#173 狐の神とゴスロリの影使い
カイムさんはそのまま転移で旅立った。帰りは一週間後になるそうです。
俺は今日の召喚をするためにリリーたちを連れて獣魔ギルドに向かう。その途中でイクスのことがインフォで流れた。俺はフレンドに事情の説明のメールを送る。
折角だけどイクスはお留守番にした。大丈夫だと思うが、いきなりエクスマキナの登場で混乱が起きるのは避けようと思った。
道中、騎士たちと腕比べをすることになった話をするとリリーたちはやる気満々だ。店番ばかりでテンション下がっていたからな。回復出来てよかった。
今日の狙いは闇魔石だ。
昨日、夜の召喚獣の少なさが露見したし、ゴブリンたちには絡め手が有効だ。とするとやはり闇の召喚獣が最有力候補だろう。
召喚の間に入り、闇魔石を作ろうとしたときだった。召喚の間に強烈な重圧が発生し、時間が止まった。
リリーたちの動きは止まり、俺だけが動けた。
重圧の発生源を見るとそこには恋火がいた。何が起きた?俺は何もしてないぞ?
「その通りや。あんたはなんもしてまへん。時間を止めたんはうちどす」
恋火が京都弁を話してる。
「恋火じゃないな…憑依か?」
「ちゃいます。こら神降ろし。こん娘はまだ使えへんからうちが無理矢理降りさして貰たんよ。害はあらへんから安心しとくれやす」
神降ろし?じゃあ、今話しているのは…
「察しがええどすな。改めて自己紹介をさしてもらいます。うちは空天狐。名を稲荷と申します。空と天を統べる狐たちの神さんや、農耕ん神さんさしてもろてます」
い、稲荷神来ちゃった…伏見稲荷で祭られてる神様だ。や、やばい。
「びっくりすることあらしまへん。うちより強い存在と出会ったはりますやろ」
龍王たちのことだな。
「そうどす。今日はウチん眷属たちを大事に育て、龍王たちに認められたあんさんにお願いがあって、来させてもろたんどす」
神様からのお願いって大丈夫なんだろうか?普通に考えてダメだと思うのだが。
「本来なら駄目どすえ。地上に関わるんは御法度どすから。せやかてうちん眷属が危険な状態なら話は別どす」
「眷属が危険?」
「そうどす。あんさんも気付いたはりますやろ? ゴブリンたちの異常な知性に」
確かにゴブリンの戦術には驚いたと同時にそこまでの知性があるのか疑問を持っていた。
「疑問に思っとるなら答えは出とるはずどすえ」
「…まさか、ゴブリンたちに知恵を与えている奴がいるってことですか?」
「流石どすなぁ。ほんでそん犯人は人間の召喚師どす」
ま、まさか…犯人はルーク!?
「そん人はゴブリンに好かれとる人ですやろ? ちゃいます」
まぁ、違うよな…そしてルークは稲荷神様からゴブリンに好かれている認定されたぞ。
「そん犯人についておしえることはでけしまへんけど、そいつがゴブリンたちに指示を出し、まーりん村や町からおなごを攫っとるはずどす。そん中にうちん眷属がおるはずや」
「危害を加えたんやけ八つ裂きにしたい思とったところに、奴隷にして売ろうとしとったさかい、黙っとるわけにいかんようなった、ちぅわけや」
なるほど。それは確かに許せないな…そして人間の召喚師が起こした問題なら人間の召喚師が解決するのが筋か。
「そないゆーことどす。引き受けてくれまへんか?」
情報をくれたし、何より恋火の仲間が危ないならほっとくわけにはいかないな…きっと恋火も助けたがるはずだ。
「わかりました。引き受けます」
「ええ返事どす。時間はあんまり長くあらへんと思とってや。うちん予想は三日後までどす。あんじょうおきばりやす。ほなさいなら」
重圧が消えて、時間が動き出す。
「あれ?」
「今、何か…」
「寒気がしたような…」
すると恋火が倒れこむ。
「恋火!? 大丈夫か!?」
「は…はひ。ご…ごめんなしゃい。ち…ちからが…はいりましぇん」
恋火がガクガク痙攣している。生まれたての子牛のようだ。
「無理をするな…ほら。とりあえず休め」
俺は恋火を膝枕し、頭を撫でる。気持ちよさそうに目を細める恋火だが、リリーたちはご機嫌斜めだ。仕方無いだろ?ここは我慢してくれ。
そして先ほどあった話をする。まずは空天狐の話で恋火がパニクる。
「空天狐様があたしの体をお使いに!? あ、あわわ。ど、どうしたらいいんでしょうか!? タクトお兄ちゃん」
そんなことを言われてもな…巫女さんなら身を清めたりするのか?
「別にそのままでいいんじゃないか? 実際に空天狐様はそのままの恋火に神降ろししたわけだし」
「そ、そうですけど…な、何かしないと…えと…えと…」
恋火の尻尾が暴れ回ってる。とりあえず落ち着こうな。そして空天狐から聞いた話をみんなにするとリリーたちが怒る。
「ひっどーい!」
「許せません!」
「ゴミ屑ですね…」
そして恋火は動揺するが強い決意を瞳に宿す。
「そんな…あたしの仲間が…タクトお兄ちゃん! お願いです! あたしの仲間を━━あ」
「頼まなくていい。みんな気持ちは一緒さ」
リリーたちが頷く。
「ゴブリンどもを倒して、恋火の仲間を助けるぞ」
『おぉ!』
その為にも新しい仲間を呼び出さないとな!
俺は闇魔石を作って、準備完了。頼むから召喚成功してくれよ。
俺が魔石召喚を実行すると魔方陣から黒い煙が噴出する。成功だよな?
黒い煙の中心にゴスロリ服を来た一人の長い癖っ毛のある黒髪の女の子が現れる。あぁ、ロリコンだもんね…仕方無い。
女の子が目をあける。漆黒の目だが、眠たそうだ。大丈夫か?
「…召喚したのはあなた?」
「あぁ。召喚師のタクトだ。君は」
「…ドラゴニュート」
ゴスロリ服だから違うと思ったがドラゴニュートなの!?
「…名前」
あ、あぁ。名前ね…えーっと黒だろ?黒で女の子の名前はノワールが浮かぶな…しかしそのまま使うのはな。よし、決めた。
「ノワなんてどうだ?」
「…ノワ。…気に入った」
気に入ってくれて良かった。
「…にぃ。これからよろしく」
ぐはっ!?心臓にブリッツを喰らった!
「恋火にライバル出現ですね」
「え!? ま、負けません! タクトお兄ちゃんの一番の妹はあたしです!」
何を言ってるんだか…ふぅ。大丈夫だ。不意討ちを喰らっただけだ。問題ない。
さて、ノワのステータスを確認しよう。
名前 ノワ ドラゴニュートLv1
生命力 10
魔力 22
筋力 5
防御力 5
俊敏性 14
器用値 25
スキル
影操作Lv1 影探知Lv1 影移動Lv1 影潜伏Lv1 隠密Lv1 擬態Lv1 夜目Lv1
これで俺が召喚できる召喚獣の数は7になった。そしてインフォが来る。
『3属性のドラゴニュートと契約を結びました。称号『ドラゴニュートサモナー』を獲得しました』
また称号だ。確認してみる。
称号『ドラゴニュートサモナー』
効果:契約を結んだドラゴニュートの能力アップ(中)。
3属性のドラゴニュートと契約を結ぶことで獲得できる称号。
この能力アップがどれほどかわからないんだよな。まぁ、強くなってくれるなら大歓迎だ。
さて、ノワだが武器スキルがない。その代わりかリリーたちと違って知らないスキルがたくさんある。
「武器スキルがないみたいだが、どうやって戦うんだ?」
「…こう」
ノワがゴスロリ服から出てない手を差し出すとノワの影が形を変え、変幻自在に動く。面白いな!影の槍になったり、剣になったり、盾にも出来たりする。確かにこれは武器要らずだな。
しかし操れるのは自分の影のみで伸ばせる範囲は自分の影の面積によるみたいだ。
現状は接近戦しか出来ないかな?
次に影察知は影で敵の数を察知するスキルみたいだ。そして影移動をしてもらうとノワが突然いなくなる。え?どこにいった?
「…ここ」
「うわっ!?」
ノワが俺の影から顔を出している。ビビった。
「…悪戯、成功」
ノワは無口なのに悪戯好きなのか?
しかしこのスキル、超便利な気がする。詳しく聞いてみよう。
「このスキルは影ならどこでも移動できるのか?」
「…無理。にぃとノワの影だけ」
そこまで便利じゃないか。
「俺もノワの影に移動出来るのか?」
「…ノワが連れていけば出来る」
まぁ、ノワのスキルだから、そうなるか。
「ところでいつまで俺の影にいるんだ?」
「…ずっと居たい。ここに住む」
この子、将来働きたくないとか言い出しそうだな。
「出なさい」
「…や」
あ、影の中に逃げた。この子、苦労しそうだ。
で、結局肉を餌に捕まえた。どうやら影の中からでも匂いは感じるらしく、一生懸命影から手を出していたのが微笑ましかった。
「…ずるい」
「影に逃げ込む奴に言われたくないな。というか影に逃げ込んだのは影潜伏スキルのおかげか?」
「…そう」
「それは他の影にも潜伏できるのか?」
「…できる。お肉、欲しい」
はいはい。上げますよ。後は擬態を見せて貰おう。
するとノワから黒い煙が出て、黒い煙が晴れるとイオンがいた。
「なぜ私!?」
「…スースーする」
「スカートをヒラヒラさせないでください!」
「タクト様、見過ぎですよ?」
「タクトさん!!」
セチアとイオンに怒られた。これは仕方無いだろ…
しかしそっくりだな。変化は狐耳とかあったからバレバレだったが、これは声だけが違うだけで後は完璧に見える。
因みに俺には変われないらしい。身長差があると変われないそうだ。セーフ!
ノワの能力の確認が終わり、俺はリスト召喚でソウルを召喚するが失敗した。昨日ディープレッド荒野に行って本当に良かった。
ノワは明らかに暗殺、スパイタイプだ。というか火影たちより忍者をしている気がする。
下準備は必要だが稲荷神の情報とノワのおかげでゴブリンどもの突破する作戦は俺の中で固まった。
あいつらに地獄を見せてやる。
空天狐の稲荷、闇のドラゴニュート、ノワの登場回でした。関西弁(京都弁)に初挑戦で変換や色々調べながら書きました。変なところがあれば教えていただけるとありがたいです。
ノワは本気でくノ一衣装と迷いました。しかし無口キャラで手が出てないゴスロリに軍配が上がりました。