#209 フリーティア第一王女と病気の正体
俺は王城の一室に案内される。部屋の内装は水色を基準にされており、家具やベッドは白で清楚な感じのお姫様の部屋だ。その部屋の主は、キングサイズのベッドにいた。
「ようこそいらしてくださいました。このままで失礼いたします。私はシルフィ・フリーティア。フリーティアの第一王女です」
水色のサラサラの長い髪の毛をしたお姫様だった。
「お初にお目にかかります。冒険者をしております、召喚師のタクトです」
「知っておりますよ。先日の試合はここから見ることができましたから」
あちゃ〜。あれ、見られていたんだ。みっともない試合をしたつもりはないけど、サラ姫様には色々言っちゃったんだよな。
「ふふ。サラのことなら大丈夫ですよ。あなたはそのままでサラに接してあげてください」
ん?何かあったのかな?まぁ、そのままでいいならそのままでいるけど。
「今日はあなたの召喚獣を見せて貰いたくて、お呼びしました。お願いできませんか?」
「シルフィお姉様はこの国を代表する召喚師なんですよ。ですから召喚獣には目がないんです」
なるほど。そういうことなら呼び出しますか。というわけでまずはリリー、イオン、セチア、恋火、イクスを呼び出す。
「わわ!? お姫様のお部屋!?」
「え? どういう状況ですか? タクトさん?」
「フリーティアのお姫様がリリーたちに会いたいって言うからさ。召喚したんだよ。挨拶を」
「大きなベッドだ! もっふー!」
リリーがお姫様のベッドにダイブした。あぁ!?なんつーことしてくれているんだ!?
「こ、こら! リリーさん! 私もそんなこと最近はしてないのに! 代わりなさい!」
アンリ様、その言い分はどうかと…
「ふふ、構いませんよ。初めまして、シルフィと申します」
「ふ、ふぇ!? は、初めまして! リリーと申します」
凄いな。リリーが申しますなんて言葉使ったのは初めてだ。
「頭を撫でさせてくれませんか?」
「え…いいけど」
リリーが俺を見る。
「撫でてもらえ」
「う、うん…ふぁああ…」
「綺麗なサラサラの髪ですね…いい子…いい子」
「あぁ…ぁぁ…すぅ…すぅ…」
リリーが寝落ちた。
「こ、これは…まさかタクトさん以外にも魔の手の使い手が存在していたなんて!?」
「びっくりです」
イオン、魔の手ってなんだ。そして恋火も驚くな。そこで俺はセチアの様子が変なことに気がついた。
「セチア、どうかしたのか?」
「タクト様…私、シルフィお姫様を蝕んでいるものの正体がわかったかも知れません」
セチアの衝撃的な言葉にシルフィ姫様とアンリ姫様が驚く。
「確証はありませんが…イクスの解析スキルならわかるかも知れません」
セチアの言葉に俺はシルフィ姫様を見る。解析スキルは流石に許可を取らないとダメなスキルだからな。
「お願いできますか?」
「分かりました。イクス、頼む」
「イエス、マスター。解析スキル、発動。対象シルフィ・フリーティア…解析終了。心臓付近に極めて濃い魔素を発見しました」
「やはりそうでしたか…」
セチアは納得しているが、俺にはさっぱりだ。説明を頼む。
「魔素はマナと対の物質です。人も自然もマナを取り込み、生きています。ですが魔素はその逆で生き物が取り込むと体内のマナを蝕み、急速に広がり、やがて死ぬことになります。シルフィお姫様の場合は強力な召喚獣の加護と自身の魔力で必死に抵抗している状況だと思います」
「そうですか…あの子たちが私を助けてくれているんですね…」
シルフィお姫様が嬉しそうに微笑む。自分の命を召喚獣たちが守ってくれているとわかったら、そうなっちゃうよな。
魔素はわかったが、問題はそれをどうしたら治せるかだな。
「それについては私だけでは…タクト様、皆さんを召喚してください。色々、話を聞きたいです」
うむ。なら失礼して、レギオン召喚をする。
「凄いですね…夢魔種だけでなく、人魚種や天使種まで…しかもみんなが一緒に…ふふ。私が夢見た空間がまさか今日叶うとは思いませんでした」
どういうことだろう?
「シルフィお姉様の夢なんですよ。色々な種族が仲良く暮らしている光景をこの目で見たいとずっと言っていましたから」
そうなんだ…それはいい夢だと思う。出来ればそれはこの部屋だけでなく、国中に広げて貰いたいものだ。
じゃあ、みんなに話を聞こう。まずは魔素の専門家というリビナだ。
「魔素はボクたち悪魔の体を構成しているものだよ。この魔素の濃さからして相当の名前持ちの悪魔が仕掛けたものだね」
「取り除けたり出来ないか?」
「悪いけど、お手上げ。ボクが触れるとボクの体までこの魔素に犯されちゃうと思う。他のみんなも同じなんじゃないかな?」
ブランと和狐が答える。
「悔しいですがその通りですね…魔法やスキルで治すのは危険が伴うと思います」
「うちもそう思います。禊と祓いは元々、魔素に対する術やけど、この魔素は濃すぎてうちたちの手に余ります。九尾様や稲荷様なら治せる思いますけど」
まぁ、まず無理だろうな。
「他に治す方法に心当たりはないか?」
リビナがまず答える。
「一番手っ取り早いのはこれを仕組んだやつを倒すことだね。これもそいつの身体の一部だから倒したら当然消滅するよ。ただ相当の手練なのは間違いないね」
なるほど、シンプルだな。次にミールとセチアが話す。
「魔素の浄化作用がある植物もあります。どこまで効果があるかわかりませんが、一定の効果はあると思います」
「ただその植物は浄聖草と言うんですが、相当の精霊の加護がある所にしか生えない草です。エルフの森にもあるかどうかわからないほどの草ですね」
エルフの森ですらまだ行ったことないのにあるかどうかわからないのか…というかエルフの森より精霊の加護がある所って存在するのか?
俺たちから出た方法はこの二つのみ。元凶の敵を倒すにしても、薬で治すにしても冒険を続ける必要があることだけははっきりした。
その後、王族やヒポクラテス、医師たちに事情を説明する。すると全員から感謝された。今まで原因不明だったものの原因がわかり、対処法もわかったのだ。国として色々動けることも出来るだろう。
「そなたには感謝してもしきれぬな…今はことだけに何も出来ぬが、改めて何か褒美を与えようと思う」
「それはゾンビがいなくなった後と姫様の魔素が無事になくなり、治った時にください」
俺がそう言うと周りが驚く。変かな?現実でも診察料でお金を払ったりするが、俺は病気が治ってからお金をもらったほうがいいなと思う。
「…そなたがそう言うならわしもシルフィの魔素がなくなり、健康になった暁には格別の報酬を約束しよう」
やったね。王様から豪華な報酬を約束して貰ったぞ。どんなのかな?伝説の武器かな?あ、それだとヘーパイストスへの裏切りになる。他のものがいいなと思いながら、お城を後にした。