#206 若木の森のゾンビ軍団
全員をワープゲートで送るとファストの町のプレイヤーから歓声が起きる。
『幼女マスターだ!』
誰がマスターだ!いつの間にランクアップしたんだよ!ってそんなこと言ってる場合じゃないな。
俺はヒクスを召喚すると全員が驚く。
『グリフォン!?』
俺はセチアとヒクスに乗る。
『エルフと二人乗り!?』
こいつらうるさい!
「若木の森の状況を見てきます」
「わかったわ。スクショ、お願い」
「わかりました。行くぞ、ヒクス!」
「ピィー!」
ヒクスに指示を出し、若木の森に向かう。
すぐに若木の森に到着するが上空からだと異変はすぐにわかる。
「酷い…あんなに綺麗だった森が…」
森の木々が次々枯れていっている。
ここのお陰で俺はリリーと強くなった。イオンとセチア、グレイたちともここのお陰で出会うことが出来たんだ。その大切な場所をこんな風にしやがって!
とりあえず俺はゾンビを見つけ、識別する。
腐敗ゾンビLv8
通常モンスター 討伐対象 アクティブ
ゾンビを見つけはしたが大軍なんてもんじゃないぞ!?枯れている森のところがゾンビに埋め尽くされている。そして進路の先は間違いなくファストの町だ!
俺が証拠のスクショを取っているとイクスが反応する。
「警告。敵多数、接近中」
何!?俺が下を見ると枯れた森から何かが飛んでくる。
スカルバットLv3
通常モンスター 討伐対象 アクティブ
スカルフクロウLv3
通常モンスター 討伐対象 アクティブ
これは若木の森にいたモンスターがアンデッド化したのか!?というか枯れた森中から現れ、俺たちを狙って来てるぞ!?
相手は雑魚だが、これは無理だ!数が多すぎる!
「ワープゲート!」
俺は慌てて逃げる。
「お帰り。どうだった? 一人でクリアしちゃった?」
ルインがそう言ってくるが俺ははっきり答える。
「無理です! 森中ゾンビです! これ、証拠です」
皆がスクショを確認して、絶句。ルインさんが聞いてくる。
「…これと戦うの?」
「みたいですね。あ、若木の森のモンスターもアンデッド化して襲ってきました」
『無理!!』
そうなるよな。そしてインフォが流れる。
『緊急クエスト『ファストの町人を避難させよ』が発生しました』
『このイベントでは町での戦闘が発生します』
緊急クエスト『ファストの町人を避難させよ』:難易度C-
報酬:結果により変動
ファストの町人全員をゾンビの襲撃から避難させる
町人全員を避難だと!?
「お、おい…ちょっと待てよ」
「無理だろ…これ」
全員が絶句するがルインさんが声をあげる。
「無理じゃないわ! とにかく手分けして、町人を避難させるのよ!」
『は、はい!』
「俺はモッチさんのお店に行ってきます!」
「わかったわ。私たちも仲の良かったNPCを回りましょう!」
俺はヒクスを戻し、みんなを連れてモッチさんのお店に到着する。しかしそこには以前のお店は無く、立派なお店があった…おいおい。
「タクト。ここだったよね?」
「ここだったな…とにかく時間がない。入るぞ」
「うん!」
皆で中に入るとイケメンのウェイターに歓迎される。店の中も変わり果てていた。
「いらっしゃいませ。五名様ですか?」
「すみません。客じゃないんです。モッチさんはいますか?」
「申し訳ありません。客じゃないならお帰りください」
あー!もう!うざったい!
俺はモッチさんにメールを送る。
『モッチさんのお店の前に来てます。早く来ないと料理代金10%値上げします』
するとモッチさんが慌ててくる。
「ぜぇ…ぜぇ…タクト君、いらっしゃい! 値上げはしないよね?」
「しませんよ。ウェイターの人が呼んでくれなかっただけです。緊急事態なので強引だったことは謝ります」
「緊急事態? ってリリーちゃん! 久し振りじゃない! 立派なドラゴニュートになっちゃって! タクト君と仲良くしてる?」
「リリーはいつでもタクトと仲良しだよ!」
流石に恥ずかしいな。
「マスター、緊急では?」
「そうだったな。再会を喜びたいですが今はそれどころじゃないです!」
「? どうかしたの?」
俺は事情を説明するが、モッチさんは信じようとしなかったので、画像を見せる。
「…これがこの町に向かってるって…本当?」
「本当だから慌てているんです!」
俺がそういうとようやくモッチさんは状況を理解してくれる。
「そ、そうね! でも避難するってどうすればいいの?」
「冒険者ギルドから馬車が出ているんじゃないですか?」
「そうだけど…他国に行くなら手続きをしないとダメよ? 不法入国になっちゃうからね。それに馬車は間に合うのかしら?」
確かに…あれ?それなら俺たちは不法入国者になるんじゃないか?
モッチさんによると冒険者ならギルドで後でしっかり申請していれば大丈夫らしい。危なかった。フリーティアの騎士になっていたら、問題なんじゃないか。
とにかく馬車を待つ時間がない。それなら方法は三つ。
一つ目はワントワークの首都に徒歩で逃げる。これなら今すぐ避難できる。問題は追い付かれる可能性がある点か。
二つ目は俺がワープゲートで避難させる方法。一番早くかつ安全に避難させられるのはこれだろう。問題は手続きの時間だな。
三つ目は手続きしてから徒歩で他国に行く。これは無理だな。
「ここからワントワークまで徒歩でどのくらいですか?」
「ずっと歩けば2日くらいで着くね…」
その間、この町の人たちを守り続けるのは無理だぞ…プレイヤー全員がアンデッド専用武器を持っていればまだ可能性があったが恐らくほとんど戦えない。
やはりワープゲートしかないか。
「とにかくギルドに説明しに行きましょう」
「わかりました」
俺たちが冒険者ギルドに着くとごった返していた。俺はプレイヤーに話を聞くとどうやら話を信じてくれないらしい。
こんな時にかよ!
「探知に反応あり。敵総数多数、空から来ます。マスター」
っ!?間違いない…さっきの奴らだ。どうする…このままじゃ、ダメだ。
考えていると被害が出る。町中に悲鳴が聞こえる。それを聞いて冒険者ギルドの職員が状況を認識する。だが突然のモンスターの襲撃で放心状態になってしまっている。
俺はこれ以上被害を出さないために周りの雑音をカットし、思考し続ける。
「タクト…どうするの?」
「マスターは最善策を思考中です」
「イクス様の言う通りです。タクト様を信じて待ちましょう。リリーお姉様」
「うん」
三人が信じてくれたお陰で考えが纏まる。
「来い! 和狐!」
「はい!」
「和狐、ぶっつけで悪いが祓いを頼む」
「お任せどす」
よし、リリーたちにも指示を出す。
「ブラン。挑発で敵をこちらに引き付けろ」
「わかりました。我が主よ」
周りが喚くが、気にしない。相手は雑魚だ。祈ることで自分を中心に攻撃範囲内のアンデッドを浄化する祓いなら…
スカルバットとスカルフクロウが群がってくるが攻撃範囲内に入った瞬間、光となって消えていく。
「すげぇ…」
「女神様…」
プレイヤーたちやNPCまで立ち尽くしている。
「挑発スキルを持っている奴はこっちに来てくれ!」
「わ、わかった!」
「俺、使えるぞ!」
「わ、私も出来ます!」
プレイヤーが集まり、一斉に挑発を使い、敵が殺到する。
「モッチさん、ここは危ないからギルドの中に避難してくれます? ついでに戦えない人たちの避難をお願いします。とりあえず建物の中に」
「わ、わかったわ! みんな! ここにいたら、邪魔になるわ! 建物の中に避難するわよ」
『は、はい!』
NPCも避難した。これでとりあえず大丈夫だ。
「モンスターはここに引き付けるから他のみんなも手分けして避難と怪我した人たちの治療をしてくれ」
「そ、そうだな! よし、任せろ!」
集まっていたプレイヤーが分散していく。すると異変に気が付き、フリーティア勢が集まってきた。
『やっぱりタクト(さん、君)の仕業だった』
やっぱりってなんだよ!
「警告。空から急速接近してくる存在を探知しました」
明らかに他と違うみたいだな…すると敵を捉える。
スケルトンライダーLv15
通常モンスター 討伐対象 アクティブ
それは骨の鳥に乗った骸骨の騎士だった。そいつが盾と長槍を構えて突っ込んでくる。敵が強いから祓いの効果がない。
『ヒッ!?』
挑発を使っていたプレイヤーたちがそれを見て、挑発を解除してしまう。
「盾を持っている以上、怯むな! 挑発を続けろ! クエストが失敗するぞ!」
『は、はい!』
流石重戦士を束ねる満月さんだな。なら俺も俺の役割を全うしよう。
「セチア、イクス! 仕留めろ」
「はい!」
「イエス、マスター」
セチアの神聖魔法の矢とイクスがエネルギーガンを撃つが盾でガードされる。それで死ねたなら良かったのにな。死なないなら仕方ない。
「リリー、ハンマーの出番だ。あいつに格の違いを教えてやれ」
「任せてタクト!」
リリーがハンマーを装備してスケルトンライダーを迎え撃つ。
「やぁああ!」
ハンマーと大槍がぶつかり合うが大槍が粉々に壊れ、そのままハンマーはスケルトンに向かう。すかさず盾を構えるが盾も粉々になり、スケルトンは場外ホームランになった。ついでに骨の鳥はそのまま振り下ろされたハンマーで地面に激突し、光になって消えた。
「つ、強い…」
「あれがリリー様の実力…」
「まだこの町にいて良かった」
そんなことを言ってる場合か!と思ったが、イクスの報告でとりあえず全滅出来たみたいだ。けどまだクエストは継続中だ。
クエスト継続中のため、レベルアップは次回に求めてます。