#182 斎の巫女
翌日、俺はダッシュで帰る。どうしても保護した彼女が気になる。それに今日はサラ様との約束の決闘の日だ。急がないといけない理由だらけだ。
家に帰り、早速ログインする。ゲームのベッドで目が覚め、早速彼女に会いに…
「すぅ…すぅ…」
なんで彼女が俺のベッドにいる?しかもローブを握りしめている。それに昨日は気にしてなかったが、この子、胸がでかい。これが有名な当ててんのよ攻撃か!
ど、どうするべきだ?安心して寝ている彼女を見ていると起こせない。そこで恋火が部屋に入ってくる。
「あ、タクトお兄ちゃん。目が覚めたんですね」
「あぁ、おはよう。恋火。ところでどうして俺のベッドに彼女がいるんだ?」
誓って彼女のベッドで俺はログアウトしてないぞ。
「たぶんですけど、途中で目が覚めて、寝ているタクトお兄ちゃんのベッドに潜り込んだんじゃないかと」
そういうことになるんだろうが…なぜ俺のベッドに?普通なら恋火のところに行くんじゃないか?
「あたしには気持ちがわかります。怖い目にあって、目が覚めたら知らない場所で、きっと凄く不安だったと思います。そこに安心できる場所があったら、潜り込んじゃうと思います」
そんなことを言われたら、尚更動くわけに行かなくなった。しかしサラ姫様たちとの約束がある。どうしようかと思っていたら、彼女が目を覚ます。顔は幼く見えるな。
「ん…あ、おはようさん」
「あぁ。おはようさん」
稲荷様と同じ京都弁か…
「あら〜? あんさんはどちらさん? なんでうちと寝とるん?」
のんびりしている子だな。そしてそれは俺も知りたい。
「俺の名前はタクト。召喚師だよ。なんで君が俺のベッドに寝ているかは知らないがここはフリーティアの俺たちのお店だ。嫌なことは無理に思い出さなくていい」
「…こん手…こん匂い…お、思い出した! うち、あんさんに噛みついてしもうて!」
あちゃー。思い出しちゃったか…ミスった。俺のバカ野郎。
「それはいいよ。まずは自己紹介といこうか。この娘は恋火。君と同じセリアンビーストだよ」
「れ…恋火です!」
「可愛い娘どすなぁ。うちは和狐いいます。イエローオッサ山脈の九尾様のところで斉の巫女をしとります」
「「斉の巫女?」」
恋火と首を傾げる。聞いたことない。しかしその姿がツボに入ったらしい。
「ふふ! 息ぴったりどすなぁ。斉の巫女は神降ろしスキルを持つ特別な巫女のことどす。うちは毎日修行しながら、九尾様と稲荷様の仲介役をしておりました」
うん。この娘がかなり重要な娘なことが判明した。そりゃ稲荷様が動くわけだよ。
「ところでこの娘…恋火は剣の巫女どすか?」
「剣の巫女? 確かに刀スキルを使ってますけど…」
「あちゃー。その反応だとうちの勘違いどす。恋火から稲荷様の気を感じたから間違えてしもうた。堪忍しておくれやす」
この子、凄くないか?確かに恋火からそれを感じても仕方無い。俺はこれまでの経緯を話す。
「そうやったんどすなぁ。ドジしたうちのために稲荷様が…ちょ、ちょい見んといておくれやす」
和狐が背を向ける。俺も背を向けた。見られたくない涙を見るのはマナー違反だからな。
「…おおきに。嬉しゅうてつい涙が出てしもたんどす(出てしまったんです)」
「良かったな」
「はい。あんさんたちにもお世話になりました。おおきに」
礼儀正しい娘だな。しかしイエローオッサ山脈にゴブリンたちが入れるとは思えないんだが。
「うちらもずっとイエローオッサ山脈におるわけやおまへん(いるわけじゃないです)。人間の食料を得るために人に化けて、村に入ることもあるんよ。本来はそれをするための娘がいるんやけども、いざこざで怪我をしてしもたさかい、うちが行くことになったんどす」
「そこでゴブリンたちに襲われたのか?」
「ちゃいます。うちを襲ったのはフードを被った人間どす」
あいつなんだろうな。
「その後は…」
「言わなくていい。大体の察しはついてるし、思い出したくないだろ?」
「…おおきに。ええ召喚師さんどすなぁ」
「タクトお兄ちゃんは最高の召喚師です!」
恋火、ハードル上げないで…死に戻りしたり、逃げたこともたくさんある。合成召喚に浮かれたり、みんなと話す機会を中々作らなかったダメダメ召喚師だよ。
するとイオンが入ってくる。
「失礼します。タクトさん、そろそろ向かわないと遅刻しちゃいますよ」
おっと。そうだったな。イオンに教えて貰って助かった。
「何か用事どすか?」
「あぁ。この国の騎士たちと訓練試合をすることになってね。恋火も出るんだが、見に来るか?」
「よろしいん? ほんなら、行かせて貰いますえ。恋火、おきばりやす(頑張ってね)」
「は、はい! が、頑張ります!」
ガチガチになっちゃった…これはヤバイかも。でもこれで負けても恋火にとってプラスになるだろう。
というわけで王城に向かい、ギルドカードを見せ、中に入る。衛兵さんに訓練場に案内されるとギャラリーがたくさんいた。え?こんな状態で戦うの?
「すみません…他方に声を掛けたら、こんなことになってしまって…」
「姫様のせいではありませんよ。アンリ様やリーゼ様が騒いだのが原因です」
あの2人が原因か!あ、観客席にいる!しかも王様までいるんだけど!?
「こんなこと最近してないからな。いつの間にかお祭りだ。まぁ、観客は無視して戦ってくれ」
無茶言わないでくれよ。約1名こういうのがダメな娘がいるんだよ。恋火が完全に石になってしまっていた。
今さら無しにも出来ず、訓練試合のルールが説明される。
「時間制限はなしの5対5。1人ずつ戦うチーム戦です。スキルの使用は限定強化スキルのみ使用禁止とします。このハンデに対してタクト殿には我々の相手を選ぶ権利を与えます。よろしいですか?」
限定強化スキルは竜化や血醒のことだ。つまりそれらを使えない代わりに戦わせたい相手を俺が選べるわけか。
サラ姫様との勝負を避けたら、ダメなんだろうな。
「はい」
「武器はこちらで用意しました。これらは訓練用の武器で決闘では破壊出来ませんので、思う存分、この中から好きな武器を使ってください」
なにそれ?欲しいんだけど。武器の種類は多種多様だ。剣などの王道ものから珍しいのだとトンファーや鉄扇、三節棍、モーニングスターなどがある。
そしてその中に当然刀があった。俺の武器は決まったな。
「勝利条件は相手の戦闘不能、降参、または地面に完全に倒したら、勝利です。また試合中の外からの助言や攻撃、支援は禁止です。説明は以上です。何か質問はありますか?」
「膝などの体の一部だけでは敗北にならないってことですね?」
「その通りです」
「わかりました。もう大丈夫です」
「では、これより訓練試合を開始します!」
俺たちの訓練試合が始まった。
改めて新キャラは恋火と同じ狐の獣人の和狐です。稲荷様と同じ京都弁のキャラになります。読者の感想でリクエストを頂き、色々参考して作成したキャラとなります。ロリ、巨乳、狐耳、巫女、京都弁と要素たっぷりのキャラです。気に入って貰えたら、幸いです。能力については試合後となります。
名前の由来は稲荷流記で登場する女狐のアコマチです。このアコで狐の名前で相応しい感じは何か考えたら、この漢字になりました。