#216 死霊の獣とタクトの願い
俺たちは空を警戒する。リーゼはヒクスに乗りたがったが、ゾンビどもがいなくなってから乗せる約束をした。
流石に今はダメだ。オリヴィエさんも手の届く所にいないと安心出来ないだろう。
「敵いないね? タクト」
「あぁ。さっきまで結構いたのに…変だよな?」
「はい。それにスケルトンライダーがゾンビを落としてるのも変です。そんな知恵、あるはずがありません」
ブランの指摘は正しいのだろうな。暗黒召喚師の時と同じだ。知恵がないものが知恵がある行動した場合、それを指示した者がいる。俺の脳裏にネビロスが浮かぶ。だが、決め付けるのは危険か…とはいえこの状況に違和感がある。
リーゼにのみあんな戦法をするはずがない。あれをするなら町が一番いいはずだ。狙うならフリーティアだが、奴等はフリーティアを狙ってない。
ならどこを狙う…俺なら…ブルーメンの町か?あそこを襲えば、フリーティアには魚が来なくなる。だが、そんなことはサラ姫様たちもわかっている。騎士を派遣して守っているはずだ。
なら奴らの狙いはヴェルドーレ村になる。しかし他に町を知らないせいかしっくり来ない。
そんなことを考えているとフリーティアが見えてきた。どうやら問題なく着いたな…
だが、妙に嫌な予感がする。なんだ?何を見落としている?くそ!思い出せない!
するとルインさんからコミュニケーションが来た。
『タクト君! 大変よ! ヴェルドーレ村からゾンビの大軍が現れたわ!』
「な!? どういうことですか? 空から降ってきたんですか?」
『何言ってるのよ! 奴らが現れたのは教会よ! 間違いなくネビロスの仕業だわ!』
そうだ!奴は何か教会で儀式をしていたんだった!だ~!ネビロスまで名前が出てたのに!俺の馬鹿野郎!
あいつの小馬鹿にした顔が脳裏にちらつく!くそったれ!あいつ、またぼこぼこに殴ってやる!
俺はリーゼ様たちに事情を説明して、リリーたちを連れて、飛び出したときだ。
俺は立ち止まり、空を見る。今日の天気は珍しく曇りだ。なるほど…そう来るか。俺はヒクスに変えて、イクスを呼ぶ。
「お呼びですか? マスター」
「イクス、空を探知してみてくれ」
「イエス、マスター。…探知スキルに反応あり。雲の中に25体、敵がいます」
やはりか…ヴェルドーレ村に騎士たちが救援に向かえばフリーティアにゾンビを降らすつもりだな。だがその策は潰させてもらうぞ。あの野郎。
俺はサラ姫様にコミュニケーションを使う。
「サラ姫様、タクトです」
『すみません! ヴェルドーレ村からゾンビが大量に現れました! 今すぐ救援に向かえば!』
「敵の思うツボです。イクスがフリーティアの上空、雲の中に敵を発見しました」
『な!? そんな…レッサーグリフォンに乗ったセリアンビーストとホークマンが空を警戒しているんですよ?』
和狐も気配を察知していないからな。
「方法は分かりません。アイテムなのかスキルなのか…ですがいることは間違いないです。全部で25体です」
『そんなに…私たちがいなくなったら、フリーティアに腐敗ゾンビを落とすつもりですか…』
「恐らく…仕留められますか?」
『任せてください。すみませんが敵の探知をお願いします』
「はい」
フリーティア城からエアティスさんが率いるホークマン部隊とレッサーグリフォンに乗る騎士たちが次々、雲に飛び込む。すると雲からスケルトンライダーが飛び出してくる。
その瞬間、和狐が察知した。怪しいのはスキルかもしくはあの雲だな。アイテムのせいは無くなったと言っていいだろう。
スケルトンライダーが腐敗ゾンビを落とすが、落下する前にフリーティア城と城壁から浄化の光が浴びせられ、腐敗ゾンビが消え去る。
お見事。イクスに確認すると全滅出来たみたいだ。
『敵はいますか?』
「いないみたいです」
『良かったです。すみませんがヴェルドーレ村で一緒に戦って貰えませんか?』
インフォが流れる。
『緊急クエスト『ヴェルドーレ村の救援』が発生しました』
「もちろんです」
『では、ヴェルドーレ村で合流しましょう』
「はい」
俺はコミュニケーションを切る。メンバーはリリー、イオン、セチア、イクス、ブラン。みんな、覚悟が出来てる顔をしている。
「いくぞ」
『うん(はい)!』
「ワープゲート!」
俺たちがヴェルドーレ村に移動すると既にルインさんたちプレイヤーとサラ姫様たちの戦闘は始まっていた。ただみんな村人を守るだけで精一杯な感じだ。
そして気になるのが教会が無くなり、教会の3倍以上あるだろうか?横長の黒い塊がいる。そこからゾンビが湧き出ているようだ。識別している。
ドラウグルビースト?
? ? ?
こいつは聞いたことがないモンスターだな。アンデッドモンスターなのは間違いないだろうが…というか俺たちの畑、潰されてないか?イラッとしたがサラ姫様の行動が早かった。
「エタニティ・フリーティア!」
俺に使ったサラ姫様必殺技がドラウグルビーストを真っ二つにする。呆気なく終わったと思ったが、ドラウグルビーストは斬られた所がくっつき、元通りになる。
あぁ、これはダメな敵だな。俺が倒すならリリーの切り札を使うしかない…だが、ここで使っていいのか?
俺の決断を迷わせる。すると俺の知ってる人がいた。サトウキビのお婆ちゃんだ。お子さんと一緒にいた。
「もういいよぉ。キキや…わしはもう十分生きた…わしをおいて、逃げておくれ」
「そんな…お婆ちゃん! 嫌だよ! 一緒に逃げようよ! お婆ちゃん!」
「いいんだよ…ここで死なせておくれ」
ただの三文芝居かも知れない。でもその言葉と光景は俺の神経に逆撫でした。
「お婆ちゃん」
「おや? お兄さんはわしのクエストを受けてくれた人かい? 悪いけど、この子を頼めないかい?」
インフォがくる。
『村人キキを連れて逃げますか?』
「悪いが断る」
『タクト(さん、様)!?』
全員が驚く。それはそうだろうな。
「お婆ちゃん…お婆ちゃんの考え方は間違ってる」
「?」
「どんな年寄りでも生きている限り、死のうとしたらダメなんだよ。お婆ちゃんのしたのは死者に対する冒涜だ」
「お兄さん…」
「俺が…俺たちが絶対に証明して見せる! 生きているものは死んだ人のために生きることを放棄したら、ダメなんだってな!」
それは俺が爺さんから教わったとても大切なことだ。俺はリリーを見る。
「リリー、竜化だ! あの化け物もゾンビどももまとめてぶっ倒せ!」
「任せて! タクト! リリーの本気、見せちゃうよ!」
リリーが大剣を天に掲げる!
「竜化!」
巨大な光の柱が天を貫き、暗雲を貫く。そして光の柱の中から竜化したリリーが現れる。
「白い竜…」
「なんと美しい…」
逃げていた村人、戦っていた騎士たちがリリーの姿に目を奪われる。
『タクトに本当のお願いをされたから、一気に決めちゃうよ!』
リリーが空高く飛び、竜の魔方陣を展開する。
『シューティングスターライト!』
光の光線が町中に降り注ぎ、大爆発する。腐敗ゾンビたちは空を飛び、光の粒子となり消滅していく。
ドラウグルビーストにも四つの光線が貫いたが、身体をボロボロにしながらまだ生きていた。
『むぅ…倒せなかったけど、これで終わりだよ!』
リリーが息を吸い込む。
『ドラゴンブレス!』
リリーのドラゴンブレスが放たれ、ドラウグルビーストに極太の閃光が直撃する。光の大爆発に包まれ、ドラウグルビーストが完全消滅する。
その奇跡の光景に誰もが畏敬の念を感じ、立ち尽くす。そしてそれを見たガルーがサラ姫様に言う。
「…姫さん、ちょっと聞いてくれ」
「…なんですか? ガルー」
「俺、訓練試合で竜化禁止にして良かったぜ」
「奇遇ですね…私も今、同じことを思いました」
竜化したリリーの圧倒的な強さにサラ姫様とガルーはそう思わずにはいられなかった。
俺は竜化した代償で小さくなり、落下してきたリリーを抱き止める。普通ならそんなこと出来るはずないのだが、流石に自由落下する仕様じゃなかったから抱き止めることが出来た。
「タクト…ちゃんと倒せた?」
「あぁ、よく倒してくれな。リリー…ありがとう」
「えへへへ~」
するとイオンたちが言ってくる。
「私も倒せましたよ? タクトさん」
「私もです。あんなの余裕でした」
「マスターがわたしにご命令して下されば、わたしも倒せました」
何をアピールしているんだ。この三人は…
「マスターの命令の質が今までと違っていたのが問題です」
「はい…タクトさんのあんなお願いする姿、初めて見ましたよ」
そ、そうだろうか…?言われてみたら本気でリリーたちにお願いしたこと無かったかも…アーサーの時とかはリリーたちを心配する気持ちが勝っていたからな。
「リリーは嬉しかったよ!」
リリーは満面の笑顔を向けるが他はつまらなさそうだ。
「マスターには同等の命令を希望します」
「「賛成!」」
そんなこと急に言われても困るんだが…
「主よ。まだゾンビがいるようです。ご命令を」
「え? …あ~。残ったゾンビを倒してきてくれ」
「「「がっかりです」」」
シンクロでがっかりされた!?だって、仕方無いじゃん!?急にそんなこと言われても出来ないって!
するとサラ姫様が剣を掲げた。
「ヴェルドーレ村を地獄に変えた化け物は聖竜様の手で倒された! フリーティアの騎士たちよ! 正義は我らにある! 全軍、私に続けぇええ!」
『おぉ!』
これは…あ、ブラスさんが頭を下げている。士気を上げるためにリリーを使ったな。まぁ、騎士たちの士気をあげるためなら仕方ない…俺たちは村人の護衛に回ろう。
ルインさんたちも攻撃はフリーティアの騎士たちに任せて、救出した村人と共に合流した。
「助かったわ。タクト君、リリーちゃん。でも、切り札を使って良かったの?」
「わかりません。今回は完全に後先考えずに行動しました。すみません」
その場の感情に流されるようではまだまだだ。だが俺は俺の思いを貫けた。今はそれで十分だ。もし使わずにサトウキビのおばあちゃんが死んでいたら、きっと後悔していたからな。
「謝らなくていいわよ。それよりもタクト君もそういう時があるのね…安心したわ」
なんか安心された…そりゃ、俺にだって譲れないものがたくさんあるさ。今回はまさにそれが該当した。
そして、ゾンビたちは全滅し、勝鬨を上げる。
「俺たちの勝利だ! 勝鬨を上げろ!」
『おぉ! 聖竜様万歳! サラ姫様万歳!』
完全にリリーが騎士団に入っている扱いになってる気がするのだが、気のせいか?
騎士たちや村人たちの喜んでいる姿を見たら、そんなこと言うのも野暮かと思って、何も言わなかった。するとレベルアップのインフォが来る。
『職業召喚師のレベルが上がりました。ステータスポイント1ptを獲得したした』
『職業召喚師のレベルが上がりました。スキルポイント1ptを獲得したした』
『リリーのレベルが10に到達しました。片手剣【光剣】を取得しました』
『イクスのレベルが30に到達しました。エクスマキナの武装が解放されました』
『バトルシップの新しい区画が解放されました』
『ブランのレベルが20に到達しました。進化を実行します』
『職業レベルが20レベルに到達しました。クラスチェンジが可能です』
え?お、落ち着け。まずこれで俺の残りスキルポイントは62pt。ステータスポイントは俊敏値にした。
リリーが覚えたのはサラ姫様が使っていた光剣だな。かなり強いスキルなのは身を持って知ってるから結構使って欲しいが光の速度の大剣に恐怖を感じるな。
そしてまずはブランの進化が始まった。
名前 タクト 中級召喚師Lv19→Lv20
生命力 49→50
魔力 103→105
筋力 35
防御力 25
俊敏性 38→39
器用値 77→78
スキル
格闘Lv9 蹴り技Lv16 杖Lv22 片手剣Lv18 槍Lv10 投擲Lv7
高速詠唱20 召喚魔術Lv28 封印魔術Lv5 騎手Lv13 錬金Lv17
採掘Lv20 伐採Lv17 解体Lv33 鑑定Lv20 識別Lv28→Lv29 風魔法Lv22
火魔法Lv21 土魔法Lv22 水魔法Lv28 闇魔法Lv22 神聖魔法Lv5
雷魔法Lv22 爆魔法Lv22 木魔法Lv23 氷魔法Lv22 時空魔法35
水中行動Lv2 読書Lv8 料理Lv33 餌付けLv7 釣りLv16 シンクロLv10
名前 リリー ドラゴニュート・クーラLv8→Lv10
生命力 62→63
魔力 51→53
筋力 123→129
防御力 42→43
俊敏性 43→44
器用値 40
スキル
光拳Lv9 飛行Lv15→Lv16 片手剣Lv27 大剣Lv21 鎚Lv10 連撃Lv6
錬気Lv20 光魔法Lv2 光波動Lv2 竜技Lv7 竜化Lv5→Lv6 聖竜の加護Lv3
名前 イオン ドラゴニュート・エンベロープLv6→Lv8
生命力 62
魔力 92→96
筋力 56→57
防御力 32→33
俊敏性 117→123
器用値 95→99
スキル
二刀流Lv27 槍Lv4 投擲操作Lv8 飛行Lv9 遊泳行動Lv12
氷刃Lv14 連撃Lv5 水魔法Lv12 蒼波動Lv2 竜技Lv6
竜化Lv6 海竜の加護Lv4 料理Lv8
名前 セチア ハイエルフLv5→Lv7
生命力 50→52
魔力 122→128
筋力 43→45
防御力 36
俊敏性 37
器用値 122→128
スキル
杖Lv14 魔法弓Lv8 鷹の目Lv3 射撃Lv2 木工Lv12 採取Lv18 調薬Lv12
刻印Lv3 宝石魔術Lv1 宝石細工Lv1 風魔法Lv7 火魔法Lv13 水魔法Lv20
土魔法Lv13 闇魔法Lv1 神聖魔法Lv3 雷魔法Lv1 爆魔法Lv1 木魔法Lv16
氷魔法Lv3 樹魔法Lv9 ハイエルフの知識Lv13 精霊召喚Lv6 料理Lv8
名前 イクス エクスマキナLv26→Lv30
生命力 40→44
魔力 40→44
筋力 40→44
防御力 40→44
俊敏性 40→44
器用値 40→44
スキル
機人兵装Lv6 解析Lv4 探知Lv12 換装Lv2 リンクLv4 魔力充電Lv4
名前 ブラン エンジェルLv18→Lv20
生命力 24→25
魔力 34→36
筋力 27→28
防御力 24→25
俊敏性 32→34
器用値 31→32
スキル
飛行Lv5 盾Lv6 槍Lv5 挑発Lv6 光魔法Lv3 光輪Lv7 天使の加護Lv5
タクトの進化とブランの進化は持ち越します。