゃん!』
ノワの邪眼を喰らったドラウグルだが、強引に邪眼の呪縛から抜ける。
『…これ以上はいかせない! 影召喚!』
竜化したノワの影から蛇型の影のドラゴンが現れ、ドラウグルに殺到する。
無数の影のドラゴンの襲撃を受けたドラウグルが影のドラゴンを倒しながら、進んでくる。だが影のドラゴンを倒すたびにダメージが発生している。これが呪撃の効果。敵に倒されるとそのダメージと呪いの状態異常を敵に与える。
ノワが影縛りでドラウグルの動きを止め、恋火が結界で閉じ込める。ドラウグルの影から剣山や鎖が飛び出し、ドラウグルを拘束する。
それでも暴れるドラウグルにドラウグルビーストが体当たりする。不思議に思っているとリビナとブランが合流する。
「苦戦しているみたいだから手伝うよ」
ドラウグルビーストを操ったのはリビナの催眠スキル。操ると言っても簡単な行動しか操ることが出来ないし、命令を理解するだけの知能がないと操ることが出来ない。さらに催眠スキルを掛ける間、自分は無防備になり、相手と目を合わさないといけない。
今回はドラウグルビーストが自らほとんど攻撃してこないこと、ネビロスの命令を聞くほどの知性があることで催眠スキルが使うことが出来た。
しかしせっかく催眠を掛けたドラウグルビーストは催眠がドラウグルに解かれる。それを見て、恋火とノワは互いに言葉をかわす。
『苦労しそうですね…』
『…ん』
恋火とノワたちが苦戦している一方で上空ではネビロスとリリーが対峙していた。
「タクト!」
「あははは! 私の作戦勝ちですね! オセが捕まったことには驚きましたが、彼を倒せばフリーティアは落とせる!」
「させないよ」
リリーがネビロスに大剣を構える。
「おや? 彼が心配ではないのですか?」
「心配だよ。タクトが傷付いて、リリーも凄く痛い…でも、リリーの任務はあなたを倒すこと! だからリリーはあなたを倒す!」
「ふふ。良いでしょう! 彼がゼパルに殺されるまで遊んで上げましょう!」
「光剣!」
リリーとネビロスの戦闘が始まった。
俺は自分の状況を確認する。まず右腕を斬られて失い、魔力もゼロ。更に呪いの状態異常まで発生してる。
俺は呪いの状態異常にする武器を知っている。
「その武器…カースブレードか」
「あぁ。俺の封印を解いてくれた奴が持っていてな。ありがたく頂戴した。強い武器は強者が持つべきだろ?」
ガーベラグロウを討伐した奴等が持っていた武器か…てっきり腐蝕で壊されたと思ったが奪われていたんだな。
最後の最後まで面倒事を持ち込みやがって…こいつと戦う俺の身にもなれよ。
するとイオンが俺を助けようとする。
「タクトさん!? 今助けに!」
「無駄だぜ。お前らは大好きなご主人様が抵抗しつつも無様に斬られるのを泣き叫びながら見ていろ。まぁ、利き腕失って俺に勝てるわけないがな!せいぜい絶望の顔をして死ね」
利き腕を失って、こいつに勝てる?そんなこと決まってるな。利き腕を失った程度で絶望する?俺はゼパルに言う。
「利き腕を落とした程度で強者面か? お前、雑魚いな」
「何?」
「お前…わざと急所を外したな? それがお前の敗因だ」
俺はインベントリからスカーレットリングを取り出し、左手で構える。俺の意志に答えるようにスカーレットリングに炎が宿る。
「お前は人間を知らなすぎだ…世の中には利き腕を失っても、戦う人間もいるんだよ」
事故で手足を失った人や死病を患ってしまった人でも絶望せずに必死に戦っている人がいる。そんな人たちと比べたら、俺のこの現状はゲームの世界の話だし、大した問題じゃない。
「いくぜ。相棒! 宝玉解放!」
俺も言葉に応じスカーレットリングが真の姿を見せる。宝玉からとんでもない炎の魔力が開放される。噴出した炎はスカーレットリングに巻きつき、俺も包み込む。
だが、熱さは感じない。寧ろスカーレットリングの高揚が俺に伝わってくる。
スカーレットリング(宝玉解放):レア度8 魔法剣 品質B
重さ:35 耐久値:100 攻撃力:75
魔法剣効果:火属性アップ(超)、詠唱破棄
宝玉効果:灼熱、魔法再時間短縮(大)、連撃、魔力アップ(超)
刻印効果:重量軽減
スカーレットリングを見たゼパルは慌てる。
「な、なんだ!? その魔法剣は!?」
俺はそんなのお構いなしに斬りかかる。ゼパルはカースブレードで受けるが、カースブレードとゼパルに灼熱の効果が発揮される。
カースブレードが炎に焼かれ、耐久値を減らしていき、ゼパルも炎に焼かれる。
「ぎゃあああ!? な、なんだ!? この炎は!?」
神聖属性の炎ですが?
俺はブランを召喚している。よって、俺には天使の加護が与えられている。つまり俺が使うスカーレットリングに神聖属性が発生しているのだ。
ゼパルがダメージ覚悟で力押しで来る。長引けは不利と判断したのは大したものだ。
だから俺はゼパルを徹底的におちょくる。ゼパルの攻撃をスカーレットリングで捌き、回避する。こいつは利き腕を狙ったがそれは正解のようで、不正解だ。
ゼパルは足を狙うべきだった。片足を失えば、俺は機動力を失い、剣にも力が入らなくなる。かなり苦戦を強いられていただろう。
カースブレードがスカーレットリングに触れる度に灼熱の効果が発動する。
「どうした? 俺に勝つんじゃなかったのか?」
「貴様! 俺様をこけにするか! 許さん…許さんぞ!」
ゼパルが怒りで大振りしてくる。この程度の挑発に乗るとは…地獄の大公爵の名が泣くぜ。
俺はゼパルの攻撃を弾き、猛攻を仕掛け、ゼパルを決闘フィールドの壁に追い込む。
「くそ!」
ゼパルは決闘フィールドを解除し、空を飛び逃げる。決闘を挑んだ騎士が逃げるなよ。
「クリア! ヒーリングオール!」
「エントラスト!」
ミライが呪いを解除してくれて、さらに全回復呪文を使ってくれた。しかし右腕は治らない。仕方ないからこのまま挑む。あいつに地獄を教えてやる。
エントラストはセチアに頼んだ。俺が戦っている間にMPポーションで回復してくれていたんだな。
「テレポート!」
俺はゼパルの上にテレポートする。
「な!?」
「お返しだ。エクスプロージョン!」
至近距離で通常の倍以上のエクスプロージョンが炸裂し、ゼパルは広場に落下する。
そしてゼパルは顔をあげるとそこにはメルたちが率いる多数のプレイヤーが広場におり、広場の建物の中には魔法使い、弓術師が待機していた。
『いらっしゃい』
「…嘘だろ」
ここに来て、ゼパルは初めてタクトの恐ろしさを認識した。
タクトは最初から自分が悪魔に襲われることを予想していた。タクトが死ねばリリーたちがいなくなるので、狙われるのは当然だろう。
タクトの予想外があるとするならロコモコの守護を無効化されたことだけだった。
戦闘で追い込んだ場所もゼパルをこの場所に誘導するため。
布陣もそうだ。獣化している恋火と竜化しているノワと花火ちゃんに挑みはしないだろう。フリーティアの最大戦力が集まっている王城にも向かえるはずがない。
こうして逃げる場所を誘導して、後はプレイヤーが待機している広場に落とせばいい。
「今だよ! 全員攻撃開始!」
メルの合図で無数の矢と魔法が降り注ぎ、プレイヤーがゼパルに殺到した。
「悪魔! 貴様のほうが悪魔だぁあああ!」
ゼパルはタクトにそう叫ぶがタクトはテレポートで既に姿はなかった。
ゼパルは多数のプレイヤーから攻撃を受けて、倒された。メルから連絡を受ける。
『悪魔は無事に倒せたよ。タクト君』
「良かったな。あいつ、武器落としたか?」
『え? 何もドロップしなかったけど?』
「そっか」
強い武器は強者が持つべきならお前のカースブレード、俺に寄越せよ。俺は本気でそう思った。